昼 その2
ほぼ習慣となった、おやつの時間にひとりテラスまで出る私に、新人君は半ばあきれたように
「行ってらっしゃい」と声をかける。
空はどんよりとしている。雨の多い季節になるのが、いつもより少し早いのかもしれない。
私は小皿に、アーモンドの欠片だけきれいに取り除いた煮干しを載せて、テラスの端に立つ。
だいぶたってから、
「ムぎゃあ」
確かに、声が聴こえた。
あわてて見回す。「ミーコ、いるの?」
丈の長い草のあいだから、灰色の固まりがのっそりと姿を現した。
ミーコだ。三毛でもないし毛があるのか尻尾を振っているのかも判らないし、第一それが猫なのかどうかも判別できなかったのだが、とにかく、大きさ的にはまったくミーコと変わりない。それに、歩き方も。うん、これは歩いている、んだよね?
思わず周りをきょろきょろしてしまうが、幸いにも誰もこちらを見ている者はいない。
私はゆったりと寄って来たミーコ(暫定)を抱え込むように隠しながら、小皿を置いた。
かりぽり、かり
いつものように、食べている。やっぱりこれは、ミーコにちがいない。
「よかった」
そっと頭かと思われるあたりに手を置くと、いつものようにふわんとしていて、あたたかかった。
「ほんとおまえは、おやつが好きなんだね」
―― おやつじゃなくて、おやつのじかんが、すきなんですよ
どこかでそんな声がしたようだった。
足もとからなぜかふわりと、夜明けの甘い風が香った。
(了)