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ブロードソード



 その日、俺たちは朝から宿を出て森の方角へ向かって歩いていた。

 やはりというか、エルフの住民たちは俺たちを見ると嫌そうな顔をした。

 慣れてきてはいるが、毎回ちゃんと嫌な気持ちにはなる。

 (今日は多分、マトイがいるから余計に、だろうな……)

 エルフたちから見れば、不気味なふたりだろうと思う。

 ひとりは“ピギー”と呼ばれる醜い小男であり、もうひとりはフードを被った身体中に痣のある少女なのだ。

 そのふたりが連れ立って歩くのはさぞ薄気味の悪いことだろう。

 (まあ、気にするのはやめにしよう……)



 街道を西に向かって歩いていく。

 いつも通り森に入っていった。

 すると、

 「道、わかるの……」

 とマトイが呟いた。

 (やっと話してくれたな……。話しかけられるのは、出会ってから、初めてだ……)

 「一応、木に印を付けてあるんだよね。それを見れば、森のなかは迷わないと思う」

 「……」

 マトイは再び黙ってしまった。

 (なにか、気に食わないのかな……) 

 ついそう心配になってしまう。


 「ねぇ、マトイ。聞いてなかったけど、俺はこれから死体の落とした装備を探しにいくつもりなんだ。それって、嫌じゃないかな」

 「……どうして」

 マトイが呟く。

 「だって、死体の装備を剥ぎ取るなんて冒険者たちには忌み嫌われているだろう」

 「私は、全然」

 とマトイが言う。

 「全然っていうのは、嫌じゃないっていうこと? 」

 「……むしろ生きていくためになんでもする姿勢、嫌いじゃない」

 そう言うとフードのなかでマトイの目が鈍く光った。

 初めて会った時から感じているが、この娘の目には強い意志を感じる。

 (生きるためになんでもする、か……。そう考えれば確かに多少は格好がつくかもな……)

 (そういえばエイラさんは、マトイにはもともと大魔道士の才能があったと言っていたな……)

 (呪いがなければ、もしかするとこの娘はものすごく強いのか……? )

 

 マトイは少女とは思えない力強さで俺の横を歩いている。

 大魔道士の才能があると思うとその歩き方も凄みがあるように見えた。


 ふと目が合ったから何気なく頷いてみると、

 マトイは意志の強そうな顔で俺を見つめてゆっくりと頷き返してきた。


 (多少は俺のことを信頼してくれているのかもな……)


 そんなことを考えながら森の奥へと進んでいった。





 ……



 

 いつもの水場に着くと、俺たちは茂みから様子を窺った。

 「いた。ハングリーウルフだ……」

 やはりそこはハングリーウルフたちの縄張りになっているらしく、今日も前とは別のウルフが水を飲みに来ている。


 「マトイ、あのウルフに、“麻痺(パラライ)”を掛けられるか? 」

 「……大丈夫」

 「じゃあ頼む」

 「”“麻痺(パラライ)”」

 

 茂みの中からマトイが手を(かざ)すと、水を飲んでいたウルフの身体が静止した。

 茂みから出ていき、ウルフに近づく。

 ウルフは水に鼻先を近づけたまま痺れたように硬直している。


 (出来るだけ一撃で殺した方が良いだろうな……)

 

 俺はエイラさんのもとで買ってきたブロードソードを鞘から取り出した。

 それを高く持ち上げると、渾身(こんしん)の力を込めてウルフの首元に振り下ろした。

 

 ……ドブドゥルッ



 と聞いたことのないような音でウルフの首に剣が突き刺さった。

 (肉に剣が食い込む音ってこんな感じなんだな……)

 ウルフの頭部は三分の一ぐらいを残して首から離れかけていた。

 裂けた肉のなかに首の骨が見えていた。


 (一発じゃ無理か……。じゃあ、もう一発……)


 もう一度ブロードソードを高く振り上げて、同じ位置目掛けて力強く振り下ろす。


 ‥…すると、「ぼたり」と音を立ててウルフの生首が地面に落ちた。

 

 そのときちょうどマトイの“麻痺(パラライ)”が解けたのか、ウルフの身体がぴくぴくと痙攣(けいれん)し始めた。

 (首を切り離してもまだ口と目が動いている……。すごい生命力だ……)

 

 ハングリーウルフは生命力が高いから、ちゃんと頭部を叩き潰しておいたほうが良い。

 俺は剣を繰り返し振り下ろして、ウルフの頭部が完全に肉片になるまで刻んでおいた。

 すると地面にはもんじゃ焼きのような水っぽい肉の塊が出来上がった。


 「……上手く殺せた」

 茂みから出てきたマトイが言った。

 「うん。剣の才能がない俺でもちゃんと殺せたよ。マトイ、ありがとう」

 「……うん」

 マトイも微かに嬉しそうにしている。

 (もしかしたらマトイも不安だったのかな……。だとすると、ふたりのちからを合わせれば魔物が殺せるのは、マトイにとっても結構嬉しいのかもしれないな……)

 考えてみるとマトイは“麻痺(パラライ)”の魔術しか使えないのだ。

 当然それだけでは魔物と戦えないし、パーティーに入れてもらうことも難しい。

 ほかの魔術師はもっと有能な魔術を複数扱えるのだ。

 わざわざ“麻痺(パラライ)”に特化した魔術師を迎え入れるはずがない。

 (案外、マトイと俺は似た境遇なのかもな……)

 (もしかしたらセイラさんは、そのことがわかっていて俺たちを結びつけたのか……? )

 

 「……マトイ、このウルフの皮を剥いで内蔵を取り出したら、もっと先に進もうか」

 「……うん」

 マトイがここに来る前より和らいだ表情で頷いた。

 

 「じゃあちょっと辺りを見張っていてくれ。もしかしたら別のウルフが来るかも知れない」

 「……わかった」


 そう言うとマトイは背筋を伸ばして辺りを見張り始めた。




 現在のステータス


 

愛称:ピギー

 種族:人間

 同伴者:マトイ(忌み子)

 所持金:銀貨7枚

 所持品:小型のナイフ、ブロードソード、ハングリーウルフを剥いで手に入れたウルフの皮、結晶、牙×4



 


 


 

 



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