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地味な剣聖はそれでも最強です  作者: 明石六郎
竜を断つ狂気の刃
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収拾

 山水の戦いを見たものは、彼のことを霧か霞のようだと表現する。

 確かに山水は攻撃力や防御力が高いわけではなく、機動力で圧倒するわけでもない。

 もちろん縮地による瞬間移動も得意ではあるが、乱用はしていない。

 相手が何人だろうとも、その意識を把握して機を己のものにし続けることができる。


 人間は目の前に石や鉄があれば、それを壊そうとする気概を持てる。

 実際、あきらめなければ、正しい道具を持ってくれば、何時かは壊せるだろう。

 だが、霧か霞が意志をもって襲い掛かってくれば、それこそ逃げ惑うことしかできないのだ。

 ましてその霧が、意味不明な攻撃で首を落とせば、それこそ抵抗の気力を維持できない。


 何をどうしていいのかわからない相手に対しては、恐怖が先に来る。

 山水は、この状況を相手に日本人がいないからだと思っていた。


 今の技は、未来から過去への時間跳躍攻撃である。

 未来で攻撃した結果が、現在へと反映される意味不明な技である。

 しかし彼らの中に日本人がいれば、『時間系の技だ』と察することは出来るはず。

 もちろん、それでどうにかできるか、と言えば話は別だが。


 恐怖で相手を威圧する、というのは山水が余り得意としないところである。

 まず相手の過半数を実際に殺して見せないと、なかなか降伏してくれない。

 しかし、今回はそうでもなかったようである。

 少なくとも、全員が闘志を失っていた。


 そう思っていると、山水は広い範囲への仙術を感知した。



〔オセオの将兵、および竜の下僕に告げる〕



 極めて大規模な、山彦の術だった。

 山水にも聞くことができたが、オセオの兵士たちや怪物たちだけではなく、アルカナ王国の者にも聞こえているようだった。



〔戦闘を終了せよ〕



 手短ながらも、わかりやすい命令だった。

 その指示に逆らう気力は、この場に残った敵軍には無かったらしい。

 戦意を失い、武器を手放してへたり込んでいた。



〔アルカナ王国へ告げる。我らはオセオ、及び竜の連合軍である〕



 山水は黙って話を聞いていた。

 やはり、国家としてこちらと交渉をする準備があるらしい。

 戦闘を継続しようとしなかった山水の判断は、正しかったらしい。



〔我らは交渉を望む。そちらへ使者を送るので、会談を設けていただきたい〕



 一方的に攻め込んで、多くの民衆や将兵を殺して、それで和睦とは笑わせる。

 と、山水は先日自分がやったことを思い出しながら、因果応報を感じていた。


「縮地法、牽牛」


 転がっていた脇差を回収して、山水は腰に納めた。

 これ以上戦うことは、それこそ命令違反であると感じていた。


 結局、やられたからやり返されただけである。

 もちろん自分の判断で行ったわけではないし、被害を受けた民衆は知ったことではないだろう。

 すべての責任は、先日の『いじめ』が国益になると判断したアルカナ王国の首脳にある。

 その辺りは、当人たちが一番わかっていることだろう。

 そもそも、オセオに全く非が無かったわけではないし。


 とにかく、山水は行動方針を決定させていた。

 ソペードの剣として、主へはせ参じる。

 当たり前のことだった。


「義父様、義兄様。救援が間に合って幸いでした」


 しかし、それはそれとして、挨拶は必要だろう。

 山水はにこやかに笑いながら、護衛に守られている二人へ歩み寄っていた。

 とはいえ、武装しているうえに片腕を失っており、顔も石化している山水なので、やはりどうしても恐怖を与えてしまっていた。


「さ、サンスイ君……よく来てくれた。もうだめかと思ったよ」

「サンスイ殿……そのケガは……!」


 強者は傷を負わず、決して負けず、なんの恐怖も抱かずに威風堂々としている。

 そんな幻想を抱いていたヒータは、満身創痍に見える山水が、それでも戦い続けていたことに驚愕していた。

 どれだけ傷を負っても、なすべきことを成してこそ強者なのだと、ヒータへ示すようだった。


「あ、ああ……これは、その、まあ色々ありまして……」


 一方で、山水はヒータやセンプ、その周囲の兵士たちに同様の心境を抱いていた。

 なにせ自分のケガはある意味私事によるものだったが、この地で流れた血は職務を全うしたものだからだ。

 それこそ、まったく尊さが違う。そう思うと、苦笑いすることしかできなかった。


「この地に残って助力をしたい所なのですが、私はいったんソペードの当主様の元へ向かおうと思います。どこにいらっしゃるかご存知ですか?」

「当主様なら、王都にいらっしゃるはずだ」

「そうですか……では私はそこに行こうと思います」

「ああ、そうしなさい。ここを護るのは私と息子の仕事だ、君は十分助けてくれたよ」


 未だに、降伏したとはいえ戦えるだけの集団が残っている。

 その上、この領地は全体が大いに荒らされている。

 それでも、できることはあるのだと笑っていた。


「ヒータ」

「はい!」

「まずは残っている人間を全員集めなさい。私はこの場の兵士を使って、敵兵を拘束しておく。それが済み次第合流し、動かせる兵士たちへ労いの言葉と蟠桃の補充を行う」

「はい!」

「お前には言うまでもないが、既に消火や救助などを行っている兵士たちの場合は、どこで何人がいるのかを把握するまででいい。とにかく、火を消すことを優先して動くぞ。こういうときこそ、集団で動くのだ。個人ではなく全体で動くのだぞ」

「わかりました!」


 マニュアル通りの行動であろうが、だからこそ頼もしい。

 山水は凡庸な当主の振る舞いを見て安堵し、あわただしく動き出した二人に深く一礼して、一端縮地でその場から姿を消していた。



「ぜぇ……ぜぇ……」

『大丈夫か、我が主!』


 バトラブ最大の都では、現在歓声が上がっていた。

 残っていた敵が武器を捨て投降し、負傷した兵士たちへ補給が行われつつある。

 奇跡的なことに、ほぼ街の施設への被害はなかった。

 それだけ戦力を集中させていたということではあるが、同時に祭我が竜から街を守り切っていたことを意味している。

 城壁は破壊されているし将兵も負傷しているが、それは竜の下僕によるものがほとんどで、竜による被害はなかった。


 祭我をたたえる声が、都市のあちこちから響いていた。

 最強の神剣を手に、この街を守り抜いた勇者をたたえる声が止まずにいる。


 ここに、祭我は成果を示していた。

 祭我がどんな力を持っているのか知っている民衆はほとんどいないし、どれだけ苦労したのかも知らないし、それを得るためにどんな過程を経たのかを知る者はいない。

 その上で、誰もが喝采をあげていた。


 城壁に上り、街の周囲を見ればそれもなっとくだろう。

 大地に横たわる、巨大な生物の死体。

 それが街を包囲する形で、膨大に積み重なっていた。


 祭我は結果的に、この国へ侵入した竜の半数近くを独力で撃墜していた。

 正蔵も援護に来ていたが、その頃にはほぼ駆逐されていた。

 祭我は宣言通りに、優先順位を間違えずに、任務を全うしていたのだった。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 その上で、上空にいる祭我は浮遊していることさえできずにいた。

 一切被弾していないはずの祭我は、しかし明らかに不調の肉体ゆえに気を失い、そのままエッケザックスを手放してしまう。


『さ、サイガ~~~!』


 武器の悲哀か、己自身では飛行能力を維持できないエッケザックスは絶叫しつつも、しかし何もできずに落下していく。

 祭我も当然のように、力を失って落ちていく。

 そのまま落下すれば、人参果の効果があるとはいえ死ぬ可能性は高かった。


「女の子の悲鳴は、聞き逃さないのさ」


 恰好を付けながら、高速の歯車に乗った廟舞が空中で祭我を捕まえながら減速する。

 エッケザックスにも歯車を放ち、落下している状態からからめとっていた。


「うう……」

「さて、バトラブの切り札、勇者君か……すごい熱だ」

『お主、法術も使えるのであろう? なんとかできんか?』

「いや、その前に……いったん腰を下ろそう。まずは傀儡拳で診断をしよう」


 体を熱湯でゆでているような、高熱の祭我。

 一般的な知識のある廟舞は、素人判断を危険と感じていた。

 せめて、彼の診断を行おう。そう判断した彼女は、適当な屋根の上に祭我を下ろして、傀儡拳を発動させて上体を確認する。


「……これは、素人でもわかるぞ。体の中を、膨大過ぎる気血が駆け巡っている」

『間違いない、蟠桃の副作用だ』


 この地へ蟠桃や人参果をもたらしたスイボクも言っていたことだが、強力すぎる術は副作用も大きい。場合によっては死ぬこともあり得る。

 気血を全回復する効果を持つ蟠桃を、気血が枯渇している人間が食べるのと、気血がほぼ減っていない人間が食べるのは全然違う話だ。

 仮に枯渇しているとしても、沢山食べれば結果は見える。

 まして、枯渇と補充を連続して行えば、体が無事で済む保証はない。


「法術で治るかわからないが……多分無理だな」

『そうだな、おそらく専門的な知識を持った仙人がいなければこのまま死ぬぞ』


 当たり前だが、蟠桃の食べ過ぎで体に過剰な気血が溢れている状態で更に蟠桃を食べても、火に油を注ぐだけである。体調は更なる悪化に至るだろう。

 いま祭我に必要なのは、伝説の薬でも神宝でもない。正しい知識を持つ専門家である。


「仙人……いるのか?」

『スイボクならどうとでもできただろうが……今から呼びに行くのは無理だ。ノアの転移も、長距離過ぎると不安定だ。行ったことがあれば別だが、秘境セルも花札も、特定の場所に存在しない……』

「……そうか、まずは彼をノアに載せよう。このままにしておくよりはいいだろう」


 仕事のできる女、掛軸廟舞。

 彼女は功労者を優しく抱え直すと、上空で待機しているノアへ向かって飛行していった。



「このあたりか」


 アルカナ王国の王都付近で、平地にいきなり大穴が開いていた。

 ただの穴ではなく、洞窟の様に奥行きがあり、不思議なことに内側からは陽光が漏れているようだった。


 そこから出てきた『少年』は、少々緊張した表情で周囲を見る。

 周囲に立ち込める緊張感、あるいは戦闘の残り香。それを感じ取った彼は、凄絶な戦いが起きたのだと理解していた。


「お、大天狗殿……一人では危険です」

「ロイド、俺を子ども扱いするな。まったく失礼な奴だ」

「一応、護衛ですので」


 その子供へへりくだっている、筋骨隆々の中年男性。

 その彼は、慌てて穴から出てきて、周囲を見渡す。

 初めて訪れる場所ではあるが、それでも尋常ではないと把握できた。

 それだけ、この周辺が異常なのだと理解できた。


「何が起きたのですか?」

「決まっている、『母なる世界』の連中が攻め込んできたんだ。そうでもなけりゃあ、こうはならない」

「は、母なる世界?! と言いますと、旧世界から『貴方』を含めた人間を追いやったという?!」


 制限を開放された神宝、それが全力で大暴れしたのだろうと察しはつく。

 昔、自分も持っていただけに、その辺りはよくわかるのだ。


「まったく、長く引き籠っている間にこの世界も様変わりしたな……」

「大丈夫ですか? 護衛が私一人で……」

「もう大丈夫だろう、この周辺一帯に死臭はない。それよりも……」


 再び戦いが始まったのか、それとももう決着はついたのか。

 悠久の時を生きた大天狗は、アルカナ王国の首都を目指して歩き始めた。


「この国のお偉いさんと会えるかどうかが問題だな」

「……荒事は避けたいですな」

「ああ、それにしても……一万年ぶりだな、エッケザックス以外の神宝と会うのは」


 唯一生存している、旧世界出身の人類。

 この世で唯一、八種神宝よりも長く生きている男は、かつて自分が使っていた神宝との再会に少しばかり興奮を覚えていた。


「それにしても……俺の双右腕は大活躍だったみたいだな!」


 自分の刀が大活躍したことには、かなりの興奮を覚えていた。

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