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第十一話

「普通に攻撃しててもらちが明かないわね」


 画面から私に視線を戻して東宮美結ちゃんが言う。ちなみに、いつの間にやら青い長剣が消えて、彼女の武器はピンクの長剣のみになっている。さっきの光線を出した時に消したのか?


「それで、今更気づいたのか。私の頭脳に正攻法では勝ち目がないことに。絶対の真理だと思うんだがなー」


「私が居ないと何もできないのに何言ってるちょき」


「ごちゃごちゃうるさいっ! ザ・ハーミット!」


 カードをかざした瞬間、東宮美結ちゃんの姿が消える。


「どこだ!?」


「博士後ろちょきっ!」


「ッ!」


 振り向くと長剣を構える東宮美結ちゃん。かわしきれない! 剣の腹で殴られ、私は派手に壁に叩きつけられた。


「博士!」


 駆け寄るリカに再び長剣が。むこうもさすがに殺す気はないようだが、だからと言って放っておくわけにはいかない。私は東宮美結ちゃんの足を蹴飛ばす。解ってる。こんなレベルの攻撃が効くわけない。相手の体力は先ほどまでかわしてきた攻撃から予測している。自分の非力さに腹が立つ。


「ちょっ、何よ!」


 東宮美結ちゃんは一瞬驚いて私の方へ視線をそらす。その隙にリカが二本の剣のリーチから離れる。


「しまった!」


 東宮美結ちゃんの追撃をリカが拳、というか、ハサミの外側の部分ではじく。長剣はその拍子に東宮美結ちゃんの手から離れ、床に落ちて消滅した。所有者の手を離れると消滅するようになっているらしい。


 剣がなくなったことでリカにも分が出てきたと思い、ほっと胸をなでおろし――かけ、手が途中で止まった。


 東宮美結ちゃんの攻撃はそこで終わらない。


「ザ・ハイ・プリースト!」


 新たに出現した槍の切っ先がリカの頬をかすめた。




 リカの頬に一筋の赤が走る。




 私の中で何かがキレた。




「リカに……私の女に傷を付けるな」


 自分で思っていた以上に低い、怒りのこもった声。


「何よ、自分の方から仕掛けてきておいて!」


 東宮美結ちゃん――いや、リカに傷をつけたからにはちゃん付けはいらん。アルカナガールが言う。


「ここからは本気で行かせてもらう」


「普段ロクなことに本気を出さない博士が本気ちょきっ! すごいちょきっ!」


 片手をハサミから普通の手に戻し頬の傷を押えながら反対のハサミでガッツポーズをするリカを見て、ちょっとだけ落ち着きを取り戻す。そうだな。常に余裕のマッドサイエンティストに本気は似合わない。


「それに、武器も持ってないのにどうやって本気を出すつもりちょきっ?」


 訂正。現在マッドサイエンティストは本気を出せない。


「言ったわね……! だったらこっちも本気で行くわ!」


 前言撤回はできない――というか、そっちは最初から本気ではなかったか。


「ザ・ハイ・プリーステス!」


 自らの身を守るための盾を出現させ、槍を持って特攻してくるアルカナガールは。


「ひゃくーっ!」


 の声でコケた。


 クロウ君とはむたんのことは思いっきり忘れてたなー。そういえば。


「ってことで、次のステージに進ませてもらうぜ」


 言いながら息を整えるクロウ君。かなーり息が上がっている。見てなかったからわからないが、相当大変だったんだろうなー。応援してなくてすまなかった。


 その時。突然はむたんが泣き出した。


「えぐっ……えぐっ……」


「えっ!?」


「あーあ。いーけないんだ、いけないんだーっと」


 クロウ君があまりに可愛い驚き方をするのでなんとなく冷やかしてみた。いや、モニターの向こうに聞こえるわけがないということは解っているぞ。天才をなめるな。


「おいおい、泣くなって」


「ぜったいにー、ぜったいにとーしちゃいけないってー、はかせのおじちゃんにいわれたのにー」


 私からの連絡は「絶対に通しちゃいけないという風に演技しなさい」だったのだが、まだ演技と現実の区別がつく歳じゃなかったか。ところで、どさくさにまぎれて「はかせのおじちゃん」って言ったな。今。


「大丈夫だって。あの博士のおじちゃんは絶対そんなことで怒ったりしないから」


 よしよしとはむたんの頭をなでてやるクロウ君。君までおじちゃん呼ばわりはないだろう。


「ぐすっ、ぐすっ……」


 少しだけ泣きやんだが、まだまだ泣いているはむたん。


「ちょっと! あんな小さい子供を泣かすなんてひどいじゃない!」


 私は何もしてないぞ!?


「あー、もう、仕方ないなー」


 クロウ君は自分の羽を数枚ぬき、近くに放置されていたガムテープの上に円形に並べてくっつけた。そしてそれをはむたんに渡す。


「ほら、お花。黒だからあんまりかわいくはないけど」


 なるほど。花を作っていたのか。


「くろうくん、ありがとー」


 今泣いていたカラスがもう笑った(いやこの場合カラスはクロウ君の方だから語弊があるのだが何分理系の私は語彙が少ないのでこれで勘弁願いたい)といった感じではむたんが満面の笑みを見せる。純粋なのだ、子供というのは。私は苦手だがね。


「クロウ君はやさしいな」


「って、さっきと同じこと言ってるちょき!」


「どのような状況でも使える行動様式を持っておくということは、それだけそれが完成されているという事であってな――」


「はいはい、ちょきー」


「ところで、なんであんなところに都合よくガムテープがあったんだろうな」


「壁にステージ説明を張った時に博士が忘れてったちょき」


 弘法にも筆の誤り。


「えっと、えっとね、じゃあ、だいさんすてーじ、おーぷーんだよー」


 はむたんは鍵をクロウ君に手渡した。錠の位置が高すぎてはむたんには届かないようだ。



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