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出店

 商店街の企画で、近所の神社のお祭りに合わせて出店をやりましょう、という話になった。ずっとテキヤを依頼していたからその付き合いもあるため、そんなに沢山の出店は無理だけど、3店舗なら出せると言う。


 そのうちの1つが、喫茶店・花言葉。高橋悠里が店長の店。出店でコーヒーや紅茶なんて無いから、あまり見かけない事をやって集客に繋げよう、という考え方らしい。白羽の矢を立てられた悠里は、困っていた。


 問題点がいくつも浮かび上がる。


 1つ。お湯を沸かすのはどこで?

 2つ。紅茶とコーヒーの種類はどれくらい?

 3つ。予想される来客数は?

 4つ。立ち飲みが出来るように紙コップ? 席は必要?

 5つ。悠里だけでは回らないが、両親共に祭りの手伝いに駆り出されていて、人手が無いけれど、ボランティアで手伝いをしてくれる人はいる?


 両親とこれらの問題点を話し合う必要が有った。


 「先ず1つ目だが、お湯は簡易コンロを使えばいい。ガスボンベがあるし」


 と、父に言われた悠里は首を傾げた。


 「ヤカンでお湯を沸かしてヤカンから直接ティーポットに淹れるって事? 美味しくなさそうじゃない?」


 悠里が突っ込みを入れる。


 「それはやはり出店である以上、どこかで折り合いをつけねばならないから」


 父の発言に仕方がないけれど、悠里は承諾した。


 「2つ目と3つ目と4つ目だが、当日は3000人前後は来るだろうが、この数年は客足が落ち込んでいる。だから当日の来客数は不明。種類はスタンダードなもの。味が落ちるだろうが、紙コップを使用。立ち飲み形式。出店の場所の区画が狭いため、席を確保出来ない」


 一気に答えが出て来た。スタンダードな種類と紙コップを準備。多め。と悠里はメモを取った。


 「でも、席が確保出来ないなら何か目玉になるような事が無いと、収益に繋がらないわ」


 いくら商店街の企画で有っても、クリスマスイベントやらバレンタインイベントやら……と、あれこれ企画がある。あまりボランティア精神……つまり赤字覚悟で無料サービスばかりやっていては、経営難に陥ってしまう。


 「まぁ確かに、ある程度還元をしてもらえるようじゃないと、キツイな。そのためには目玉となるものが必要か。それは後で考えよう。それから5つ目の問題点だが……。父さんと母さんは、2人とも祭りの委員だから、そっちで手一杯だしなぁ……」


 さすがに、悠里1人でまかないきれないかもしれない、と考える。そして歯切れよく答える事は父に出来なかった。


 「宏樹にお願い……出来ないわよね」


 悠里は弟の名前を出して、直ぐに否定をした。新婚の宏樹に、土日の二日間を手伝え、というのは酷だった。


 「まぁなぁ……。とりあえず、祭りまでまだ1ヶ月ある。人手に関してはまた後で考える事にしよう」


 という父の言葉に頷いて、悠里は茶葉やコーヒー豆の仕入れを業者に頼む段取りをつけた。紙コップは、安く売っているスーパーか何かで買えばいい。


 あとは、目玉企画になりそうな事を考えなくてはならなかった。今日もこれから店を開ける。休日に準備を進めていく事になるだろう。


 「それにしても……やっぱり色々と力を入れてイベントをやって来ているだけ有って、商店街に活気が戻って来たわね」


 悠里は商店街のイベントを認めていた。


 ***

 「こんにちは」


 大澤信悟。同じ商店街で花屋を営む彼が花言葉にやって来た。悠里に想いを寄せる彼は告白をする前に釘を差されているのだが、悠里の弟・宏樹に後押しされて前向きに悠里と向き合っている。


 悠里は信悟のその前向きさに、ゆっくりと“自分だけ幸せになってはいけない”という考え方を変えていた。


 信悟を好きか嫌いか。の二択で考えるなら好きだから、悠里は釘を差してしまった。きっと揺れ動くだろう自分の心を予測していたから。だから、今も。


 信悟が現れた途端に気持ちが揺らぐ。


 その一方で、婚約者と別れて間もないのに、と、こんなに揺らぐ自分が恥ずかしくて嫌で、どうしていいか解らない。だから、信悟をまともに見られなかった。


 「いらっしゃいませ」


 悠里は揺らぐ自分を抑えながら信悟を迎えた。


 「悠里さん。今度のお祭りの準備はどうですか? あ、モカを下さい」


 信悟は用事が無くても花言葉に来るようになって、積極的に悠里に話しかけるようになった。だからといって、悠里にアプローチをするわけでもなく、ただ雑談をする。


 まるで、悠里が心を開くのを待っているように。


 だから、悠里は解っていた。もしもこの先、信悟がきちんと悠里に向き合って想いを伝えて来たら……。その時は、以前のような答えではダメなのだ、と。


 きっと、まだ気持ちが。なんてあやふやな答えでは信悟は引き下がらない。


 その日が来て欲しいような気がするし、来て欲しくない気もする。


 「い、いえ、まだ……」


 「何か力になれることが有れば言って下さい」


 信悟はただそう言って会話を終えようとする。しかし、悠里も祭りのことは悩んでいた。


 「相談に乗って頂けます?」


 同じ、店を経営している者同士。しかも、悠里は親から引き継いだ店だが、信悟は自分の力で店を出した。何かヒントになるかもしれない。


 「俺で良ければ」


 悠里は信悟のモカを淹れてから悩みを打ち明けた。


 「商店街の企画そのものは反対じゃないけれど、実際活気が出ていますし。ただ、いつもボランティアかボランティアに近い金額でイベントをしています。赤字覚悟では有っても毎回では、さすがにキツくて」


 「ああ、そうですよね。解ります」


 お互い、店長として経営を考えているだけに悠里の言う事は信悟に理解出来た。


 「だから、今度のお祭りでの出店は、目玉企画を、と考えているのですが。どういったコンセプトがいいのか……。父はダージリンティーとアールグレイティーとキリマンジャロとモカの4種類くらいで良いと思う、と言っていました。でもそれじゃ、別に出店じゃなくても良いでしょう? 出店ならでは、というものが必要かな、と」


 悠里は悩みを打ち明けて息を吐き出す。


 「成る程。確かにお客さんに足を運んでもらうには、何か目玉が欲しいですね」


 信悟が真剣な表情で悠里の悩みを共に分かち合おうとしていた。


 「……そんな簡単に企画の目玉なんて思い浮かばないですよね」


 信悟の真剣さが嬉しかった。だが、そんな簡単じゃないことを悠里自身が解っていた。目玉企画なんて直ぐに浮かぶなら、悠里だって苦労しない。







 「あ、そうだ!」


 信悟がハッと思い至ったように声を上げた。





 ***

 祭り当日。人手不足は信悟が手伝いを申し入れてくれて、お願いしている。では、悠里が出している出店は……。


 「あ、ここね! 1日店長がいる店って」


 客の声がした。


 「いたいた。可愛い店長さん!」


 神社に住み着く猫を1日店長としてみたら? という信悟の企画は、うまく行っていた。猫と紅茶。猫とコーヒーの組み合わせなんて、最初はうまくいくのか心配だったけれど。


 そんな心配をものともせずに信悟の言う通りにしたら、猫が1日店長という企画に女性が殺到していた。結果、うまくいっていた。


 「信悟さん、ありがとう。おかげでうまく行きました」


 「いや、俺は大したことをしていないから」


 信悟に礼を述べると、信悟は首を振った。謙遜する信悟に、悠里はもう一度頭を下げた。


 この時。信悟にきちんとした気持ちを告げられて、その返事をするのはもうすぐな予感がした。

お題は「猫と紅茶」でした。

この2人も木谷・水野の2人みたいな感じだったな。感慨深い。

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