第六話
「ぬぅぁーっはっはっはっはっは!」
「う、うーん……」
「ぬぅぁーっはっはっは! 気がついたかね、東宮美結ちゃん」
私は目の前に横たわる東宮美結ちゃんを見下ろして言った。
「って、クロウ君の時と全くパターンが一緒ちょき!」
「ギクッ!」
確かに同じパターンだが、別に単細胞なわけではないぞ! ただ、どのような状況でも使える行動様式を持っておくということは、それだけそれが完成されているという事であってな――。
「ちょっと待って。あなたたちいったい何者なの?」
私たちを毅然と睨みつける東宮美結ちゃん。謎の廃工場で柱に後ろ手に縛られているという状態でこの態度。大したものだ。本当に普通の中学生か?
「ぬぅぁーっはっは! 聞いて驚け、私は怪人を大量生産し世界征服をたくらむ悪ーい科学者、蛇柳蝮之助だ!」
「えっと、それで、わたしは副官のアメリカザリガニ怪人のリカちょき」
――そう、これはクロウ君のために私が超天才的脳細胞を振り絞って考えた計画。
題して「誘拐された東宮美結ちゃんをクロウ君が助け出してイエス・フォーリンラブ計画」!
出がけに寝ているクロウ君の枕もとに事情を書いた手紙を置いてきたので、すぐに駆けつけるだろう。私もリカも演技のほうの才能に自信はないが、なんとかそれまでにやり過ごすつもりだ。
「何で私をこんなところに連れてきたりしたのよ!」
「ぬぅぁーっはっは! それはだな……」
あれ?
「どうしよう……」
私はリカに耳打ちした。
「……考えてなかった!」
「何やってるちょきっ!」
リカが手をハサミに変化させ、ハンマーのように振り下ろした。刃の部分でないのでさすがに斬られることはなかったが、やっぱり痛い。さすが私が開発した改造人間にしてマイラブ。攻撃力は伊達ではなかった。
「と、とにかく、何かとんでもなく悪ーい事のために誘拐したのだ! どうだ参ったか!」
参るわけがないと自分でも思う。やはり私は根っからの科学者なのだ。科学の才能は世界一を自負しているが、演技なんてできるわけがない。そういえば体育も苦手だったし。
しかし、奇跡的に東宮美結ちゃんは信じたらしく、唇をかみしめた。そして、何を思ったか。
「ちょっとトイレに行ってきてもいいかしら?」
と、言い出した。この倉庫に非常口の類は用意していないし、万一クロウ君の前で失禁したりしたら大問題だ。いいだろう。
「すぐに戻ってこいよ。リカ、案内してやれ」
「ちょき」
リカはていねいにロープを切断し、東宮美結ちゃんをトイレに連れていった。
数分後、リカだけが先に戻ってきた。「長引きそうだから」とのことらしい。大の方か? いや、これはレディー相手に行きすぎた詮索か。どちらにしろ、脱走の心配はないのであまり気にしない。ふと脇にある小型モニターを見ると、クロウ君が倉庫前に到着した映像が映っていた。
クロウ君の努力の様子はきちんと中継して東宮美結ちゃんにも見せてやらねばならないので、壁にかかった巨大モニターに小型モニターから配線を接続する。その時。足音が聞こえた。
「おお、東宮美結ちゃん、ナイスタイミングだ――」
「残念だけど、東宮美結ちゃんはもう逃げたわ」
足音の主が強い口調で言い放った。
「な、何っ!? この倉庫に逃げ道なんてどこにもないはず……」
と、振り向いて、私はその者の正体に驚愕する。
「いたいけな少女を悪事に利用するなんて許さない! タロット戦士アルカナガール参上!」
とかなんとか、華麗な決めポーズを決めるその少女は。
体にぴったりとフィットする青いワンピース(スカートは超ミニ)に身を包み、タロットカードと思しきカードの束を腰のホルダーに携えたその少女は。
どう見てもコスプレした東宮美結ちゃんだった。