16.
太陽が中天にあるにも関わらず、城へと続く大通りには人が溢れていた。
いつもなら昼食をとるために皆が食堂や屋台に集まるのに、今日はどこもガラガラだ。というか、無人だ。
お客さんどころか、店主すらいない。
皆、城からのお触れを聞きに行ったんだろう。
「お腹減ったなぁ」
家の中に食材が無かった。
買い置きしてあったものは食べてしまったか、腐って食べられなくなってしまった。保存食はそこまで数がなかったし。
お金を持って出てきたけど、これじゃあご飯が食べられないなぁ。
どうしよう。
食堂から良い匂いがするし、露店には作りたての食べ物がいっぱい並んでいる。
周りを見ると、皆、城の方へ一目散に走っていく。
……僕も、行った方がいいのかな?
でも、お腹減ったなぁ。
周りに誰もいない。
お腹すいた。
「これ、もらいます」
無人の露店にお金を置いて、スープを木のコップに掬わせてもらう。
一口、すする。
「おいしい」
あっという間に飲みきっちゃった。
……駄目だ。まだ足りない。
『親愛なる王都の民たちよ!』
お金はまだある。もう一杯。
『今、我々の住まう都に脅威が迫っている!』
おいしい。
『脅威の名は黒竜! その翼で天を自在に舞い、その鋭い爪で獲物を襲い、強靭な牙であらゆるものを噛み砕く、大空の捕食者だ!』
お腹の中に熱いスープが流れ込んでいくのが分かる。喉も、胸も、お腹も熱い。でも、嫌じゃない。まるでお風呂に入った時のように気分がいい。
『そんな!』
『もうおしまいだぁ!』
『大丈夫だよね?』
『騎士がいるさ!』
『王国軍は何をしてるんだ!』
スープを飲みきったけど、もうちょっと何か食べたいなぁ。
右隣の露店には豚肉の串焼き。
左隣の露店には揚げ野菜。
う~ん、ちょっと脂っこいなぁ。
『静粛に! 静粛に!』
本格的なものは料理店に入らないとならないし、食材を買おうにも店はちょっと遠いし、作る気もおきないし。
『安心するのだ、親愛なる王都の民たちよ!』
お肉、もらいます。お金は置いておきます。
『黒竜がいかに危険であろうとも、案ずることはないのだ!』
すごい弾力。噛むのがすごい大変だ。
もうちょっと柔らかいのにしとけば良かった。
『以前にも、黒竜と戦っている!』
『本当か!?』
『じゃあ今度も安心だな!』
『良かったぁ』
一本だけで、串焼きはいいや。
なんだか前と比べて食べるのに時間がかかった気がする。顎が疲れちゃった。
『数年前、我が国の騎士と魔導師が、奴と戦っている!』
『おおっ!』
『王国騎士万歳!』
『魔導師万歳!』
揚げ野菜もらいます。えっと、ニンジンと、ダイコンと、イモ。
あ、外はパリパリで中はホクホクだ。
柔らかくておいしい。食べやすい。
『王国騎士クラッド・ヴィシテン! 宮廷魔導師ナッキ・ヴィシテン! この両名だ!』
父さんと母さんの名前が聞こえた。
『この二人が数年前、東方の山岳地帯にいた黒竜と戦っているのだ!』
『そうだったのか!』
『じゃあその人らに任せればいいな!』
『王国万歳!』
一気に、食欲が失せた。
逆に、酸っぱいものが込み上げてくる。
【拡声】の魔導術なんて使わないでよ。
『残念ながら、彼らはその戦いで命を落とした!』
『そんなぁ……!』
『やっぱりダメじゃないか……!』
路地裏に駆け込む。
『竜は倒したのか!?』
『そうよ! ちゃんと殺したの!?』
『すまない! 私は死体を確認していない! だが』
『じゃあ、あの竜がその時の奴か!?』
『そんな! 復讐にきたってのか!?』
『そのなんとかっていう奴を探してるのか!?』
『どうするんだよ!』
『静粛に!』
気持ち悪い。
『俺イヤだぜ! そいつらのせいで死ぬなんて!』
『そうよ! そいつらが悪いのよ! 私たちは無関係よ! 責任とってよ!』
『そうだそうだ!』
『静粛に! 静粛に!』
『あのガキ差し出せ! そうすりゃ満足すんだろ!』
全身が、強張る。
『なんだそりゃ!?』
『子供!? 子供がいるの!?』
『竜は鼻が利く! そいつの匂いを嗅ぎ付けられたら大変だ!』
『王都に来るのか! 竜が!』
『嫌だ! 死にたくない! 食われて死ぬのは嫌だ!』
『食べられる!? いや! いやぁーっ!』
寒い。
汗が、止まらない。
『俺ぁ知ってるぜ! ヴィシテンさんには男のガキがいるんだ! 能無しのクソッタレがな!』
『ああ、クレッグ・ヴィシテンか!』
なんで、僕の名前が出てくるんだ……!
『知ってるの!?』
『学園の劣等生だ!』
『拾われっ子の恩知らずだ!』
『クソ生意気なガキだ!』
『血も涙もないクズだ!』
『王子にも王女にも逆らってるって聞いたぞ!』
『なんだって!?』
『王族に逆らうって、反逆者じゃないか!』
反逆者……。
そうか。反逆者かぁ。
ははっ、確かに。言うこと聞かないもんね。
『おい、反逆者なら、罪人だよな!』
『あ、ああそうだ!』
『そのガキ追い出せ!』
『そうよ! 王都から追い出しましょう!』
『竜に食わせろ!』
『そうだ!』
『俺ら助かるぞ!』
『どこだ!』
『探せ!』
『捕まえろ!』
『竜に差し出せ!』
はは、夢だ。
これは、悪い夢だ。
そうだよ。夢なんだ。
夢……だよね?




