15.
────────!
どこからか、大きな声がする。
目が覚めて、右の頬が冷たい。
「えふっ」
埃っぽいのにむせる。
起き上がると、自分が床に寝ていたのに気がつく。
あれ? 僕は一体……?
「うわ……!」
自分がなんでこんな場所で寝ていたのか、思い出そうとしたら、家が揺れた。
家自体が振動している。ガタガタと家具が揺れる音がする。開けっ放しのドアがギイギイと動いて埃が盛大に舞う。
咳き込んだ僕は慌てて窓を開ける。
────────!
耳が壊れてしまいそうな大音量が聞こえてくる。
これは……何?
窓から見える街並みには、特に変化は見えない。
いや、住宅街だから目に見えて変化があったら困るん──。
ごう、と風が吹いた。
な、あれは、なに?
黒い、大きな影が空を飛んでいく。
鳥? 違う。あんなに大きな鳥は見たことない。大きすぎる。翼を広げた状態で家五軒分よりある。それに尻尾。長い尻尾がある。まるで蛇みたいだ。
「……竜?」
父さんから聞いたことがある。
大きな体に長い尻尾。大きな翼で空を飛ぶ凶悪な魔物。火を吹き、空から襲いかかってくる捕食者。
天の覇者とも言われる、竜。
そして、父さんと母さんが、命を懸けて倒した奴。
「なんで……王都に?」
竜は山の方にいて、滅多に人里には来ないって。
父さんと母さんが死んだ、魔物の氾濫。あれは山岳地帯で麓には広い森がある場所で起こったとファティーン伯爵が教えてくれた。
氾濫の原因は山岳地帯にいた竜が麓の森で暴れたことで、森にいた魔物が一斉に逃げ出したのだとも。でも、なんで竜が暴れたのかは分からなかったって。
氾濫を終息させて、一息ついた時に暴れ竜が現れて、父さんと母さんが討伐して……二人とも死んでしまった。
「うお~、ようやく行ったかぁ~」
呆然と、竜? が飛び去っていった空を見つめていたら、聞きなれた男の人の声が聞こえてきた。
隣に住むトラッシュさんが庭に出てきていた。
「トラッシュさん、あれは竜ですか!?」
「あ? ああ、いたのかお前。は? 竜に決まってんだろ? 見て分かるだろお前?」
「いえ……」
「はぁ~、これだから最近のガキは……。いいか、ありゃあ竜だ。しかも黒いやつだ。この前から王都に飛んできて、騒ぎになってたろうが。頭がイカれたか? 気がつかなかったとか言わねえよな?」
この前……から?
しかも、黒い竜?
え? ちょっとまって。
そんな大変な事が起きているなんて、記憶にないぞ。
「つーかお前、よくもまぁそこに住んでられるなぁ!」
「え? いや、だって、ここは……」
「姉貴追い出してまでそこに住みてぇか? ハッ、だろうな。お前そこ追い出されたら行くところねぇもんな」
え? なんで僕がここを追い出されないと……?
「ヴィシテンさんも泣いてるよなぁ! 拾ってやったガキが自分の子供追い出して、家乗っ取ったんだからよぉ!」
拾って、やった?
家を、乗っ取った?
え? 何で? 僕が?
──ズクン。
頭が、痛い。
なんだこれ? 痛い。痛い。痛い。
「お前、外出たら覚悟しとけよ? 人気者の姉貴を苛めて追い出したクソ野郎だからな! 袋叩きにあっちまうぞー?」
なんで? なんで? なんで?
「うるさいよクソ亭主! ブツクサほざいてる暇があったら何でもいいから食材買ってきな!」
「ご、御免よ~」
「さっさと働けクソ亭主!」
うるさい。頭が痛い。痛い。なんで? どうして? う、うう、ううううう。
気がついた時、僕は床に寝ていた。
頭は妙にスッキリしている。
そして、何もかも、思い出した。
そうだ。姉さんが出ていった。それで、殿下に殴られて、クラリアさんに叩きのめされて、ハリタさんに打ちのめされて、姫様や皆に嫌われきって……。
「は、はは」
笑いが出てくる。
こんなにも苦しいのに。こんなにも寂しいのに。こんなにも泣きたいのに。
「はは、あはははは」
僕は笑っている。
「おい、城からお触れがでるみたいだぞ!」
そんな声が、開けっ放しの窓の向こうから聞こえてきた。




