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4.

 二回目の給料日の夕食は、俺の好きなハンバーグだった。病院からはもう通院の必要はないと言われ、バイトでもできることが増えてきた。そう報告し、笑いあった翌日。窓から差し込む光で目が覚めると、時刻は既に九時を回っていた。

 休日とはいえ、さすがに寝過ぎた。ここ最近は兄貴も休み続きだったから、きっと朝食を作って俺が起きるのを待ってくれているのだろう。

 折角の料理が冷めてしまう。慌ててリビングに行ったが、兄貴の姿はどこにもなかった。

「兄貴―?」

 出かけたのだろうか。しかし何かがおかしい。普段より部屋の中が眩しく、やけに殺風景に感じられる。

 朝日で明るい室内を見渡して気がついた。いつもはラップをかけて置いてある朝食の皿がない。代わりに机の上には、キーホルダーがついたままの部屋の鍵と一通の封筒。宛名のないそれを覗くと、便箋と数枚の書類が入っている。

「兄貴……?」

 書類を開くと、税金とか登記とかよくわからない言葉が連なっていた。唯一意味がわかるのは、兄貴の名前のみ。ただそれも、何故か俺の名前に変更されている。

 胸の鼓動を押さえながら、端が濡れたようによれた便箋を取り出す。そこには空白の間に、文字が少しだけ書かれていた。


 税金や必要なお金は、喫茶店のマスターに託してあるから心配しなくて大丈夫です。

  ごめんね


 俺は部屋を飛び出し、階段を駆け降りた。そしてまだ準備中の札がかかっている喫茶店に飛び込む。

「あのっ、これ、兄貴がっ」

 中ではマスター一家が掃除をしていた。息を切らせて封筒を差し出すと、マスターが小さく頷く。まるで全て承知していたと言わんばかりに。

 代わりに奥さんが封筒を受け取り便箋に目を通すと、大きなため息を一つついた。

「本当に簡単なことしか書いていないんだから、まったく」

 ぼやきながらカウンターの裏に消えたと思うと、一冊の通帳と印鑑を持って現れた。

「書類にもあるけれど、あの家はもう君のものよ。贈与時の税金や当面の生活費は、この通帳から出すように言われているわ」

 差し出されたそれの名義は俺の名前になっていた。開くと、今まで見たこともない桁数の記帳がなされている。少なくともあと数年はこれだけで生活できそうなほどだ。

「あなたのアルバイト代は、将来学校に行ったり独り立ちするための資金として取っておいてほしいからって、貯金のほとんどをこちらに移したみたい。自分は最低限のお金があればいいって言って、出ていったわ」

「じゃあ、兄貴は本当に……」

 膝の力が抜け、床にへたりこむ。俺の勘違いと信じたかった。兄貴が、俺を捨てていくなんて。

 いつの間に、俺は兄貴に不快な思いをさせてしまっていたのだろう。あんなに優しい、何でも拾ってしまうような人でも打ち捨てたくなるほど、俺はどうしようもない人間だったのだろうか。

 ……ああ、でも、これは罰だ。今まで色々なものを捨ててきて、傷つけてきて、自分だけがいい思いをしていてはいけないのだ。そうに違いない。

 初めて身に染みた。人から見捨てられることが、こんなに辛いものだったなんて。

 下を向くと、大粒の滴がぽたりと落ちる。

「兄貴、本当は俺のことすごく邪魔に思っていたんだね。嫌いで嫌いで、もう顔すら見たくもなかったんだ。だから――」

「そうじゃない。太一さんは、あなたがここで生きていくのがいいって思ったから、一人で出ていったの」

 美月さんが俺の肩を抱いて囁く。その言葉に顔をあげると、彼女はハンカチで俺の顔をぐしゃぐしゃに拭いた。そのままスツールに座らせ、自分も隣に腰かける。

「太一さん、人間関係のせいでまともに職場へ行けなくなっていたみたい。最初は普通に通っていたのに、だんだん休みがちになっていったって。一緒に住んでいたから覚えがあるでしょ?」

 少し考え、小さく首を縦に振る。でも兄貴の休みがまちまちなのは、そういう就業形態なのだと思っていた。全然気がつかなかった、そんなに兄貴が思い詰めていたなんて。

「それに昔からここに住んでいたからなんとなく地元の活動にも参加し続けていたけれど、心に余裕がなくなってくるとそれも負担になってきて。でも真面目な人だから断ることもできなくて苦しかったって言っていた。もういっぱいいっぱいで、いっそ全部捨てて新しい土地でやり直そうって思ったみたい。預かっていた犬を返したら、出ていくつもりだったそうよ。でも、そんなときにあなたが来た」

 美月さんは無理矢理口角を上げ、俺の髪の毛を乱暴に混ぜる。

「最初、君を働かせてくれって頼みに来たときは驚いたな。昔は多少やんちゃしていたみたいだけれど、今はもう反省しているからこれから真っ当な人間に育ててあげたい、万が一何かあったら責任は全て負うからって。あんなに必死な姿、初めて見た」

「兄貴、そんなことは一言も……。ただ人を募集していたから、としか」

「美月があまり店に入れなくなっていたのは確かだけどな。俺も昔悪いことは散々やったから、気持ちはわからんでもないよ」

 マスターがぼそりと呟く。隣の奥さんも、大きく首を縦に振った。

「実際会ってみたら、真面目でよく働く子だったしね」

「それに最近は近所の人とも仲良くやっていて、どんどんここに根付いていって嬉しいって言っていた」

 だが、美月さんの顔が再び曇る。

「でも、太一さん自身は逃げたい気持ちを抑えることができなかった。きっと君は自分に着いていくと言うだろうけれど、それではせっかくできた立ち直りのチャンスを奪ってしまうことになる。そうやって悩んで悩んで、結局あの人は逃げたの」

「美月、あなたそんな言い方は」

「逃げだよ。だって私たちに相談しに来たの、仕事も辞めて自治会長さんに挨拶した後だったじゃん。考えるのを放棄したんだ。もう少し早く相談してくれたら、もっといい道を一緒に探せたのに」

 悔しそうに彼女は絞り出す。声をかけようとした奥さんも、何も言えずに拳を握った。

 そうか、この思いを抱えているのは自分だけじゃないんだ。それに気がつくと、身動きできない孤独感が少し和らいだ。

「……兄貴は、これからどうするって言っていましたか?」

「N県の父親の実家で暮らすって言っていたわ。今は空き家になっているんだって」

 奥さんはもう一度ため息をつくと、俺に通帳を差し出した。

「この通帳、渡しておくね。あなたなら自己管理もきちんとできるだろうから。今なら、これだけのお金を用意する大変さもあの子も思いも理解できるでしょ?」

 こくりと頷くと、マスターが太い腕を伸ばして俺の頭をわしわし撫でる。

「あの坊主、冷蔵庫に料理を入れておいたって言ってたぜ。腹減ったろ、一旦戻って食ってこい」

「……はい」

 俺はかすれ声で返事をして、定まらない足取りのまま店を出た。


 家に帰ってリビングの扉を開けると、いつの間にか減っていた日用品の隙間が妙に目立つ。空腹はあまり感じていないのだが、背中を押されたのだからしょうがない。しぶしぶ冷蔵庫を開けると、中には隅から隅まで食材がぎっちり詰まっていた。

 煮物などの日持ちする料理に保存食、人参を始めとする常備野菜。冷凍庫には肉や茹で野菜が小分けされている。昨日一緒に作ったハンバーグも、一つずつラップにくるまれた上で一番上に入れられていた。

 圧倒されるほどの蓋付き皿や保存袋の山。その中で唯一簡単にラップだけかかった卵焼きと焼き鮭、リンゴの欠片だけが異彩を放っている。炊飯器を開けると、炊きたて白米のいい香りが鼻腔をくすぐった。

 ご飯をよそって漬物も乗せ、おかずと共にインスタントの味噌汁で流し込む。本当に一人での食事はどれくらいぶりだろう。食器を置く音が部屋に響いてやけに耳障りだ。

 少し塩味のするリンゴをかじりながら、改めて通帳と手紙を眺めた。残高のうち数桁は文字が滲んで見えにくいが、かなりの額であることは間違いない。

 どれだけ苦しみながら兄貴はこれだけのお金を作り、どういう思いでこれを託したのだろうか。突然転がり込んできた、ただ飯食らいの厄介者だった俺に。

 それを踏まえて、俺は一体何をしたらいい。これからどうしたい。

 ぐるぐるぐるぐる思考が堂々巡りをする。その中で一つだけ、ぽっかり浮かびあがってきた思いがあった。

 兄貴に、会いたい。伝えないといけないことがある。

 それを捕まえた瞬間、俺は両手で自分の頬を思い切り叩いた。

「うん、よし」

 歯を磨き、顔を洗う。残ったご飯はおにぎりにし、おかず類は入るだけ弁当箱へ。空いた容器を片づけたら、適当なリュックを引っ張り出して弁当と貴重品、携帯、置いて行かれた鍵をしまう。最後に本棚からガイドブックを抜いて小脇に抱えると、家の戸締りをして階段を駆け下りた。

 喫茶店の扉を勢いよく開け、カウンターにつかつかと歩み寄る。目を丸くする奥さんに、俺は通帳と印鑑を突き出した。

「すみません、これ、やっぱり預かっていてください」

「……行くのね。場所はわかるの?」

「前に、少しだけ聞きました」

 それを聞いて、彼女は詰めていた息を吐いた。そして通帳を受け取り、俺を手招きして耳元に口を寄せる。

「私、せめてあなたに面と向かって別れを言うようあの子に言ったの。でも、顔を見たら心が揺らぐから駄目だって。どうしようもないわ、本当に」

 思わず顔を見ると、奥さんは唇に人差し指を当てて大人らしからぬ悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「故郷に戻るって聞いたこと、内緒にしてね。口止めされていたから」

「こっちのことは何も心配しないで、気を付けていってらっしゃい」

 美月さんもひらひら手を振る。マスターだけは無言だが、早く行けと言わんばかりに視線を外にやった。

 俺は深く頭を下げてから、白い光が降り注ぐ世界へ踏み出した。


          *    *


 最寄駅から路線図に沿って乗り換えを繰り返し、電車に揺られること数時間。やっと辿り着いたのは、無人ではないが限りなく人がいない駅だった。乗降客も俺だけで、駅員は一応いるようだが気配がしない。

 駅舎を出ると、まばらな住宅と畑を囲むように高い山々が連なっていた。近くのため池から蛙の声が響き、天を仰げば今にも泣きだしそうな空にトビが円を描いて飛んでいる。既にかなりのどかな雰囲気だが、目指すのはここから更にバスで奥地へ入ったところだ。

 次のバスは一時間後だと言うので、待合室でおにぎりを頬張りながらガイドブックを取り出す。折り目を付けたページを開くと、そこにはN県中部の観光名所がまとめて紹介されており、その中の一つとしてT村の巨大ひまわり迷路が掲載されていた。

 本棚で見つけたこの本について尋ねると、兄貴は懐かしそうに教えてくれた。ここは父親の実家の近所にあった唯一の観光地であること。一度挑戦したがクリアできずに泣きながら助けてもらったこと。小さな村で、山と川と田畑しかない田舎であること。

 そのときはただの思い出話として聞いていたので、細かい場所までは確認しなかった。もっと詳しく聞いておけばよかったと悔やまれるが、全ては後の祭りだ。

 だがそれでも、前に進むしかない。

 兄貴の作ったおかずを腹に入れ、畑を飛ぶ鳥を二十羽まで数えたところでやっとバスが来た。乗り込んで運転手のおじさんにひまわり畑の所在地を尋ねると、近くにバス停があるという。

「でも、今の時期はまだ何にもないよ。あんな村へ何しに行くんだい?」

「ちょっと人に会いに……。その近くに住んでいるって聞いたので」

 運転手さんはふうんと呟くと、大きな体を捻じって俺に四つ折りの地図を差し出した。

「これ、あの辺の観光案内図。よかったら持っていきな」

「あっ、ありがとうございます」

 エンジンがかけられたので、慌ててバスの後方へ移動する。結局出発時間になっても、乗客は俺だけだった。

 定刻通り駅を出たバスは足取りも軽く山を登っていく。カーブを繰り返し、森を抜け、トンネルをくぐると、急に視界が開けて箱庭の様な光景が飛び込んできた。

 山が広い空を切り取り、一面に水が張られた田んぼでは膝丈ほどの高さの稲が風に揺れている。その中を真っ直ぐに伸びる道は、まるで緑の草原を分ける境界線だ。

 バスは線に沿って田園地帯へ分け入り、その中間地点で停車した。ここがひまわり迷路の最寄りだそうだ。

「ひまわり畑はこの脇道から入ったところ。一本道だから迷わんよ」

「はい。ありがとうございました」

 ステップを降り、もう一度頭を下げる。バスは一度クラクションを鳴らして山際へと消えていった。

 水の匂いと葉擦れの音が俺を包む。胸いっぱいに青い空気を吸い込むと、俺は気合を入れて幹線道路から農道へ足を踏み入れた。

 道の少し先で、耕作放棄地を転用した畑に茎の大群が整然と並んでいる。近くまで行くと畑は想像以上に広く、数百平方メートル四方の地面から俺の背丈ほどのひまわりがすっくと立っていた。恐らくまだ伸びるに違いない。

 夏になって見頃を迎えれば、観光客もたくさん来るのだろう。しかし今は人っ子一人見当たらない。もしかしたらここで兄貴とも会えるのではという淡い期待を抱いていたが、それも無理そうだ。

 思えば村の名前と曖昧な情報だけでこんな僻地まで来てしまうとは、我ながら無謀の極みとしか言いようがない。とはいえ兄貴はこの村にいるはずだ。幸い観光案内図によれば近くに民宿もあるようだから、そこを拠点に腰を据えて探せばいい。

 とりあえず宿へ向かおうと、ひまわり畑に背を向けて瓦屋根が見え隠れする集落内へ足を踏み入れた。

 地図を片手にずんずん進むが、生け垣が作る道はぐねぐねと曲がって先が見通せない。これでは誰かが来てもわからないな。そう思った矢先、角から手押し車を押したおばあさんが急に現れた。

「わっ」

「わ、あら、あら、あら」

 お互いに驚いて急ブレーキをかける。その反動で、おばあさんの車の荷台に積まれたキャベツが転がり落ちてしまった。慌てて近寄り、拾って手渡す。

「すみません、驚かせてしまって」

「いえいえ、大丈夫ですよ。この辺りは年寄りしかいないから、若い子の勢いに慣れていなくて」

 おばあさんは眉尻を下げ、荷台の蓋を開けて中にキャベツをしまい直す。

「でもさっきもあなたより少し年上の子とすれ違ったの。ここに住むことになったって言っていたし、村も少しは若返るかねぇ」

 その言葉に、俺は目を見張る。

「それ、どんな人でしたか? どこに行ったかのわかりますか?」

「確か背が高い、人のよさそうな男の子だったねぇ。一時間くらい前に、この先のお墓の方へ向かいましたよ」

 きっと兄貴だ。俺は挨拶もそこそこにその場から駆け出した。

 兄貴は、まずご先祖様のお墓参りに行ったんだ。家族の事を大事そうに話していた兄貴だし、十分あり得る。

 しかしそんなに前だったら、もう出てしまったかもしれない。祈る思いで集落を抜けると、左手に大きな墓地とお寺があった。くぐり戸から入り、並ぶ墓石の間で動くものを探す。すると対角線上にある東屋の陰で、背の高い人影がちらりと動いた。

「兄貴!」

 腹の底から声を出し、それ目がけて駆け寄る。足を止めてこちらを向いたその姿は、俺がよく見知ったものだった。

「兄貴! 兄貴!」

 近くに行けば行くほど、間違いない、兄貴だ。バケツを手に持ったまま棒立ちになっている。

 逃げられまいと体当たりするように懐に飛び込んだが、兄貴はそんな余裕すらなくただただ目を白黒させていた。

「え、どうして、なんでここに……」

「マスター達から、親父さんの故郷に帰るって聞いて。詳しい場所は本と、地元の人に教えてもらった」

 急に走ったせいでがくがく震える膝を宥め、上がる息を整えながら一つ一つ言葉を絞り出す。奥さんから口止めされていたことを思い出したけど、もういいや。しょうがない。

「兄貴が悩んでいたこと、気づけなくてごめん。俺、自分のことで精一杯で、兄貴の足かせになっているなんて思いもしなかった」

 兄貴の喉から、息を呑む音がした。それに気づかないふりをして、俺はリュックから鍵を取り出す。そこには色違いのキーホルダーが下がったままだ。

「俺のことを重荷に感じているなら、捨てたって構わないんだよ。兄貴にはずっと幸せな毎日を送っていてほしいし、それに俺が邪魔なら何も持たないでいつでも消えられる。俺は、自分が兄貴の負担になるなんて堪えられないから」

 少しの寂しさを押しこめ、にっと笑う。兄貴には自分の幸福を何よりも優先して欲しい。考え抜いて見つけた俺の本心だ。

 兄貴が唇を噛みしめる。口を開きかけたが「でも」と俺はそれをとどめた。

「でもね、それで兄貴が自分の心まで捨てるのはダメだよ。俺を一人にすること、心残りだったんでしょ? だからあんな風に色々置いて、根回しもしてくれて。けれど、残した心は捨てたも同然だよ。心を捨てちゃったら兄貴は自由になれない。一生囚われたままだ」

 手紙の端にできたよれ、いくつもついていた通帳の滲み、あれはきっと兄貴の涙の跡だ。他のものと一緒に心も捨ててしまった証だ。

 心を捨てるのは痛くて苦しい。それは路地裏に倒れたあの日、俺も経験をしたからよくわかる。後ろ暗さと諦観、絶望的な孤独感が、平穏な時間を過ごさせることを二度と許そうとしないからだ。

 だがあの日俺の心を拾い、再び光の下へ出してくれたのは兄貴だった。では、捨てられた兄貴の心は一体誰が拾ってあげられるのか。

 鍵からキーホルダーを外し、兄貴に突き出す。お揃いと笑った、その心がここには確かにある。

「だから代わりに兄貴の心は俺が拾う。いくら捨てられても何度でも拾って、兄貴に返す。それを伝えたくて、ここに来た。どうすれば兄貴が心を捨てなくて済むか、俺にも一緒に考えさせてよ」

 兄貴の腕がゆっくりキーホルダーに伸びる。そして俺の手ごと両手で包み込み、自分の胸に引き寄せた。

 ほんのりと伝わる体温が心地よい。その温もりが小さく震えると、一筋の滴が腕を伝って地面に落ちた。

「……重荷なんかじゃ、ない。なかったんだ。いつも胸が苦しくて仕方なかったのに、ユウが隣にいると息ができた。それなのに」

「……うん」

「ごめん、ごめんね……。ごめんね……」

 優しい声が、何度も揺らぐ。あんなに大きかった背中が、今はとても小さい。

 それでも、世界で一番好きな場所には変わりない。俺はその場所を、空いている手で何度も何度もさすった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 好きな要素をいっぱい詰め込んで、好き勝手に書けたので満足です。疑似家族っていいですよね!

 拙い文章ではありましたが、少しでも心に残るものがありましたら幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。

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