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転生




 「お前、子豚みたいだな(笑)」


 異世界に転生して、最初に聞いた言葉がこれだった。

 正直に言って、「ああ、またか」という感じだった。


 「ほんっと気持ち悪い。見ているだけで吐き気がしてくるわ」

 そう言ったのは、高慢だけど美人の高村美紀子だ。――と言っても、こちらの世界に転生してくる前の名前では、だが。

 

 「お前のことはこれから”“ピギー(子豚みたいなやつ)”って呼ぶことにするよ(笑)」

 村田亮二がそう言った。

 これもいつものことだ。

 クラスの陽キャたちによる、容姿弄り。

 今までもこれと同じ目に何度もあってきた。

 突然、クラスの誰かに容姿を馬鹿にされ、突然、クラス中の注目を浴びる。

 そして誰かが言うのだ。

 「見て。すっごいブサイク」

 ――すると、クラス中で爆笑が起る。

 

助けてくれる同級生などいない。

全員が薄っすらと微笑んでいる。

 そして全員が、薄っすらとした優越感に浸るのだ。

 「ああ良かった、あんなにブサイクに生まれなくて――」という優越感に。


 ……異世界に転生する前もそうだったのだ。

 だから、こっちの世界に来て最初に言われた言葉がそれでも、

 正直に言って、「またか」という感じだった。



 ……



 クラスの生徒全員がこの世界に転生してきたのは先週のことだった。

 なんの前触れもなかった。

 突然俺たちは異世界にやってきて、突然この国の王たちと話をさせられたのだ。

 なんでも彼らの研究した「秘術」とやらによって俺たちを呼び寄せたらしいが、

 余計なことをしてくれたものだ、と思う。

 少しだけ意外だったのは、なんでも“容姿”に関しては「転生前の美しさ」に近いものになるのだという。

 ……道理で俺の容姿は豚みたいなわけだ……。

 異世界に来る前から俺の容姿は“醜い”と馬鹿にされていたのだ。


 

 王は転生してきた俺たちに冒険者として過ごすように説いた。

 なんでも俺たち転生者のなかには類稀な才能があるのだとか。

 ――というわけで、特殊な水晶を使って、次々と才能が確かめられた。

 高村美紀子は類まれな魔術の才能がある「大魔道士」と鑑定された。

 村田亮二は剣士としての異常なまでの才能がある「剣豪」と鑑定された。

 こうして次々と鑑定が進み、そのたびに歓声や拍手が起こった。

 その水晶には将来的なステータスが表示されていて、

 高村や村田の最終的なステータスは極めて高いと判定されていたのだ。


 ……そして最後に俺の番が来た。

 すると、

 「――修理士、ですね……」

 鑑定士が、言いにくそうにそう言った。

 そして……、


 ドッ


 爆笑。


 「おい、子豚」

 一歩前に出た村田亮二が言った。

 「お前、容姿も醜いのに、才能もないのかよ(笑)」

 「なんだよ、修理士って。そんな才能でどうやって敵と戦うんだ? お前にはなんにもないのか? 」

 そう言われても、俺はさほど村田に腹は立たなかった。

 それよりも後ろでにやにやしている奴らに腹が立った。

 直接言う村田よりもあいつらの方がたちが悪い。

 にそにそして笑う癖に、「罵倒する悪人」になる勇気はないのだ。

 だからと言って、助けてくれるほどの「善人」にもなれない。

 「悪人」でも「善人」でもない半端なポジションで俺を見下す優越感だけはちゃっかり手に入れたいのだ。

 ……その卑劣さの方が俺は嫌いだった。



 「申し訳ありませんが、ピギー様」

 ……と、王の側近が言った。

 ……は?

 お前までピギー呼ばわりするのか?


 「見ての通り、この国には美男美女しかおりません」

 側近が続けた。

 「なにしろここはエルフの国ですから」

 ……そう。

 そのことには気づいていた。

 この世界に来てから俺は美しい容姿の生き物しか目にしていないのだ。

 醜い容姿をしているのは唯一、たったひとり、俺だけだった。

 

 「ですから、即刻、王宮から出ていって下さい。醜い者は――」

 側近がそう言いかけると、代わりに王が遮ってこう言った。

 「もういいから、行け。豚、去れ」

 そして、しっしっと手を振った――。


 ドッ。


 爆笑。


 再び同級生たちが腹を抱えて笑った。

 ……今までも、何度この嘲笑を浴びてきただろう。

 そしてその度に俺のなかに黒い炎が燃え上がる。

 だが、出来ることはなにもない。歯ぎしりをして悔しさを堪えるだけだ。

 

 「――ちょっと試しにさ、ピギーに魔術を撃ってみたら? 」

 誰かが言った。

 ……は?

 試しに、撃つ……?

 顔を上げると、高村美紀子の取り巻き四人衆がにやにやしていた。

 そのうちのひとり、水野知恵が言ったのだ。


 「そんなのダメに決まっているでしょう。魔術っていうのはモンスターに使うものなんですから」

 と高村美紀子。

 その言葉に、思わずほっとする。

 さすがのこいつも、そこまでの外道さはないらしい。

 ――そう思った瞬間、高村美紀子がにやり、とした。

 「――だけどこいつならいっか。だって、どう見てもモンスターだし」

 

 

 沈黙。

 ――からの爆笑。

 「はっはっは! 」

 エルフの王も手を叩いて笑っている。

 「良いでしょう。私が特別に許可します。どうぞ、試しに使ってみて下さい――」


 「じゃあ、お言葉に甘えて」

 と美紀子。

 「“フレア”!」



 ……突然、俺の身体が発火する。

 「……!?? 」

 声にならないほどの痛み。身体中に感じる熱。

 そしてみんなの前で痛めつけられているという、耐え難いほどの羞恥。

 みっともなく身をよじって火を消しながら、

 「ああこれはあれだ」

 と懐かしい記憶を思い出していた。

 この世界に転生する前もこれと似たような場面があったのだ。

 掃除の時間に誰かのロッカーから出てきた古い牛乳。

 クラスの陽キャたちが集まってその牛乳を面白がり、

 「誰かに飲まそうぜ」

 と盛り上がっていた、あの場面。

 そう、――そこで指定されたのが俺だったのだ。


 「いや、無理す……。牛乳飲むとお腹壊すんで」

 卑屈にそう笑いながら言ったが、取り合ってもらえなかった。

 俺は陽キャ四人に羽交い締めにされ、無理やり牛乳を口に流しこまれたのだ。

 ――あのときも、これと同じ感じだった。

 俺を取り囲んでみんなが笑い、俺が苦しむ様を愉しそうに見物するのだ。

 そしてその行為の中心にはいつも、運動が出来て、口が上手く、世の中で立ち回るのが上手い高村や村田のようなやつがいる。

 そのときも陽キャの隣には高村由紀子がいて、腹を抱えて笑っていたのだ。



 やっと鎮火した。

 まだ身体中が熱い。

 だがそれよりも、恥ずかしさで今すぐこの場を立ち去りたかった。


 「じゃあ、出ていけよ。ピギー」

 最後に誰かがそう言った。

 誰が言ったかはわからない。

 王なのか高村なのか村田なのか。

 だが誰でも良い。誰であったとしても、同じことだ……。



 



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