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地味な剣聖はそれでも最強です  作者: 明石六郎
新世界への変化
363/497

包装

本日、コミカライズ最新話が更新されます。

どうか、よろしくお願いします。

 大八州と秘境セル。

 二大仙郷ともいうべき長命者の寄り合いが、二つそろってアルカナへ訪れていた。

 理由こそ違えども、アルカナへの助力である。

 テンペラの里がそうであるように対等に限りなく近い同盟相手として、快くアルカナ首脳陣は迎え入れていた。

 こちらへ負い目を感じている仙人ほどありがたいものはない、山水が持ち帰った人脈はこの国へ確実に利益をもたらしていた。


「大八州の長老、カチョウである……スイボクとフウケイの師であり、ここにおるゼンの師でもある」

「どうも、ゼンと申します。カチョウとスイボクとサンスイの弟子です……」


 山水の祖父師に当たるカチョウは、アルカナ王国の首脳陣を相手に謝罪していた。

 よく考えなくても謝ることは結構多いので、謝ることに違和感を感じることはなかった。

 ただ、ゼンの説明に対してやや首をひねってもいた。ありていに言って、意味が分からない。


「ジエズと申します。サンスイ殿の体を石に変えた宝貝の製作者は私の弟子でして……」


 謝っている大八州の仙人たち。

 その彼らは、やはり全員がとても若いか幼く見える。


 そして、それら以上に目を引くのが、床へ転がされている大天狗とスイボクだろう。結構辛そうにしているのに、誰も二人を助けようとしていない。


「フウケイがアルカナ王国やドミノ共和国へ迷惑をかけたこともそうであるが、スイボクが竜に襲われていたこの国へ何もしなかったこと。何よりも、大八州へ訪れたサンスイを石にして帰したこと……申し訳ない」


 ひときわ幼く見えるカチョウの謝罪。

 それを聞いている一同は、しかしスイボクとセルに目が向いてしまう。


「片腕をそのままにしておいたことも含めて、謝らせていただく……スイボク、大天狗。そちらも謝りなされ」

「……大変申し訳ございませんでした」

「お許しください……」


 這いつくばっている二人の背には、子供が手に隠せる程度の小石が乗っている。

 それが二人の背骨へ過大な負担をかけていることが、なんとなくわかってしまう。

 地動法、五行石。

 巨大な山ほどもある重量が、小石に押し付けられていた。

 スイボクの場合は逃れようと思えば逃れられるが、セルの方はそうもいかなかった。


「か、カチョウ……」

「なんですかな、大天狗」

「もういいだろ、この術を解け」

「……儂にひとことあるのではありませんかな?」

「な、なんのことだ?」

「ほう、お忘れになったので?」

「んぎゃああああああ!」


 大天狗の悲鳴が、謁見の間に響いた。

 この世の長命者、その頂点に立つであろう世界最高の宝貝職人が、悲鳴を上げている。


「儂の愛弟子、フウケイとスイボクの骨を、勝手に禁式宝貝にしたこと。このカチョウ、許しておりませんぞ」

「す、すまん……だが! だが! ちゃんと最高の一品に仕上げたんだ! 俺の最高傑作だ!」

「フウケイとスイボクの鍛錬を横取りしておいて、なんたる言い草……! 恥を知りなされ!」


 何一つ謝罪になっていないことを主張しているセルに対して、カチョウはさらに怒っていた。

 確かに双右腕は最高傑作なのだろうが、禁式宝貝であることに変わりはない。

 人骨を武器にするということもさることながら、長い鍛錬の果てに得た力を拝借している、ということにも憤慨しているのだろう。


「あがああああ!」

「フウケイがあれだけの境地へ達するのに、どれだけ鍛錬を重ねたことか……それを思えば、この小石の重さでも足りぬところである」


 と、他人の家へ上がりこんでおいて、身内をせっかんしていたカチョウ。

 流石に長引いては失礼と思ったのか、二人への術を解除していた。


「ほかの仙人や天狗の名誉のためにも、大天狗には己を顧みていただきたい」

「へいへい……っと」


 起き上がった大天狗とスイボクは、居住まいをただした。

 そのうえで、改めてアルカナ王国の首脳陣へ話をすることになる。


「カチョウ師匠、大天狗を侮ってはいけません。先ほどちらりと聞いたのですが、なんでも我が弟子であるサンスイの石化を治すすべを見つけているとか」

「ほほう、母なる世界の知己、ということですかな?」

「知己というか、同門だな。同じ『親父』の下で学んだ仲だ」


 なんだかんだ言って、嫌われているとしても友好関係が存在するというのは大きい。

 一万年前から生きているセル、その同門がいまだに指導者の立場にいるのなら、旧世界の怪物たち相手にも交渉はしやすい。


 山水の石化を解除できるのは、人間には不可能である。当然、仙人にも不可能だ。

 仮に山水の石化部分をえぐり人参果で復活させようとしたとしても、呪術の石化された部位はどうにもならない。

 復元せずに、えぐれたままになってしまう。


 山水の石化を治せるのは、呪力を宿しやすい種族の力だけだろう。

 というか、それさえ定かではない。可能性の話であって、確定情報ではないのだから。


「ギセイ、という力を宿す種族がいる。そいつらなら、他人が石化させた部位でも復元できる。流石に、全身を石化されて数日経過した場合は、石化が解けても死んだままだがな」


 しかし、それも今確定情報に変わった。

 ソペードの当主は、一安心である。


「その種族は、万年亀や世界樹……いや、人面樹と違って滅びていねえ。戦う力こそほとんどないが、一応この世界に逃れてきている。俺のところへついこの間、顔を見せに来た」


 祭我や廟舞と違って、ほぼすべての生物は一つしか気血を宿していない。

 つまり、セルと同門だという長命者は、ギセイは宿していないのだろう。

 その当人ではなく、その親族へ頼むことになるはずだ。

 とはいえ、そう簡単でもなさそうである。


「フィルムっていう、俺の兄弟子だ。親父をはじめとする先生方が船になっちまった今となっちゃあ、一番の大年寄りだろう」

「……何か、条件を出されたのですかな?」

「ああ、祭を催してほしいらしい」


 奇異な注文だった。

 何かをよこせとかではなく、祭を催せとはこれ如何に。

 国王の質問に対してセルは端的に答えたが、それは場を静かに混乱させていた。


「元々、フィルム兄者の一族は調停役を気取ってた。世界樹の先生方や万年亀の爺様方は腰が重いからなあ……兄者たちは身軽に道化役を振舞ってた」


 それでも、一万年前に決定的なことが起きた。

 それを、セルは言外ににおわせていた。


「まあ、頭がよくても万事うまく回せるってわけじゃねえって話だ。ただ、この世界でも『できるだけ長く』平和を維持したいらしい」

「……緊張をほぐしたい、と言うことですかな?」

「その通りだ。このアルカナでもそうだが、母なる世界から来たばっかの連中も、派手な戦争の後で気が立ってる。今は他に殴れる奴がいるし、他にやることも多い。流石に即座に戦争とはいかねえだろう」


 アルカナもオセオも、命が多く失われた。

 それによって多くの利益を得たとしても、これ以上戦うことが無益だとしても、怨恨によって戦争が再発しないとも限らない。


「もちろん、小さな小競り合いぐらいはなんてことねえ。戦争が起きるとしても、早めに終わるなら気にならない。だが、長期的な戦争や絶滅戦争になるのはよくない。そうだろう?」


 戦争を根絶したいわけでも、憎しみをなくしたいわけでもない。

 できるだけ、平和な時間を維持したい。それがどれだけの犠牲や欺瞞の上に成り立つとしても。

 悲観的だが、それなりに現実的な発想だった。


「そうだな……絶滅戦争など、ろくなものではない」


 それに国王も賛同する。

 自分が生きているうちに大きな戦争が再発するとは思えないが、できれば孫の世代まで平和を維持したい。

 永遠の平和など虚構の領域だろうが、百年の平和ぐらいは夢見ていいはずだ。


「しかし、それと祭に何の関係が?」

「別に今すぐじゃなくていいから、人間以外の連中が真似したくなるような文化を見せてほしいそうだ。もちろん強制的なもんじゃなく、相手が自主的に真似したくなるような奴だ」


 その言葉を聞いて、アルカナの首脳陣はディスイヤの老体を見た。

 その手の娯楽、演出はディスイヤのお家芸である。


「なるほどのう……では確かに、大きな祭が最適であろうな。しかし……祭を催すとしても、まさかオセオ側で催すと? アルカナへ怪物を招待するなど論外であろうが……」

「ちょうどドデカい舞台があるだろ。アルカナではなく長命種が支配する大八州で開催するなら、連中も軽いノリで来れるだろう。騒ぐ奴はスイボクにぶちのめさせればいいしな」

「……面白い祭になりそうじゃのう。とはいえ、やはりすぐにやるのは無理じゃな。反発が大きすぎるし、そもそも余裕がない」

「それは俺も兄者も分かってるさ。だが、あくまでもそれと引き換えだ。サンスイの石化を治してほしかったら、うっぷんを晴らすような祭を成功させてほしい。それが兄者の出した条件だ」


 数年以内、ということだろう。

 それなら人間の主観から言ってもそこまで遠くではない。


「我が剣士のために交渉していただき、感謝する。大天狗よ」

「そういうな、年寄りの悪だくみにとって都合がよかっただけだ」


 永遠に治らない可能性もあったが、これで見通しは立った。

 少なくとも、絶望的ではない。ソペードの当主は安堵していた。


「流石は大天狗、安堵しました」

「だろう? カチョウ、俺は仕事のできる男だ」

「では難しい話も終わったところで、詫びもかねて土産の品を」


 ゼンとジエズが、土産の入った木の箱を開けた。

 先に見せたのはジエズの方で、細長い箱だった。

 出てきたものは、やはりというか、日本刀(に似た刀)だった。


「これは私をはじめとした、大八州の刀鍛冶の作った自信作、観賞用の刀でございます。もちろん、切れ味も保証いたします」


 流石に、抜いて見せることはない。

 一応周囲には護衛の兵士もいるが、犯意がないことは示していた。

 とはいえ、スイボクも並んでいる時点であまり意味はないのだが。


「ほう、切れ味もか?」

「興味深い……サンスイどのと競り合えた剣士も、それと似た武器を使っていたとか」

 

 ソペードとバトラブの両当主は、山水が腰から下げていた武器によく似た装飾の施された刀に興味を示していた。

 もちろん武器がいいだけで腕がよくなるわけはないのだが、だとしても最強の剣士と同じ武器を欲しがるのが男子である。

 そうでなくとも、新しい武器と言うのは興味が引かれるところだった。見た目が美しいのなら、なおのことであろう。


「ジエズ、それを作ったのはお前たちだよな」

「え、ええそうです、大天狗」

「ゴクのはどうした? あいつもそういうのが好きだっただろ」

「……聞いていないのですか?」

「何が」

「ゴクは死にました」

「なんで?!」


 ゴクと言うのが誰なのか、なぜ死んだのか、正直アルカナ側はよくわかっていない。

 双右腕が痛んでいた理由を大天狗が聞いた時に、山水の口から出たような気もする。

 しかし、確かに死んだとは言っていなかった。

 なぜ隠していたのか、それはわからない。しかし、理由はあるのだろうと察していた。

 少なくとも、セルには真実を明かさないように、大八州の仙人は話をそらしていたからだ。


「破門したとはいえ、元は私の弟子……その名誉のためにも口を閉ざさせていただきたく……」

「大天狗、貴殿の目にかけていた若き仙人は、悔いなく死にましたよ」

「ジエズやスイボクの言ううとおりでありましたとも。のう、ゼン」

「え、ええ……そうです」


「なんで俺に教えないんだよ!? っていうか、あいつが俺の双右腕と打ち合えるほどの剣を作ったって聞いて、いろいろ話したかったのに!」


 むしろ、ゴクの方は双右腕を見た時点で、大天狗と話をしたくなくなっていたであろう。

 本物の道楽人と、その道楽人に負けて堕した男では度量が違うのである。

 俺の最高傑作と打ち合える刀を作った、すげー!

 そう素直に称賛できるのが、セルやスイボクのような狂人なのだろう。

 もちろん、度量が大きいことを褒めているわけではない。

 この場合、度量が大きいとか懐が深いとかではなく、底抜けにバカなのだ。


(たぶん、呪術を再現したという宝貝がらみだな)


 ソペードの当主だけはそこまで聞いて察していた。

 なるほど、教えたくないところである。


「ゼン、ほれ。他の土産を」

「あ、はい!」

「ちょっと待て! 話を切るな!」


 ゼンは大天狗と目を合わさないようにしながら、木箱を開けて中身を取り出した。

 それは『色のついた紙』に包まれた、器のようなものであった。


「不格好に見えるかもしれませんが、これが大八州で尊ばれている器です。どうぞ、お納めください」


 その器を箱に戻すと、改めてゼンはそれを貴人たちの前に持って行った。

 それを手に取った貴人たちは、ややゆがみのある、『けったい』な造形の器を見て新鮮な気分になっていた。

 自分たちの知る上物の器とは違い、分厚くゆがみがあり、しかしなぜか手になじむ感触がある。


「ギヤマンでできた、透明な器もあるんですよ」

「うむ……大八州の職人にいろいろ作ってもらったからのう」


 貴人たちが興味深そうにしていることで、一安心するゼンとカチョウ。

 これで野蛮人だと思われることもあるまい、と笑みを浮かべていた。


 しかし、ディスイヤの老体は器そのものよりも、器を包んでいた紙の方に目をやっていた。

 目利きのある老人がそんなことをしているので、他の貴人たちも自分たちの持つ器を包んでいた紙を見た。

 厚手で頑丈そうな、やや粗い感触の、そこまで品質が良くないであろう紙だった。


「おい、ゼン。よもや、春画でも混ぜておるまいな?」

「そ、そんなことしてないですよ! ただの版画のちり紙(ちらし)ですって!」


 それは、行ってしまえばただの広告だった。

 大八州の仙人たちにはほぼ無縁な、俗人たちが情報源とするチラシ。

 木版によって大量生産される芸術品でもなんでもない、古新聞のようなものだった。

 割れたり欠けたりしないようにするための、衝撃緩衝材である。



「これは……売れる!」 



 ディスイヤの老人は、全く新しい画風に衝撃を受けていた。


 後に、オオヤシマニスムと呼ばれる異文化の流入。アルカナやその周辺における文化史が動いた瞬間であった。

二足犀 


二足歩行の犀。完全な草食獣なのだが、それをちょっと気にしている節がある。

大型の猛獣であり、重量もあってかなり屈強である。


牛やイノシシに並ぶ巨体を誇り、盾や槍を武装して戦う。

お世辞にも指は長くないので、持ち手に一工夫されているらしい。


肉体的には相当なものだが、気血量に関しては少々心もとない。

とはいえ、その性質上多くなくてもそこまで支障はない。


頭に角があり皮膚も分厚く頑丈で、素の防御力は全体でも随一であろう。

結構足も速いのだが、体が重いので持久力はそんなにない。


寿命は牛と同じぐらいだが、雄の寿命は結構短い。

メスをめぐって熾烈な争いをして、双方共倒れということがよくあるそうだ。

漁夫の利を狙う臆病者もいないではないが、そんな卑怯者は雌に嫌われている。


俗説で、雄は頭の角が大きいほうが雌に人気だという。

実際にはあまり目がよくないので、角の大きさが比べられないらしい。

本当は体がでかくて体重が重いほうがモテる。



剛精

人間は玉血と呼ぶ。


肉体に対して絶対に壊れない、万物を切断する、あらゆる温度を遮断する、などの性質を付与する気血。

他のあらゆる気血と比べても最強の強度、硬度、切断力を誇り、八種神宝にさえ通用するとされる。

これを防ぐには、相手以上の気血を練るしかない。


祝精や輪精でも防げない上位属性の魔法を防ぐ唯一の手段とされるが、犀以外が戦闘に使用することはほぼない。

人間の場合は指先から肩、股関節から足まで。種族によっては、指の一部しか硬化させることができないからだ。


犀の場合は例外で、手に持てるモノや足に履けるモノも硬質化させることができる。つまり、盾や槍、靴などである。

文字通りの矛盾。どんな槍も防ぐ盾に、どんな盾も貫く槍となる。

ただ、それでも全身を無敵にすることはできず、あくまでも両手両足と武器、そして靴だけ。

頭や胴体は人間よりも頑丈と言うだけで、素のままである。よって、横や後ろを取られるととても弱い。

方向転換が苦手なこともあって、奇襲にはめっぽう弱い。


また、犀は『剛精を持つ者が多い』ことや『武器も硬質化させられる』だけであって、『気血の量が多い』というわけでもないし『威力が抜群に勝っている』というわけでもない。

理屈上は、他の種族でも剛精を宿していれば、犀の盾や槍を砕くことはできるとされている。

実際にやったのは、テンペラの里の四器拳が初めてなのだが。


なお、ゴクが作った刀に関しては、別に剛精の影響を刀に与えているというわけではない。

手足までしか硬質化できないという人間を超えているのではなく、玉血を持つ人間の手足を刀に加工しているというだけである。

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異世界版北斎かぁ
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