08.
商店街はとても活気に満ち溢れている。
お昼を少し過ぎたくらいの時間だからか、食事処はまだまだ満員御礼。店の外にまで行列が出来ている。
道路も近所に住む人たちや職人街の職人さんたち、商人や衛兵、僕と同じく学園帰りの学生といった色々な人たちが行き交っている。
なので、目的地に行くまでが大変。
僕は身長が低いから、体格のいい人たちの視界に入らなくてぶつかりそうになることが多い。むしろ必死に避けないと蹴飛ばされてしまうだろう。
だから端の方を移動するに限る。
「安いよー! 今日はお得だよー!」
「奥さんこの野菜どう? おまけもするよ!」
「さぁさ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
商品を買ってもらおうと店主たちは声を張り上げる。
その声に答えるように 、王都に住む人たちの他にも流れの商人や、外の街から来ている人たちが店へと集まって、それぞれの商品を購入していく。
その、人が流れを作り出す様は大河のようだと、国王陛下は仰ったそうで。
見たことないから分からないけれど、実際に見たことがある人がそういうならそういうものなのだろう。
「すみません。これ下さい」
「あいまいどー! ってお前かよ。男に用はないんだ帰った還った」
「いえ、これを」
「姉の方を連れてこいよなー」
「姉さんの」
「姉の分かよ早く言えよー! それならこれおまけな! お前はいらないよな召し使い。さぁさ出てった出てった商売の邪魔邪魔!」
召し使いじゃ、ないんだけどなぁ……。
「すいません。このリストの物が欲しいんですけれど……」
「…………」
「あのー?」
「ほれ」
「あ、ありがとうございま……っ!」
「素人が勝手に触れるな。きちんとしっかりとこの袋に入れて、それから姉に手渡せ。いいな? 分かったらさっさと行け」
スパイスの粉を、なんで姉さんが使うんだろう?
叩かれた手が、熱い。
「おじさん、これとこれ、ください。あと、骨と脂も」
「……持てるのか?」
「持てなかったら往復しますから」
「ウチの若いのに運ばせる。ちょっとまってろ」
「いえ、それは」
「おい仕事だ! きちんとやれ!」
お肉は一塊が大きくて、他にも骨も太くて大きいし、脂も小さい壺入りなので嵩張る。
それを手伝ってくれるのなら有り難いのだけれど。
「チッ!」
「あの、すいま」
「あ~あ集中力切れたよ、どうしてくれんの? ねぇ、持ちきれないなら買う量考えてくんない? 人に迷惑かけて楽しい? それとも同情してほしい? ねぇ?」
「いえ僕は」
「ほんとさぁ! オレっちにゃオレっちの都合があんの! なのにテメェのせいで疲れた体で無理しろって? ふざけんなよ?」
「ごめ」
「あ~もう無理疲れたあとは自分でやって。それじゃ」
肉屋の息子さんは僕が買った商品を裏口の外の棚に置くと、肩を押さえながら捲し立てて、店内に戻っていった。
それを見送った後、一度帰宅して持ってきた背負子にお肉を積んで、一回背負う。
うん。脂の小壺と骨は次に回そう。棚に置かれたそれらを皮袋に入れて、邪魔にならないように物陰に置いておく。
以前はそのまま置いておいて持っていかれたことがあるから。こうすれば九割くらいは大丈夫……のはず。
急いで往復しなきゃ。
「これと、それと、あとこれもお願いします」
「あんた、男だよね?」
「……姉のです」
「本当に?」
「……姉はリリア・ヴィシテンと言います」
「ああ、ヴィシテンさん所のお嬢さんかい! なんだ、じゃああんたが拾われた方かい? 男のくせにだらしがないねぇ。もっとシャッキリしないと!」
洗剤を補充してもらうついでに、姉の愛用している匂袋もお願いする。匂袋は女性が使うもので、男は一部の人しか使わないから、いつも変な目で見られる。
……もう数える気にもならない程、何度も何度も交わしたやり取りを終えて、店主さんは満足そうに笑って、僕は少々……疲れて、店を後にした。
外に出ると、もう陽はかなり傾いてしまっている。
早く帰って、夕飯の支度をしなきゃ。
買ったものを入れた木の籠を抱え直し、歩き出してすぐ、声をかけられた。
「あら、あらあら、そこにいるのはリリアちゃんの弟君でしょ? ちょうどよかった!」
嬉しそうに笑いながら僕の前に立ったのは、役所に勤めるオリック夫人だった。