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endless game  作者: 區樣サラ
一章 村騒動編
3/14

序章Ⅱ

長い

 



 周りが木々に囲まれ、果てしなく続く森が入口も出口もを塞ぐ、いわゆる秘境の地にある村。

 そこから少し離れた南西部に石垣の入り口がある。

 その奥は未知でありながら全容が知れている。

 そこには………






  ………一族、エルネストが持つ。


 ある伝説の一節より。







「僕の名前は……………………ミラン」




「ミランさん。しっかりと覚えさせていただきました」


 カイン、キッドはいつの間にか僕の前に片膝を立て、頭まで下げてまでいる。

 このように面を向かって頭を下げられていると、反応に困る。

 こんな感謝で包まれた空間なんて、今までに経験したことすらないから。


「そんなに、へり下ったような態度を見せなくても……」


「いえ。事実、私たちでは敵わなかった外敵をこのように捉えるまで追い詰めるほどの力があなたにはあったのです」


「ミランさんのご活躍ぶりは、この村の存亡に関わるようなことでもあるのです」


 やけに飛躍しすぎているような気がしたが、この時は特に考えることはなかった。


 すると、正面側から少しの束となった群衆の間をかき分けて、何かがやってくるのが見えた。

 髪は黒っぽく、凛々しい顔立ち、その雰囲気からしても青少年のようなものを漂わせる人。


「おぉーーい、カイにぃ、。なんかあったのか?」


 カインはその声に反応するように立ち上がった。


「お前、、、さっきの氷、見てなかったのか?」


 少しの重たいトーンで小声で伝えていた。

 そこにいたのは、さっき道ですれ違ったアランなる人物だった。


「ん?見てねぇーけど…………」


 その身長差からこちらからは彼を見ることはできなかったが、カインの横からひょっこりと顔を出してきた。


「うわっ。地面、凍ってんじゃん」


 そのことに気づくと体をそらしこっち側に走り、興味のまま近づいてきた。

 そばで座っている僕にも構わず、後ろの広範囲に渡る氷に突進する勢いだ。

 ただ、この氷はスケートリンクのように整備されているわけではない。故に凹凸が激しい。


 氷の前まで行くとアランは足で蹴り始めた。


「これってあんたがやったの?」


 と振り向きざまに言いかけ、さっき道端で会ったことを思い出したかのように少し戸惑いを見せた。


「いや、これはこいつがやったんだ」


 キッドの隣に体格差が目立つように拘束されたガットがいる。

 さっきまで、魔法を使っていながらもこのように抵抗しないのはこの捉えている鎖が原因なのだろうか。頑張れば振りほどけそうにも思えるが、抵抗の意思すら見えてこない。


「へぇ〜こいつが……。さすがキッドさんだなぁ、カイにぃとは比べもんになんねぇわ」


「っな、おま、舐めんなよな。俺だってキッドと肩並べるくらい実力あるわ」


 高らかと胸を張るカインはさっきのかしこまった態度とは全く違う、生気に溢れている様子で一人称も違う。

 こんなたわいもない話で盛り上がれる関係なのは見ていて悪い気はしない。


「アランくん、それにこれをやったのは僕じゃないよ」


 そう言ったカインの目はこちら側に向いていた。

 アランもその視線と振る舞いに気づき、こっちを向いた。


「……へー、この人は結局誰なんだ?」


 首をかしげる様子で聞いた。

 道端ですれ違うときだってあからさまに動揺の様子を見せていたように、疑問に思うのは仕方がない。


「この人はミランさんといって、遠くから来た人そうだ」


 和かに手で示してもらいとりあえずというように僕は会釈をした。


「遠くって?」


「さぁ、記憶を失っているらしいんだ」


 その一言で通じたのか、一瞬空気が変わった。

 村長の家でもこのような反応を見ていたが、一体なんなのだろう。


「こいつはまた前のやつみたいな……」


 さっきとは違う低い声でアランは言った。


「ちげーよ。この人はむしろ逆のことをやってくれたんだ」


「そ、そうかもしれねぇけど……そうとは言い切れないだろ……」


 アランの口数が減り、歯切れが悪くなって来ていた。その様子を見ていて、他の村人もカインもキッドも納得している様子だった。



「すいません、ミランさん。お気を悪くさせてしまって……」


「あ、いえ。…それより何かあったんですか?」


 この村はこんなにも他から孤立しているからこそ、何らかのもろさを感じた。

 さっきまでは聞いても教えてくれないかった、ただの外敵でしかなかった僕も、立場が変わればどうなのだろう。



「それは私の場から話させていただこう」


 そう言って、またもや正面の群衆から出て来たのは村長だった。

 ただ、アランの時とは違う、村人から自ら道を譲る様子が村長への敬意の表れのような気がした。


「父さん……」


 アランがなんだか悲しみに帯びたような声色で放った。


「あれはたしか二年ほど前。君がいたところに、同じように横たわった男を当時もいたこの二人が見つけてくれた」


 話しながら近づき、カインとキッドの肩をポンと叩いた。


「その頃はこの二人とあと三人に任せっきりで、村人全員、むしろ私までもこの森のおかげで警戒なんてしていなかった。そんなある時、一人の男が横たわっているのをこいつらが見つけてきた。そしてその男を起きるまで看病してやり、話を聞いたんだ。すると"森に入ったことすら覚えていない"という。私たちはその男が記憶を思い出すまでといい、この村に置いてやった」


「だがな、その男は5日ほどした頃か、颯爽と消えてしまった。記憶が戻ってなんらかの形で帰ったのかとしか思うところはなかった。ただ、その後すぐのことだ。ライセンス持ちの魔道士が現れ、この村、及び近隣の森にまで火を放った」


 そこまで話したところで村長は唇を噛み締めた。


「村に火を放ったところでまだ復旧はできるし、人も死んではいなかった。問題は森の方にあったんだ。この村から半径2キロのところにある、モンスターよけに設置されていた魔道具を埋め込んだ木にすら燃え移った。普段はそのせいでモンスターはやってこない。何か刺激しない限り。そしてその夜、活発化したモンスターたちがやって来た。何夜も何夜も。その木が復活するまで、向こう側の人を借りたりもした。そして、村人の逃げ遅れた老夫婦や三人の騎士、私の妻が死に絶えた」


 その言葉にただ悶絶することしかできなかった。人の死に敏感であるのは人である故のさがであるから。


「ありがとう…ございます」


 お礼を言い沈黙の間を過ごした。



「いや〜、重い話をしてしまいました。そこまでお気になさらずに…」


 村長自らが最もこの話をしづらいだろうに。

 この沈黙を破ったとしても、カイン、キッド、アランは未だに俯いたままだ。

 アランからしたら、村長の妻というのは母に当たるということなんだよな。


 そこで村長が一つ、手を叩いて見せた。

 その音は響かずとも響いていた。


「さあ、過去のお話を終えたところで、さっきの武勇伝を聞かせていただきましょうか。…………そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね」


「ミランです」


「ほう。私の息子の一文字違いですな。そんなお方が魔道士を倒されるとは……」


 そうか、言われてみれば確かに似ている。

 一瞬アランの方を見て微笑んで見たりもしてみたが、まだ俯いたままだ。


「あ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私はクロードと申します。以後お見知り置きを」


 こちらも反射的に頭を下げてしまった。ここ数十分で何回頭を下げてしまっただろう。


「それにしても先ほど聞いた話によると、ミランさんは氷の塊を短剣一つで破壊してしまったとか…」


「近くで見ていて感じましたが、あの魔法、かなりクラスが上でしたよ」


 すでに持ち直していたカインが口にした。

 ただし、疑問に思う節がある。


「あの、僕が退けたのは確か炎の塊であった気がするんですが……」


「そうだったか、………聞き間違いだった……ようだな」


「あ、いえ村長。あれは確かに氷でしたよ」


 キッドが突っ込むようにいうのと同時に村長は首をかしげた。


「どういうことだ?」


「確かにあれは氷でしたが……」


 一気に視線がこちらに向く。


「ちょっと待ってください。カインさんとキッドさんが最初相手にしていた人って、……二人ですよね?」


 少し戸惑いながらも質問した。


「いや私が見た限りだと一人、こいつに圧倒されていました」


 ガットに指先を向けて言った。


「私も同じく、この氷の魔法を使う魔術師です」


 カイン、キッドがそれぞれ答えると疑問しか湧いてこない。

 僕がここにいるガットに氷の魔法で移動を制限されたあと、カネアツという男に炎の魔法が打たれたはずだ。


 この事実には村長も、アランも他の人も疑問に思うしかなかった。


「さっき、僕が魔法を避けた時、炎の魔術師が俺を持ち上げてこの氷の移動制限を物理的に解かしましたよね?」


 自分でもいきなり饒舌になったことは驚いているが、それよりもこの事実が真実か否かが知りたい。


「え、いや。氷の魔術師が逃げようと自分の氷で滑り、ミランさんに体当たりしたことでかと」


「そのおかげで私たちがこの男を捕まえることができたんですもの」




 つまり、これまでの事実の中で僕と他の人たちとで違うものというのは、カネアツという男の存在だ。

 主としてその存在が村に被害を与えようとしていたにもかかわらず、その存在自体がなかったということになると、全てガットがしたことになっているようだ。


 しばらくの無言が、より不信感を煽った。



「ミランさん。どうかなされましたか?」



「いや………、なんでもないです……」




 結局は僕の思い過ごしということで片付いてしまった。

 人がいるかいないかのかなり大きな問題であれど、自分が記憶喪失という事実のもと、許容されてしまった。






 その後、僕は部屋が空いているという村人の一人の家に泊まることになった。

 家主は四十代の夫婦で、名をスチュワードというらしい。家もそこそこに広く、過ごしやすそうな環境だった。


「少し汚いけど、これからよろしくねミラン君」


「我が家だと思ってくれていいぞ」


 その夫婦は仲も良く、優しく僕を受け入れてくれた。

 そして、僕が使用する部屋というのが、二階の一室であるという。


 扉を開けると妙に生活感が残っているようなつくりになっていた。明らかに個人のものであるようなものが多かった。


 そして、そこにあった椅子に腰をかけ、肩にかけたままだったバッグを下ろした。

 このバッグは彼のものであるのに先ほど返し忘れてしまった。そういう状況でもなかったが、明日にでも返しに行こうか。

 今はもう、太陽が沈もうとしている頃だ。


「ミラン君。ご飯ができたわよ〜」


 ドアのノック音とともにスチュワード家の女性の声が聞こえてきた。

 ドアを開けると、微笑みながらおいで、と合図していた。


 一階に降りるとすでに座って、準備が完了している。


「ミラン君はここに座ってくれ」


「そういえば、スチュワードさんっていうことは知ってるんですけど、お二人のことはなんと呼べばいいですか?」


 それぞれ呼び分ける時、必要になってくることだ。


「ん〜〜そうね〜、お母さん、お父さんでいいのよ。それに、敬語も使わなくていいわ」


 ただ見ず知らずの人を、あったその日から親子のようにするのは抵抗がある。

 しばらく渋った顔をしていたが。


「どのように呼ぶかはまだいいが、接しやすい形で居てくれればいいぞ」


 そう言ってもらえると、僕も気が楽になる。


 そして、食卓にあげられたものを食べ始めた。改めて見ると、その食卓にはスープとパンのみしかない。

 ただ、それらはどちらとも温かい。

 家族の温もりというものを感じる暖かさだ。


「じゃあ私たちからも提案していい?」


「なんです?」


「ミラン君のこと、ミラ君って呼んでもいいかしら?」


 微笑みかけながら僕を見て言った。


「そこまで変わってないじゃないか」


 僕の言葉を代弁するかのようにお父さんが代わって言ってくれた。


「別にどっちでもいいですよ」


 そう言うと、無邪気な笑みで、ミラ君、と繰り返して言っていた。

 その年に見合わない姿を見て、また、この雰囲気に当てられてか不思議と僕も笑みがこぼれてしまう。


 この空間はとても美しいものに僕は見えた。



 夕食も終え、自分の部屋に戻る間際、お風呂場は一階の廊下奥にあるからいつでも入っていい、と言うことを言われた。

 二つ返事ではい、といい自分の部屋に入った。


 そういえば僕には着替えもなく、荷物なんて彼のもの以外もっていない。

 またこの服を着るのかと思うところで、何かないかクローゼットを開けてみた。

 するとそこには男用の下着であったり、コートなりが入っている。


 一階に行き聞いてみてみると、使ってもいいとのことだ。自分用に用意していたわけではないにしろ、使えるものは使わせていただこう。


 お風呂に来てみたが、案外広い。

 こういうところでは物思いにふけることができていい。


「はぁぁ〜〜」


 大きなため息が今日の辛さを表している。色々なことがあったというに等しい日だったといえよう。



 こういう場でこそ、これまでのことをまとめるのにいい機会だ。


 まず、なぜだかログアウトできない状態でこの世界に放り出され、自分が自分ではない。

 そしてこの世界はモンスターが行き交うファンタジーの世界であり、そのモンスターを倒すと光を放ち水晶を落とす。

 ここは推測であるが、人が死ぬ時も光を放ちモンスターと同じエフェクトをする。ただし、何もそこには残らない様子。


 そこで問題にするには情報が少ないが水晶の存在にありそうだ。人もモンスターも同じエフェクトを放つと仮定したら、残るものと残らないものがある時点でそこに何かしらのヒントがあるはずである。

 この仮定を成り立たせるにも、カネアツが本当に死んだのか、それともなんらかの移動手段でどこかに行ってしまったのか。そもそも、死のエフェクトがアレなのかも怪しい。


 ただ、それを知るにもカネアツの存在がなかったことになっている以上、確証にあたるものを得ることはできないだろう。


 結局、情報が圧倒的に足りていない状態である。


「ふぅーー」


 湯船から出、着替えた。

 お風呂場の扉を開けたところで。


「あ、ミラ君。来てた服はそこに置いといていいわよ〜」


「はい」


 そう言って部屋に戻った。

 しかし、着替えている時に気がついたが、この服かなりでかい。上のシャツがとくにヨボヨボで、腕は七部丈ぐらいあり、腿のあたりまでシャツがきていた。

 ズボンはまだギリギリ履けるくらいだ。


 そして、窓際の角にあるベットに横たわり木造である家の天井を見つめ、木目を目で追ってみたりした。

 疲れた時には頭を使わないことをするのが、僕にとって一番いい。

 とくに生産的でないものが、特にも損にもならないことが良い。



 そういえば季節はいつぐらいなのだろう。

 そもそも季節なんて存在しないのか。


 そのように疑問に思うことがあれば、考えてしまう節がある。


 とりあえず、風呂後で体が火照っているからか、考え事を整理するためか、空気を入れ替えたい。

 ベットの枕の方にある肩幅ほどの窓を開け、外に頭を突き出し、空気を目一杯に吸い込んだ。


 この部屋からはさっきまでいた広い道の延長線上にある道が見えるようだが、すでに夜の明るさになっている道に歩いている人などいなかった。

 街灯もなく、霞む程度に月明かりが照らしているだけで都市とは全く違う。


 そんなくらい夜道の中、道に隣接する草を揺らす音が聞こえた。

 二階からのぞいてみてもわかるくらい、あからさまに不審な動きをしているものだ。


 ただ、それが特にどこかの家に入ろうというわけでもなく、ただ村の入り口の方に向かっているだけだった。

 無論、その影もこの村人であろうから、泥棒のような真似をするわけではないだろう。

 その影が見えなくなったところで顔を引き戻し、ベットにもう一度横たわった。



 そして一気に力んだ力を緩めたからか、脱力感が身体中を襲う。

 瞼が重く、すぐに眠りについてしまった。








「ふぅ、これでやっと……。あれ………?ない…」


 そこにはただならぬものが置いてあるはずだった。俺自身が持ってきていたあの特大の水晶が……。


 ここのテントは、村の半径2メートルにあるという魔道具を埋め込んだ木の付近に置いている。

 ただ、俺のようなノーイーストにはその木を見つけることすらできないから、ただの目寸法だ。


 しかし、これまでここに荷物を置き、外を見回っていたにも関わらずその荷物がなくなることはなかったはずだ。

 ならば、あのアングードの仕業か。


「……仕方がない………」


 昨日は本当に運が良かった。

 まさか少し行ったところにゴブリンの住処があったとは。モンスターの中でも知能を含むゴブリンは、この近くにはいることが少ない。

 そして、倒すのも頭の核を一発で射抜かなければならなかった。



 故、最も条件に適している。



 そして、また昨日辿った道を縫い返すように、思い返すように進んで行った。昨日のように弓を持ち、すぐ逃げれる万全の態勢をとって向かった。

 暗い道を進むのは慣れている。



 知っているだろうか。

 モンスター共は、基本魔力を求めて移動を繰り返す。ノーイーストにとってモンスターを刺激し、視認されない限り、死の危険は案外避けられる。


 そうして俺はこれまで生き延び、条件をクリアする一歩手前までやってきた。

 この機会を逃してはいけない。



 そして、間違いなく昨日の古い石造りの入り口にたどり着いたはずだった。


 ただ、そこには一切の跡もない、木もない、ただの空間が広がっているだけだった。


 毎日森に入っているからこそ、村近辺の森はほぼ把握している。いくら昨日が、始めてきた場所であっても忘れるはずがない。




 一体どこに消えたというんだ。


 










 朝の日差しを感じる前に、頭上からの冷たい風で目を覚ました。

 疲労が結構なところまで来ていたからか、このベットの味が抜けきらない。

 目は開いておれど、まだ脳は働いていない、そんな状態が続いた。


 そして覚醒状態が近づくと、この部屋に充満した冷気を即座に感じ、身の毛をよぎらせた。

 ベットから重い体を持ち上げ、腕の肌を擦り合わせると、後ろからの風に寒気があったからか窓を閉めた。


 しばらくの間肌を擦り合わせているだけであったが、そういえばというように思い出したことがあった。


「確か……」


 そう言いつつベットから身を投じ、クローゼットへと向かった。


「……あった」


 安堵のような息を漏らし、クローゼットにかけられていたコートを身につけた。

 案外この部屋着のようなものに比べて、コートとしては普通くらいの大きさだった。

 袖はしっかりと手の甲が隠れるほどまでだがあり、膝まで届くくらいの裾で羽織るだけでも暖かい。そして胸から腰回りあたりにかけて斜めにボタンがつき、特に動きにくいということはなさそうだ。


 その新たな装備を身につけたような感覚で、どのような姿になっているのか見てみたかったがあいにくここには鏡がなかった。

 このようなモノトーンカラーというのは一般にどの人でも似合いそうな気がするが、元の自分の姿だとそのようなことにも無頓着だったため、そのような着こなしすらまともにしてこなかった。

 だからこそ、自分でもない自分にここまで惹かれてしまのだ。



 そして、クローゼットにあった手袋もつけて早朝の散歩にでも出かけよう。


 家を出て、今の場所からどこかに行っても迷いそうな感じがしたため、とりあえず村の入り口に向かった。

 そこからの方がこの村を移動しやすい。


 その移動間であっても早朝の寒さには変わりないのだが、このコートのおかげで感じ方が変わった気がする。妙に気持ち良い感覚が身体中をさまよっているようだった。


 そしてこの村の入り口というべきところに着いたわけだが、昨日には気づかなかった二つの小さな家が建っていた。

 道を挟み左右で建物が建てられていたが、ほぼ同じ形をしている。

 さすがに家を覗き込むような真似はしないが、これまでそっくりだと、誰が住んでいるのか気にならないことはないだろう。



 少しの間村の入り口付近にある石に腰掛けていたが、突然村側から見て左側の家の電気が着いたかと思うと、もう一方の家の電気も着いた。

 幾ら何でもタイミングがおかしいと思いながらも、依然とこの石に座っていることにした。


 電気がつき1分も経たずして、そこから同時と言えるほどにタイミングよく出て来た。

 その影は身に覚えに新しい、カインとキッドであった。

 よくよく考えてみれば、この村を見張る仕事をしている騎士な時点でこのようなところにいるのは当然なのだろう。


 左側から出て来たカインはボサボサの髪をよりかきむしり、あくびをするように出てきていた。

 それとは対象と言えるほどに身なりが整っているキッドも、同時に出てきている。


「あれ。ミランさんじゃないですか。お早いですね〜〜」


 先に見つけ、声をかけてきたのはカインだった。


「おはようございます」


 そしてカインに続きキッドの挨拶が飛ぶと、反射的に挨拶を交わした。


「そういえばその服……」


 椅子に座る僕を少し見たかと思うと、カインはそのように言ってきた。


「スチュワード夫婦に借りさせていただきました」


 このコートなどに関して許可をもらっているわけではないが、多分部屋にあるものの着替え類は使っていい、ということだと受け取っている。


「あぁ、あの夫婦か……」


 意味ありげな雰囲気を漂わせながら、物思いに耽る様子だ。


「あの二人、元気にやっていました?」


「えぇ、とても仲が良いように見えましたよ」


 その言葉聞くと安堵からなのか、両者ともからしばらく言葉を発せられることはなかった。




「お二人は朝からずっとここで立って見張っているんですか?」


 ただ少しの素朴な疑問ではあるが、こういう時間ではたわいもない会話が花を咲かせる。


「ははははは。そこまでじゃないですよ。必要な時だけです」


 大きな笑い声とともに、さっきまで普通の部屋着であっただろう服の状態から、いつの間にか装備を身につけていた。

 少しの間その装備を凝視しているとキッドが気を利かしてくれたのか、話しかけてくれた。


「もしかして、これ、気になりますか?」


 小刻みに顔を縦に振ってみると案外すんなりと受け入れられた。


「これは一種の魔道具なんです」


 魔道具……。

 村長の話でも出ていた、確か木に埋め込んでいるものが魔道具だった気がする。


「魔道具って、道具だけでなんらかの魔法の効力を得るみたいなもののことだったり……しますか?」


「そう言う捉え方でもいいですが、言ってしまえば道具に特定の魔力を加えて、いつでもその特定の魔法を発現させられると言う感じですかね」


 そのように魔道具についての説明をキッドがすると、話したがっているのか、カインが横割りしてきた。


「、で、その魔道具ってのがこれ」


 そうして自分の腰に紐づけた剣を突き出した。


「この剣に自分が必要な時に念じることで、こんな感じの装備の形をなすんです」


 念じると言うのは自分の意思によって、その特定の魔法が発現させられると言うことだろうか。

 なかなか面白いものかもしれない。


「魔道具を使う時って何かのペナルティってあるんですか?」


「ペナルティーも何も、俺らには魔力がないノーイーストですから。魔法といっても、このような誰かが作った魔道具に頼ることしかできないんですよ」


 ノーイーストという言葉は初めて聞くが、そう呼称される人が魔力を持たず、魔道具なしに魔法を発現させることができない人のことを言っているように読み取れた。


 なるほど、というように首を頷けていると、彼ら二人は少し行ってくるとだけ伝え、村の入り口に立ちふさがった。


 さっき言っていた、必要な時にだけきている、というのはつまり今何かがあるということだろう。

 それも魔道具によって成り立たせているのだろうか。ただ、昨日僕が来ていることに気付かなかったということは、だいたいその魔道具の起用範囲は縛られてくる。

 万が一にも何かがあると想定して、このように外に出ているのだろう。



 そして、カインとキッドは入り口に立ちふさがり、そこに立ち尽くす様子はもう慣れているような背中だった。

 すでにここから現れるであろう何かを彼らは知っているようかに思われた。



 ガサゴソと音を立て、森の方から出て来た影は、僕も知るアランであった。

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