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地味な剣聖はそれでも最強です  作者: 明石六郎
神の帰還と竜の侵略
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齟齬

 現在あまりにもわかりやすく存続の危機に立っているオセオ王国。

 その重臣たちは、現在会議室に集められていた。喧喧囂囂に責任の押し付け合いをするのではなく、沈黙とともに真剣な表情で慎重な姿勢をしているのは、他でもない王の脇に座るトカゲ人間の姿があるからだろう。


「陛下」


 あらかじめ根回しをしていたのか、重臣のうち一人が立ち上がり発言を始めた。


「これはこの場の全員の総意だと思っていただきたい」


 オセオ王国は基本的に国王の発言力が非常に強い。

 しかし、今回の一件は次期国王であるオセオ・ブラックの失言が発端であり、実際オセオ王国の結婚式で同じようなことを言われていれば戦争になっていたかもしれない。

 そのうえで、彼は発言をした。


「アルカナ王国へ反撃することは、全面的に賛成です」


 ひとまず、国王もトカゲ人間も、表情に出さないままに安堵していた。

 彼らも常識は知っている。この状況で拒否されても、別段不思議ではないからだ。


「今我が国が他国から本格的な侵攻を受けていないのは、単純に侵攻するための陸路が完全にふさがれているからです。侵攻してくるとしたら、我らが橋を修復した後のことになるでしょう」


 国土防衛のために、自国の橋を落とすのは比較的よくある手段である。

 もちろん自分の国にとって利益になるわけではないが、結果的に敵の侵攻を遅らせることができるからだ。

 まして、今のオセオは国中の橋が落とされている。そんな状況がオセオにとって好ましいわけがないが、それでも敵国が今攻め込んでくることはない、ということだけはありがたかった。

 とはいえ、そのままにすれば国家の傷はどんどん広がっていく。直さないわけにはいかないが、ある程度復旧すれば攻め込んでくるであろう。悩ましいところである。


「であれば、我らの命運はおおむね決まっています。普通に考えて、滅ぶしかない。人間に滅ぼされるか、旧世界の怪物に滅ぼされるかです。もしも活路があるとすれば、旧世界の怪物と手を組むしかない」


 旧世界で人類を追いやった種族が、旧世界が滅びたことで侵略を企てた。

 人類全体の利益を考えれば、そのまま滅ぼすべきだろう。だがオセオにとって、人類全体の未来よりも自分の国の未来の方が重要である。

 そもそも、断った場合旧世界の侵略者が『じゃあ他を当たります』というのは考えにくい。仮に人類全体を敵に回すことになるとしても、当座の食糧調達のためにオセオを滅ぼしかねないのだ。

 なにせ彼らは飢えている。であれば、何をしてもおかしくない。


「なので、我らは国王の賢明な判断を支持します」


 たとえどんな裏があるとしても、このまま死ぬよりは希望がある。

 重臣たちは、選択肢がないことを理解していた。

 そのうえで、顔はとても固い。


「しかし、それは国家の現状を正しく把握している我らだからこそ。彼らと肩を並べる末端の兵士が納得するかどうかは、怪しいところです」


 旧世界の人類を滅ぼした種族と肩を並べて戦え。

 そう言われて、はい分かりました、と応じる兵士は希少だろう。

 理屈はわかっていても、感情では難しいところである。

 なにせ、普通に顔が怖い。

 夜中に暗い通路で出会ったら、そのまま切り殺してしまうだろう。

 もちろん、それは相手も承知だとは思うのだが。


「我々は全面的に協力いたします。なので、兵士たちを安心させる材料を頂きたい」


 この場の面々は、それこそこの国に骨を埋める覚悟がある。

 少なくとも、この国を積極的に脱出するつもりはない。高潔な理由だけではなく、まだ活路が残っているので、重臣という立場に未練があるのだ。

 しかし、末端の兵士は違う。怪物と一緒に過ごすぐらいなら、それこそ国の外へ逃げ出すだろう。そうなれば、それこそ乗っ取られかねない。


「当然だな……では、具体的にはどうすればよい」

「さしあたり、失礼を承知で伺いますが……」


 一番気になるところであり、一番失礼な発言だった。

 ありえないとは思うのだが、それでも人間は恐怖を抱くのである。


「貴方たちは、人間を食べるのですかな?」


 失笑を買うことはわかっている。

 少なくとも相手は、一万年以上人間と接触していないのだ。

 先祖が人間を食べていたとしても、それは一万年以上前の話である。

 それこそ、一万年前の先祖が『人間は超おいしい』と書き残していたとしても、この状況で味方になった人間を襲うことはないだろう。

 しかし、兵士は確実にそれを真っ先に心配するはずである。


「兵士に限らず、民衆はそう思うでしょう。なので、ご回答を」

【その質問はごもっともですが、まずは皆さまに感謝を】


 トカゲ人間は、大きな目を閉じてから頭を下げた。

 最悪、自分が怪物として切り殺されることも覚悟していた。実際、一万年前には敵対関係だったのだ、人間がそうしたとしても正しい反応である。


【我らが弱みに付け込んだにもかかわらず、こうして速やかに協力を引きうけてくださったことに、母なる世界から逃れてきた者を代表して、感謝を】


 彼らは警戒しつつも、協力してくれた。

 特にもめることなく、である。実に理性的であろう。


【そのうえで、質問への回答を。我らが人間を食べるか否かですが……】


 ここで、食べるといえば、そのまま兵士に伝えることはできない。

 ここで、食べないといっても、誰も素直には信用できない。

 難しい回答であったが、彼はとても率直に答えた。


【共食いの前段階なら、食べることもあるでしょう。少なくとも、好んで食べることはありません。これは、どの種族にも言えることです】


 なるほど、と納得できる話であった。

 あまり面白い話ではないが、人間も非常時には共食いをすることもある。

 その前段階なら、目の前のトカゲ人間を食べることもあるだろう。

 彼らも似たような認識である、ということだ。


「だ、そうだ」

「納得いたしました。失礼な質問に対して、丁寧な回答に感謝を。兵も民衆も、納得するでしょう」


 共感できる回答だったので、とりあえず安心する。

 実際どう答えても不信感は残るので、他に言いようもあるまい。


「では、余からも質問だ。この場ではっきりさせたい」


 国王も、隣に座っているトカゲ人間へ訪ねた。

 少々、小骨がのどに引っかかっている状態だったのである。


「我らと貴殿らに認識の齟齬があると言っていたな? そのあたりを修正したい。それから、貴殿らの戦力について詳しく」

【それは同じ回答になります。まず、私を見て国王陛下はレッサードラゴンだと言い、加えて竜の配下だとおっしゃった。それはわずかに間違っています】


 実際、それなりの地位ではあるのだろうが、一万年前に追い出した種族へ同盟の交渉に向かわせたのである。ある程度捨て駒扱いなのだろう。


【まず、レッサードラゴンという種族はいません。私の親は、双方が正常な竜です】


 いきなり意味が分からない。

 レッサードラゴンという呼称は肯定しているものの、レッサードラゴンは竜から生まれるというのはどういうことだろうか。


【竜が子を成せば、百の内一は私のようなレッサードラゴンとして生まれるのです】

「その、失礼だが……」

【未熟児、というわけではない。もっと単純な問題です。人間よ、貴殿らは百のうち九十九は魔力を宿して生まれ魔法を操れるようになるのでしょう】


 もしや、彼は不健康な子供だったのではないか。

 その邪推を切って捨てて、レッサードラゴンは人間の生態を確認する。

 たしかに、割合としてはその通りだった。


「その通りだが……」

【竜も同様だ。身の内に流れる力が『覇精』であるのなら、それはいわゆる竜となる。百の内一は、それを宿さずに産まれるのです】


 そう言って、彼は指をかざした。

 すると、会議室の机の上に、小さな光の壁が生まれた。

 それは規模こそ小さいものの、法術に他ならない。


「おお……法術か?」

【壁を作り、他者の傷を癒す力。それを私は持って生まれた。とはいえ、竜の子がこれを宿しても、そう強くは発揮できない。どうにも、相性が悪いらしい】

「……つまり、我ら人間は魔力を持って生まれやすく、貴殿ら竜は、その、覇精とやらをもって生まれやすいのだと?」

【その通り。レッサードラゴンとは、竜でありながら覇精を持って生まれなかった者を指す言葉、ということになります】


 なるほど、とても分かりやすい話だった。

 つまり目の前の彼は、人間でいうところの希少魔法の資質を持って生まれたわけである。


【これが、先ほどの話につながる。種族ごとに生まれやすい資質があり、これと肉体的な優位が合わさって、我らは人間よりも強い個体がとても多い。特に竜は、それこそ八種神宝の使い手以外では倒せないとされたほどです】


 その場の全員が納得した。

 なるほど、元は人間も同じ星で生まれた種族。同じ力を宿していても、さほど不思議ではない。


【人間にも覇精を持って生まれる者が居るそうです。その力の使い手が、この国にいるかはわかりませんが】

「……マジャンとかいう遠い国には、巨大な獣に姿を変える術の使い手がいるという。それなのかもしれないな」

【そうか、ならばそうなのでしょう。覇精の効果は、肉体の大幅な巨大化。ただし、竜が使う場合はまた強さが異なる。竜は覇精以外を宿してもまともに力を発揮できない代わりに、覇精だけは非常に強力であり、他の種族を寄せ付けませんので】


 人間の中にも、希少魔法の使い手が生まれやすい血統は存在する。

 しかし、それでも精々半分だという。彼らはそれこそ、人間の大部分が魔力を宿して生まれるように、また別の資質を宿して生まれるのだ。


【長命者も同様。長命種ではなくとも同じ力をもって生まれる者はいます。そんな彼らのことを、我らは尊敬を込めて長命種と呼ぶ】

「なるほど……承知した。とはいえ、その実力を確かめたくもある」


 領地の混乱を嘆いている重臣たちが、必要な提案をしていた。

 元々、そのために集まっているのであるし。


【それは我らも同じです】

「であれば、我らの国内で起きている、兵士の反乱、賊に堕ちている者へ対処したい。首謀者は捕らえ処罰するが、他の者はできるだけ戦力として復帰させたい。ある程度の罰を与える必要はあるだろうがな」

【もちろん、必要なことでしょう。しかし、我らも困っている。無償とはいかない】

「……陛下、日持ちしない食料を彼らへ出すのはいかがでしょうか」

「皮肉にも、欠員は多い。また、あの剣士も略奪はしなかった。保存できぬ食料から優先して都合すること自体は、この場で許可できよう」

【おお、感謝を】


 また、レッサードラゴンが頭を下げた。

 なるほど、切羽詰まっているらしい。


【であれば、我らも長老と若い衆を集めて派遣しましょう。橋の修理でも力仕事なら手伝える。その分も、都合していただきたい】

「わかった……早めに行動しよう」


 オセオの状況を把握しているからこそ、旧世界の者たちは手を組むように提案したのだ。

 であれば、まず体勢を整えねば戦争どころではない。そのために協力するのは、当然のことだった。


「並行して、ディスイヤに侵攻する準備を整えねばな」

【それにも、全力を尽くしましょう。一万年前の戦争も、全体を見ればウンガイキョウこそが最も厄介だったそうですが。しかし、覇精を宿した竜を殺したのは、ダインスレイフとエッケザックス、そしてパンドラだったという。その性質も含めて、できるだけ早くなんとかしたい】


 不気味なほどに、意見は一致していた。

 ともに危機感を持っているからこそ、迷う余裕が一切ないだけなのかもしれないが。


「もう一つ伺いたい。と、その前に……」

【なんでしょうか】

「名前を」

【……失礼した。アラゾメ、と呼ばれています】

「ではアラゾメ殿、そもそも貴殿を含めて旧世界の者たちは、我ら人間や一万年前の出来事をどう思っているのだ?」


 重臣の一人の質問は、はっきり言えば、人間や神を恨んでいるのかということである。

 確かに、それも聞いておくべきことではあった。


【『興味がない』これは長命種を除けば、ほとんど全員が思っていることです】


 即答だった。

 そして、それは同感でもある

 はっきり言ってこの会議室の中の人間も、目の前の彼を不気味には思っても憎悪はなかった。


【一万年前に何があったのかは知っています。だが、知っているだけ。確かに母なる世界が滅びた直接の原因だとは知っているが、祖父の代ならまだしも一万年前のことなど想像もできません】


 ただのおとぎ話であり、伝説であり、神話である。

 追放された人間側にとってさえどうでもいいことである。勝った側の彼らにしても、どうでもいいことなのだろう。


【仮に、我らの行いがまたしても神の怒りに触れたとして、一万年後の子孫が恨んだとしましょう。まったく構わない。今の我らにとって、子や孫のことのほうが大事です。同様に、一万年前の先祖のことも恨んでいない。仮に一万年後に我らがこうなると知っても、負けていればそのまま我らは生まれていなかったでしょうし】


 もっと言えば、そんなことを言っている場合ではないのだろう。

 一万年前に先祖同士で殺しあっているとしても、共に存亡の危機に立っている状態である。

 仮に百年後に衝突するとしても、それどころか十年後に戦争へ発展したとしても、明日のことのほうがよほど重要だ。



「私もだ……アラゾメ殿、我らも明日のために全力を尽くす」



 相手が人間でも構わない。元々この世界の人間にとって、最大の敵は同じ人間である。

 たとえ手を組む相手が先祖の敵だったとしても、今の自分たちや子孫のためになら構わなかった。

 一万年後にこの星まで滅びるとしても、である。

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― 新着の感想 ―
[一言] よりによって世界の免疫系みたいなパンドラのいる所にドラゴンさんたち攻め込むのか。
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