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僕の結末  作者: 鷹村紅士
6/23

06.

 清潔だけど、薬品の臭いが混じりあって独特の空間となっている、学園の医務室。

 この臭いは人によっては気分を悪くするそうで、僕も最初は苦手だった。

 いつも怪我をして、訪れる回数が多くなるにつれて、いつの間にか慣れてしまったけれど。


「……ほら、できたよ」


 医務室所属のオーマリー・ラプトプソン教諭が包帯を巻いてくれたけれど、その仕上げに背中を叩いてくる。

 傷口に衝撃がつたわる。


「いっ」

「この程度で泣くんじゃないよ。まったく、いつもいつもこんな傷だらけになって……」


 各種軟膏や包帯などの物を手早く籠に戻しながら、ラプトプソン教諭はぶつぶつと文句なのか説教なのか分からない言葉を口にし続ける。


「だいたい何だってんだい、ここはそこまで忙しくないはずでしょうに。たまにお坊っちゃんが馬鹿やらかすくらい、あとは小娘どもの御守りくらいなのに。なんで毎日毎日、こんな治療をしなけりゃいけないのさ。あー、眠い」


 ラプトプソン教諭は、あまりやる気がない。

 ただ、僕にもきちんと治療を施してくれるので大変ありがたい。

 この学園の規則で、学園の敷地内で怪我をした場合、医務室で治療が受けられる。


「ありがとうございました」

「礼を言う暇があったらもっと利口になれ」


 制服を着て、礼をしたら、返ってきたのは、侮蔑まじりの言葉だった。


「毎日誰にやられているか知らんし、どうでもいい。もっと自衛のために頭を使え。虫や害獣ですら本能的にやっているぞ。それとも虫以下かお前は」


 言いながらも、軟膏類とはまた別の籠を開ける。


「笑うなよ、気持ち悪い。傷つけられて笑うって、被虐主義者か? お前はどうにも人を不快にさせる天才のようだな」


 いくつかの丸薬を小袋に入れ、小瓶に纏めて入れる。


「歩くなら人の視界に入らないように身を縮めて歩け。それこそドブネズミのようにな。うわ、気持ち悪い」


 ラプトプソン教諭は丸薬入りの小瓶を、無造作に僕へ放り投げる。

 いつものことなので、僕でもキャッチできるようになった。

 それに対して舌打ちした教諭はさらに続ける。


「毎食後に飲め。いいか。熱がでようが気分が悪くなろうが、それはお前の体が弱いだけで、私の責任じゃない。私の手をこれ以上煩わせるな。分かったらさっさと帰りな。私は忙しい」


 一礼して、足早に退出する。

 以前はまごついて、乗馬用の鞭を振り回されたから。

 廊下に出て扉を閉めた瞬間、ガチャリと施錠された。



 廊下を歩くと、足音だけが大きく反響する。

 学園の廊下は広くて、大きくて、豪勢だけど、こうして一人で歩くととても寂しいし、ちょっと怖い。

 そんなことをぼんやり考えつつ、廊下に備え付けられているベンチで休憩する。

 全身打撲に、至る所に擦り傷、時間が経てば経つほど熱を持って色濃くなるアザ。

 ただでさえ広くて移動するだけで一苦労なのに、この状態じゃあ、ね。

 それに、今の時間は一般科目。僕のクラスは別の教室で授業を受けている。今から行った所でどうにもならないし、授業を妨害したと怒られるくらいなら、こうして休んでいたい。

 あとは、僕らがいつも使っている教室には今は近付けない。以前も同じように医務室から無人の教室へ帰って自習をしていたことがあった。授業が終わって皆が戻ってきたら、いきなり同級生の女子生徒が、「お財布とお弁当がない!」と騒いだ。

 犯人は一人教室にいた僕ということで学園側にひどく問い詰められた。もちろん僕はやっていないし、無実を訴えたけれど、王子殿下に王女殿下、伯爵令嬢といった面々の怒りは凄まじく、僕の意見は全て無視された。

 もう退学させてから衛兵に引き渡すことで処分が決まりかけたけれど、学園の警備兵から件の同級生の親御さんが弁当を届けに来たと連絡が入った。

 結局、財布もお弁当も同級生が自宅に忘れていただけだった。

 そんなこともあって、皆、貴重品は持ち歩くようになったし、荷物を入れる鍵付きの専用箱が至る所に設置された。

 そんな一幕があったから、無人の教室も施錠されることになって、迂闊に開けようとすれば警報が鳴り響く。

 そんなことになったら、終わりだ。何もかも。

 傷に響かないように立ち上がり、また歩き出す。

 歩いてベンチで休憩。また歩いてベンチで休憩。これを繰り返して時間を調節しながら、僕は教室のある棟へと移動していった。

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