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僕の結末  作者: 鷹村紅士
12/23

12.

 竈の火を消して、鍋を下ろす。

 もう、いいや。食欲もないし。

 明日、お腹が空いたら温めればいいよね。

 お風呂は、まだいいか。勝手にボイラー止まるし。

 玄関の掃除もしなきゃ。

 壺の破片を片付けて、飛び散ったジャムを拭き取って。

 戸締まりもしなきゃ。


「……ふぅ」


 あ、駄目だ。

 気を抜いたら泣きそうになる。

 動かなきゃ。何かしないと。気をまぎらわせないと。


 ──お前は何をしていた? 剣の鍛練は? 魔導術の練習は? 勉学は? 何か一つでもやったか? 己を鍛えたか!?


 クラリアさんの言葉が、聞こえてくる。

 僕は……魔導術を使えない。母さんにも言われた。先天的に、無理だって。

 勉強は、頑張っているつもりだけど……どうなんだろう。

 家事をしていると、勉強の時間が少なくなる。じゃあ勉強する時間を多くとれば? 食事の準備も、お風呂の準備も、洗濯だって時間がかかる。

 両親が亡くなってから、家事はずっと僕がやって来た。

 姉さんは泣いていて、僕も悲しかったけど、お腹はすく。家に埃は積もっちゃうし。何もかもが荒んでいく。それをなんとかしたくて。

 最初は失敗続きだったけど、何回もやってようやくなんとかなった。

 その間に、姉さんもなんとか立ち直って。そうしたら、勉強に集中するようになって。

 姉さんが色んな本を読んでいる間、僕が料理をして、洗濯して、掃除して。

 それが、当たり前になって。


 ──はぁ。


 いつからか、姉さんは僕を見てため息を吐くようになった。

 勘違いだと思ったけど、そうじゃない。

 僕が家事をしていると決まってため息。何かあるのかと聞いてみても、何も答えてくれない。

 両親の死から、僕たちはあまり会話をしなくなった。いつも僕が話しかけて、姉さんが一言、多くて二言くらいで終わってしまう。あまりしつこく話しかけても、姉さんはすぐに部屋に引きこもってしまう。

 両親が生きていた頃は、仲が良かったのに。

 ……王子殿下たちとは、普通に喋っているのに。笑顔だって見せるのに。


 ──僕が勉強のできない奴だから、嫌いなの?


 ──は?


 好きでもなく、嫌いでもなく、僕の質問に顔をしかめて、部屋に戻る姉さんの後ろ姿を思い出した。


「……っ」


 駄目だ。思い出すな。考えるなら別のことにしろ。何か、別のことを。

 頭を振って、部屋を見渡す。

 見慣れた台所。ずっと使ってきた竈。汚れが目立ってきたテーブル。家族四人で使う分の食器の入った棚。各種調理器具……。

 僕の目が、包丁を捉えて離さない。

 ランプの光を反射して、光る刃物。

 その光が、先ほど突きつけられたサーベルを思い出させる。


「剣の、鍛練……」


 僕は、怖い。

 武器というものが怖い。戦いが怖い。命が失われるのが怖い。

 力を振るうのが怖い。

 小さい頃、両親がいた時はそんなことはなかった。

 父さんが騎士だったから、格好良かったから、憧れて、僕も騎士になることを夢見て、父さんの横で木剣の素振りをしたりもした。

 今でも木剣は僕の部屋に置いてある。

 それをしなくなったのは、両親が亡くなってから。

 日々の生活で時間をとられてしまったのも理由の一つだけど、本当は剣を見ると父さんのことを思い出して苦しいから。

 何より、武器は戦いに使う物。

 戦いで父さんも、母さんも、死んだ。

 死んでしまった。

 もう、会えないんだ。

 死んでしまったら、それまでなんだよ。


 ──なんでパパはたたかうの?


 ──それはね。大事な人を守りたいからだよ。


 ──だいじな、ひと?


 ──ママと、リリアと、クレッグ、俺の大事な家族さ。


 ──まもるのに、たたかう?


 ──ああ、そうだよ。家族を守るためなら、パパは力を使うことを恐れない。


 ──ちから……。


 ──そうだ。だからクレッグ。お前も、誰かを守る時にはその力を使うんだ。恐れずに、な。


「父さん……」


 シャツを脱いで、包帯やガーゼを取る。

 治療を受けた時、すでに赤く腫れ上がっていたり、痣として青くなっていた傷は、全部、綺麗になくなっていた。


「僕の力は」


 遠くにあるゴミ箱に手をかざして掴むように指を曲げる。ゆっくりと持ち上げるように腕を動かせば、音もなく浮かび上がるゴミ箱。

 引き寄せて、手に持っていた包帯やガーゼを捨てる。


「守る人がいないと」


 元の位置に戻そうとしたけど、思わず力を入れすぎて潰してしまった。粉々になって、中に捨てていたゴミが散乱してしまう。


「意味がないのかな……」


 僕の問いに、答えてくれる人は、誰もいない。


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