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地味な剣聖はそれでも最強です  作者: 明石六郎
新世界への変化
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逆襲

 他でもないスイボクこそが、世界で最強の男にして『裏ボス』にして『最強の技を授けてくれるキャラ』に他ならない。

 そのスイボクの、さらに先達こそがカチョウとセル。この二人もやはり特異特別奇異奇怪の体現者である。


 カチョウは空に浮かぶ島々の長であり、そこに暮らす人々の実質的な指導者である。

 その輸送力や機動力は、ノアに劣る程度でしかない。


 また、セルは『ラスボス前の店』の如く、購入できる武器の中では最高の装備がそろっている店の主と言えるだろう。

 たいていの道具は既に作っているし、新しく作ることも容易だった。


 もちろん、既にアルカナがそろえていた八種神宝が一番インチキなのだが、それを抜きにすれば人類の最高峰と言っていいだろう。

 それだけのものが、アルカナに集結し尽力していた。


 正直、もうちょっと早く来てくれて、テンペラの里のように力を貸してくれていればと思わないでもない。

 しかしそれは主権や尊厳として問題があるので、誰もが口にせずにいた。



 オセオの方は、ほぼ問題なく過ごすことができていた。

 虎の威を借る狐ではないが、竜と言うこの世界でも最強の生物種(最強の個体とは言っていない)の力を借りることができる国である。

 その竜も、全面的に力を貸してくれたオセオをわざわざ邪険に扱う理由がない。

 この関係がどれだけ長く続くかはわからないが、とりあえず平穏だった。


 ほかの旧世界の怪物たちだが、彼らはあてがわれた、奪い取った領地の中で新しく生活を営み始めている。

 確かに彼らは相当な数がいた上に、その生活習慣上広大な土地を必要としていたが、流石にこの星のすべてを覆いつくすほどでもない。

 アルカナ王国周辺の『世界の半分』を手に入れたことで、彼らはひとまず奪う必要がなくなっていた。


 もちろん、場合によってはその周辺へ略奪しに行くこともあるだろうし、あるいは旧世界の怪物同士でぶつかり合う可能性もある。

 だが、それでも中長期的には安定していくだろう。その土壌は手に入れていた。


 かつてレッサードラゴンは、人間を食べるのかと聞かれた時にこう答えた。

 よほど飢えていれば、共食いの手前で実行する可能性があると。

 そう、結局はそういうことである。

 狭い空間に押し込められて、互いに嫌なところを見せあうから衝突するのであって、広い空間でのびのびと生活していれば問題はない。

 仮に飢えて誰かから奪わねばならないとなっても、態々仲間から奪う必要はないのだ。

 選択肢が多いのなら、あえて面倒な選択をする必要はないのである。



 こうして、両国は共存共栄を果たしていた。

 他の周辺諸国を犠牲にして、互いの武力を抑止力として、平和な新世界を築いたのである。


 もちろん、割を食ったのは周辺諸国である。

 アルカナ王国周辺(がわ)の国は多くの貢物をアルカナへ献上しなければならなくなった。

 今のアルカナには、侵略して統治する余裕など一切ないが、貢物を受け取るだけなら十分に可能である。


 アルカナ側はまだましで、オセオ側の大国、中堅国は根こそぎ滅ぼされていた。

 当たり前だが、相応の人間が旧世界の怪物と入れ替わる形で家や土地を失った。

 そして、難民となってアルカナ側へ逃げていく。


 オセオとさほど規模の変わらない小さな国々は貢物を送ることで見逃されていたが、そんな国に難民を受け入れる余裕があるわけもない。

 そもそも入国さえ許さず、国境には兵士が並んで拒絶の構えを見せていた。

 悪いことに、オセオもそれなりには『属国』に優しく、そうした難民を追い返すために竜が派遣されることもしばしばだった。


 そうなれば、それこそ文化圏を超えて遠い地へ逃れるしかない。

 もともと端の方に位置していた国々ならば、ある程度それも可能だった。

 しかし最悪なのは、本当にオセオへ近い地域、アルカナにも遠い地域だった。


 なにせまずオセオの勢力圏から脱出しなければならない。

 それまでの道中、大量の難民が飲まず食わずに近い旅路を歩くのだ。

 しかも、常に旧世界の怪物におびえながら。


 比較的早い段階で逃走を開始した国家、国民はまだましだった。

 なにせ一応でもなんでも、食料や路銀をもって移動することができたのだから。

 それができなかった国の民たちは、それこそ互いこそが敵だった。文字通り、共食い同然の略奪である。

 争ったもの同士が弱いものを分かち合うことで争いを止めたように、弱い者たちは自分たちが勝てる相手から奪うことで命を繋ぐのだ。


 そして、なんとも最悪なことに。

 別に、逃げ延びた先が新天地であるわけもない。

 たとえ半分に減ろうが十分の一に減ろうが、それでも難民の人数は膨大である。

 その彼らを受け入れるだけの広い土地、食料資源のある土地などどこにもなかった。


 そう、他でもないアルカナ王国やドミノ帝国(・・)でさえも。



「お久しぶりですな、陛下」


 ウインク王国国王、キラー・ウインク。

 アルカナ王国の国境にたどり着いた彼は、国民の受け入れと祖国奪還のために助力を願っていた。

 しかしそんな彼を、アルカナ王国は長い間待たせていた。

 ありていに言えば、無視していた。


 キラー・ウインクのことを本物ではないと疑っていたわけではなく、単純に優先順位が大幅に低かっただけだ。

 なにせ元々小国であるし、要求が難民の受け入れと戦争の要請である。

 断ることが決まり切っているのに、わざわざ急いで都合をつけることもない。


「インチ将軍……」

「今は、臨時外交官であります」

「臨時、か?」

「ええ、何分交渉事が増えておりますので」


 待たされたキラー国王を迎えたのは、ウインク王国を脱出したインチ元将軍だった。

 ただそれだけで、アルカナ王国がキラーやウインク王国の面々をどう扱うのかがわかってしまう。


「時世の読めない国、というのは哀れなものですな、陛下」

「……」

「滅びてしまったウインク王国も、貢物さえ惜しまねば存続できたものを……本当に、残念に思っています」


 インチの残念だ、という言葉に偽りはない。

 仮にも自分の故郷であり、長年奉公した国家である。滅びて気分がいい、ということはない。

 だが残念に思っているだけである。仕方がないと思っているし、手を差し伸べる気にはなれない。


「まだ、滅びてなどいない。国土は存在しているし、国民も生き残っている……まだ、まだ滅びていない!」

「ええ、もうじき滅びますな。返す返すも残念です」


 国家を形成するのは、その国家の中で生きる人々の帰属意識と言っていい。

 自分たちは国民である、という共通認識がなければ、国家足りえない。

 その理屈で言えば、ウインク王国はまだ滅びていなかった。

 彼らに何人かと聞けば、ウインク王国人だ、と答えるからである。

 彼らは先祖から受け継いだ、しかし奪われた土地へ帰りたいと願っているだろう。


 まあ、もう帰れないわけであるが。


「それで、陛下。なんの御用で?」

「既に書面で嘆願したが……我が臣民の受け入れと、国土奪還の助力を願いたい」

「ほう、そうでしたか」

「竜だ、竜さえ倒せば、あとはどうとでもなる! そして、既に生き残っている竜は一頭だけだ!」


 神ではないキラー国王は、世界のすべてを熟知しているわけではない。

 しかし少なくとも、他の避難民たちも、竜が複数いるところを見たことがない。

 もちろんアルカナ王国を襲撃したときと違って、撃墜される恐れがないのだから単独で行動しているだけ、とも考えられる。


 しかし、竜が一頭しかいない、というのは何とも『都合がいい』。

 そうであってほしい、それ以外は絶望的だ。

 だからこそ、誰もがその可能性を疑わなかった。


「アルカナ王国なら、可能なはずだ!」

「ええ、可能ですな」

「八種神宝を持つ者として、義務があるはずだ!」


 インチ将軍は、失笑を漏らした。

 八種神宝の製造者を実際に目にした彼からすれば、キラー国王の大義名分は笑うしかない。

 もちろん、性の悪い笑みだ。

 武骨な老練の将軍らしからぬ、厭味ったらしい笑みだった。


「失礼……では、アルカナ王国国王からの返答を」

「……」

「どちらも、断ると」

「なぜだ!」


 先制攻撃を許して、五百頭を相手にして、それでも殲滅した。

 そんなアルカナが、一頭の竜を相手にしり込みする意味が分からない。


「アルカナには、恨みがあるはずだ! オセオへの、竜への!」

「ええ、その通りですな」

「であれば! すぐにでも報復をするはずだ!」

「ええ、その可能性もありました」

「では、なぜ我らの嘆願を聞かないのだ!」


 戦えば勝てる、それは確実だ。


「勝っていいことがあるのですかな?」


 強いとは、選べるということである。

 仮に戦えば勝てるとしても、戦って勝つほかに選択肢がないのだとしたら、それは強いとは言えまい。


「アルカナ王国にとって、自国の存続よりも優先されることがあるとでも?」


 強者は弱者を守ることも、従えることも、食べることも、無視することもできる。

 それを選ぶ権利は、常に強者にだけある。


「今現在、アルカナは竜との戦いで負った傷を癒しているところです。王家の切り札であるウキョウ様曰く、オセオを滅ぼすのなら滅ぼす体制が整ってから、だそうで」


 強者と言えども傷を負う。

 傷を負って尚再起を計りのんびりと待てるのは、傷を負って尚強者だからこそ。


「アルカナとオセオは、再び衝突する日が来るのかもしれません。ですが……それは今ではないですなあ」

「では、せめて! 国民の受け入れだけでも!」

「それもお断りします。国王陛下(・・・・)からそう命じられておりますので」

「なぜだ!」

「他国の人間を入れると、厄介ですからなあ」


 アルカナ王国もオセオも、兵法三十六計など知る由もない。

 しかしそれでも、双方の対立を煽る危険分子の存在は察していた。

 だからこそ、その前にオセオは侵略を開始したのだが。


「陛下、現在我が国は、ある程度であれば入国を許可しております。具体的には、事前に亡命してきていた貴人の、その領民たちですな」


 大量生産型の輸送船が活躍し、略奪され滅ぼされた農村などに住むことが許されている。

 とはいえ、お世辞にもいい暮らしと言うわけではないのだが。


「程度にもよりますが、一定期間労役を課され、さらにそれを終えた後も小作農扱いですな。まあ、元々そんな暮らしをしていた者たちも多いので、そこまで不満はないようです」

「捨てろというのか、国民としての誇りを!」

「いえいえ、そんなことは。まあ確かに、移民として移り住んだもの達には、アルカナへの忠誠を誓わせていますが」

「それが、ウインクの民としての誇りを捨てることと、どう違う!」

「受け入れるつもりがないのですから、捨てさせるも何もないでしょう」


 まず前提として、大量の難民を受け入れることはできない。

 次いで、一部であれば労働力として許容できるが、しかしアルカナ王国の国民として生きてもらわねばならない。


 祖国の奪還がどうたらとか、そんな叶わぬ夢はあきらめてもらわねばならないのだ。

 はっきり言って、アルカナにとっては迷惑な話である。


「何か条件を出して、それに従わねば受け入れないとか、そういう話ではないのですよ。最初から申し上げているように、受け入れるつもりも戦争を仕掛けるつもりもないのです」


 人はなぜ力を求めるのか。

 人はなぜ弱さを嫌い、強さを好むのか。


 はっきり言えば、そもそも人だけがそういう生物なわけではない。

 ほぼすべての動物は、強さを求め続けている。


 弱さとは死と限りなく近づくことであり、強さとはそれから遠ざかることができることだ。

 弱いとは、この上なくみじめなものだ。


「貴様あ! 恩義あるウインクを見捨て、己だけ助かる気か!」

「そうです」


 国王に衝動が走る。

 こちらを小ばかにしている老人を、ぶんなぐって痛い目に合わせたいという衝動が駆け巡る。

 その一方で、そんなことをすれば国民がどうなるのかわかってしまう。

 それよりも何よりも……そもそもこの老人は、老いてなお武人だということ。

 仮に殴り掛かれば、逆に痛めつけられるのだ。


「陛下は何か勘違いをしておいでのようだ……国を捨てるとは、本来そういうことです。どこかの国へ移り住み、その国で暮らすということは、その国家へ忠義を尽くし、前の国と敵対することさえ厭わないということ」

「ウインクを……本当に捨てたのか」

「引き留めなかったのは陛下では? 自分の判断を絶対視し、それに沿わない人間を追いやる……それもまた国王の器量ではありますが、追いやられた側がどう動くか考えなかったので?」


 国王は、自分の膝を強くたたいていた。

 先日まで、小さいながらも一国一城の主だった自分が、先日まで部下だった男に冷たくあしらわれている。

 そして実際のところ、これは力関係の縮図である。

 アルカナ王国は、ウインクを始めとして『竜に滅ぼされた国』を救わなくても全く問題がないのだ。


 ウインクへ助力したとしても見返りはない。あえて『ウインク人』としての誇りを持つ危険分子を取り込むことはない。

 ウインクを冷遇し迎え入れなくても損はない。アルカナへ入れなければ、それだけでウインクは亡ぶのだから。


「この恨み……忘れると思うな」

「ほう」

「いつか必ず、ウインクの尊厳を失わなかったものが、オセオもアルカナも滅ぼすであろう!」

「それは、こちらも同じですよ……陛下。オセオもアルカナも、それを避けるために絶滅戦争に一線を引いたのです」


 さも自分たちが被害者のように語っている。

 実際、被害者であって可哀そうな相手なのかもしれない。

 しかし、それだけだ。哀れまれることはあっても、手を差し伸べられることはない。

 弱者とは、そういうものだ。


「……貴方は、おおかた本に書いてある兵法を試したかったのでしょう」


 最後に、軍務の師として、インチ元将軍はかつての主へ残酷な言葉を送った。


「それなりには正しいですよ、あれらはね。少なくとも、強い相手とも士気さえ高ければ勝てるとか、そんなバカなことは書いていない」

「……」

「ですがね、貴方はそもそもを忘れている。アレを書いた人間を、かつてのウインクがどう扱ったのか?」

「それは……」


 本に書いていることを真に受けて、それだけを元にそれだけを信じて、国家の命運を弄ぶなど許されがたい大罪である。

 そんな風に、誰もが『主人公』の思うがままに動くのは、それこそ机上の空論でしかない。


「ちょっとした工夫、卑劣な作戦。そんなもので強弱の優劣がひっくり返るのは、貴方の物語(あたま)の中だけですよ。大局的な勝利は、常に強者の掌中にある」

「ふざけるな!」


 キラーの叫びは、彼の精神的な余裕のなさを現わしていた。

 実際のところ、もう彼もウインクも終わりである。

 自分のことをウインク人だと思っている人間は、どう長く見積もっても百年以内に消えてなくなる。

 ウインクの難民に、もはや他の国へ逃げる気力も体力も食料もない。

 数人は生き残れるかもしれないが、それは決して救いではない。


「では、なぜオセオにはあれだけの力が集まった?! アルカナは元々強かったのだ、だがオセオは我が国と大差がないのだぞ?! どうしてあそこまでアルカナを追い込める?! 『都合のいいこと』が起きたからに決まっているだろうが!」


 馬鹿な王子のせいで、八種神宝をすべて保有する国と『戦争』状態になり、滅亡寸前まで追い込まれた。

 かと思えば、旧世界から怪物がやってきて、全面的に協力関係となり……。

 まあ、都合がいいと言えば都合がいい。

 その繁栄が、失ったものと釣り合うのかはわからないが。


「アルカナとてアルカナだ! なぜアルカナにこれだけの力が集う! 神の宝に神の戦士! 奴らはそれらを飼い慣らし、竜さえ駆逐するほどの戦力を得た! もはや世界はアルカナとオセオのものだ! なぜだ、神がアルカナを祝福しているというのか!?」


 少なからず、本音だった。

 いや、これこそが本音だった。


「なぜ、奴らにだけ『都合がいい』ことばかり起きる!」


 なぜ自分には都合がいいことが起きない。

 なぜ、自分たちは普通に滅亡し、普通に破滅を迎える。


 世界が丸ごと滅びたわけではなく、神の戦士が地に倒れてしまったわけでもない。

 普通の戦争の様に、双方が手打ちにしておしまいだ。

 なぜ、こんなにも都合が悪いことが起きる。


「なぜ私には、都合のいいことが起きない!!」


 その悲鳴を聞いて、インチ将軍はため息をついた。

 愛想が尽きた相手ではあったが、ここまで自己中心的な男だとは思っていなかった。


「小さいながらも一国の王族に生まれ、骨肉の争いを経ることなく王位に収まり、国民から認められ忠臣も多かった。そんな『都合のいい』人生を歩んでいた男が、何をとちくるったことをほざく」


 上には上がいる。

 何もかもが都合よくすすむ立場の人間など、この世には存在しない。

 それは強者であることとは無関係なことだ。


「己の不遇を嘆く権利など、お前にはない。そういうことは、甘えることなく人事を尽くした人間だけが言えることだ。お前は人生の中で、全力であらがったことが一度でもあるというのか」


 もっといい生まれがよかった。

 もっと大きい国の王族に生まれたかった。

 都合のいいことばかり起きる立場になりたかった。

 呆れるほどの、無思慮、あさましさである。


「あらがって何になる! 耐え忍んで何になる! 何にもならないだろう!」

「……そんなことを考えている人間が王だったのだ、滅びるのも当然だな」

「弱者に生まれついた人間は、一生そのままでいろというのか! 夢を描くなというのか!」

「……小僧が」


 情けなくなる。

 仮にも忠義を捧げた相手、曲がりなりにも指導をした相手。

 その相手が、いかに窮地とはいえ見苦しいにもほどがある。


「では、お前はなにを得た」

「……だから、それは!」

「夢を見て、全てを失った。国家の全てを道連れにしてな」

「オセオの様に、ここから何かが……!」

「ではさっさと出ていけ。他人の力や神の祝福だけを祈りながら、老いて朽ちて死んでいけ」


 弱いのは仕方がない。

 強くないのは仕方がない。

 小さい国なのも仕方がない。

 大きい国ではないのも仕方がない。

 誰も、生まれだけは変えられない。


 だが、だとしても。

 生まれさえよければ、それでいいというのは間違っている。


「そもそも、旧ドミノ帝国がどんな末路を辿ったのか、知った上での発言なのか?」

「……!」

「アルカナ王国が、四大貴族が、王家が、切り札たちを掌中に収めたことは偶然だろう。だが、その彼らに命を捨てさせるほどの信頼を築いたのは、間違いなくアルカナ王国の人間だ。お前にはできなかったことだ」


 冷え切った目で、老雄は愚か者に告げた。


「耐えて忍んであらがって、何が得られるのかだったな?」


 それは、きっとつらい人生だ。

 面白いことなどほとんどなく、ただしんどいだけだ。

 だが、それでも


「耐えるのも忍ぶのもあらがうことも、平伏しこびへつらうこともできないのなら、死ぬだけだ」


 生きているだけで、救いはあるのだ。

二足犬


文字通り、二足歩行できる犬。

狼と呼ばれる方が好きだが、人間は犬と呼んでいる。

他の種族には犬と狼に呼び方の差が無いので、逆に犬呼ばわりが嫌い。


二足猫と同じような体格をしているが、生活習慣はかなり違う。

猫の方は家族単位だが、犬の方は複数の家族で共同体を形成し、旅をしながら狩りをしている。

そのため広大な土地を必要としており、他の群れを衝突することもしばしばである。


実は犀も牛もイノシシも、滅亡寸前に追い込まれるまでは捕食の対象だった。

それは猫の方も同じである。

体格こそその三種に劣るが、戦えば高確率で勝利していた。

もちろん犬や猫が殺されることもしばしばであった。

昔の話である。


最近はむしろその三種族と仲良くしたいと思っているが、相手は結構嫌がっている。


当たり前だが、人間も捕食の対象だった。

一万年前の話なので、長命者ぐらいしか覚えていない。



狂精

人間は悪血と呼ぶ。


猛精や覇精と並んで、身体能力を強化することができる気血。

祝精と並んで傷を治せる力でもあるが、自分にしか作用しない。その分、欠損さえ復元できる。


身体能力の向上もさることながら、精神的な高揚、あるいは集中力の向上もすさまじい。

はっきり言えば、狂精を発動させている時は『体の動かし方の天才』になることができる。

一度見た動きを模倣し、それを自分の体に合うように調整できるのだ。

ただし、狂暴化もしているので判断力を失ってもいる。


ある意味当たり前だが、二足犬は狂暴化しても『同種』だけは見失わない。

群れで狩りをするのに、全員が狂暴化して仲間と見分けがつかなくなるのは本末転倒だからだ。

加えて、覇精ほどではないが肉体が大きくなる。戦闘能力の向上は著しい。

ただし、他の種族を味方と思うのは難しい。混成軍では使いにくいと言っていいだろう。


反面、二足狼の場合気血の量はそこまで多くない。

二足狼、という種族そのものが平均して、人間に気血の量が劣るのだ。

よって、ランの様に戦闘中にケガが治ったりすることはほとんどない。

やろうと思えばできなくもないが、やったばあいすぐに気血を消費しつくしてしまうからだ。


よって、『二足狼は怪我をしてもすぐ治るなあ』と思われる程度に収まっている。

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