夜 その2
深夜もまわり、また境のときが巡ってこようとしていた。
―― どうする?
今宵も誰かの声がそう問うた。
「おまえは、どうする」
頭はいつものように、足もとの小さな影に訊ねた。
ここ数日、返事に張りがないことに、もちろん頭は気づいてのさりげなさだった。
「……」
影は頭を垂れたままだ。
―― 急ぎましょう、風が変わる
大男の影が頭に声をかけた。
うむ、とうなずき、頭はまた足もとに声をかける。
「帰れなくなるが、よいか?」
小さな影は跳ねかえったように顔をあげ、
「にゃあ」
とひと声高く鳴く、そしてほとんど同時に大きく跳んで、まだほの暗い東へとまっしぐらに駆け出していった。
―― どこに行く!!
魑魅魍魎が口々に叫んで止めようとするが、頭はその姿が小さくなって消えるのを見届けてから、おもむろに皆の方を振り返った。
―― 良いのですか? アレはもう正しき『あやかし』とはなれぬのですよ。
―― ジョウブツしてしまうやもですよ、良いのですか?
頭は答えず、左手を真横にさし上げ、いつになく重々しい声で呼ばわった。
「いざ帰らん、闇の中へ」
おお、と応えた連中は、頭の目がどこか笑っているのにはまるで気づいていなかった。