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醜悪

 結局、彼らは負傷者を抱えて敗走した。

 強いは強いが、まるで相手にならなかった。

 ううむ、この知っている感じは何とも言えない。


「よく見ておけ、サンスイにゼンよ。これぞ死者の魂を慰める墓、社である。うむ、フウケイの死んだ土地にも作ったが、この地にも作れるとは……儂も感無量であるな」


 今俺たちは、フウケイさんの遺体を土葬し、その上に社を建てていた。

 これでもう、フウケイさんの死体が誰かに利用されたり辱められることはないのだろう。

 もちろん、既にスイボク師匠が利用しているし、大天狗が辱めているのだが。

 ついでに俺へ託された双右腕も埋めようとしたのだが、スイボク師匠に見つかった。

 埋めたほうがいいと思うんだけどな~~。


「……フウケイさんのお墓か」


 カチョウ様は墓の製造現場で般若湯なる仙人の酒を飲んでいるのだが、その一方で手伝っているゼン君も感慨深そうにしている。

 俺にとっては師匠の同門であり、しかし師匠と戦って負けて死んだ御仁でしかない。

 はっきり言って、会ってないので感慨がわかないのだ。

 しかしゼン君にとっては同門の先輩だ。それはもう、いろいろと思うところはあるだろう。


「サンスイ師匠。今回こうやってフウケイさんのお墓を作っているわけですけど、完成したら人里にも改めて報告しに行ったほうがいいと思うんです」

「……人里って、別の島か?」

「この島にも人里はありますけど、別の島にも行ったほうがいいですって。なんだかんだ言って、フウケイさんはカチョウ師匠の次に年経た仙人でしたから」


 そりゃそうだ、四千五百年生きている仙人なんて、そういないだろう。

 フウケイさんはこの地でその人生のほとんどを過ごしたので、まさに現人神のような扱いだったはずだ。

 師匠がこの地を離れたのが三千年前だから、師匠のことなんてほとんどみんなが知らないだろうし。


「ぶっちゃけカチョウ師匠やら大天狗様は色々とまあ、ほら、フウケイさんのことをぼろくそに言うじゃないですか。でもそんなのは仙人や天狗の理屈ですからねぇ。十数年前まではこの地でフウケイさんは崇められていたんですよ」


 それはわかる。

 良くも悪くも、さっき襲撃した面々はフウケイさんを目標にしていた節がある。


「であろうなあ。儂が言うのもどうかと思うが、あのフウケイは本当に強かった。不滅の肉体や無尽の仙気を抜きにしても、見事な武勇であったよ。おそらく、儂の次に強かった」


 スイボク師匠が褒めている。

 その割に一切苦戦とか手こずるとかなかったらしいので、その実力差は尋常ではなかったのだろう。

 スイボク師匠は、世界で一番強い、程度ではない。もっと先の、無限遠を目指して達した御仁だ。

 であれば、わずかな差であっても、それは絶対的な差であり続けたのだろう。


 とはいえ、師匠に及ばなかったとは言っても、相当強かったことは確実だ。

 なにせエッケザックスを装備した祭我とトオンとランが、三人がかりでも拮抗した相手だ。

 仙人としてはともかく、武人としては一流だったはず。

 それを尊敬するかどうかはともかくとして、一種の目標にはしていたはずだ。


「ぶっちゃけ、この地に天地法の使い手がカチョウ師匠だけなのって、カチョウ師匠の後継者がフウケイさんだってみんなが思ってたからなんですよ。だから俺が弟子入りするまでは、カチョウ師匠の後継者はいなかったわけで」


 確かに考えてみれば、仙人の本場で仙人の真骨頂ともいえる天地法の使い手が、カチョウ様だけというのは不自然だった。

 きっちりとした後継者がいる、というのであれば、それは自然なことなのだろう。


「荒ぶる神のことなんてみんな伝説の人物としか思ってなくて、どんな奴が相手でもフウケイ様が負けるわけがないってみんな信じてましたし。だから、がっかりしている人が多かったと思いますよ。だからさっきも切りかかってきたわけで」


 がっかりしたぐらいで切りかかってくるのはいかがなものか。

 とはいえ、信じていたものが敗北する、そのつらさは想像を絶するものがある。

 俺の場合、それこそ惑星破壊クラスの敵とか出てこないと、信じた人が負けるなんてありえないし。


 そして、俺は俺自身が傷ついても心は折れない。それは既に実証されている。

 負けたら負けたで、それも超えられるだろう。たぶん。


「でもって、スイボク様もサンスイ師匠も、あんなに強いとは思ってませんでした」

「だな、儂も驚いた。三千年見ない間に、あそこまで強くなっているとは……」


 ゼン君もカチョウ様も、どっちも俺と師匠の戦闘を見てドン引きしていた。

 そりゃあそうだ、俺たちが凶憑きとかならまだしも、仙人であんなに強いのはおかしい。

 自分たちも仙人だからこそ、そのあたりの異常さがよくわかるのだ。


 そういう意味では、改めて八種神宝たちが師匠のことを異常扱いしていたことがよくわかる。

 昔の師匠は精神的に仙人から遠く、今の師匠は戦闘スタイル的に仙人から遠い。

 天地法を修めて、雨を降らせたり大地を覆す、というのが本来の戦闘法なのだろう。

 それを実際に見た自分としては、態々剣で戦う意味に関して悩んでしまう。


 しかし、その一方で。

 アレ、面白くないだろうなあ、とも思う。

 先日国を攻め落とす時も『面白くない』と思っていたが、アレはもっと面白くないのだろう。


 もちろん、カチョウ様の技である天地法を修めること自体に不満はない。

 しかし師匠が思った様に、天地をくつがえす方法で、極めて一方的に殺すというのは面白くない。

 木刀で殴れば人は死ぬ、というのが師匠の三千五百年さまよった結論だが、それは木刀で人を殴り殺したほうが楽しいということでもある。


「水墨流仙術総兵法(そうひょうほう)絶招(ぜっしょう)、十牛図第十図、入鄽垂手(にってんすいしゅ)自力本願(じりきほんがん)剣仙一如(けんせんいちにょ)、不惑の境地」

「なるほど、まさに剣仙一如の境地であるわけか……お前はまっすぐなのか屈折しているのかわからんな」

「感心しているところ申し訳ないですけど、やってることがアレじゃあ迷ったほうがいいような気が」


 木刀で殴り殺すことを迷わない。なぜならそっちの方が楽しいから。

 不惑とはいったい。


「そういうな、ゼンよ。我が弟にして孫よ。アレはやむなきことであったのだ」

「どういう理由があれば、人間をあんな風にするんですかねえ」

「サンスイを足止めしようとした輩はともかく、儂を殺そうとした輩は、フウケイを討つための準備をしておった。はっきり言って……剣を抜かせていればろくなことにならんかったであろうな」


 やはり、それなりに理由はあったらしい。

 俺も偉そうなことは言えないが、なんか呪われた武器でも持ってきたようだ。

 もちろん、そんなもんで負けるわけはない。

 パンドラならありえるが、そんなもんを人間が作れるとも思わないし。


「負けるってことですか、スイボク様」

「それはない。儂だけではなく、サンスイもそれだけはない。剣術の範疇で儂らと戦えるものなど、あの場には一人もいなかった。あの場(・・・)にはな」

「いやいや、あの人たち武神奉納試合でも上位の連中なんですけど……」


 武神奉納試合、なんとも心惹かれる言葉だ。

 凄いなあ、とってもファンタジー感がある。

 というか少年漫画感がある。


 五百年生きている身で思ってはいけないのかもしれないが、異世界に来たという感じがここ最近半端ではない。

 秘境セルといい、ここ大八州といい、とんでもなくファンタジー感がある。

 ぶっちゃけ、今までは魔法があるだけで普通に過去の世界とかそんな感じだったし。


 地下の閉鎖空間とか、空に浮かぶ島々とか、凄いRPG感がある。

 しかも武神奉納試合って……。

 あれか、トーナメントなのか、コロッセオなのか。


「当然であろう、年季が違う。儂は当然のこと、儂が五百年かけて鍛え上げたサンスイも、剣術としては極みに達している。気功剣も発勁も、どちらも儂らが扱える技。同じ土俵で戦う分には負けはない。ましてこちらには仙術もある。これで負けるのは恥どころではない」


 その一方で。

 師匠が言うことも理解できる。

 ここは旅の終着地ではあるが、別にラスボスのダンジョンというわけではない。

 ここにいる全員が、異常に強いというわけがない。

 それはどっちかと言うと、秘境セルの方だ。

 店で買える最強武器とかもあるし、捨てられない最強武器もあったし。


「そもそも、気功剣も発勁も、どちらも便利ではあるが強力ではない。どれだけ極めても、それだけでは勝ち目などない」


 そう、そこが問題だ

 悲しいかな、彼らは気功剣と発勁しか使っていないし、それしか習得できていない

 彼らの剣術の技量がトオン級であることは今更疑いはないが、それだけでは剣術の延長線上だ。

 はっきり言って、全員でも素のトオンに勝てないだろう。


「我らの縮地に『対抗する』ためには、凶憑きのように身体能力や反射神経で上回るか、法術か酒曲拳のように常時展開できる防御手段ないし攻撃手段を持つか、迅鉄道のように体術の範疇に収まらない攻撃術を用いるほかない」


 俺たちが剣術の範疇で戦う分には、それこそさっきの彼らのようにある程度戦うことはできる。

 しかし師匠がやったように縮地を多用すれば、同じ速度域だと抵抗の余地がない。

 こっちは一切予備動作が必要なく行動できるのに、相手は体を動かさないといけないからだ。


 ランのような凶憑きなら、それこそこちらが一回行動する間に三回も四回も行動できる。彼女が自分を制御できている間は、俺がうかつに縮地をして間合いを詰めれば、俺が攻撃するよりも先に迎撃できるだろう。

 法術も極めればエッケザックス抜きでも俺の攻撃を防げるようになるはずだし、酒曲拳も間合いを詰めた時点でアウトだ。

 迅鉄道の場合も、こっちが消えた瞬間に虚刃を出せば、それだけで身を守ることは確実である。


 とはいえ、それは縮地に対する対抗手段でしかないわけだが。

 というか、師匠の『本気の縮地』の場合、それこそ尋常では対抗手段がない。

 本当の意味で師匠が本気になっても勝てないのは、パンドラぐらいだろう。


「無茶ですけど、実物を見るとなんとも……荒ぶる神、流石ですねぇ」

「うむ、儂も驚いた。本当に強く大きくなって帰ってきたのう」

「ははは、カチョウ師匠に褒めてもらえると僕もうれしいです」


 褒めているかはともかく、カチョウ様に感心されているとスイボク師匠もうれしそうだ。

 まあそれだけ成長したということでもあるのだろう。

 俺にとっては最初から師匠はこんな感じだったが……カチョウ様や大天狗にとっては、本当に劇的な変化があったのだ。


「とはいえ、おそらく本命は違うのであろうな。あ奴らは先遣隊であろう、本命は別と見た」

「……そうですね、確かにそうだと思います。例のあの人が姿を見せてませんでしたから」


 スイボク師匠の言葉に、ゼン君が同意する。

 そう、この地に満ちた殺気の主は、いまだに戦闘に参加していない。


 俺を足止めした連中が本気で俺を殺そうとしていたように、スイボク師匠を狙った部隊が本気で殺しにきたことも疑いはない。

 しかし、それとは別で。

 彼らより上に属する者は、彼らからの報せを待っているのだろう。

 彼らが全滅したとしても、その彼らの死体から俺たちの太刀筋などを知るつもりだったはずだ。


「フウケイを倒した儂、その弟子。その技や術を知ったうえで、時を整えたうえで、挑む腹なのであろう。うむ、良き心構えであるな」

「スイボク様、勝てますか?」

「無論、儂はな。しかし……できれば、我が弟子に立ち会ってほしいところである」


 師匠は俺を見た

 今作っている社の下でゆっくりと大地に帰っていくフウケイさんの死体や、庵に残してある刀にも気をやっていた。


「おそらく『敵』も」


 敵。

 敬意をこめて、親しみさえこめて。

 師匠は俺たちを狙う者を『敵』と呼んだ。


「直接儂を狙うのではなく、弟子を狙うであろう。うむ、楽しくなってきなあ」


 そう、楽しい。

 命を狙われるのは楽しい。

 俺もそう思ってしまう。


 ゼン君もカチョウ様も呆れているが、どうしようもないのだ。

 心を楽にするということは、つまりはこういうことなのである。


 人と傷つけあうのは楽しい。

 そんな醜さを、俺と師匠は隠せないのだ。


「そうであろう、サンスイよ」

「ええ、楽しみで眠れませんね」

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>最強武器 それを捨てるなんてとんでもない!
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