第八話
「第一ステージへようこそ!」
クロウ君の目の前に、スモークとともに婦人警官の恰好をした怪人が現れた。我ながらなかなかの演出。徹夜で奈落を設置した甲斐があった。
クロウ君の目線が、彼女の制服、そしてカーキ色のぼさぼさした短髪、ギザギザと腕から生えた装甲へと流れる。そして、ズバリと一言。
「もしかして昨日ちょっと話題に上ってた『アルマジロトカゲ怪人のアルちゃん』さんか!?」
「うふふ、正解っ」
アルちゃんは微笑を浮かべて言った。ちなみに「ちゃん」も名前の一部らしいので「アルちゃんさん」という表現は間違っていない。利便性からみんな呼び捨てにするので、そう呼ぶ人は珍しいのだが。
「とりあえず第一ステージのボスとして今後の作業を説明しまーす」
アルちゃんは壁に張られた廃工場の見取り図を脇に置かれた指示棒で示す。ちょっと準備が良すぎないかとさんざんリカに言われたが、現に東宮美結ちゃんには気付かれてないみたいだし、まあよし。
「あなたが助けに来た東宮美結ちゃんは一番奥のこの部屋にいます。しかし、この部屋にたどりつくためには三つのステージを通ることが必要です。ステージにはそれぞれ怪人がいて、その怪人が出す課題をクリアしなくては次のステージに進むことはできません」
「課題……ってことは、闘わなくてもいいのかよ」
クロウ君は昨日の今日でその体にまだ慣れてないだろうからな。リアルファイトで怪人三人勝ち抜きは無理だろ。何より、人様の嫁を傷モノにするわけにはいかないし。
「第一の課題は、PKです。そこにあるサッカーゴールに一度でもシュートを決められればあなたの勝ち。次のステージに進めます」
アルちゃんは指示棒を脇に向ける。そこにはサッカーゴールが置かれていた。
「どうやって工場の中に入れたんだよ」
ぬぅぁーっはっは、マッドサイエンティストをなめてもらっては困る!
「じゃ、のんびりしてる場合じゃないし、とっとと始めるか。どこのラインから入れればいいんだ?」
「この工場狭いから、適当でいいわ。まあ、どこから蹴ってもまず入れられない自身があるし」
と、アルちゃんは舌を出す。自信ありげな様子。
「アルちゃんさんがキーパーだよな。ボールは……」
「残念、不正解っ」
アルちゃんは指示棒で軽くクロウ君の頭を叩く。そして指示棒を脇に置くと、全身を蛍光オレンジに発光させた。リカがハサミを出す時の光と同じものだ。色が違うのは改造を施した私のこだわりである。
光がやむ。アルちゃんの全身は腕に生えていたものと同じ装甲でおおわれていた。アルちゃんはクロウ君に微笑みを向けると、体を丸め、ほとんど完全な球体となり。
「私がボールよ!」
「マジかよっ!」
ツッコミついでにクロウ君がちゃっかりアルちゃんをシュート! 彼のキック力は図らずしも身をもって体感済みだ。これは一発で入ったかと思った――が。体を丸めた体制から足をのばしてブレーキをかけ、アルちゃんはその場で静止してしまう。
「残念でした、もう一回!」
「そんなのありかよ!」
アルちゃん、私が思っていた以上に強敵だ。
「さすが悪い科学者が作り出した怪人。やり方が卑怯よ!」
こっちはこっちで東宮美結ちゃんが謎の納得。いやいや、私は何も指示を出していないぞ。
「っと、ゆっくり応援してる場合じゃないわね。ここの二人だけでも片付けておかないと、あの子――クロウ君だっけ――が危ない!」
どうやらなぜか闘争意欲に再び火が付いてしまったらしい。