第三話
「ぬぅぁーっはっはっはっはっは!」
「う、うーん……」
「ぬぅぁーっはっはっは! 気がついたかね、カラス君」
私は目の前に横たわるカラス君――いや、カラスの改造人間君を見下ろした。
「ここは?」
起き上がろうとしたカラス君は、視界に入った自らの手に目を丸くする。背中に生えた漆黒の羽根、足先のかぎづめはカラスのまま。しかし、その他の体の部分は、普通の中学生男子と見分けがつかない。顔つきは、すこし気が強そうな感じか? カラスの時に人間に向かって真っすぐ襲い掛かってきたという先入観があるからかもしれんが。ちなみに服装は黒のジャージとくちばしをイメージしたサンバイザーをチョイスした。ファッション分野は残念ながら専門外なのだが、それなりに様になってるぞ、うん。
「どうだ、怪人としての体は? なかなかカッコよくてよかったな。まあ、しばらくは違和感があるかも知れんが、いずれ慣れるだろう」
全く、自分の才能が怖――
「アホーッ!」
かなりの勢いで頭を蹴られた。何をするんだ! 私の優秀な脳細胞はその分デリケートなんだぞ!
「カラスだけに罵声は『アホーッ!』ちょきね」
リカも感心するところじゃないから。
「人の家を壊しておいて言うことはそれだけかよ」
そういえば、壊してしまったな。大いなる事業のためには多少の犠牲はつきものだが、犠牲に対して謝罪の言葉もなしというのはさすがにまずいか。うん。蛇柳博士はやさしいのだ。
「済まなかったクロウ君」
「やけに素直じゃねーか。……っていうか、勝手に名前つけられた!?」
やっぱりいつまでもカラス君というわけにはいかんしな。
「しっかし、状況が全然飲み込めねーな。オッサン、悪いけど説明してくれるか? 一番事情に詳しそうだし」
「お、オッサン!?」
まだギリギリで二十代なのだが……正直傷ついたぞ、お兄さんは。
失礼な奴だが、状況説明ナシで外に出すといろいろ危なっかしいので、とりあえず研究所の事や「愛すべき動物を怪人化計画」の事などをかいつまんで説明する。リカはその間にクロウ君にお茶菓子と日本茶を持ってきた。
「ってことはつまり、俺はその計画のサンプルに選ばれたってことか?」
リカが入れたお茶をがぶ飲みしながらクロウ君が私に訊く。せっかくリカが入れたんだからもうちょっと味わって飲んでほしいのだが。
「ご名答。して、君が好きになった人間というのはどのようなご婦人かな?」
クロウ君は少し目線をそらす。ちょっと頬が赤い。
「言いたくなければ別にかまわないのだがね。普段は怪人化の後のことは本人たちに任せているし。ただ、今回は君の家を破壊してしまった手前私としても何か協力したくてね」
「別に協力してくれるのはかまわねーけど、あいつの名前とか知らねーんだよな」
「ふむ?」
少し話を聞いてみよう。