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廃棄

 「もう、いいの……。さよなら、あなた」


 私は呟く。自分の声がまるで別の人の声に聞こえて来て、なんだかおかしな気分。本当なら笑えないはずなのに、声を出して笑った。


 ふふ。

 ふふふ。

 あははは。


 はーっ。最後はため息をついて。


 それからトプン、と湖の中心からそれを落とした。静かな湖の水面に輪が広がっていく。沈んで行くのをボートの上から眺めていた。


 見えなくなると、私はそっとボートを漕ぎ出して、岸まで戻る。あまり濃くはないけれど、早朝ということも有って辺りは霧が立ち込めていた。


 ……都合が良くて怖いくらい、ね。


 そして私はもう一度呟いた。


 「さよなら、あなた。もう二度と会う事は無いでしょうね」


 私は湖を振り返ることなく、立ち去った。


 10年前。私はあなたと出会った。共通の友人から紹介をしてもらって、友人付き合いをしていたわね。


 9年前に、あなたからの告白で私達は付き合い出して楽しかった。2年の月日を経て7年前に私達は結婚をした。皆に祝福されて幸せになるのだ、と思っていたわ。


 けれど、それも最初だけ。ケンカをして会話もしなかった1週間。たった1週間なのに、あなたは私を裏切った。


 共通の友人から聞いたのよ。あなたが、あの女性と会っていたということを。彼女、私とあなたが結婚をする前からあなたが好きだったみたいね。


 あなたもなんとなく気付いていた。だから、私とケンカをしている時に彼女に誘われて、フラフラとついて行って私を裏切ったのね。







 でも私は知らないフリをして、あなたを受け入れた。たった1度のあやまちを責めたくなかったから。


 それなのに。


 あなたは更にあやまちを重ねた。






 知らない、と思っていたみたいね。でも知っていたわ。あなたがあやまちを重ねたこと。結婚をしても自分に寄ってくる女性がいることを知って、あなたは女をとっかえひっかえ。


 私に至らないところも有ったとは思うけれど、家にちっとも寄り付かないのだから、私だけが悪いわけじゃなかったわね。


 そんな生活を続けているのだから、当然子どもなんて出来るわけが無いわ。でも、出来ないことをあなたのお母様は、私が悪い、と責め立てた。


 私が悪いから、あなたは家に寄り付かないのだ、と。全ての元凶は私みたいに、責め立てて来て。あなたは私を庇うこともしなかった。


 それでも私は我慢をしたのよ。一時の気の迷いだから、と。いつか戻って来てくれる、と。







 でも、それも夢だったみたい。







 1年前。私には子どもが出来ないのに、他の女には出来た。それも2人、も。


 許せなかったわ。


 私には出来ないのに。


 そう思う反面、あなたのお母様が顔色を変えたのには、胸がスッとしたのよ。1人だけなら、嫁である私が至らないから……なんて体裁が整ったでしょうけれど。


 2人も妊娠をした、なんてことでは、世間から見れば私が悪いわけじゃなくて、どう見たってあなた……つまり、あなたのお母様からすれば、ご自分の息子が悪いのですもの。


 どうか、これが原因で離婚なんて言い出さないでくれ、としぶしぶながら頭を下げて来た時は、嫌です。と、はっきりお断り出来て嬉しかったわ。


 かなり嫌そうな表情をなさっていたけれどね、あなたのお母様。


 それで、お母様は、あなたが妊娠をさせた2人に、中絶をして欲しい、と頭を下げに行った、と友人から聞いたわ。もちろん、お2人共に断った。


 じゃあ、と産んだら私の子ども、という体裁を整えようとしたらしいけれど、それも断られた。……当然よね。我が子ですもの。


 そうして、お母様があなたの後始末に方々を駆け回っている間に、あなたはまたも違う女に手を出した。


 事、此処に至ってようやくあなたのお母様も、ご自分の息子がダメな息子だ、とご理解されたようね。


 面白いのは、その愚痴を私に言って来たこと。そして私に同情を寄せて来たこと。


 だから、私、思い切り笑ってあげたわ。今さら何を、と。あれだけ文句を言って来て、掌を返したように同情を寄せて来ないで下さい、と。







 窮地に立たされた。


 って、あのような表情を言うのかしら。それから、バツが悪そうな表情をして帰られたのを見て、私も溜飲を下げたわ。






 私が、酷い女?


 そうかもしれないわ。他人の不幸を喜んでいるのですもの。でも、そうしたのは、あなたよ。


 そして、昨日。ずっと仮面夫婦だった私達の仲を終わらせるために、あなたが夫婦同伴パーティーに呼ばれたホテルのロビーで、わざと騒いだの。


 注目を浴びた後に


 「もう、あなたとの婚姻関係は破綻よ! 浮気して、子どももいる人と結婚をなさって!」


 と、叫んだわ。そしてホテルから出た。その後のあなたの事は、私も知らない。だけど、溜飲を下げた。私のあなたに対する復讐は終わったわ。


 そして、最初からそのつもりだったから、近くのホテルに泊まって、私は今朝、湖に出て来たの。慣れないボートに苦戦をして、漕ぎながら。






 結婚指輪を湖に廃棄させてもらったわ。あなたとの思い出と共に。


 あとは、酔っているあなたがサインをした離婚届けに私もサインをして、役所に提出をするだけ。


 引っ越しの手配も済んでいるわ。だって、あなたは寄り付かなかったから。


 私は、やり直すのよ。







お題は「ボート」でした。

こういう話書くの大好きなんだなぁと今、しみじみしてます。

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