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第十二話

「第三ステージへようこそですわー」


 第三ステージに入ってきたクロウ君に、白い和服の女性がちょっと間延びした出迎えをした。純白の長い髪からぷよぷよした感じの角が二本飛び出している。手足の先は丈の長い和服のすそに隠されている。本体の露出が少ないから、何の怪人かちょっとわかりにくいかもなー。


「わたくし、クリオネ怪人のリオネと申しますー」


「クリオネ……ってまさかっ!」


 アルカナガールの顔色が変わる。


「水族館からクリオネが行方不明になった事件……、あなたが盗んでたのね!」


「ぬぅあーっはっは、何を言っている。私は人間により自分の利益のために閉じ込められた一人の少女を助け出したのみ――」


 いや、冷静に考えてみればまずかったかなー。水族館の経営側にも生活とかあるんだし。かといってこっちに買い取る金もないしな。


「ごちゃごちゃうるさい! 具体的な犯罪が表に出たからには絶対に許さないわよ」


 今まではちょっとは許す気があったということか? ふつうちょっとは許す気があった相手にビームを発射したり剣を向けたりしないと思うんだがな。


「第三ステージのステージ内容はおにぎりづくりですー。おにぎりを五十個握ったら次のステージに進めますー」


「おにぎり……って何でいきなり」


 クロウ君が訊いた。確かに肉体派お題のアルちゃんやはむたんとはうって変わって家庭的なお題だな。どこからそんな発想に。


「おにぎりがー食べたかったからですー」


「そんな理由!?」


 リオネちゃん、この天才の頭脳の斜め上を行くとは、さすがだ。


「人間の体には五十個も入るのか」


 クロウ君は準備してあった炊飯器をしげしげと眺める。カラスのサイズじゃおにぎりなんて一個で限界か。いや、鳥類は食べすぎで飛べなくなることを防ぐために胃袋が小さいからもっと少ないかもしれない。しかし、いくら人間でもごく一部のフードファイターを除いて五十個は入らないぞ。私は少食なので二個で限界だ。


「この上のところを押すとー開きますよー」


「そうですか。ありがとうございます」


 すごいことを言ったことに気づいていないっぽいリオネちゃんと、すごいことを言われたことに気づいていないっぽいクロウ君はノーツッコミで炊飯器の操作法の話題に移っていた。まあ、ここで話が長引かれても――


「隙あり! ザ・チャリオット!」


 私たちの命の危険が増大するだけなんだが。突然現れた大砲の砲撃を避けながら、私はつくづく思った。


 画面の向こうではクロウ君が米を相手に奮闘中。簡単なお題かと思ったが、手ができたばかりのクロウ君にはやっぱり先ほどの滑車と同様、慣れていない故の難しさがあるらしい。


「ザ・ラヴァーズ!」


 アルカナガールが漆黒の光線を放つ。黒い光線は先ほども打たれたが、まさか同じ技ということもないだろう。いったい何の効果が? というか「恋人」という技名で光線の色が黒って……最近の中学生女子は夢というものがないのかね。


 と、思ったら、光線がUターンして私のほうへ。


「ば、馬鹿な! いくらなんでも鏡もなしに光線が反射するはずが!」


「博士、あれは光線じゃないちょきっ!」


 リカが光線(?)をハサミで分断して分解させる。しかし、それはもう一度元の形に集束する。なるほど。光線ではそんな動きをするはずがない。


「リカ、あれの正体がわかるのか?」


「というか、人並みの視力があればわかるはずちょき」


「あれ? また視力落ちたかな」


「暗い研究室にひきこもってばかりいるからちょき」


 びゅんっ! 言い争いをする私たちの頬を黒い何かがかすめた。


「あれは――黒い液体ちょきっ」


 液体? よけいに技名とかみ合わないな。黒くてドロドロの恋人とか、ロマンもへったくれもな――。


 べしゃっ。


 よけいなことを考えていたら、嫌な音とともに顔面に暗黒液体が命中した。


「っ……」


 すぐに液体を払いのけようとするが、固まって取れない! まずい。完全に視界を奪われた。


「これがザ・ラヴァーズの力よ!」


 恋は盲目ってことかー!


「さらにザ・サン!」


 ドカーン!


「まだですかー?」


「もう少し待っててください」


「ザ・マジシャン!」


 チュドーン!


「今何個目ですかー?」


「まだ十六個です」


 音だけだと状況が全くわからんぞ!? 途中でクロウ君とリオネちゃんの声が入るとさらに。私がノーダメージな理由はリカがかばってくれてる以外に考えられないのでとりあえずありがとう、リカ。さすが私の嫁。


 さすがに永久的な効果ではないらしく、必死でこすっていたら暗黒物質も少しずつはがれてきた。かぶれたりしないといいのだが……。いや、かゆみ止めぐらい自力で作れるぞ。天才だから――。


「早くしろっつってんだろボケェ!」


 突然視界に頭から生えた六本の触手でクロウ君に襲いかかる白髪少女が飛び込んできた。リオネちゃん!? 私はかなり見慣れてるほうだが、いくらなんでも目が見えるようになっていきなりこれは刺激が強すぎるぞ!


「ぎゃああああああっ!?」


「きゃああああああっ!?」


 で、それを見て同じよーな悲鳴を上げるクロウ君とアルカナガール。うむ。やっぱりお似合いカップルだ。


「な、なんだよそれっ!」


「な、なんなのよあれっ!」


 お似合いすぎてちょっと嫉妬しつつも答えてやろう。


「リオネちゃんは空腹が限界に達すると頭から六本の触手が生えて性格が変わる」


「『流氷の天使』になんて特殊能力つけてんのよ」


 む、それは誤解だぞ。クリオネは食事をするとき頭から生えた六本の触手で相手をからめ捕り養分を吸収する。


「昔『トリビアの泉』でもやってたちょきー」


「そんなの事実でも聞きたくなかったわ! よくも乙女の夢を壊してくれたわね……」


 いやいやいや、完全に逆恨みだし、それ以前に「恋人」という技名で暗黒物質を放ってくる人に言われたくないぞ。

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