第九話
「ザ・タワー!」
東宮美結ちゃんがカードをかざすと、地面から無数の槍が生えてくる。リカが切ってくれなかったら危うく串ざしだった。
そんなこっちの様子は全く伝わっていないクロウ君、まったり作戦を思案中。うむ、カラスは意外に頭脳派だ。
「ウィール・オブ・フォーチュン!」
東宮美結ちゃんの目の前に光の輪が現れる。その端は刃物のように鋭く、巨大なカッターであることは間違いない。大きさは目測大型トラックでも真っ二つ。
光の輪は私めがけて真っ直ぐに飛んできた。おいおい、死ぬって!
「ちょきっ!」
リカが私の前に躍り出る。そしてそのハサミで、光の輪を細切りにした!
「た、助かった。ありがとう」
「博士は自分でもなんとかするちょき! 毎回かばえないちょきよ?」
と言っても、こんな状況になるとはさすがの超天才的な頭脳でも予測できなかった。武器の類は全く持ってきていないぞ。それに、激しい運動はできれば避けたいんだがな。
「本当に博士は私が居ないと何もできないちょきっ」
そんなことはないっ、と、自らの名誉のために言っておきたい。
「そうだっ!」
突然モニターの向こうでクロウ君が叫んだ。と、とりあえず攻撃がいったん止まったからよしっ。
「もう一回お願いします」
「いいわよ」
再び球体となるアルちゃん。クロウ君はアルちゃんを蹴りあげる。リフティングでも始めるのかと思うぐらいの真上の角度、目測では地面に垂直といって差し支えない。と、思いきや、案の定リフティング開始。球の重さを確認して狙いを定めている、と言ったところか? しかし、そんなことで「足出し攻撃」まで回避できるとは思えないが……。
「来た!」
アルちゃんを見てクロウ君が微笑を浮かべる。来た、とな?
クロウ君の顔をライトグレーの光が覆う。光がおさまると、彼の口からハシブトカラスのくちばしが生えていた。漆黒に輝くそれは、アルちゃんの丸まった体、そのちょうどつなぎ目の部分をとらえた。
「何ですって!?」
アルちゃんはその体制のまま驚きの声を上げる。つなぎ目に刺さったくちばしはちょっとやそっとで抜けることはない。クロウ君はその状態のまま、ゴールに駆け込んだ。
「ちょ、ちょっと今のは……」
「ラインなしならヘディングだろ。一応」
なるほど。マッドサイエンティストの私を差し置いて卑怯さで魅せるのは感心しないが、作戦としては見事だ。装甲に刺さずつなぎ目を狙ったあたり、アルちゃんを傷つけまいとする努力だろう。
「優しいなー、クロウ君は」
私は東宮美結ちゃんには聞こえないようにつぶやいた。
「負けちゃったわね。約束通り、次のステージにすすむ扉をあけましょう。第二ステージオープン!」
アルちゃんは第二ステージに続く扉の前まで走って行き、扉にかかっていた錠前を鍵で開けた。
「なんでそこだけアナログなんだよ!」
声に反応して空く扉なんかも作れないわけではないんだが、設置時間がなかった。せっかく達成感が得られるシーンが地味になってしまってすまん。