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2 試合、その後

連続投稿、2本目。


一話目、まだな方はそちらから。



 真夜中、すでに観客は姿を消し、記者達で騒がしかった控え室も今では雨竜とジムの関係者だけになり、彼らも両国国技館を後にした。


 皆でいったんジムに戻り、祝賀会などはダメージのある雨竜の為、後日となった。


「明日太、雨竜を家まで送ってやれ」

 ボクシングジム『熱拳ファクトリー』会長、大沼 元太(おおぬま げんた)はジムのプロボクサーで、先輩の雨竜に懐いている、日山 明日太(ひやま あすた)にまっすぐ家に帰るように監視をつけた。


「……いらないよ?

 会長……子供じゃないんだから」

 雨竜は拗ねるように断る。


「そういうな、今は足取りも言動もしっかりしているが、ダメージは軽くないんだ。

 心配で堪らん……仕事が残ってなかったら、俺が送ってやりたいくらいだ」


「そうッスよ!

 雨竜さん。

 この明日太、ちゃんと家まできちんとお送りしますので」

 明日太は胸を叩き主張した。


「……わかったよ。

 明日太、帰るぞ」

 雨竜は右手を見て何度か握り、身体をひるがえし歩き出した。


「あ、はい了解ッス、雨竜さん。

 じゃあ、会長、失礼しまッス」

 歩き出す雨竜を見て、慌てて挨拶し追いかける明日太。


「おう、ご苦労さん。

 雨竜……明日、精密検査入れているから、ちゃんと行くんだぞ!」

 そんな2人に会長は声をかける。


「……ああ。

 会長、今までありがとな」

 振り返らず立ち止まった雨竜は、会長に感謝の気持ちを述べた。


「なんだ?

 これから、お前は王者(チャンピオン)として、やっていくんだ。

 変な事言うな……馬鹿野郎?」

 突然、感謝され感極り、うっすらと涙を浮かべる会長。


「……そうだな。

 でも、言いたかったんだ。

 おやすみ、会長」

 雨竜は手を振り、今度こそ歩き出した。


「ああ、おやすみ」

 会長は姿が見えなくなるまで見送った。

「寂しい事言うなよ。

 お別れみたいじゃねぇか?」

 会長の呟きは誰が聞く事もなく消えていった。




 雨竜の住むアパートに着き、明日太は甲斐甲斐しく、寝床の用意や、氷枕、水分補給のスポーツドリンクを用意して満足していた。


「……必要ないよ。

 明日太、もういいから帰れ」


「いいえ、そうもいかないッス!

 風呂は熱が出るから駄目で……はい、雨竜さん、布団に入ってくださいッス」


「……わかったよ」

 雨竜はスウェットの下に履き替え、寝る為のタンクトップを着て、言われたように布団に入り、横になる。


 氷枕が気持ちいい。


 明日太は、冷却シートを雨竜の額にあてた。


「よし、と。

 じゃあ、これで今日は帰るッス。

 雨竜さん。

 明日、病院に行くのに迎えにくるのでしっかり寝てくださいッス」


「……ああ、明日太」


「なんです?」


「今まで、ありがとな?

 お前も頑張って……お前らしいボクシングで進めよ」

 目を瞑ったまま、だんだんと語尾が弱くなり、イビキをかき雨竜は眠った。


「……なんスか、それ?

 お別れみたいな事をいうのやめてほしいッス?

 雨竜さんは明日からも元気にやっていくんだから、さびしい事言うなッスよ」

 眠った雨竜を起こす事なく呟き、明日太は部屋を出た。




 そして、東雲雨竜はこのまま二度と目を覚まさなかった。







 その夜。


 王者ブフカと挑戦者東雲雨竜の試合は遠くて見にいけなかったが、テレビの中継を一喜一憂しながら見ていた少女が場所は違えど2人いた。


 1人は、次代のアーチェリーの世界を見合う少女が、少女の部屋で雨竜のイケメンな顔を思い浮かべながら、試合を思い出していた。


「はあ……試合、凄かったな~。

 あの集中力は私も見習わなくちゃね!

 でも、やっぱり、雨竜くん、カッコいいな~?

 私も、もっと頑張ってオリンピックとか出るくらい有名になったらテレビとかで会えるかな?

 会えるといいな~」

 枕を抱きしめ悶える少女がいた。



 もう1人は、家が剣術の道場を開き、自身も剣の道をゆく少女が、道着に着替え、道場の中央で正座して目を瞑り、精神統一をしていた。


「はあっ!」

 目を開き一瞬にして腰元にさした日本刀を居合いで引き抜く。

 が、刀がえがく軌道は思った通りにはいかず刃先がぶれた。

「……駄目だ。

 集中出来ない……カッコよすぎでしょ?

 雨竜様。

 私も、いつか、あの方みたいにお互いの実力を試せ、高め極める相手、見つかるといいな」

 剣道では高校でも全国一の少女は、すでに大人に混じって試合に参加しても勝ち進み、ライバルがいない。

 その事で、今夜の雨竜の試合は羨ましかった。




 2人は雨竜を理想の男性として憧れた。

 好みの顔、引き締まった筋肉、テレビや雑誌、インタビューで見せる優しい対応に、ボクサーとは思えない人当たりがいい性格。


 初めて目にして知った一目惚れに近い存在は、彼女達にとってアイドルに近しい存在だった。





 しかし、次の日、東雲雨竜が死んだニュースに2人は愕然とし絶望した。


『面白い』『続きが読みたい』など思われましたら、ぜひ、ブクマ登録、評価⭐️を入れていただけたらと思います。


よろしくお願いします。

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