第十五話
「あああっ!?」
どうしよう。出れん。どうやらその上にさらに大量のコンクリート片がかぶさってしまったらしい。びくともせんぞ。しかし、弱ったな。
少しでも滑車を持ち上げようと力んだ拍子に、喉に鉄の味がこみ上げてくる感覚。……っ、無茶な運動がたたったか。コンクリートに血を吐き出す。
「おい、どうしたんだよ!?」
そ、その声はクロウ君! アルちゃんは?
「もう脱出したよ。はむたん探すほうが大変そうだから戻ってきたんだけど、なんだ、怪我でもしたのか?」
「いや、心配ありがとう。でもこれはトマトケチャップだ」
「嘘だろ! めっちゃ血の臭いするし。怪人の感覚器なめんなよ」
ごまかしは通用しないらしいな。
「本当に心配しなくていい。いつもの発作だ」
「いつもの発作……?」
心配げにクロウ君が聞き返す。
「私が怪人化薬を作る時、なぜ助手であるリカも部屋に入れないか、クロウ君にはわかるかね?」
「いや、ってか、リカさんすら部屋に入れてもらえないって初耳だし」
これは失敬。
「一回の怪人化程度なら何の問題もないが、怪人化薬は大量に摂取すると毒性があってな。毎回毎回蒸気に中てられているとさすがに……な。まあ、今のところ、命にかかわるほどではないがね」
「ったく、無茶すんなよ! 今回の計画だって、こんな工場借り切ってまで……しかも、結構あの最後の部屋壁とかボコボコだったし、なんかあったんだろ?」
「ははは、まあ、な。尻の下に敷かれないように気をつけるんだぞ」
「?」
クロウ君は首をかしげる。知らぬが花だな。
「まったく、自分の計画のためとかでそんなになるまで――お前、正真正銘のバカだろ」
「馬鹿とは天才と紙一重なのだよ」
「そんな無茶してまでやり遂げる必要があるものなのかよ、『愛すべき動物を怪人化計画』って」
「私のライフワークだからな。それに、こんなことでくじけていては、メアリに申し訳が立たん」
「……メアリ? 誰だっけ?」
クロウ君は知らなかったか。
「私の初恋の相手だ。もちろん、今の最愛の人がリカであることに変わりはないが、彼女の思い出は忘れられなくてな」