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夜 その1

―― どうする? もう、もどろうか?


 その問いを誰かが発するのが、午前三時。

『境のとき』は容赦なく訪れる。


 あやかしの姿から黒い靄へと、またその逆に変化(へんげ)しながら、闇のかたまりがあちらこちらに集い、飛散してはまた寄り集まり、なまぐさい風もいったん停まりひんやりと甘く芳しい風が反対方向から吹こうとする、その時が、


 朝と夜との境目。

 崩壊と創造との境目、そして……

 あちらとこちらとの境目。


 この時季にもなると、どこか空も薄明るく見えないこともない。


 黒い装束のかしらは、ゆったりと振りかえり、居並ぶ連中を見据える。

 銀の髪がうずまく昏い風になびき、垣間見える朝の気配にいっしゅんだけ輝く。


 頭は尋ねた。


「おまえは、どうする?」


 一番近い場所にいた、その小さな影に向かって。


 小さな影は、つい最近来たばかりの新米だった。自宅前の道路で、交通事故に遇ったのだという。


 新米は束の間、元の姿に戻り勢い込んで言った。

「にゃあ」(もちろん、お頭とともに帰りますとも、闇の中に)


 尻尾をぶんぶん振っているその姿を見てから頭はうむ、とつぶやく。そしてすぐに左腕を真横にさし上げ、大声で呼ばわった。


「皆の者、いざ帰らん、闇の中へ」


 掛け声とともに黒霞がみるみるうちに天へと立ちのぼる、それはあまりにも素早く、たとえこの世で目にした者がいたとしても多分、曙光が射せば全て記憶から拭い去られてしまうだろう。


 間もなく、空は白々と明けた。


 日が沈み、夜の闇が深まるにつれ、また彼らの時は来たる。

 闇の営みは、終古(しゅうこ)延々と繰り返されるものであった。


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