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強さ

 




 ギルドのなかに入ると早速フリューゲルさんが大声を上げて出迎えてくれた。

 

 「おー、ピギー! 来てくれたか! 早速俺の仲間を紹介するぜ」


 そう言うとフリューゲルさんは、横にいた三人の男女の方を向いた。


 「君が噂のピギー君? へえー! こんな見た目なんだ! 思っていたよりも大きいね。噂だともっと小柄な男の子って聞いてたんだけど! 」

 

 一番左側にいた女性が元気な声でそう言った。いかにも明るい女性という感じだった。


 (噂か……)

 (エイラさんの言うようにやはり多少は噂されているんだな……)

 (思ったより大きかったというのは、多分、結晶を喰って筋肉が付いたおかげだろうな……)


 「おいおい、ティスタ。まずは自己紹介が先だろう。……ごめんな、ピギー君。俺はキース。今のがティスタで、こっちがユリだ」

 呆れたように、その女性の隣にいた男のひとが言った。

 「あはは、ごめん、ごめん。わたしせっかちだからさ。よろしくね、ピギー君」

 最初の女性が明るく笑ってそう言う。

 そして一番右端にいたユリという女の子は少し恥ずかしそうに、

 「ピギー君。よろしく、お願いします。……ユリです」

 と、俯いたまま言った。


 「は、はい、こちらこそよろしくおねがいします」

 と答える。


 (良かった……、みんな良い人そうで……) 

 と俺はほっと胸を撫で下ろした。俺はもともとこういう初対面のひととの挨拶とか、新しい場所に馴染むということがすごく苦手なのだ。

 (人見知りしてしまうというか、すでに完成されている人間関係のなかに飛び込むのが昔から苦手なんだよな……)

 (だけどここのひとたち、全然俺に嫌な顔をしないな……。普通は俺の顔見たらだいたいは嫌な顔を向けてきたのに……)

 (しかもこのひとたち、エルフだけあって、めちゃくちゃ顔が整ってる……)


 俺はさっと三人の顔を見回した。

 良くないことだとは思うが、つい三人の顔の整い具合をチェックしてしまったのだ。

 

 (三人ともモデルみたいに美男美女だけど……)

 (特に右端のユリっていう子は顔が整っているな……)

 (肌も真っ白で、本当に妖精みたいだ……)



 挨拶を終えると、フリューゲルさんが今回のクエストについて説明してくれた。

 なんでもムール荒原の先にあるムールの洞穴で大量の青蛇が発生しているという噂があるのだという。

 今回のクエストはその調査が目的で、戦闘はしなくても良いとのことだった。


 「青蛇は駆除しなくて良いのですか? 」

 と俺が聞くと、

 「青蛇は大量発生すると危険だからな。調査するだけで良い。実は大手ギルドの方でムールの洞穴に踏み入った冒険者たちがいたそうなんだが、大量の青蛇にやられて退散したみたいなんだ。そう言えば、その冒険者たちはピギーと同じ転生者らしいと聞いたが……。ピギー、なにか知っているか? 」

 「転生者が青蛇に、ですか……? さあ、僕は知らないです」

 「そうか。……ギルドの調査団が彼らに詳しく話を聞こうとしたみたいなんだが、どうも話にならないらしくてな。それで各ギルドで手分けして調査に当たろうということになったんだ。とにかく戦闘はしなくて良いからな」

 「だけど、ピギー君によっぽど自信があるなら、駆除しちゃっても良いからね」 

 からかうような口ぶりでティスタさんが言った。

 「ぼ、ぼくなんかじゃ、無理ですよっ」

 と慌てて喋ったから、思わず声が裏返る。

 (げ、恥ずかしい……。思いっきり変な声が出ちゃった……)

 

 「あはは。そんなに慌てなくて良いじゃない。冗談よ」

 とティスタさんがいたずらっぽく笑う。

 「おいおい、冗談でもあんまり焚きつけるなよ、ティスタ。舐めていると青蛇は本当に危険だからな」とフリューゲルさん。

 「まあね~。ピギー君、そういうわけだから、本当に無茶はしないようにしようね。お互いに」

 「は、はい」

 まだ軽くテンパっている俺はそう答えた。

 「だけど、ピギー君は意外と自分に自信があるタイプだと思うな~。そうでしょう? 違う? 」

 「そ、そんなことないですよっ」

 と、慌てて否定したからまた声が裏返った。

 「あはは。だから、そんなに慌てなくても良いよ」

 ティスタさんはそう言ってからからと笑っている。

 ちらっと横を見ると、大人しくしているユリもこっそりと笑っていた。



 (なんかものすごいからかわれているな……)

 (だけど、不思議と全然嫌な感じがしないな……。なんでだろう……。学校でクラスメイトにいじられているときは嫌な気持ちしかしなかったのに……)


 その後、街の出口まで6人でがやがやと歩いていった。

 フリューゲルさんは門のところまで見送りに行くと言って後を付いてきた。

 そのあいだもティスタさんはひっきりなしに喋り続け、相変わらずちょちょくと俺をからかってきた。


 (ああ、なるほど……)

 とそのときに気がついた。

 (ティスタさん、俺が上手く馴染めるように気を遣ってくれているんだ……)


 しかも気を遣っているのは俺にだけではなかった。

 マトイにも、ユリにも、フリューゲルさんにも、いや、この場にいる全員に気を配り、みんなが上手く溶け込めるように質問したり、会話をパスしたりしているのだ。

 

 (なんか、すごいな、このひと……)

 と思わず感心してしてしまった。

 (俺なんか質問に答えるだけで精一杯なのに。こんなに他人に気を遣えるのか……)


 気がつくとマトイもティスタさんに笑みを見せていた。


 (マトイ、笑ってる……)

 (なんか、嬉しいな……。あのマトイが俺以外のひとにも心を許しているのを見ると……)

 (少し接しただけだけど、すごく暖かいひとたちだな……。ここでなら、俺も上手くやっていけるかも……)

 

 「どうしたの、ひとり黙っちゃって。……もしかして、青蛇を駆除する戦略でも立ててた? 」 

 振り返ってティスタさんがそうからかってきた。

 「ち、違いますよ。ちょっと考えごとをしていただけで……! 」

 「どうかな~。ピギー君は案外自信家だと思うな~私は」

 「そそ、そんなことないですってばっ」

 そう否定しても、ティスタさんはけらけらと笑っていた。



 ……



 「ピギー、ちょっと良いか? 」

 門のところでフリューゲルさんと別れようとしたところで、そう呼び止められた。

 「え、なんですか……? 」

 「ちょっとこっちに来てくれ」

 そう言うと俺とマトイは隅に連れて行かれた。


 「もう気づいていると思うが……」

 とフリューゲルさんが小声で言った。

 「ああ、傷の、ことですね……」

 フリューゲルさんが深刻な表情で頷いた。


 実は途中から気がついていたのだが、キースさんとユリには身体に深い傷があったのだ。

 キースさんは右の手首より先がなく、ユリは右手の指が二本欠けていた。

 

 「あいつらは昔はA級の冒険者たちだったんだ」

 とフリューゲルさんが言った。

 「だが、あるクエストで失敗して、キースとユリが深い傷を負った」

 「そんなことがあったんですか」

 「ああ。幸いティスタだけは無傷だったんだが、それ以来大手のギルドでは上手くクエストがこなせなくなってしまってな」

 「そんな事情があったんですか……」

 「見ての通りティスタは良いやつでな。ひとりなら今でもA級の実力はあるんだが……。ユリやキースを見捨てられなかったんだろう。それで今も三人で冒険を続けているんだ」

 「なる、ほど……」


 少し離れたところで俺は三人の姿を眺めた。

 そこでは、やはりティスタさんがユリとキースふたりと笑い合っていた。


 (ティスタさんの明るさの背後にはそんな暗い事情があったのか……)

 (すごいな。そんなの、全然感じさせないくらいに明るく生きてる……)


 「私、ティスタさん、好きになっちゃった」

 俺の隣でぼそっとマトイが呟いた。

 「マトイ……」

 「ああ。俺もあいつが大好きだ。とにかく他人想いの優しいやつでな。そんなあいつが放っておけなくて俺はギルドを作ったんだ」

 「え、そうなんですか……? 」

 「うん、まあ、そうだ」

 フリューゲルさんは言ってしまったというように、少し恥ずかしそうにした。

 「そう、でしたか……」

 「じゃあ、そういうわけだから、上手く三人をサポートしてやってくれ。それと、決して無理はするなよ」

 そう言うとフリューゲルさんは大声で笑って俺たちの背中を強く叩いた。

 「は、はい……」

 半ば押し出されるような形で、俺たちはティスタさんたちの元へ歩いていった。


 

 (ティスタさんも、フリューゲルさんも、すごいな……)

 (ふたりとも他人のためにすごく頑張っていて、すごく明るく生きてる……)


 なにかを感じたのか、マトイが俺の服の端を強く握りしめた。


 「マトイ……」 

 「私、頑張る……」

 とマトイが呟いた。


 俺は前を向いた。

 「な~に話してたのよ~。ピギー君、さては全部自分ひとりで片付けますとか宣誓してきたんでしょう? 」

 とティスタさんが大声でからかってきた。

 「ち、違いますってば! 」

 そう答えると、ティスタさんはやはり、哀しみを感じさせない笑みでけらけらと笑っていた。


 「どうかな~? 」

 「ティスタさんっ、ほ、ほんとうですってば! 」

 「あはは、ピギー君、可愛いわ! 」

 そう笑いながら、ティスタさんが俺の肩を抱きしめた。


 (まったく……)

 (ひとをからかうのが好きなひとだな……)

 (でも……、こんなに強い人が、ほかにいるだろうか……)


 ティスタさんのその笑みに、

 俺は密かに「本当の強さ」のようなものを感じているのだった。









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