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地味な剣聖はそれでも最強です  作者: 明石六郎
人の怒りと神の怒り
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石仏

本日は、コミカライズの最新話が更新されます。


あのキャラクターが、ついに登場します。

どうか、お楽しみください。

「奴らは必死だった。必死でこの世界にたどり着いて、必死でこの世界に安住の地を求めた。それ自体は結構だが、そこから先がお粗末極まる。今さえ頑張れば未来永劫の安寧が得られると、これが最後の戦いになると、とち狂ったことを考えていやがる」


 一万年も衰退していく世界で過ごし、減っていく同族をまとめ上げ、さらに八種神宝の使い手と戦った、己の弟分たち。

 その彼らへ、人間の天狗はとてもひどいことを言っていた。


「先人がやるべきことは、正しい努力の仕方を教えることであって、頑張らなくてもいいようにすることじゃねえ。一万年以上も生きているくせに、そんなこともわからねえとは……兄者の苦労がしのばれるぜ」


 なお、当人は大量破壊兵器である火尖鎗を、火鼠の衣とセット販売している。

 どうせ火山なんてそこいらじゅうで噴火しているんだから、気にしなくてもいいというのは、本人の貴重なご意見であった。


「俺が嫌いなのは、自給自足だ。その言葉自体はともかく、それを口にしてくる輩が嫌いだ」

「それ、スイボクさんも言ってました」

「だろうな、天狗や仙人を勘違いしている奴がよくほざく言葉だ」


 また少し話が飛んでいる。

 もちろん無駄な話ではないのだろうが、過分に愚痴が含まれていた。

 とはいえ祭我ももう子供ではないし、そもそも相談しに来た身である。

 人類の長老を相手に、話を打ち切らせるつもりはなかった。


「自分の食べる分を自分で作る、社会から切り離された生活を送る、だのほざく。要は誰の役にも立ちたくないということだろうが。そんな自分本位、自慢をするな恥ずかしい」


 一時期人類の先導者だっただけに、一応社会性というものは持っているらしい。

 だが一見正しいようで物凄く暴論なので、黙って聞くだけで、同調はしないことにした。

 

「そしてだ、そういう輩は肝心なことが分かっていない。自給自足に、説明不足があると気付きもしない。自立に必要なものが、食い物だけだと勘違いしている」


 とはいえ、彼が何を言いたいのかはわかっていた。


「自衛、ですね」

「その通り! 最強である必要はないが、縄張りを守るには最低でも相手を追い返せるほど強くなければならない。これからも継続して、いやな思いや苦しい思いをしてもらわないとな」


 嬉しそうにしている大天狗。

 さすがは生きる意志にあふれているだけに、もう頑張らなくていいと思っている相手が嫌いらしい。


「世の中の者は、慎ましく生きることが偉いのだと勘違いしている。他人から搾取せず、自分の必要なものを自分で用意することが、尊いのだとはき違えている。無欲で慎ましく生きている者へ、攻撃し略奪することを悪だとしている。呆れる話だ」


 この世界へ来た旧世界の怪物たちは、間違いなく侵略者である。

 彼らはアルカナ王国へ攻め込んだし、その後には南側諸国を占領した。

 これが侵略でなくて、なんだというのか。


 だがその子孫たちは、そんなことをしなくても済むようになる。

 各々の種族がこの星で、各々の生態に合った生活を作るのだろう。

 それは先ほど大天狗が言った様に、大規模な侵略を行うことがない、部族単位での自給自足の生活なのだろう。

 そうしているうちに、山水の下で修業した誰かが襲い掛かってきて、後悔することになるのだ。


「なぜ獣の群れがあると思う? 単に食べていくため、殺されぬためだ。群れからはぐれた鹿だか牛だかが、狼の群れに襲われた時、人はなんと思う? 厳しいかもしれないが、これも野生の掟だという。狼たちも食べていくためなので、悪くはないという。群れからはぐれたことで狙われたのだと、まるで他人事のように言う」

(よっぽどいろいろあったんだな……)

「にも関わらず、これを人間が人間にやると、邪悪だとほざきだす。慎ましく生きている弱者を狙うなど卑劣だとほざく。まるで自分たちが、野生の獣ではないかのように勘違いをしている。弱い上に群れから離れているものなど、真っ先に狙われるのが当たり前だ」


 まるで泥棒のような理屈である。

 弱い者から狙うとか、孤立している家を狙うとか、完全に犯罪者目線である。


 しかし、それは客観である。

 善悪以前に狙われる可能性があるのであれば、防衛の備えは必要だ。

 それを怠れば、狙われるのは自明の理であろう。


「慎ましく生えている木々を、家を建てるために切り倒す。慎ましく生えている草を、邪魔だからと言って引っこ抜く。慎ましく生きている虫を、汚らしいからと殺す。慎ましく生きているだけの兎を、食べるために捕らえる! ただ生きているだけがそんなに偉いのなら、ただ生きていくだけで、ただ生きているものを、どれだけ殺すのか考えてみるがいい! どれだけ人間本位、自分本位なのか分かっていない!」


 何気にこの大天狗は、旧世界では多くの種族の天狗と共同生活を行っていた者である。

 異なる天狗を兄や弟と呼び、人面樹を親父と呼ぶ。人間は数多いる知恵ある生物の一種でしかなく、けっして特別でもなんでもない。

 その視点は、スイボクや山水にもないものだった。


「慎ましく生きているのだから、他の人間に殺されるのはおかしい。そんなことを言っている輩は、死ぬまで自分が一方的に食べる立場であり続けたいと、そのための努力もせずに図々しくほざいているのだ」

(う~~ん……本当にとげがある言葉だ……)

「強ければ偉いのか、だと? 偉いに決まっている! 偉ければ何をしても許されるわけではないが、生きていくための努力をしたうえで、強くなるためさらに努力している側が偉くて当たり前だ!」

(ただ、言いたいことはわかる)


 思えば祭我の生まれた日本は、とても恵まれた国だった。

 少なくとも、食うに困るということは極めてまれで、大量に捨てられるほどに飽食の国家だった。

 しかし、だからその国の民は楽だったのかと言うと、さにあらず。


 快適な生活を謳歌するのが日本人なら、快適な生活を提供する側も日本人だった。

 一方的に快適な生活を享受するのではなく、自分も社会の一員として相応の苦労や気遣いをしなければならなかった。

 そしてその暮らしは、『ただ生きているだけでいい』という程度の精神性では、決して維持できないものだった。


 食うには困らなかったが、それはそれとして忙しかった。

 食うに困らない上で、別の忙しさに従事する。だからこそ豊かだったのだと、今だからわかるのである。


「この世界に来て土地を奪えば、『慎ましい暮らし』が子々孫々まで謳歌できるとでも思っていたんだろうが、当てが外れて俺は大喜びだ。人間の住む世界で生きるということは、人間と常に競い合うということ。一旦楽な暮らしができるようになったからと怠けだせば、たちまち絶滅するまでだ! 俺が何かするまでもないな!」


 ふと、ため息を吐いた。


「俺の弟分どもは、ずいぶんと毒されたようだ。定命でもないのに、不滅だの永遠だのを求めるとは。長いだけの人生など、そんなにいいものではないことなど、とっくに知っているだろうに」

「いやでも……やっぱり嫌だと思いますよ、そのうち絶滅って」

「なら強くなるしかない。ただ生きていくには、慎ましく生きていけるのは、常に強い者だけだ。知恵があろうがなかろうが、最も強い生き物だけが生き方を選べるのだからな」


 つまり、大天狗が何を言いたいのか。


「大天狗は、旧世界の怪物に肩入れする気はないんですね」

「そういうことだ。自分の縄張りぐらい、自分たちでなんとかさせろ」


 大天狗にとって、人類よりも弟分たちのほうが、よほど長い付き合いである。

 弟分たちにとっては最悪の相手ではあるが、嫌々でも最後には頼ってこないとも限らない。

 とっくに人類の支配権を手放した大天狗だが、長命者の中では未だに長老扱いであるし、山水やスイボク、カチョウへも顔が効く。

 そうでなくとも、今から南側諸国の追放された島へ行って、その宝貝技術によって彼らを救うこともできるだろう。不幸な人々がいるからこそ復讐心が維持できるのであって、不幸な人々が減れば長期間にわたって復讐心を維持できるものは減る筈である。


 とまあ、大天狗本人にその気があれば、何とかできそうでもある。

 そして本人にその気がないことを、長々と迂遠な遠回りをして、結論に至らしめた。


「俺ならなんとかできるが、何とかする気はさらさらない!」


 嫌われる理由がよくわかる発言だった。

 人類も旧世界の怪物も、両方を同時に救えるのに、どっちも救う気が無い。


「とまあ、長々言ったが……これも仮定であり、決定じゃない」

「じゃあ今までの話はいったい……」

「勘違いするな、このままだとこうなるっていうのは本当だ」


 どうやら話はいよいよ終わるようである。

 完全に畳みかけようとしていた。


「これは、サンスイやスイボクが死ななければって話だ」


 スイボクは強く、彼が認めた山水もまた強い。

 大天狗が作った剣は、竜をも断ち切る。

 そんな彼らを止めうる人面樹は、結局この世界へたどり着くことはなかった。


「武神奉納試合で、サンスイやスイボクを切り伏せるものが現れれば、今言った話はなかったことになるな」


 だが先ほど言ったことは、山水やスイボクにも適応される。

 この時代において並ぶ者の無い最強の男ではあっても、それに甘んじていれば殺されないとも限らない。


 慎ましく生きてさえいれば幸福であり続けられる、という夢がただの幻であるように。

 不老長寿の剣士が定命の剣士に負けるわけがない、というのも幻でしかない。


 石仏になり果てた男たちが、それを既に証明しているのだから。


「なんとも困ったことに、アイツらもそれを楽しみにしているんだろうよ」

「……すごく、楽しそうな顔してますよ」

「そんなことねえさ。ただ……長く生きている側が勝ち続けるなんて、すでにいる最強が勝ち続けるだけなんて、退屈だろ?」


 世界を変えるのは、いつでも全力で頑張っている者であってほしい。

 人類史上最強の意思を持つ男は、とても穏やかに後進の可能性が成就することを願っていた。



 祭りが近い。

 空に浮かぶ大八州は、長命者が治める理想郷ではあるが、だからこそ娯楽に飢えている。

 もちろん地上の一般市民よりははるかに娯楽を享受しているが、それは需要が多いということである。

 彼らは地上との本格的な交流に喜び、大いに騒いでいた。

 普段なら一部の剣術好きにしか意味がないような武神奉納試合も、一種の万博めいた祭りになるということで、期待に胸を膨らませていた。


「ねえおっ母、おっきい獅子がでるって本当けえ?」

「んだんだ、そうらしいべなあ」


「地上のもんは、口から火を噴くんだとよ」

「へえ、舌が焼けねえのかねえ」

「それどころか、土も吐き出すんだと」

「おいおい、口ん中が偉いことになっちまうじゃねえか」


「きいたかよ、あの光る変な術なら、蟠桃を食わねえでも傷が治るってよ」

「そりゃあすげえ、どんな天狗や仙人なんだろうなあ」


 閉鎖空間で過ごしている彼らにとって、『魔法』も『希少魔法』も、概念ごと知られていない。

 鍼灸法や気功剣、発勁のような大したことの出来ない無属性魔法。あるいは仙術や修験道のように、度を越えて努力の要求される術しか存在しないのだ。

 だからこそ、普通の魔法、普通の人間が使う強力な術に対して興味があったのである。


「下界にも、面白いものや美味しいものがたくさんあるってよ!」

「いいねえ、広い世界がうらやましいぜ」


 下の世界の住人が大八州に思いをはせるように、上の世界の住人も広い大地に夢を見ていた。

 人間とは常に、今以外の場所に夢を見るのかもしれない。


 とはいえ、やはり昂揚しているのは剣士たちである。

 スイボクの弟子山水と、フウケイの流れをくむガリュウ。

 二人の戦いがもたらした熱い風は、剣士たちをどこまでも高ぶらせていた。


「もしや、雷霆の騎士殿ですか」

「如何にも……貴方はトオン王子でしょうか」


 その興奮の中心にあるのは、ガリュウとゴクの祀られている神社だった。

 多くの宝貝が奉納されているこの神社には、多くの剣士が参拝に訪れている。

 彼らは神に至り、彼らは神に挑み、彼らは神を追いつめ、そして神に至った。

 人と神を隔てるもの、それは信仰をする側とされる側である。


「先の大戦では、アルカナ王国の為に戦っていただいたと伺っております」

「いやいや、感謝されることではない」

「いえ……この老いぼれでも、出来ることはあったはず。何もできずに、国難を寝て過ごした私からすれば、貴殿に顔を向けることもおこがましい」


 この地で、山水は武勇を示した。

 人の技を神の域に至らしめた、荒ぶる神の新しい弟子。

 スイボクの到達した境地を、仙人や剣士に知らしめていた。


「いえいえ、貴方は長く国家の武威を支えていたと聞きます。貴方の教育した騎士たちが、あの戦争でも活躍しておりました。それは決して、恥じることではありますまい」

「……この老いぼれは、生き恥を晒しております。国家の存亡をかけた大戦で寝ていた分際が、己の私怨で若さに手を伸ばしている」


 ガリュウは、それに挑んだ。

 正真正銘、完全無欠の神を相手に、互角以上の戦いを演じたのである。

 それどころか、小技や奇襲に頼らねば勝てぬほどに追いつめていた。


「……ですが、誘惑に勝てませんでした。この地で剣聖と戦い、その体を刻み、命を脅かした剣士がいた。ここで座している御仁が証明した後で、その後を追いたくなってしまいました」


 そして山水は、彼との戦いに満足した。

 ガリュウを最強の強敵と認め、彼に勝てたことで己が人生を全うしたのだと思ってしまった。


「彼は、剣聖などよりもさらに極まったフウケイというお方に、勝つことを諦めなかった。老いを言わけにして、あきらめたことを恥じるばかり。恥、恥、恥……恥ばかり、晩節を汚しております」


 だが彼は思いなおした。

 己もまた、斬り殺されねばならぬと。

 いつか現れるさらなる敵と戦い、敗れ去るまで生きねばならないと。


「……あきらめたのは、私も同じですよ」


 そして今、この時代に、『彼』を追う者がいる。


「私はスイボク殿とフウケイ殿の戦いをこの目にした。そしてサンスイ殿に伝えられた、神の技を見たのです。相手が無尽蔵であるフウケイ殿であるからこそ、スイボク殿の神髄が明らかになった。そして……諦めてしまった」


 山水の影ではなく、ガリュウの影を追う者がいる。


「サンスイ殿から剣の技を学び、それを後進に教える。それが自分の人生であると、妥協してしまった。呆れるほどの……」


 山水に従い慕うのではなく、打ち倒す。

 斬り殺すために、戦う。


「志の、低さです」


 憎悪ではなく敬意をもって、斬り殺す。


「かつての私は、神降ろしから逃げました。どれだけ言葉を尽くそうと、神降ろしに勝つことを諦めた。それが正しいこと、国家のため、王家のためなのだと言い聞かせ……いえ、自分に嘘をついたのです」


 それを夢見る、男たち。


「勝てるわけがない、負けたら恥ずかしい。皆に笑われ、向けられる敬意が失われてしまう。私は、心が負けていました」


 彼らは、特に何の意味もなく、尊敬している相手を斬り殺すのだ。


「今の私は、燃えています。ガリュウ殿を見て、わかったのです。私は、最強になりたかった。疑いの余地なく最強とされるものに挑みたかった。どれだけ醜態を晒そうとも、一人の男子としてそうするべきだった」


 それがもしかしたら世界に大きな影響を及ぼすかもしれないが、それを知っても彼らは戦うことを辞めない。


「あの戦争は、私にとって幸いでした。私の中に残っていた、王子としてやらなければならないこと、一種のしがらみも断ち切られた。あの戦争で、私と妹はマジャンの代表として戦うことができた。これでもう」


 そもそも彼らは、自分の命だって惜しんでいない。


「いつ、どう死んでも、マジャンには迷惑が掛からない」


 無様に生きるぐらいなら、潔く死ぬことさえ願っている。


「愛する女にも巡り合えた。彼女にサンスイ殿を斬り殺したい、刺し違えても殺したいと言ったら、どんな顔をしたと思います?」

「さて」

「いつもと同じ、高くすました顔で、私を笑ってくれました」


 彼らは幸福で、彼らは自由で、彼らは男子で、彼らは剣士だった。


「志が低い。サンスイを斬り殺し、スイボク様さえ斬り殺し、この星で最強の男になりなさい、と」


 彼らは、夢の世界に生きている。


「本当に、いい女です」

「お熱いことで」

「強い女性だ。おかげで、いくらでも馬鹿ができる」


 彼らは、自分の為に生きていた。


「雷霆の騎士殿、私は貴方さえ倒しましょう。そして、サンスイ殿と切り結ぶ」

「大恩ある貴方ですが、それだけは譲れない」


 自分の為に生きている同志(ともだち)がたくさんいる。

 それは間違いなく、夢の世界。


「譲れなど言っていません、奪い取り、踏み越えます」

「ええ、そうでなければなりません」


 必死で頑張るのは楽しい、全力で競い合うのは楽しい、力尽きるまで走るのは楽しい。


「戦いましょう、もっと強くなるために」



 祭りが、始まろうとしていた。

いつも拙作を楽しんでいただき、ありがとうございます。


長期にわたって連載でき、書籍化し、コミカライズまでたどり着きました。

それもこれも、すべては読者の皆様が応援してくださったからこそです。


本当に、本当にありがとうございました。


その読者の方を裏切るようで大変心苦しいのですが、本作の更新をしばらくの間停止させていただきます。

これは作者である私の力不足によるものであり、他のいかなる理由もありません。どうかお許しください。


もちろん書籍やコミカライズが停止することはありませんので、今後も応援いただきたいと思います。

また、完全に更新を停止するわけではありませんので、恥ずかしながら『完結』ではなく『連載中』のままにさせていただきます。


重ねて、どうか拙作をよろしくお願いします。


明石六郎

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― 新着の感想 ―
面白いです、身も蓋もない世相観(?)とか大胆で好みです。 良い物語をありがとうございます。
続きを読みたい…。 山水が、何千年後かに弟子を取ってendとか面白そう。
[一言] もう四年経つのか…. 続きはもうわからないのかな
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