罪悪
本日、コミカライズは休載です。
申し訳ありません。
どうすればいいのかわからなくなった時、どうすればいいのか指示できるのは優れた人間の証拠である。
悲しいことに、サンキャはこの国で一番有能な男だった。崩落寸前の城で、彼はほかの人間よりも相対的に手際よく指示を行い、一応の避難所を決めてそこへ食料や水、怪我人を集めさせていた。
サンキャが身を捨ててスイボクへ立ち向かったことを覚えている貴族たちも多く、誰もが彼を新しい皇帝であるかのように仰いでいた。
もちろん当人はそれどころではない。
あまりにも目を覆いたくなる現実に負けそうになるが、つい先日までスイボクと一緒に空で浮かんでいたことを思えば、たいしたことではない。
アレは現実が屈した瞬間だった。
確かにスイボクは自負するだけの最強さを持っていたが、それ以上に性格が無茶苦茶だった。
皇帝の地位に就いた人間は、強大な力に驕り謙虚さを忘れる。だがあの暴君たる皇帝をして、あれだけの力を手に入れたとしても軽々に使うだろうか。
もちろん威嚇には使う。自分が如何に不機嫌なのかを示さんがために、意のままに天候を操作して、慌てふためく民衆を目に満悦するだろう。
だが、意図して国家を滅亡させて見せるか、というと否である。流石に気が咎めるだろう、彼には一応損得勘定があったのだから。
「……何も持たず、何も求めず、何もかもを破壊できる、何物も及ばぬ者。それが最強なのだとしたら」
これが侵略や征服なら、まだ救いはあった。
この土地を利用しようという意思があれば、帝国は再建できる程度に収まっていただろう。
だが帝国は開拓時代以前よりも、さらに劣悪な環境になってしまった。これはもう、国土を放棄するしかない。
「それに逆らった我らは、滅ぶのが必然か」
しんみりして空を見ていると、そこには宙に浮かぶ巨大な山が。
「……」
こんなことができるのは、他にいないだろう。
「……もうだめだ」
なんか知らんが、スイボクが戻ってきた。
全員騒ぐ気力も失せて、呆然としたまま見上げる彼ら。
まあ仕方ない、彼らの心はすっかり死んでいるのだから。
もうすぐ体も死ぬんだろうと、あきらめの境地に達していた。
そうしている彼らの前に『ものすごく怒っているスイボク』が現れた。
浮遊している山が着地し、その山頂あたりから降りてきた。
どんなに空気を読めない馬鹿でもわかるほどに、怒髪天を衝く勢いで怒っていた。
彼の場合怒髪以外のものが天を衝くので、まったくもってシャレにならない。
「よう、サンキャ」
「お、お久しぶりです……」
今にも暴れだしそうな、一国だろうが十か国だろうが滅ぼしそうなほど怒っているスイボクだった。
先日皇帝に怒鳴りつけられたときも、ここまで怒ってはいなかった。
死んでいた心が恐怖で蘇ってしまう。ここまで怒っていると、この星さえ砕いてしまいそうだった。
その表情たるや、まさに荒ぶる神。前回はそんなに本気ではなかったのだと、誰もが理解してしまった。
「実はな、俺はな」
「はい」
「怒ってるんだよ」
身を震わせて、怒りをこらえていた。
どうやら彼には、暴君と違って怒るのはあんまりよくないという価値観があるらしい。
つまりあんまり怒っていなくても一国を滅ぼす男が、なんとか怒りをこらえているのだ。
「あんまり怒り過ぎて、舌が回らねえんだ」
「そうですか」
「あいつに、何があったのか説明してやれ」
お前をぶっ殺してやると言われても、腹を立てることが無かった男である。
一体どこの大馬鹿が、ここまで彼を怒らせたのだろうか。
「……サンキャ?」
「皇太子殿下……」
皇帝の甥だった男、追放された正当なる次期皇帝がそこにいた。
「一体何があったのだ、この有様は……」
自分の父を直接殺した男がそこにいるのに、下山した彼は呆然としていた。
「空から見下ろすことになったが……帝国の領土が、ことごとく、破壊されていた」
何もかもが失われた、度を超えた帝国の崩壊。
それを目の当たりにした彼は、現状の把握を求めていた。
「一体、何が……」
「承知いたしました」
なぜ怒っているのかは解らないが、説明をしろと言われればするしかない。
スイボクもそうだが、カプタインから説明を求められれば、躊躇するなどありえなかった。
彼は毒臣であり、忠臣なのであった。
「……つまり、この惨状はすべて」
「はい、スイボク殿の術によるものです」
いまだにいら立ちを隠さないスイボクを見て、カプタインは目を見開いていた。
「お前が、やったのか」
「そうだ」
どちらも、抱えきれない怒りを燃やしていた。
「何故だ!」
「聞いただろう、喧嘩を売られたからだ」
「……こ、ここまでする必要がどこにある!」
悩ましいことだった。
この国を導くべき立場のカプタインが、この国を傷つけた男へ怒りを燃やしている。
それはある意味有り難いことであり、嬉しいことだった。
だがしかし、相手はスイボクである。怒っているスイボクへ怒鳴りつけるなど、それこそこの国を更なる窮地へ落としかねない。
周囲の民衆や、カプタインの護衛達は生気を失った顔でただ待つことしかできなかった。
「なぜこの国を、悉く打ち砕いた!」
「この国の皇帝本人が、俺に喧嘩を売ったからだ!」
度を越えた強さをもつ男が、度を越えた正当性を訴えていた。
何一つ己に恥じる点はないと、復讐の妖刀を持つ男を怒鳴っていた。
「俺だってそこらのチンピラからケンカを売られたぐらいなら、ここまでやらねえよ! だがな、一国の長が俺に喧嘩を売ったなら、一国全部ぶっ潰すのが当たり前だろうが!」
「ふざけるな!」
まったくもってその通りだった。
もちろん両者の言い分が、どちらも正しかった。
心情的には、カプタインの方に傾いてしまう。
「この国の民は、皇帝とは無関係だ! つつましく暮らしていた人々が、こんな仕打ちを受けるいわれがどこにある!」
皇帝を守ろうとした兵士はまだいい。彼らは己の職務に殉じただけなのだから。
だが民衆はちがう。何も知らないまま、圧倒されて蹂躙されただけだ。あまりにも理不尽すぎる。
「弱いことが罪だとでもいうのか!」
これが天災ならば、ただ嘆くしかない。
しかしこれが人為だというのなら、それが目の前にいるのなら、もはや許せるものではない。
「知るか!」
だが相手は、許しなど最初から求めていない。
「なんで俺が、この国の連中に配慮しなくちゃいけねえんだ!」
「皇帝を直接殺せばいいだけだろう!」
「それを俺に言ってどうする! そこの連中に言え!」
そう言ってスイボクが指さしたのは、他でもないサンキャ達、帝国の生き残りだった。
「俺を殺せなんて馬鹿なことをほざく皇帝を、この国の奴らがぶっ殺すか止めるか殴るかすればよかったんだろうが! それが出来ないなんぞ、ほざかせねぇぞ!」
スイボクに脅されていたとはいえ、崩壊した城の人々が、皇帝を直接殺したのである。
スイボクがエッケザックスを手にして暴れている時点でも、それは可能だったはずだ。
「俺を殺すか皇帝を殺すか、こいつらは自分で選んだ! それだけの話だろうが!」
どちらかを殺さなければ生き残れない状況で、兵士たちも貴族たちもスイボクを殺すという判断をした。
スイボクが天地を操る段階になって、ようやく皇帝を殺そうとしたのである。ただ強大なものにつくという、単純な話だった。
「それともなにか、皇帝を一人殺したら全員が俺を恭しくあがめると思うか?! 皇帝を殺したら、皇帝を殺した罪だとかほざいて、殺そうとしてくるだけだったぞ!」
スイボクが国家を滅ぼしたのは、今回が初めてではない。
その経験の中には、度を越えて『ふざけた』ことを言った皇帝を、その場で殺したことさえあった。
その後どうなったのか。
その場ではスイボクを帰すこともあったが、皇帝を討った男を倒すことで正当な後継者としての証を立てる、という動機で軍勢が来ることもあった。
指名手配され、『何の罪もない民衆』が目の色を変えて襲い掛かってくることもあった。
もちろん最後には、皆殺しにされるのだが。
「で、どうなんだ、カプタイン! お前の国は、皇帝が殺されたらおめおめと逃がすのか!」
仮に、スイボクに挑むことよりも皇帝を殺す方を選んだ者がいたとして、それが成功したとして、彼の未来はとても暗いものになるだろう。
カプタインはそれを根拠に、スイボクが直接殺すべきだったと思っている。
しかし、スイボクが言ったことも否定できない。
仮にスイボクが、人間の範疇で皇帝を殺してそのまま去った場合、カプタインはスイボクを追っていたかもしれない。
前の皇帝を殺した男を、野放しに出来たとは言い切れない。
暴君を自らの軍勢で倒したのならともかく、別の誰かに殺されたあとで帰ってきただけなら、皇帝に就くには正当性が欠けすぎている。
「俺がおとなしく殺されていればよかったでもほざくか! 俺が強いのが悪いとでも言うか!」
そうだ、と言いたくなる。
生き残った帝国の民からすれば、スイボクが強いことは果てしなく迷惑だった。
帝国の敵が強くて、帝国の民に利することなど何一つない。
だがそれは、害悪ではあっても罪悪ではない。
「そもそも罪だの罰だの、善だの悪だの! そんなものは、事前の取り決めがあって成り立つものだ! この国の人間ではない俺に、たまたま訪れた俺に、招かれた俺に! そんなものを押し付けるな!」
これも、筋は通っている。
少なくともスイボクは、この国の民が皇帝を殺したとき、自分の勝利条件が達成されたということで矛を収めている。
そこから先、さらなる追い打ちをかけることは、彼の中でも明確に悪だった。
「多くの民を殺すことが、悪でなくて何だというのだ!」
「それはお前の理屈だ、俺の理屈ではない!」
「人間の普遍的な悪だ! 私だけのものではない!」
「俺がそう思っていない時点で、普遍的でも何でもないだろうが! そもそもお前、世界の何を知っている! 歴史の何を知っている! 普遍的な価値観を問うのなら、そのすべてを知り尽くしていなければ言えんことだ! そんなでかいことを掲げるのは、自分に自信がないからだろうが!」
何気に弁が立つスイボク。
言っていることだけはまともだった、言っていることだけは。
「必要はあったのかと聞いている! ここまで私を連れてきたように、サンキャを空に浮かせていたように、その気になれば皇帝を殺すことさえなく、この国を去れただろうが!」
カプタインの言葉も正しい。
スイボクは逃げられない状況に追いつめられたわけではない。
殺す必要性があったわけではなく、ただ殺したいから殺し、壊したいから壊したのだ。
正当防衛を語るには、スイボク自身があまりにも強すぎた。
「ぶっ殺すぞ……!」
そのスイボクにとって、その言葉こそ逆鱗だった。
「お前……ぶっ殺すぞ!」
まだ上があるのか、スイボクの怒りがさらに増していた。
故郷を壊滅させられたカプタインさえ凌ぐほどに、怒りに怒っていた。
「誰が、どこへ……!」
スイボクの手に、エッケザックスが握られた。
「何をするだと?!」
一瞬で空が暗く染まり、一瞬で暗雲に光と音を発し始めた。
大地が揺れ動き、悲鳴を上げていた。
「俺が、最強の俺が!」
スイボクの怒りが、文字通り国中に轟いた。
「なぜ、逃げる!」
夥しい雷が、とどまることなく雲を走っている。
音も光も、止まることなく脈動し続けている。
「なんで俺が逃げなきゃいけねぇんだ!」
心底から、スイボクは怒り狂っていた。
自尊心に傷がつけられたと、全身全霊、天地万物を使って表現していた。
「俺に挑んでくるものを、そのままにする?! 俺にバカなことを言ったやつを、そのままにする?!」
尊厳を傷つけられた男が、必死で殺意を押さえていた。
怒りを表現することで、行動に移すことをこらえていた。
「親を殺されたにも関わらず、戦いもせずに逃げ出した、お前なんぞと同じにするな!」
「なんだと!」
「違うのか!」
恐るべきことに、まだ口論が成立していた。
雷鳴と雷光の轟く暗雲の下で、揺れる大地に立つカプタインはまだ怒っていた。
「お前が強ければ! わざわざ国外に逃げなかっただろうが! そのまま迎え撃って、ぶっ殺していただろうが! 自分でそう言っていただろうが! お前が弱いのがいけないんだろうが!」
天地を揺るがす様を目の当たりにしているにも関わらず、その張本人とまだはりあっていた。
「私がどんな思いだったのか、お前にわかるか! どれだけ無念だったか、どれだけ情けなかったか!」
「弱いからだろうが! お前が強ければ、逃げずに済んだだろうが! 俺は強い! 俺が強い! 俺は無念などない! その場で全員ぶち殺すとも! 俺にそんな思いをしろとでも言うか!」
スイボクが怒鳴るたびに、激しい雷が周囲の木々に落ちている。
「多くの人々を犠牲にしてまで、我を通すというのか!」
だがカプタインの胆力は、尽きることが無かった。
「当たり前だ! 俺は、俺の面子のためならなんでもするとも!」
仮にも神宝の主に選ばれた男である。
その我の強さは、スイボクに勝るとも劣らなかった。
「俺が守るのはそれだけだ! 自分の弱さと不甲斐なさを棚に上げて、自分が守れなかったことを俺のせいにするな!」
「殺したのは貴様だろう!」
「その責任は俺にないと言っている!」
喧々囂々、天地鳴動。
二人の男の間に火花が散り、天と地の間に雷光が散っていた。
「お前は! 俺を敵とするのか!」
「当然!」
「いいだろう!」
よくも、ここまで話し合いで済んだものである。
よくも、ここまで手が出なかったものである。
「俺が天地を操る術を持つと知って、この国の民が皇帝を殺したと知って! それでなお挑むというのなら!」
いたるべくして、殺し合いが始まろうとしていた。
「命は要らんのだな!」
「当然だ!」
最強の神剣の主は己の最強をかけて、復讐の妖刀の主は己の復讐をかけて、殺し合いが始まろうとしていた。
「いいだろう! 全員まとめてぶっ殺してやる! 行くぞ、エッケザックス!」
『任せろ!』
「死ぬのはお前だ! 来い、ダインスレイフ!」
その時ようやく、イーゼルの民は知った。
この国を追われたカプタインが、復讐の妖刀を手にしていたと。
彼のその手に、エッケザックスよりも短い、まがまがしい雰囲気の刀が握られる。
「こいつを殺す!」
『待て、我が主よ!』
切りかかろうとするカプタイン、迎え撃とうとするスイボク。
その二人は、ダインスレイフの声によって止まっていた。
「何故止める! 私にこいつを見逃せというのか!」
無二の腹心と思っていたダインスレイフが、正当なる復讐を止めている。
それによってカプタインは、困惑し激怒し、ダインスレイフへ叫んでいた。
それはスイボクへ切りかかることを止めるということであり、スイボクに挑んでいない状態ということだった。
戦っていない相手を斬ることは、スイボクにとって逃走に匹敵する恥だった。尋常ではない怒りの表情で大上段にエッケザックスを掲げたまま、なんとか踏みとどまっている。
『待て、よく考えろ!』
「何をだ! まさかコイツが正しいとでもいうのか!」
『そういう問題ではない!』
「ではどういう問題だ!」
『この国を滅ぼすつもりか! わずかに残った民を巻き込んで、何もかもを失うつもりか!』
カプタインは我を忘れ国を忘れていた。
国や民を思うあまり、国や民を忘れていた。
「この男が強いから、最強の剣の主だから、復讐するなと言っているのか、復讐の妖刀であるお前が!」
『そうだ!』
「復讐の妖刀が、復讐を否定するのか! この国の民の無念は、一体どうなるというのだ!」
『お前が勝手にそう思っているだけだ! お前以外の誰が、復讐を望んでいるというのだ!』
「理不尽に屈しろと! 最強無敵だから何もするなと! 怒ることさえ許さないというのか!」
ダインスレイフの説得に対して、カプタインは反応をしていた。
聞く耳もたんと攻撃をするのではなく、ダインスレイフを説き伏せようとしていた。
『ダインスレイフ! 貴様、主の行動に異を唱えるのか! それでも道具か!』
『黙っていろエッケザックス! 我はただ、主の幸福だけを望んでいる!』
スイボクもエッケザックスも、カプタインさえも。三人はダインスレイフを苛立たしく思っていた。
もうこうなっては、殺しあうしかないというのに。
しかしこの場に居合わせた多くの面々は違う、この国の民たちは違う。
神の宝を持つ者同士の戦いを、戦いにもならない災害を、なんとか止めてほしいと思っていた。
『我が主よ! お前は言ったはずだ、叔父を討つのは私情だけではないと! 父を殺された復讐心だけで殺すわけではないと! 臣民を苦しめる暴君を討つのだと、そういったはずだ!』
「その国民を、この男は無為に殺した! 国土を破壊した! それを前に、お前を引っ込めろというのか!」
『残った者と心中をするつもりか! お前は死んだ者のために、生きている者全員を殺すつもりか!』
皮肉にも、この国を救おうとしているのは、復讐の妖刀であるダインスレイフだけだった。
『お前がやるべきことは、復讐の妖刀を振り回すことではない! 生き残った民に今後を示すことのはずだ!』
「……この、この邪悪を! 殺すな、許せというのか……!」
『許さなくていい! 順序を考えろ! まず生きてこそだ! お前がではない!』
怒るなとは言っていない。
彼の復讐心を否定しているのではなく、復讐心を押さえこめと言っている。
「ダインスレイフ……!」
『お前は私情で国を滅ぼす気か!』
私情ではない、断じて違う。
そう思おうとして、彼は周囲を見る。
そこにいるのは、同じ顔をした民や護衛だった。
間違っても復讐を遂げてほしい、という怒りの顔ではない。
頼むから何もしないでくれ、という哀願の顔だった。
『……お前は強いし正しい。だが、それは今、求められていないのだ』
目を閉じて、力を失い、膝から崩れるカプタイン。
それを見て、スイボクは……。
「……そうか」
やはり寂しそうに、雲を散らしながらエッケザックスを納めていた。
同じように怒っていたはずの相手が、自分のことを置き去りにしてしまったようで……。
独りぼっちなど慣れているはずなのに、それを悲しく思っていた。
「ふん」
すねたように顔をそらす。
最強ゆえの孤独か、何もかもを壊せるが故の矜持か。
人間の意志を持った災害は、すべてを治めようとしていた。
「あ」
治めようとして、少しびっくりした顔をした。
「……カプタイン・イーゼルとか言ったな」
「な、なんだ?」
少し前は聞きたかった言葉を、最悪の状況で聞くことになった。
「すまん、俺が悪かった」
地震は続いていて、やや収まりつつあった。
しかしそれでも、地震を操れるはずのスイボクは罪悪感を感じていた。
「天地を操る術を、失敗してしまった」
謝っても許されないことはある。
誰もがそう思うのだった。
「その証として、後で社を建てよう。本当に悪いことをした……」
謝罪を形に残しても、許されないことはある。
誰もがそう思うのだった。
「このあたり、もう駄目だ」
思うだけでは、どうにもならないのだった。




