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地味な剣聖はそれでも最強です  作者: 明石六郎
神の帰還と竜の侵略
272/497

緩急

希少魔法解説


名称 迅鉄道

必要資質 猛威

分布 秘境セル


有効範囲 広い

消費   極めて多い

即効性  極めて速い

効果   高い

応用   狭い


 宙に浮かぶ歯車を生み出し、それを基本として戦闘を行う。

 法術が壁を生み出すものと原理は同じ。


 生み出された歯車を『実輪』とよび、単純な足場や壁、鈍器として使用することもできるが……。

 生み出された歯車を高速で回転させる『猛転』とよび、実輪の攻撃力や防御力を増すこともできる。

 また、実輪の周囲に一時的に刃を生み出すことができ、『虚刃』と呼ぶ。


 これらは空間に作用するため、四器拳以外では防ぐことができない。

 縮地を遮断することもでき、やり様によっては虚空の中でも維持できる。

 

 分類としては法術にかなり近いが、戦闘法としては魔法に近い。

 しかし、攻防が完全に補われており、単独の『魔法』としては完成度が高い。


 とはいえ、実輪の周囲にしか攻撃できず、殲滅力では火の魔法に大きく劣る。

 人間を殺す分には、空間を切断するような大技ではなく、『火』で十分だからだ。

 また、法術と違って広範囲に防御壁を構築することもできない。

 あくまでも単独での戦いで最強というだけで、仮に魔法使い百人と迅鉄道の使い手百人が戦えば、高確率で魔法使い百人が勝つ。(というか、集団戦闘で魔力による魔法に勝るものはいない)


 最大の難点は、消費が尋常ではないこと。

 四器拳を除いてあらゆるものを切断し遮断するのだが、それだけに個人で何の処置もなく連続使用すれば直ぐに力尽きる。


 宝貝や蟠桃による猛威の増大、多数の巫女道による援護があれば、一対一でこれに勝てるものはいない。(もちろん、それを一対一というかどうかは別の話だが)神宝の所有者や、神に愛されたもの、そして武に人生をささげた仙人を除いて。

 山水にとって、戦闘中の出血はもとより相手から攻撃を受けることなど、長い人生では初めてだった。

 かすり傷、というには広い範囲で切創を負った。その胸には一文字に定規で引いたような線が走っており、そこから血が溢れて止まらない。

 その傷に視線を落とすことはなく、山水はただこちらを向いてきたロイドを見ていた。


「縮地……早いな。てっきり懐に飛び込んでくると思ったのだが」

「そうしていたら、そのまま死んでいましたね」


 八つの歯車で守っていたロイドは、攻撃に際して三つの歯車を攻撃に回した。

 一つの歯車を二つの歯車ではさみ、ピッチングマシーンの要領で射出した。

 それによって、山水に向かって高速で歯車が向かっていった。

 それ自体は、山水にとって脅威ではなかった。

 高速ではあるが、瞬間的ではない。およそ、常人の目に映る速さであり、熱や雷の魔法に比べて大いに遅かった。


(無構えでよかった。中段の構えなら、そのまま腕に深い傷を負っていた)


 山水が縮地によって緊急回避を行ったのは、相手の表情を見たときだった。

 ただ単に歯車を一発飛ばしただけにしては、緊張が解けていなかった。

 こちらの動きに対応しようとしている以上に、己の術に対して集中していた。


 なにかある、と察した山水は縮地で大味な回避をした。

 そして、それを行う山水は縮地の直前に見た。

 放たれた歯車から、薄い刃が生えた。歯車の直径の倍の広さをもつ刃は、結果として山水の体に触れていた。

 その鋭さは、布の服を着ているだけの山水を傷つけるには過剰なほどだった。山水が中段の構えを維持したまま接近をしていれば、体勢の都合上腕を失っていた可能性もある。


「人参果を知っているか」

「ええ、存じています。師匠は作れますが、未熟な私は作れません」


 向き直ったロイドは、不愉快そうな顔をしていた。

 その流血を見て、その傷が治っていないことが不満だった。


「なぜ、あらかじめ食べていない。食べていれば、そんな傷は治ったはずだ」


 山水にはロイドの不満がわかる。

 この戦いは、尋常とはいいがたい。片方が宝貝で武装し、人参果などで強化し、巫女道で支援を受けている。にもかかわらず、もう片方は木刀を持っているだけで、あとは金丹によって肉体を強化しているだけだ。

 これで、対等とはいいがたい。もっと最善を尽くせ、と彼は言っている。

 それは理解できる。理解できるが、それは流儀ではない。


「言葉は無用でしょう、結果で示します」


 胸を裂かれた山水は、改めて前に進む。

 笑みはなく、真剣に、相手の命と向き合って無用な殺し合いを楽しんでいた。


「ああ、そうだな……」


 一方で、ロイドにも余裕はなかった。

 スイボクの弟子である山水が、それこそ何も聞かされていなかったことには驚いている。

 まるで事前情報がない相手として、自分と戦っていることになるとは思わなかった。

 こちらは対策を練っているのに、相手はこちらのことを知りもしなかった。

 不快な話である。

 しかし、それを抜きにしても山水の回避、縮地には驚いた。

 この里の天狗も縮地に分類される技は使えるが、フウケイはそれよりも数段早かった。

 だが山水のそれは、フウケイさえも超えている。


(やはり、縮地に特化した流儀か。想像よりもはるかに早い、予備動作が一切なかった)


 もちろん、ロイドも縮地対策は済ませている。

 山水が察したように、周囲に浮かばせている五つの歯車からは、任意で虚刃を生み出すことができる。

 縮地で自分の周囲に移動し、歯車の隙間から腕をつっこんでこようものなら、そのまま腕を切断するつもりだった。

 とはいえ、それももう見切られただろうが。


(さて、どうしたものか)


 山水は歩きながら考えていた。

 究極的には、近づいて殴るのが山水の戦闘方法であり、接近できない相手とは極端に相性が悪い。

 被弾を覚悟で一発当てる、というのは流儀ではないし、相手が人参果を食べていることや宝貝を装備していることを考えると、こちらが圧倒的に不利である。

 となると、やはり相手に対応できない機を得て撃つしかない。


(乱戦の中で、機を探って当てる。師匠との稽古以外では、得られない経験になりそうだ)


 とはいえ、乱戦をするには最低限相手へ遠距離攻撃をする必要がある。

 そうでなければ、相手は亀の構えを崩さずに攻撃をしてくるだけだろう。

 それだと、確実に勝ててしまう。


(持久戦で勝ちを拾うつもりはない。彼と戦って、勝つ)

(瞬身功を使わずに、歩いてくる。縮地を多用するかとおもったが……そうか、剣術主体だったな)


 ロイド自身よくわかっていることではあるのだが、どれだけ外付けで持久力を向上させても仙人には及ばない。

 フウケイなど最たる例だが、仙人がその気になれば不眠不休で戦い続けることができる。

 流石に、ロイドにそれはできない。であれば、最も恐れるべきは持久戦である。

 しかし、相手はあえてゆっくりと歩いてくる。

 それをみて、緊張感を高めた。つまり、大味な回避ではなく繊細な機動で回避できる自信があるのだ。


(一枚を余裕として残し、二枚を攻陣として使用する。中距離戦闘こそ、迅鉄道の本領!)

「攻陣、双舞!」


 ロイドの周囲で緩やかに回る五枚の歯車。そのさらに外側で、さきほど射出用として使用した歯車が回転していく。

 虚刃をまとい、高速で回転していく。

 周囲を風が圧し、吹き飛ばさんとしていく。


「参る!」


 ロイドは、走り出した。

 ゆったりと歩いてくる山水に向けて、全力で疾走する。


「おおおおおおお!」


 攻撃に用いた二枚の歯車、それを自分の周囲で動かして攻撃に使用する。

 それがどれほどの切断力を持つのかなど、山水に想像を巡らせる理由がない。

 見るのは、あくまでも攻撃の軌道。意図をもって放たれた攻撃故に、それを視認して読むことは可能だった。


「瞬身功」


 あえて、懐に飛び込む。

 二枚の歯車の軌道と、五枚の歯車の軌道の内側に身を投じる。

 如何に歯車が高速で動かせるとしても、動かすのは人間である。

 魔法のように広範囲を攻撃できるのならともかく、迅鉄道はあくまでも歯車の周囲しか攻撃できない。

 であれば、その歯車の軌道の内側に入ること自体はできる。


「瞬身帯」


 とはいえ、ロイドも宝貝を装備している。

 それも、この星で随一の職人が作った宝貝である。悪血や王気による強化ではない以上、同等にふるまうことは可能だった。

 速度を上げた山水の動きを、しっかりと視認して外側の軌道を調整する。

 内側の歯車がある限り、相手は自分へ攻撃できない。だからこそ、心理的な余裕をもって追撃する。


「発勁法、震脚」


 直後、地面が爆発した。

 瞬身功に、発勁の速度を上乗せする。

 強く地面を蹴ることにって、自分の体を強く押し出す。

 複雑な動きのとれない難易度の高い動きを、山水は平然と敵の懐にて行っていた。


 一瞬、山水が視界から消える。

 それでも、目の端で動きを追うことは可能だった。

 回り込もうとしている山水を見つけ、回り込んではさむようにを外側の攻撃する歯車を動かす。

 

「どれだけ早く動いても、人間は人間だ」


 ロイドは山水を視認する。

 成人男性の大きさをしている山水を、確かに見ていた。


「人間は、己の大きさをそうそう変えられない!」


 相手がどれだけ早く動くことができても、相手がどれだけ技量を極めていても、結局自分の手足を効率よく動かすことしかできない。

 であれば、回避できないタイミングで攻撃を叩き込むことはできる。

 相手が回避できる隙間をなくせば、必然命中する。


「この五つの歯車が、飾りと思ったか!」


 走っていたロイドは、方向を切り替える。

 自分の周囲に浮かぶ五つの歯車を壁にして、相手をはさむつもりだった。

 外側の歯車と内側の歯車によって、三方向から同時に抑え込む。そうなれば、そうなる直前で縮地をするしかない。

 逃げた先に、遠距離攻撃を仕掛ける準備さえしながら、彼は走っていた。


「……そう、俺は人間だ」


 その状況でも、山水は冷静だった。


「貴方も、人間だ」


 ロイドの思惑通りに、仕切り直しになどしない。


「死角からの攻撃に、対処できない」


 このままいけば挟み込む、という一瞬。

 ロイドの頭部に何かが当たった。

 当たった、というよりも攻撃を被弾したというべきだったのかもしれない。


「!?」


 震脚によって吹き飛んだ土の塊。それが宙に浮かび、機を得て落下。ロイドの頭部に着弾していた。


「外功法、投山」


 一度触れた物をいったん軽くし、術者の意図するときに重くさせ落下させる術。

 それによって、完全に死角となっていた上方から攻撃を当てていた。


 頭部への打撃、それも不意打ち。

 それは精妙なる歯車の操作を狂わせていた。

 速度は鈍り、回転も緩やかになり、歯車の配置も隙間だらけになる。


(まずい!)


 ロイドは一瞬暗くなった視界の中で、最善の行動を選んだ。

 精妙な操作はあきらめたうえで、まずは自分の周囲の歯車から虚刃を出す。

 猛威の消費を抑えるため、相手の攻撃を誘うために、普段は抑えている虚刃を全面に展開する。


 まずは、防御する。人参果の効果によって怪我が治るまでの数瞬を、亀の防御でしのごうとする。

 そのうえで、ほぼ防御できていない上を警戒した。

 余っている歯車を、上側へ使う準備をしていた。


(ここは、凌ぐ!)

(そうするとは思っていた)


 山水は無構えのまま走っていた。

 それはつまり、木刀が地面に向けられていることを意味している。

 気功剣法、数珠帯。

 木刀に触れた物を繋ぎとめる無属性の魔法。


「外功法、投山」


 触れた小石を木刀につなげ、木刀を振りぬくことで射出。

 配置が乱れた歯車、そしてそれから出ている虚刃。

 その隙間を縫う形で小石を飛び込ませ、足の甲を狙う。


「ぐぅ?!」


 まず、頭上から痛烈な一撃。

 そこからただ痛いだけの一撃を下側に受ける。

 それは相手の意識を上下に揺さぶる行動。


「気功剣」


 ロイドの想定通りにロイドの上から、山水は防御の歯車の内側に飛び込んだ。

 しかし、意識が攻撃を受けた下側へ向いている以上、迎撃はできない。


「重身功」


 出血の返礼とばかりに、山水は痛烈な一撃をロイドに見舞っていた。


(迅鉄道の防御は、確かに硬い。しかしそれは技量による防御であって、術者が万全であって初めて有効となる。それをかき乱すことは、そこまで難しくない)


 山水の攻撃において、軸となったのは頭上からの攻撃だった。

 山水が高速で移動すれば、その分相手も高速で思考し高速の物体だけを追う。

 だからこそ、比較的ゆっくりと上空へ浮かんだ土の塊を、ロイドは追えなかった。

 速度差の妙。

 それは精確にロイドを追い込んでいた。


(とはいえ、勝負はここから)


 迅鉄道には対処できた。

 ロイドには対処できた。

 しかし、この戦いはまだ決着していない。

 他でもない、セルの作った宝貝がほとんど機能していない。

 懐に飛び込まれた場合のことを、悠久の時を生きた仙人が想定していないとは思えない。


「硬身功」


 防御の歯車に囲まれた状態で、山水は追撃ではなく防御を選んでいた。

 それも、結果として正しかった。

 ロイドが身に着けていた宝貝が、装着者の危機を認識して自動的に作用した。

 それは、ロイド諸共に周囲へ攻撃を放つ。


「?!」


 山水は、解けそうになる硬身功を維持しながら、耳を抑えた。

 耳に聞こえない、しかし人体に有害な音が放たれていた。


 それはロイドにとっては気付けを意味し、目の前で悶える山水に向けて攻撃させることを意味していた。

 そして、他でもない山水こそ、技量による防御にもっとも偏重している。

 虚を突かれた異音によって、山水は技量を発揮できない状況になっている。


「ぐぅ!」

「くっ!」


 小さな歯車が、山水に向かって放たれた。


 追記


 これは非常にまれな例であり、あまり意味がないことなのだが。

 他のあらゆる術同様に、パンドラの完全適合者には無効となる。

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