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僕の結末  作者: 鷹村紅士
17/23

17.

 僕は日記を書いている。

 父さんも、母さんも、日記を書いていた。

 人が覚えていられる物事はそんなに多くないと言われた。あとは、優先順位があるってことも。

 痛いことだったり、とても驚いたことは印象が強くて、いつまでも覚えていたりするらしい。

 逆に、誰かに親切にされたり、何か嬉しいことがあっても、そういったものは忘れてしまう事がある、と。

 だから、記録をつける。

 この日に何があったか。何をしたか。どう思ったかを書き記しておけば、後で読み返せば思い出せる切っ掛けになる。

 日記とは、思い出の保管庫だと、両親は言っていた。

 実際、それは正しかった。

 僕の日記を読み返すと、 それまで忘れていた事がいっぱいあった。日記に書いてなかったら絶対に思い出せなかっただろう、僕の日々。

 ただそれは、印象に残るはずの、いつまでも覚えていると言われた苦痛に満ちていた。


 ──人はね、嫌なことは忘れてしまうの。


 そうだ。

 痛いのは嫌なことだ。苦しいのも嫌なことだ。

 だから忘れていたんだ。


 ──なんでおぼえてるのに、わすれちゃうの?


 ──人間はね、そうできてるの。矛盾してるの。それが人間なのよ。


 母さんは、笑いながらそう言っていた。

 母さんは頭がよくて、色々な事を知っていた。たまに良く分からないことを捲し立てていたけれど。

 ああ、母さんがいてくれたら、聞いてみたいな。


「なんでいつの間にか、僕が養子になってるんだろう」


 皆が僕を拾われた子だと決めつけているけれど、本当は姉さんだ。

 僕が物心ついた頃に、姉さんは家に来た。

 母さんと手を繋いで、玄関に入ってきた光景は今でも覚えている。

 確か、母さんの先輩の娘だったはず。先輩が病気で亡くなって、 一人娘だった姉さんを引き取ったんだ。

 僕も一人っ子で、家族が増えたことを喜んだ。両親は仕事に行ってしまうと長く留守にすることがあって、一人で家にいるのはとても寂しかった。

 でも、姉さんがいてくれたから、寂しくなくなった。

 ……寂しくなかったんだよ。

 なのに、両親が死んでしまってから、姉さんとの距離は遠くなった。まるで同居する他人だ。

 家族なのに。

 いや、姉さんにとっては違ったのかも。

 両親がいなくなって、姉さんは僕と一緒に家に住みつつ、勉強に集中しだした。さすがに剣は持たなかったけれど、母さんの蔵書をひっきりなしに読んで、何かを書いて、学園でもトップクラスの成績優秀者になった。

 勉学と一緒に魔導術の修行もしていた。姉さんの実の母親と母さんが魔導師だったから、その手記や持っていた魔導書とか、豊富な資料を読み込んで自主練習していた。

 それで宮廷魔導師も驚くくらいの腕前になれたんだから、姉さんには魔導師としての才能があったんだ。

 かたや僕は剣も満足に振れず、魔導師としての力もなく、勉強もできない。人に自慢できるような特技も技術もない。

 王子殿下の言うこと、つまり王族の命令を聞かないし。

 王女殿下には完全に嫌われてるし。

 伯爵令嬢には、今度は殺されるだろう。

 次期宮廷魔導師長の娘さんは、僕を人として見てない。

 学園には、もう僕の居場所がない。僕は姉さんに暴力を振るうクズ人間だから。

 街の人たちにとってもそう。

 ほら、聞こえてくる。

 皆の声が。


『ここかぁ!』

『出てこい!』

『お前のせいだ!』

『責任とれ!』

『ここから出てってよ!』

『この疫病神が!』

『死ねー!』

『そうだ死ね!』

『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』『死ね!』


 僕にはもう。

 これしかないんだ。

 

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