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ボーナス



 街を出た俺たちはムール荒原の方角に歩いていく。


 道中、何度かハングリーウルフやゴブリンに遭遇するが、それをあっさりティスタさんが討伐していく。

 

 (やっぱり元A級冒険者だけあって、ティスタさん、めちゃくちゃ強いな……)


 ゴブリンであろうと、ウルフであろうと、長くしなる剣でことごとく一撃で倒していくのだ。


 「じゃあ元気に行こうか~」

 

 本人は明るい声で先頭を歩いていた。



 ……



 ムール荒原についた。

 

 「ここからは魔物も増えるから、みんなも手伝ってね~」

 とティスタさんがみんなに声を掛ける。

 慣れたようにユリとキースさんが頷き、自分たちの武器を取り出していた。


 ムール荒原はかなり広く、強い風のせいで砂埃が舞っていた。

 視界の悪いそのなかで、複数の影がじっくり動いている。


 (あの影が魔物か……)

 (結構な数がいるな……)


 俺はマトイと頷き合い、戦闘の準備を始めた。

 すでにティスタさんたちは少し離れたところで、魔物と戦闘に入っていた。



 ……



 一匹目は腐り木だった。

 腐った杉の木のような姿をした魔物だが、それがゆさゆさと身体を揺らしながら近づいてきていた。

 

 (クレイモアは振れるようになったけど、俺の攻撃が腐り木にも通じるかな……)


 マトイに向かって頷き掛けると、マトイが頷き、

 

 「“麻痺(パラライ)”」


 と腐り木に魔術を放った。


 砂埃のなかで腐り木が硬直し、不思議そうに俺を見つめる。


 静かに近づいていって、クレイモアを振り上げた。


 (頼む、効いてくれ……)


 それを力いっぱい振り下ろした。


 ドムゥ


 という音とともに、木の幹に深くクレイモアが突き刺さる。

 そして突き刺さったそこから大量の臭い血が噴出する。

 まるで蛇口の壊れた水道みたいだった。

 じゃばじゃば言いながら血が溢れ続けていた。


 (よし、ちゃんと攻撃が通じる………)

 (一気に殺してしまおう……)


 そこから何度かクレイモアを振り下ろすと、腐り木の身体はだらりと半分に裂けて、絶命した。


 (やった……。無事に殺せた……)

 

 俺は辺りに魔物の姿がないことを確認し、腐り木の身体にサバイバルナイフを当てて臓物を取り出しに掛かった。


 腐り木の身体は外見は杉の木のようだが、その中身は獣のように臓物が詰まっている。

 ナイフで身体を切り開くと、紫色をした心臓が脈打っていた。


 (これを取り出して、結晶化するか……)


 慎重にナイフで心臓を取り出し、修理スキルを当てた。


 (よしよし、上手く結晶化した……)


 もう一度辺りを見渡す。

 まだ近くには魔物は来ていない。


 (これを、エイラさんに借りてきたんだよな……)


 俺はエイラさんに借りてきた水晶をバッグから取り出し、収穫したばかりの腐り木の結晶を調べてみた。


 

 《種族》 腐り木

 《生息地》 ムール荒原

 《レベル》 10

 《結晶ランク》 D

 

 

 (いきなり結晶ランクDか……)

 (やっぱり、ミネーロ辺りの魔物より結晶の質がいいな……)


 (ん……、続きがあるな……)


 読み込むと、


 《ボーナス》 スタミナ上昇(小)


 の表記があった。


 (早速ボーナス付きか……)


 (幸先良いな……)


 俺はその結晶を一応、ティスタさんたちに見られないよう、こっそりとバッグにしまった。


 

 その後、俺は砂埃のなかで5匹の腐り木に遭遇し、そいつらをなんなく討伐した。


 (いける……、単体なら全然戦える……)


 その5匹からも、同じように心臓を採取して修理スキルを当て、結晶化した。


 採取した結晶の《レベル》はそれぞれ11,12,10、8、9だった。

 結晶の《ランク》はそれぞれD、E、F、そしてCがふたつだった。

 そして、そのすべてに《ボーナス》の表記が続いていた。


 以下、それを列挙する。



 《ボーナス》 魔術量増加(小)

 《ボーナス》 敏捷性アップ(小)

 《ボーナス》 マヒ耐性

 《ボーナス》 毒耐性

 《ボーナス》 スタミナアップ(小)



 (すごいな……。当たり前みたいにボーナスがついてる……)


 「マトイ、どう思う? 」

 と聞くと、

 「……もしかしたら、弱い魔物にはボーナスはなくて、ある程度強い魔物の結晶には、必ずボーナスがあるのかも……」

 とマトイが言った。

 「なるほど……」


 (確かにその線はあり得るな……)

 と俺は考えていた。

 つまり魔物の結晶は「筋力アップ」が最も基本的な効能で、ある程度強い魔物であれば、それ以外のボーナスが必ず付くのだ。


 (要するに俺たちは、初級者用のフィールドを越えたということかもな……)



 

 (おっと……。魔物だ……)


 とそのとき、目の前の砂埃のなかを(ただ)れ馬が歩いてくるのが見えた。

 爛れ馬はじゅぶじゅぶと腐った体液を撒き散らしながら、俺に突進を始めた。


 (あ、ぶな……)

 すれすれのところでそれを交わし、土のうえに寝転ぶ。

 「マトイ、頼む」

 マトイは即座に俺の声に反応し、

 「“ 麻痺(パラライ)”」

 と爛れ馬を硬直させた。



 (危なかった……。結構マジですれすれだった……)

 (油断しているわけじゃないが、もっと気をつけないとな……)


 俺は硬直している爛れ馬に横から近づき、その背中に目掛けてクレイモアを振り下ろした。

 すると、爛れ馬の背中から入った剣が、その腹から抜け出た。

 突然身体が真っ二つになった爛れ馬はへし折られた木の枝のように身体の真ん中から地面に崩れ、そのあいだに、どぼどぼと腹から臓器を零れ落とした。


 びしゃり、


 というバケツの水を地面にぶちまけたような音がした。


 爛れ馬は身体に力が入らないらしく、上半身だけで立ち上がろうと必死に足掻いている。

 下半身ももぞもぞと地面のうえで動いていた。


 溢れ出た臓物と大量の血で辺りは凄まじい悪臭が漂っている。


 (おお……、一撃で身体を真っ二つに出来た……)

 (だけど、ちゃんと止めを刺しておこう……)

 (出来るだけ油断はしないようにしないとな……)


 爛れ馬の目が俺の剣先を見ている。

 それはこれから未知のものに遭遇するときに見せる生命の慄きだった。

 この生き物はこれから自分たちが死ぬのだということを理解しているのだ。

 死。

 この世のすべての生命が知っているのに、それに遭遇するとき、必ず誰もが初体験である行為。

 俺はちょんちょんと爛れ馬の額に剣の先を当てて的を絞ると、高く振り上げて、それをその場所に勢い良く振り下ろした。

 

 ずちゃり、


 という音がして、爛れ馬の耳と鼻からぶよぶよとした白っぽい液体が溢れた。


 (これは……脳髄の液かな……)


 しばらくぴくぴくしたあと、爛れ馬は絶命した。



  ……



 (さて……、爛れ馬は結構いろんな素材が採れそうだな……)


 俺は真っ二つに裂けた爛れ馬の腹から手を突っ込み、心臓、肝、胃腸を取り出す。

 

 (あとは、尻尾も売れそうだな……)


 ナイフで爛れ馬の尻尾を切り落とした。

 そして、それぞれの部位に修理スキルを当てておく。


 (よし、よし、上手く結晶化したな……)



 「次は……どんな、ボーナスがあるかな……」

 俺の隣にちょこんと腰を降ろしたマトイが、目を輝かせてそう呟く。

 「うん。じゃあ、水晶で覗いて見ようか」

 「……うん、早く、早く……」


 

 《種族》 爛れ馬

 《生息地》 ムール荒原

 《レベル》 13

 《結晶ランク》 C

 

 《ボーナス》 ポーション生成スキル獲得



 (ポーション生成スキル、獲得……? )

 (なんだこれ……、これを喰ったら、ポーションが造れるようになるということか……? )


 「……たぶん、そうなんじゃない……? 」

 俺の疑問を察して、マトイがそう呟く。

 「なのかな……。まあ、夜にでも、喰ってみようか……」

 マトイが頷いた。


 「おお~~い、ピギーく~~ん」


 と、そのとき、砂埃の遠くでそう声がした。ティスタさんの声だった。


 「このまま西に前進するから、なるべく、はぐれないようにね~~」


 「あ、はあーーい、わかりましたー! 」


 と叫んだ。



 (確かに、結構離れちゃってるな……)


 「じゃあ、マトイ。ティスタさんたちに追いつきながら、西に向かおうか」


 俺がそう言うと、任せて、というようにマトイが頷いた。



 

 現在のステータス


 

 愛称:皮剥のピギー

 種族:人間

 同伴者:マトイ(忌み子) ティスタ、キース、ユリ

 所持金:金貨3枚、銀貨45枚

 所持品:クレイモア、ブロードソード、バタフライナイフ

     腐り木の結晶×4

     爛れ馬の結晶、、尻尾、胃袋、肝







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