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指とギルド



「はあ~、すごいもんだな」

 キースさんの槍に修理スキルを当てていると、横から彼がそう言った。

 「こんなに綺麗になるんだ……」とユリ。

 「エルフのひとたちはあんまり武器を修理しないと聞いたんですけど、本当なんですか? 」と俺。

 「う~ん。修理しないこともないけどな。あまりその技能が発達していない、というのはあるな」とキースさん。

 「そうそう。修理に出しても、以前よりはかなり劣った性能で戻ってくるからね。修理するたびに60%、35%、10%って性能が落ちていくの。だったら、始めから新品を買い直した方が良いって考える冒険者は多いわね」とティスタさん。

 「劣化した武器が100%の性能で戻ってくるなんて……」

 とキースさんが呟くと、ユリ、ティスタさん、キースさんの三人が一斉にこっちを向いて、


 「ズルいぞ……」


 と呟いた。

 

 「い、いや、そう言われましても……」

 と、俺はたじたじになって答えた。

 「次、私の弓も……」

 とそんな俺の服を引っ張って、ユリがそう呟いた。


 その後、ユリの武器も修理してあげると、キースさんとティスタさんが後ろを向いて話す声が聞こえた。

 

 「なんとしてでもうちのギルドに迎え入れなくちゃね……」

 「……そうだな。あんな逸材、ほかのギルドに取られたらマズいもんな」

 「それもあるけど……、私はピギーの内面が気に入っちゃった」

 「……それは、俺もだ。だが、気に入るのは良いけど、あんまり酒は飲ませてやるなよ……」

 「どうして? ピギーも喜んでいたのに」

 「お前、あれが喜んでいたように見えるのか……? 」

 「……え? 違うの……? 」

 「……」


 と、始めは嬉しい会話だったのだが、途中からゾッとする話が行われていた。



 

 ……



 昼食のために野営を一度挟み、そこからさらに西に進んだ。

 その途中、爛れ馬8匹、臭い蟹11匹、ヘドロ岩9匹に遭遇した。

 そのときに採取したものは、爛れ馬の結晶が8個、尻尾が8個、胃袋が8個、肝が8個。

 臭い蟹の結晶が11個、肝が11個。

 ヘドロ岩の結晶が9個、ヘドロ玉が9個だった。


 手に入れた結晶は《レベル》は21が16個、19が12個だった。

 《ランク》はCが14個、Dが8個、Eが6個だった。


 《ボーナス》はこの通り。


 《ボーナス》 調合士スキル上昇(小) ×11

 《ボーナス》 攻撃力アップ(小) ×5

 《ボーナス》 防御力アップ(小) ×4

 《ボーナス》 皮剥速度上昇(小) ×8

 


 (調合士スキルを上昇させる結晶が結構増えてきたな……)

 (帰ったときに調合を試すのが楽しみだ……)


 

 「さあ、着いたよ。青蛇の調査を開始するとしますか」

 ティスタさんのその声で顔を上げると、道の先にムールの洞穴が見えた。


 


 ……



 「調査って、どうやるんですか? 」

 洞窟の入り口でティスタさんにそう聞くと、

 「う~ん、正直、なかに入って実際に見ていくしかないんだよね」

 「で、ですよね……」

 「うん。だけど、ここからは真面目に慎重に行こうね。青蛇は大量に繁殖していた場合、マジで危険だから。みんなも本気で気をつけて~! 」

 ティスタさんはみんなに向かってそう叫んだ。

 さっきまで緩い雰囲気があったのだが、さすがにみんなも真剣な表情で頷いていた。



 

 ……



 洞窟のなかはひんやりとしていた。

 ティスタさんを先頭に、慎重に進んでいく。

 入り口から400mほど進んだところで、

 「……おかしい」

 とティスタさんが呟く。

 「なにがですか」

 「魔物が一匹もいない。……やっぱり、相当な数の青蛇が繁殖しているかも……」


 と、そのときだった。

 真っ暗な洞窟の前方からなにか凄まじい数の生き物がこちらに向かって這ってくる音が聞こえた。


 「みんな、逃げて……! 」

 とティスタさんが叫ぶ。

 「行くぞ! 」

 とキースさんが俺たちの背中を押して、逃げるよう促す。

 振り返ると、すでにティスタさんの目の前まで膨大な数の青蛇が迫っていた。


 「みんな~、私が時間を稼ぐから、今のうちに逃げちゃって~」 

 そう言うとティスタさんは、長い剣をひゅんひゅんと振り回し始めた。

 そしてその剣に巻き込まれた青蛇が、ジュバジュバと空中で血祭りに上げられていた。



 ……


 

 「はあ、はあ……」

 「逃げられた……、やっぱり、かなりの量の青蛇が繁殖していたな……」

 「うん……怖かった……」とユリ。

 洞窟の外に逃げ切った俺とマトイ、ユリは息絶え絶えで地面にへたり込んだ。


 「ティスタさんは……? 」

 俺がそう言うと、しばらくしてキースさんに肩を抱かれたティスタさんが戻ってくるのが見えた。

 そしてティスタさんたちが洞窟の外に出ると、青蛇は一斉に洞窟の奥に引き下がっていった。


 「どうやら、洞窟の外にまでは出てこない習性らしい……」とキースさん。

 「青蛇は日光が嫌いだからね。痛つつ……。だけど、結構な数だったね。みんな無事で良かった……」

 と、そう呟くティスタさんの手から血が滴っていた。

 「ちょっと待ってください。その指……」

 と、思わず俺は叫ぶ。

 「いーの、いーの。冒険に傷はつきものだからさ……」

 とティスタさん。


 だが、彼女の右手は青蛇に喰われて三本の指が消え去っていた。


 「私の冒険も、ここいらが潮時かな……」

 となぜか微笑みながらティスタさんが呟く。

 その額には大量の汗が浮かんでいる。

 

 (冒険の、潮時……? )

 (こんなにも強くて、こんなにも優しいティスタさんなのに……? )


 「まあ、緩いクエストをこなして、後はフリューゲルの食堂でも手伝おうや」

 とすでに諦めたような口調でキースさんが言う。


 「ちょっと、見せてください」

 俺はそう言って、ティスタさんの負傷した右手を掴んだ。


 「どうした、ピギー君…‥? 」とキースさんが呟く。


 (……昨夜俺は固有職スキル上昇(大)の結晶を喰っている……)

 (もしかしたら、その力で、ティスタさんの指も治るかもしれない……)


 祈るような気持ちで、ティスタさんの失われた指の箇所に修理スキルを当てていった。


 ……すると、ティスタさんの無くなった人差し指に異変が起こった。



 ずちゅる、ずちゅる、

 ずぶ、

 ずぶ、

 ずぶ……



 という音とともに、ゆっくりと指が生えてきたのだ。


 

 (やっぱりだ……。修理スキルが上昇して、ひとの損傷した身体も直せるようになってる……)


 「もう二本の指もこのまま治しますよ」

 

 俺はそう言うと、ティスタさんの残りの指にも修理スキルを当てていった。



 ずちゅる、

 ずちゅる、

 ずぶ、

 ずぶ、

 ずぶぶ……


 切断した指の箇所から、ねとねととした粘液が溢れながら、じっくりと指が生えていく。

 まるで大量の小さな虫がひとつの形を形成するような映像だった。


 「あっ、はあ……」


 指が治っていくあいだ、ある種の悦楽があるのか、ティスタさんは顔を上気させていた。


 「はああ、はあ……」


 「すげえ、指が全部、治った……」

 とキースさんが呟く。

 呆然とした顔で、ティスタさんが復活した自分の指を見つめている。

 その手を顔の位置にまで上げると、何度も指を曲げたり開いたりして、性能を確かめていた。


 「ピギー」

 とティスタさんが呟いた。

 「ありがとう……、これで、また冒険が続けられる……」

 そして俺の首に両手を巻きつけると、

 「本当は、まだまだ冒険したかったの。ありがとう、ありがとう……」

 と子どもみたいにティスタさんは泣いていた。

 


 


 その後、俺たちはティスタさんの負傷した箇所を医者に見てもらうために、急いで街まで戻った。

 傷はどう見ても完全に修復していたが、一応見てもらった方が良い、ということで話がまとまったのだ。

 帰りの道中、何度も三人にお礼を言われた。

 「こんなスキルは前代未聞だ」とキースさんは興奮した口ぶりで何度もそう言っていた。

 ユリはよほどほっとしたのか、しくしくと泣きながら「良かった。本当に良かった……」と繰り返していた。


 街にたどり着き、みんなで急いで医者のもとに行くと、

 「からかわないでください。どこに傷があるんですか? 」

 と不審そうに言われた。それはそうだろう。指からは傷があったその跡すら消えていたのだ。


 「ピギーにはなにかお礼しなくっちゃね」

 病院から出てきたところで、ティスタさんが言った。

 「気を遣わないで良いですよ。当たり前のことをしただけですから」

 そう返すと、

 「明日の晩、フリューゲルの食堂に来て。お祝いしなくっちゃ」

 「え、なんの、お祝いですか……? 」

 「あなたがうちのギルドに入るお祝い」

 「……言いにくいんだが」

 とそのとき、キースさんが横から口を挟んだ。

 「今回の旅は、本当はピギー君の試験も兼ねていたんだ」

 「試験? ギルドに入れてもらえるかどうかの、試験ですか? 」

 「うん、そうだ」

 若干申し訳無さそうにキースさんが頷く。

 「誤解しないで欲しいんだが、フリューゲルは君たちを入れたがっていた。ただ、ピギーには戦闘スキルがないという噂があったからな。一応、俺たちがチェックすることにしたんだ」

 「ごめんね、ピギー」

 と申し訳無さそうにティスタさんが言う。

 「全然知らなかった……」

 と俺が呟くと、

 「だけど、こんなことされたら、合格なんて口が裂けても言えないな」とキースさん。

 「本当よね。かえって私たちが助けられちゃった」

 「元A級冒険者の面目、丸つぶれ」とユリが俯く。

 

 「頼む、ピギー君。俺たちのギルドに、ぜひ入ってくれ! 」

 と、キースさんが突然大声で頭を下げた。


 「い、いや、俺は全然、良いですけど……」

 と言うと、

 「ほ、本当か!? 」

 と言ってキースさんが俺の手を握りしめてきた。

 「は、はい」

 「やった、やったぁ! 」

 と心底嬉しそうにキースさんは飛び跳ねていた。


 (本当もなにも、俺は始めからギルドに入れて貰えるだけでありがたいんだけどな……)


 (それに指を治したのも、自分の固有職スキルを使っただけのことだし……)



 「ま、私は始めからピギーを逃がす気はないけどね」

 少し意地悪な笑みを浮かべてティスタさんが言った。

 「お前……、剣も指も治して貰ったんだぞ。少しはピギー君を敬えよ……」

 「いーや、ピギーはこうされるのが好きなんだよ」

 とティスタさんはにやりとして俺を指差した。

 「うぐ……」


 (見抜かれている……)

 と正直に言って俺は思った。

 (もともと友だちを作るのが下手だから、こうやって、ぐいぐい来られるのが実は嬉しいのだ……)

 

 「とにかく」 

 とティスタさんが咳払いして言った。

 「うちのギルドにようこそ。これからよろしくね、ピギー」

 

 ティスタさんは整ったその顔を満面の笑みに崩して、俺を抱き寄せ、背中をぽんぽんと叩いた。


 「こ、こちらこそ、よろしくお願いしますっ」


 若干声を上擦らせながら、俺はそう答えた。



 その後、俺たちはギルドに調査報告を済ませ、明日の夜フリューゲルさんの食堂でお祝いをする時間を決め、それぞれの宿に戻った。

 宿に戻ると、マトイとふたりきりで少し話をした。

 「実は試験だったなんて全然気づかなかったな。マトイはわかったか? 」

 「私は、なんとなく……」とマトイが呟く。

 「え? そうなの……? 」

 「うん。あのひとたち、私たちの戦いぶり、すごく見てたから……」

 「ああ、確かに……」

 

 (俺たちのことを心配してくれていると思ったのだが、あれは戦闘をチェックする意味もあったのか……)

 

 (まあ、なんにせよ、認めて貰えて良かった……)


 ベッドの上で目をつぶると、すぐに眠気が訪れた。

 長い旅で身体はくたくたに疲れ切っていた。

 だが、その疲れよりも、次第に自分を認めてくれるひと、仲間と見做してくれるひとが増えてきていることが俺には嬉しかった。

 

 (ギルドに、所属か……)

 (仲間が増えるって、良いな……)

 

 俺は胸のうちでそう呟きながら、安らかな眠りについた。







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