翌日
翌日から冒険者ギルドに登録して、この町で働き始めた。
異世界に来たとは言え、生きていくために働かなくてはならなかった。
冒険者ギルドではすでにかつて同級生たちだった転生者たちが、BランクやAランクといった高難易度の依頼を引き受けていた。
俺はというと、そんな難しいものは引き受けられない。
彼らが授かったと言われるひとりひとつある特殊スキルも俺にはなければ、同級生たちが王から頂いたと言われる有能な武器も持っていない。使えるのはこの頼りない素手だけなのだ。
「よう、ピギー。……冒険者なんてやめて、レストランで皿洗いでもしていた方が良いんじゃないか? 」
同級生の岩橋がそう話しかけてくる。
転生前はスクールカーストでも下のほうのやつだったが、転生した姿がそこそこ男前だったことが嬉しいのか、執拗に俺に絡んでくる。
「皿荒いっていうか、こいつは食材のほうだろう」
その横にいた土方が言う。……こいつもいつも教室の隅にいるタイプのやつだった。
俺は黙ってふたりを通り過ぎ、受付に向かう。
「薬草採取とか、そういった、簡単なの、ありますか……」
悔しさで声が震える。
「……少々、お待ち下さい」
そう言うと、受付の女性は奥に消えた。
……この世界に来てから、いつもこうなのだ。
あの対処でさえ、かなりマシなほうだった。
店で買い物をするのでさえ、露骨にいやな顔をされたり、露骨に嘲笑されたりする。
このギルドの受付嬢はそういった嫌な顔はしないが、俺の容姿の醜さに引きつり、慌てて奥に消えてしまうのだ。
「……も、申し訳、ありません」
疼きながら、受付嬢が戻ってくる。そんなにも、俺の容姿が不快なのだろうか。
……たぶん、この国のエルフたちは「醜いもの」に対する耐性が極めて低いのだ。
だから露骨に笑ったりはしないものの、この受付嬢もひどく苦しそうな顔をする。
ちょうど元の世界でゴキブリを見た気持ちに近いのかも知れない。
――だとすれば、ゴキブリ相手にまともに会話しなくてはならないのだ。
彼女の辛さもわかるというものだ。自分がゴキブリ扱いされていると思うと、堪らない気持ちにはなるが……。
「どうぞ、このなかからお選び、ください……」
「じゃあ、これを、受注で……」
指で薬草採取の依頼を指し示すと、受付嬢が微かに手を避けた。
……そういう反応が、正直に言って一番傷つく。
……
それからしばらくはなんとか生活できていた。
薬草採取の仕事は報酬も少なかったが、どうにか宿代も払え、食事も食べられていたのだ。
ところがあるとき、それすらも不可能になる嫌がらせが起こった。
「――ちょっと、依頼を受けられないって、どういうことですか!? 」
受付で、思わずそう声を荒げる。
「……も、申し訳ありません。ピギー様が来ても断るようにと、“上から”の命令でして……」
そして受付嬢はちらっと、ギルド内の俺の元同級生たちに視線を送った。
そこには高村美紀子、村田亮二らがいた。ほかにも8人くらい元同級生が腕を組んでこの状況を見守っていた。
「なる、ほど……」
“上”というのは、こいつら転生者、というわけか――。
そしてこいつらは俺がギルドのクエストを受けられなくなるとどんな反応をするのか、
面白がってわざわざ見に来たのか。
「……! 」
思わず、絶句する。
俺の見た目が気に入らないからといって、そこまでするのか……。
クエストが受けられなければ、俺は収入がなくなる。そうなれば、死ぬしかないのだ。
こいつらは俺に、死ねというのか……?
「お、お前ら……!」
思わず、そう声が漏れる。
――ところが、
「なんだよ? 」
村田亮二が一歩前に出る。
「ッッ……! 」
咄嗟に、萎縮する。
……村田亮二の身体からは溢れるほどのオーラが出ていた。
そのオーラにあっけなく怖気づいてしまった。
転生した村田亮二のステータスが高い、というのもあるだろうが、それよりも、村田亮二にはいつも「成功者」の雰囲気が漂っているのだ。
俺が怖いのはその雰囲気なのだ。俺は負け犬で、この男は圧倒的に成功者となることが約束されているという、そんな予感……。
「なんでも、ないです……ごめんなさい、すいませんでした……」
気づかないうちに、そう呟いていた。
「ふん、へたれが」
「……」
そう言われても、返す言葉もない。
正真正銘俺はヘタレなのだ。村田亮二の持っている成功者の雰囲気が、怖いのだ。
なにも言えず、歯ぎしりをして、ギルドを出た。
立ち止まると泣きそうで、黙ったまま、俯いて、闇雲に歩いた。
自分の臆病さが、自分でもほとほと嫌になる。
どうせ死ぬのなら、最後くらい村田に挑んで死ねば良いのに、そうするだけの度胸もない。
もう二十分は歩いているのに、俺の手はまだ震えていた。
誰かと揉め事になるたびにこうだ。
「つくづく、嫌になるよ……。情けなくって……」
と、俯いて、そう呟く。
その姿も通りがかりのエルフたちにじろじろ見られていたから、慌てて涙を拭いて、また歩いた。
「これから、どうする……? 」
外は暖かい日差しで溢れていた。
まるで俺以外のみんなは最高に幸福なんだ、と俺をからかうように。
「戦えるステータスはない。街中からは醜い魔物扱いされている。どうやって、食っていけば良いんだ……」
太陽は相変わらずらんらんと輝いていた。
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