19.
馬車が走る。
外からは王子を称える声。
でも馬車の中は誰も喋らない。
あれから王子殿下は僕の腕をつかんだと思えば大急ぎで外に出て馬車に乗り込んだ。
騎士の人たちも慌ててついてきた。
王子と連れられた僕が姿を見せた瞬間のあの歓声はすごかったな。
騎士の人たちが馬に乗ったら大急ぎで馬車は動き出した。
それを追いかけて来ているのか、いつまで立っても王都の皆の声が聞こえてくる。
「殿下、竜はどこにいるのですか?」
「…………」
僕の質問を、王子殿下は無視だ。
対面に王子殿下。両隣に騎士様と囲まれているけど、今さら逃げ出すなんてしないのに。逃げても騎士様にすぐ捕まっちゃうし、そうじゃなくてもいく場所なんかどこにもないのに。
行く方向は東門かな?
竜のことは個人的に調べた事があるけど、生態はよく分かっていない。山岳地帯にいて、飛んで餌を探して襲う。火を吹く。鱗は硬い。牙と爪が鋭い。そんなくらい。
そういえば王子殿下は竜の鱗すら斬れる竜鱗裂きっていう魔導剣が使えたはずだけど。
ああ、そうか。僕が食べられてる間に斬るのかな。そうだよね。狩人は獲物を狩る時に囮を使うって聞いたことがある。
そっか。僕は囮か。
でも大丈夫かな。竜は大きいから、口も大きいよね。僕なんか一口じゃないかな?
あ、馬車が停まった。
「……降りろ」
「はい」
立とうとしたら両隣の騎士様に腕を捕まれた。
逃げないのになぁ。
外に連れ出されると、そこは王都への出入りをするための大きな門があった。普段は開けっぱなしなのに、今は閉じられてる。
「殿下、こちらを」
「……うむ」
王都に住んでいるけど、外に出たことない僕はこんな間近に門を見ることは始めてだ。
「クレッグ・ヴィシテン!」
「はい。何でしょう」
門を眺めていたら王子殿下に呼ばれた。
振り替えれば大きなリュックサックを無造作に渡される。慌てて抱き抱えれば、思った以上に重くて落としそうになった。
「扱いに気を付けろ。それは【魔導爆弾】だ。多少は雑に扱ってもいいくらいの耐久性はあるが、それだけで一軒家くらいは軽く吹き飛ぶ」
そんな危ないものを無造作に渡すんだ。
解説してくれた騎士様は死んでもいいのかな? 僕はもう死ななきゃいけないけど、この人たちも死ぬ気なのかな。
「これを持って竜に食べられればいいんですね?」
「……そ、そう、だ」
「では、竜はこの外にいるのですか? 僕一人で外に出ていけばいいんですか?」
リュックサックを背負いつつ聞けば、王子殿下も騎士様も眉間に皺を寄せて黙り混む。
……竜に僕を食べさせるためにつれてきたんじゃないの?
「竜は、外に?」
「……こちらの方向から飛んできて、こちらに去っていくのは確認している」
「では、どうしますか? 僕一人で外に出て、竜が飛んでくるのを待ちますか?」
「…………」
また押し黙った。
どうしたんだろう。
あ、遠くから大勢の声が近づいてくる。王都の皆が馬車を追ってきてたから、追い付いてきたのかな。
危ないと思うんだけど。
「とりあえず外に出ますね。そこの小さい扉から出られるんですよね?」
「ああ……」
王都の大きな出入門は開け閉めするのに大変だと聞いている。こんなに大きいのだから。
だから脇に小さい通用口がある。そこなら少人数だけど簡単に出入りできる。
声が大きくなってくる。
これ以上ここにいるとどうなるか分からないから、早く外に出させてもらおう。
騎士様が通用口を開けてくれた。
頭を下げてから外に出る。
「…………」
いつもなら大勢の人で溢れる門前がまったくの無人。
遠くまで続く石の道。遠くには森、さらに遠くにはうっすらと山が見える。
バタン、と後ろで扉が閉まった。
振り替えると、王子殿下と、騎士様が四人。
「…………」
五人から、睨まれてる。
「逃げませんからご心配なく」
「……そんなことは、どうでもいい」
「失礼しました。もう僕にはいく場所なんかありませんから、竜に食べられないと」
「…………」
さらに強く睨まれる。
「クレッグ・ヴィシテン」
「なんでしょう、王子殿下」
「お前は……!」
────────!
竜が、来た。




