新都Ⅱ
伝説の剣、エキュスカリバー。
勇者はそれを持ち、確信したようだ。
"ニセモノ"だと
スペル:風精霊・フライ
僕は今、やっとファンタジーというものを理解した気がした。
いかにも魔法使いというローブを着た人のようだったが、その人は唐突に詠唱とともに飛び立って行ったのだ。
そうして目を上空に向けてみてわかった。
この学園エリアというものが、新都の他のエリアとは異なる特性。
これまでよく聞いてきた、魔術を学ぶ場所。
言わば魔法の飛び交うエリアであるわけだ。
空には肉眼で見えるくらいの高さに滞空している数人ほどの魔術師らしき人が見えていた。
そのほかにも、特色らしいことは多く挙げられる。
例えば、先の北エリアは商業エリアと呼称されていたが、それに勝るとも劣らない活気が街を覆っていた。
また、そのほとんどがそこまでの年をいかないような学生くらいだ。
もちろん全員が全員、さっきのようなローブを着ている訳ではなく、私服の方が断然多いようだ。
そんな人となりも特色が大いにありながら、すぐに眼に映るのは遠方に個性の激しい建物が多くあるところだ。
「圧巻だな」
この新都という都市に来ただけでも大いに驚きの要素はあったにもかかわらず、この学園エリアだけでもそれに相対するだけの要素が多くあった。
「こんなところに俺らは突っ込んでいくのか…」
「臆したか?」
「な訳あるか。逆になかなか手応えがありそうだって思ったから」
「へぇ。アランは強いな」
「おう」
「ま、無用心であるとは思うけどね」
そんなアランのお目付役が僕な訳だがな。
「失敬な。俺だってこうして弓をいつでも構えられるように準備してるんだぜ?」
そのアランの格好というのは、背中に引っ掛けるような形で吊るした弓がぶら下げられているものだった。
「そういうところが、だよ」
「どういう意味だし」
アランはただ腑に落ちない様子で僕のことを睨みつけていた。
その形相は、いつかのアングードを奮起させるほどに見えてしまっていた。
◇
「……ない」
「本当にちゃんと探したのか?」
「アランも見てみなよ」
僕らはさっきの場所から道なりにまっすぐに行った場所、中央広場らしいところに来ている。
この中央広場にはこのエリアを一望できる地図が置かれており、そこで目的の場所を確認していた。
そう、そこにはこのエリアについて多くの情報がのせられている。
それはもちろん、学園についてもここに挙げられていることを指している。
「…1……2……3……5…」
そう呟くアランの指先は地図の学園に記された数字を指している。
「……7………、で最後だな」
地図に書かれた学園の全てを指で追いながらも、僕らが探し求めている"9"の数字が見当たらない。
「にしても、この五つだけなのか?」
「ここにある魔術学園はこの5つのみ、だな」
「他の学園はあるってことか?」
僕もこの地図を見ていっているのだから、アランも自分で地図を見ればいいだけの話なのだが。
「そうみたい」
「そういや、俺らがいくのはどこの学園だっけ?」
「九学。もう忘れたのか?」
「いや、ねぇもんはどうやって探せばいいんだよ」
そうして頭を抱えるようにしていたアランだが、次第に手詰まりだというようにその頭をかきはじめた。
ただ、その様子は特に焦燥と言えるほどの焦りには見えない。
「やっぱりここは人に聞きながらいくのが定石じゃない?」
「ま、そうだな」
幸いここら辺には学生が多く、聞きにくいことはないだろう。この中央広場らしい場所にも、後ろを見れば噴水周りに多くの人が群がっている。
その人らも大抵僕らと同じくらいに見える。
そうしてアランはその人らの方向に向かっていった。決めたことをすぐに行動に移すのは見習うべきところだろう。
「すみません。ちょっといいですか?」
その口調は先ほどのペンダントを売ってくれた人とは打って変わり、至極真っ当な礼儀が見えた。
「どうしました?」
アランが尋ねていたのは噴水の淵に座り込んだ男だった。
「俺らここの学園に編入試験受けに来たんですけど、その学園っていうのが見つからなくって…」
「そういえば、さっきまでそこの地図を見ていたけど、わからなかったかい?」
そうなると、さっきまで僕らが地図に向かって右往左往しているのが見られていたわけだ。
もしかしたら、もっと多くの人に見られていたかもしれない。
そう思うと少しむず痒くなる。
「それが、俺らの受ける学園が地図に載ってなかったんです」
「その学園の名前が、第九魔術学園というらしいんですけど」
「第九…?すまないが、僕もこの新都に来たのが今年だったからよくわからないんだけど、少なくともここにはそんなところないはずだよ」
改めてその言葉を聞くと、僕らの向かうべき場所が元からなかったように思える。
僕らは確かに九学に編入試験を受けるように言われたし、そこに願書も送ってあるといっていた。
村の人たちが間違っているのか、この人が間違っているのか、どうも判断できない。
「そうですか…」
「あ、でも確か、九学っていうところではないんだけど、今日編入試験を行っているところはあったはずだよ」
僕よりも真っ先に反応するのはやはりアランだった。
「えっ。どこです?」
「二学だよ。ここからでも見える、あの一番大きな建物の隣にある学園だよ」
そうして指を指した先は入り口とは反対方向の場所だった。
さっき地図で見ていた場所ともだいたい一致している。
「ご親切にありがとうございます」
僕の礼に続くようにして、アランも頭を下げる。
「どういたしまして。助け合いは重要だからね」
そうして、僕らが去っていく間際に手を振ってくれた彼に、1つ礼をしてその場所に向かった。
しかしながら、僕らは結局のところ行き当たりばったりに進んでいるだけだ。
最初九学に向かっていると僕らは思っていたのに、今では二学に進んでいる。
彼が嘘を言っているとは到底思えないし、何かのミスかもしれない。
「で、俺らは二学に行ってどうするんだ?」
どうすると言われても、何もできない現状に変わりはない。
二学に行ったところで編入試験を受けられるわけでもないだろう。手続きの違いとか、そういう理由がない限り。
「でも、九学はないわけだし、今はとりあえずいくしかないんじゃない?」
「んー、それなんだけどさ。九学がないならもう、どこでもよくない?」
確かに、アランは魔法を学ぶ場所を求めてここまで来たのだ。今更その場所にこだわることはないだろう。
「どこにでも入れるならね」
「まぁ、そうなるわな」
そうして、ここに入る時とは真逆の重い足取りで進んで行った。
その進みは、あわよくばという思いが少なからずの希望として現れたものだろう。そんなわけはないのだが。
◇
そんなわけで、僕らは今第二魔術学園の内部に足を踏み入れている。
あの親切な人に言葉をもらってから1時間も経っていないだろう。
というのも、さっきまでただ二学へ向かっていただけなのだが、あるものが僕らをここへ導いてくれたらしい。
僕らが目の前に改めてみる第二魔術学園の建物、そしてその敷地は大きかった。
ただしそこに入るのを戸惑っていた僕らは、背格好も相まって門前に構えていた警備員らしき人に不審がられていた。
僕ら二人だけがそこにいたというわけではなく、数多くの編入試験を受けに来たであろう人たちがいたわけだが、その中でも特にアランの格好は目立っていた。
なにせ、背中には狩用の長弓が包まれた様子もなくくくりつけられ、お世辞にもお洒落とは言えない服装はこの場ではアウェイ感を十分に発揮していたのだ。
「お前たち、すこしいいか?」
相手側からしたら十分な時間は待ったのだろう。
門前に構える警備員らしき人が少し近づいて来た。
急にと言うわけではなく、十分に間をおいてくれていたものだろう。
「はい、なんでしょう」
別にシラを切っているわけでないないのだ。
こんな場所に佇んでいる男二人なんて、警備する側からしたら格好の的であるのだから。
「その格好のことなんだが…」
「はい、分かってます。僕らは今日着いたばかりで着替えもあまり持っていないんです」
「いや、別にそれはいいんだ」
そう言いながらすこし目をそらし、いいような雰囲気は出していない。
「それなんだが…」
そうして指をさしているのは僕の隣にいるアランの背中にくくりつけられた長弓である。
「……すみません、布で包むこともなく…」
そう言ってはみたものの、「そう言うわけじゃないんだよ」と言うように強面な顔で渋々しい表情を見せる。
「このエリアに入るときは中央を通ってきたんだよな?」
「え、えぇ」
「じゃあそこで通行税やら、身元確認のために荷物検査はしなかったのか?」
中央に入ってみたときは少し驚いたものだが、広い空間が円状に広がり、それぞれ四方の門には東西南北が記されていた。
その中の東エリアに行くための門にはその手前に、入国審査のような形で設置された場所があったのだ。
東エリアは特に学園エリアと称され、他にも魔法エリアとも言える。
それ故に東エリアはその中心から半径50キロの場所に結界が張られている。
そのことからも伺えるように特に東エリアというのは、新都の中でもかなり安全なエリアなのだ。
そんなエリアを中央からだと言っても、無防備に侵入できるような形にはしないだろう。
「通行税は取られましたけど、身元確認は口で伝えるだけで、荷物などは検査しませんでしたけど…」
そうだったよな、と言わんばかりにアランに顔を受けてみるが、さっき僕が言った布に包むと言う行為に感じるところがあったらしく、目は合わしてもらえなかった。
「はぁ、じゃあその弓についても何も言われなかったのか……」
半ば諦めたような声とため息、そして小さく聴こえた「またあいつか」という声がひどく印象に残ってしまった。
「え、えぇ」
「じゃあ、ちょっとすまないが俺についてきてもらっていいか?」
そう言った騎士の風体に強面のフェイスの男は、少しため息交じりの声で手招きした。
「ここは大丈夫なんですか?」
みた限り周りに同じような格好の人が見当たらないのだ。
「あぁ、言うことはできないが、問題は全くない」
そう断言し、歩いて行く騎士の風体を持つ警備員について行った。
そうして連れられたのは同じ敷地内にはあるが、学園とはかなり離れた場所に立つ建物だった。
「俺らの社員寮みたいなもんだ」
やはりここまでの規模となると警備の方も人数が多いらしい。
扉を開け早速向かったのは応接間のようなあたりだろうか。
そこで少し事情を聞かれたので覚えている限りの事は話した。
とは言っても、その内容は門の前で言ったものとほぼ変わりはない。詳細をつけたくらいだ。
かつ、自己紹介も兼ねたもので、騎士風の強面の警備員の名はジーンというらしい。
そのあと少し言及されたのは審査した人の容姿部分が多かった。
「やっぱりか」
少し合間を持って出した声はそう言った、すでに慣れたようなものを聞くものだった。
「知り合いとかですか?」
「んー、まあ、一応知り合いかな。ほぼ一方的に知っているって言うようなものだけど」
「よほど厄介な人なんですね」
少し失礼かと思いながらも、なんとなく会話を続けた。
「厄介ってもんじゃないよ。あいつの魔眼は末恐ろしいったらありゃしない」
「魔眼?」
僕が少し気になるワードをとり出すと、ジーンの「しまった」というような顔つきから少し興味がではじめた。
「魔眼っていうと、遠くをいとも簡単にみる千里眼とか、魔力の流れをみる魔眼とかですか?」
そうしてビクッと肩を動かした騎士風の強面の男、もといジーンは仕方がないように話した。
よくみてみると、隣のアランは長弓を膝に起き眼を輝かせているように見えた。
魔眼というワードを知っているかどうかはさておき、心踊るものがあるのだろう。
「ミランくんはもう知ってるようだから言ってもいいんだが、このことはあまり他言しないでくれよ?」
その言葉に反応して頭を縦に降る。アランも同様にだ。
「あいつはサキって言って、昔のテスティア王国の第2騎士団団長で、今はここ、新都でしがないお役人の1人よ」
ジーンが一文をまとめていうと、その情報量の多さから少し硬直する。もちろんアランも同様にだ。
まず、テスティア王国。
いや、知るわけがないよね。
「先の戦いでサキはその騎士団長にふさわしい結果を残し、民の救援活動も自らが指揮をし、被害を最小限に止めようとしていた。しかし、魔族の1人の攻撃によってその命は危険にさらされた」
「短い期間ではなかったが、必死の治療の元、命は助かった。命は」
「しばらくしてサキが目を覚ました頃、肢体も満足に動かせないのにその口から放ったのは「悪人」という言葉だった。そう、もう二度と戦うことができない体になった代わりに真実を知ることができる【真眼】を得ていたんだ」
そこまで言い終えるとジーンは机に置かれたティーカップを手に口に運ぶ。
これまでの話を聞く限り率直に思ったことがある。
ジーンは相当な馬鹿だ。
ジーン自身が身元調査もしていない僕たちに仲間内の情報を軽々しく言っている。
話を聞く限り、彼らにとって明確な敵がいるということだ。それは魔族であるのかもしれないが、さっきの他言無用という発言。
少なくとも、多くの人に周知された事実ではないということ。
もしかしたら魔眼というだけで風当たりが強いのかもしれないが、少なくとも騎士団長というくらいに加え、民の避難指示までしているのだ。
何もいうことはあるまい。
それでもなお隠しているということは、周知されてはならない事案であるということ。
それが敵と呼べるかはわからないが、明らかに隠さなければならない相手がいるというわけだ。
もしかしたら、ジーンはそのサキの魔眼【真眼】を信じているだけなのかもしれないが、それだとしても田舎者な僕らにそんなことを伝えることなんてないんだ。
「その【真眼】っていうのはなんなんです?」
隣のアランが至極真っ当な敬語を使い、聞いていた。
僕はなんとなく、語呂であったり、なんやかんやでその魔眼については予想できている。
「あぁ。知らないのも当然だろう。かく言う俺たちでさえその理由も原因も推測の域を出ていないからな」
「そうなんですか」
魔族という種族がいて、魔物だってうろつくこの世界でもあまりそれ自体については研究はされていないのだろうか。
➖魔眼【真眼】
見た相手が世間一般に見て善人か悪人かがわかる。犯罪を犯したものはもちろん、犯罪者予備軍や、未遂であっても悪人に部類される。
ジーンの説明を掻い摘んでいうとそういったところだ。
ただ、あくまでこれは本人からの情報でしかないので主観的なものになってしまうらしい。
本人でさえ、言葉にするのが難しいようなのだ。
「そのような魔眼もあるのですね」
あくまでも多くの知識があるようには悟らせるようなことは言わないようにしよう。
これでもジーンのゆるい口から情報を多くてに入れたものだ。
「あぁ、俺もあんまり知らないんだがな」
そう言って、ジーンはまたもやテーブルのティーカップに手をかけ、それを口まで運ぶと中身がないのに気づいたらしく惜しい顔をして元に戻した。
「では本題に入ろう」
村
頼みごといくつか
都市へ←なう
学園〇〇
〇ンス〇ー討〇
また〇へ
〇〇〇〇〇〇た