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予兆

「いやあ、流石はこの国の最高学府で最高責任者を務めているお方だ。色々と勉強になったな」


 改めて、ソペード家ではトオンの歓迎会が開かれていた。

 俺に弟子入りしたいという奇特な彼は、この国での多くの出来事に感謝しているようで、何かと上機嫌だった。


「……兄上の前で醜態をさらし、申し訳ない気持ちです」

「そう言うな、相手が上手だというだけの事だ。私とて、あの方に殺意があればあの程度では済まなかっただろう」


 実際の所、あの先生が伝えたいことは大体伝わっていたようだ。

 火の魔法という、普及している『攻撃魔法』がどれだけ有用なのかを、分かりやすく説明していたのだから。

 つまり、一定の距離がある状態で、相手がどんな魔法を使うのかを知っていれば、射程距離の長さを生かしてそれなりには戦えるのだ。


「ですが、王気を宿すものとして……」

「では、お前が国を出たのは何のためだ。神降ろしの力をもって、弱者をいたぶるためか? 違うであろう。お前は更なる強者を求めたはずだ、であればこの敗北からも逃げるべきではない」


 魔法の最大の特徴は、その射程距離にある。

 なんだかんだ言って、俺が知っている限りだと遠距離攻撃ができるのは魔力を用いた魔法だけだ。

 遠くから攻撃できる利点は、俺達地球人なら誰でも知っていることである。


「よき学び舎ではないか、故郷に帰るときにはそれを持ち帰ればいい」

「はい……」


「……やっぱりいい男ね」

「そうですね、大変よろしい方かと」


 お嬢様は未練がましくトオンを見ている。お嬢様の男を見る目はそれなりに確かなようだ。

 第一候補がトオンで、第二候補が俺というのは落差がありすぎる気もするが。


「サンスイ……やっぱり彼を逃す手はないわ。貴方の弟子にしなさいよ」

「……では、お師匠様に許可をいただかないと。私は諸事情あって会いに行けませんから、途中までの案内ということになりますが」

「そういうことなら、その……私も会いに行きたいんだが」

「パパ、私もお師匠様に会いたい!」


 いや、なんでそんなに俺の師匠に会いたいのか……。弟子が言うのもどうかと思うが、会って楽しい人ではない。

 というか、学園長先生を見ていると、指導力の差を感じたし。

 そもそも俺も師匠も、人間の寿命しかない相手に指導するとか、考えたこともないし。


「ぬぬぬ! そういうことなら我も連れていけ! スイボクには言いたいことが山のようにあるのだ!」


 ああ、そうでした。俺以外にもうひとり、師匠と面識のある人がいた。人というか、剣だけど。

 まさか五百年以上付き合いがある俺でも知らないほど、とんでもなく昔の知り合いがいたとは。


「ただ……もうこの際はっきり申し上げるんだが……トオン様」

「ただのトオンでかまわん。元々王位継承権などない、マジャンを名乗ることもはばかられる身だ」

「ではトオン……実は私は仙気を宿す仙術使い、仙人なのです。なので……」

「なんと?!」


 え、知ってるの?

 仙人って、そんなにポピュラーなの? 少なくとも、スナエは知らなかったようだが。


「仙人……深山にこもり修行に明け暮れているという、あの仙人ですか?」

「え、ええ。故あって今はこのソペードのお嬢様の護衛を務めていますが……五年前までは深い森の中で、師と共に五百年鍛錬に勤しんでいました」


 自分で言うのもどうかと思うが、見た目が二十前の小僧がこんなこと言い出したら失笑ものだろう。

 仙人というからには、見た目からして老齢であるべきだ。


「道理で……霧か霞と戦っている気分でした。あの剣術がそれだけの鍛錬によるものであれば、納得です」

「近衛兵達と同じことを言うのね……」


 お嬢様、それ禁句。一応内緒になってるんですから。


「兄上、ご存じなのですか?」

「うむ、我が国よりさらに遠い、東の国で語られる伝説の使い手だ。この国からは更に遠いと聞いていたが、まさか仙人にして剣士という方に会えるとは……」


 当たり前だが、知っている人は知っているらしい仙人。

 それにしても、実在はともかく仙人という物自体は祭我も知っているはずだと思うのだが。


「……だって、俺と同じころにこっちに来てたと思ったから」

「まあ、そりゃそうだ」

「まあ、五年前からいたっていうことから、もうちょっと考えるべきだったとは思うけど」


 俺の冷たい視線によって、祭我はそんなことを言う。

 確かに見た目が若いし、コイツは師匠というものがいなかったらしいし、自分の尺度で考えた結果かもしれない。


「案内していただけるならありがたい。貴方を育てた師に、ぜひお会いしたい」

「果たして期待にそえるかどうか……何分私も我が師も、限られた命しか持たない人間に対して、剣を教えることなど……」


 なにせあの五百年、本当に素振りしかしてこなかったからな……。

 もちろん、それはそれで間違いではないと胸を張れるのだが、その一方で人間には無理だと言い切れるし。


「いやいや、薫陶を得るだけでもありがたいのだ。なにせ私が国を出たのも、元をただせば己の限界に当たったからこそ。武の極み、高みに立つお方とお話ができるのであれば、また何かを得られるのかもしれぬからな」


 ううむ、こうやって前向きな姿勢は見習わないといけないな。

 やはり謙虚に自分を見つめ、その上で高みを模索することが大事なのだなあ。


「スナエ、君のお兄さんは凄い人だな……少なくとも俺は、三回戦って三回負けて、それでも山水の弟子になりたいとは思えなかった。なんというか……遠すぎる気がしたんだ」

「っふ……そうだろう。兄上は王気を宿さず王位継承権こそなかったが、それでも多くの国民に慕われていた人格者だった。父である王も、兄弟の誰にも長兄であるトオンを見習えと言っていたものだ」


 遠い、か。それも聞きなれた言葉だ。

 確かにエッケザックスを捨てたことを含めて、師匠が目指し俺が憧れた境地は不合理の極みの様な合理性だった。

 その体現者になれた俺に、弟子入り志願者が少ないのも当然だろう。


「私もです……私にもお兄様がいますが、その……とても凄い人で……私なんか、家にいるのも肩身が狭くて……」


 ツガーが言うのは、ドウブの事だろう。確かにとても揺らぎの少ない人だった。

 一種の執行人ともいうべき彼は、そうでなければならないのだろう。


「私のお兄様だって……」


 お嬢様は立派に四大貴族の当主を引き継いでいる、自分のお兄様の事を引き合いに出そうとした。

 確かにお兄様は凄いと思いますよ、俺に政治の事ってよくわかりませんけど。

 ただお嬢様、なぜ下に見ているハピネを含めて、自分のお屋敷にトオンを招いたのかお忘れですか?


「お嬢様、お兄様とお父様が完全武装の騎兵隊を編成してこのお屋敷に進軍中です」

「……ええ、そう。殴って縛ってお連れしなさい。粗相のないようにね」



「ドゥーウェが屋敷に男を連れ込んだだとぉおおおおおおお!」

「一族郎党みなごろしじゃあああああああああああああああ!」



「ふん、相変わらず見事な腕前とでも言ってほしいのか?」

「しかし、これが主の家族に向けた歓待とは思えんがな」


 流石にバトラブの屋敷に進軍したら洒落にならない。

 その冷静な判断によって、ソペードでお迎えパーティーを開いたのである。

 予想は大当たりし、ソペードの当主と元当主は自分の娘の屋敷に突貫をかけて、そのまま俺に叩きのめされて、そして縛られて椅子に座っていた。


「お兄様、お父様。これは私の指示です」

「ふん、お前はまだ幼い。その辺りの事は私達に任せておけ」

「そうだ、何事にも時期と言うものがあるし、そもそもお前は勝手な婚姻など許される立場ではない」

「私の女としての旬は刻一刻と過ぎ去っていっているのですが」


 お嬢様の切実な発言を聞いても、お兄様もお父様も聞こえない振りをしている。

 良いのだろうか、これが立派な貴族で。


「私が王家直轄領に到着して半日……それで王都から騎兵隊を率いて進軍……素晴らしい練度だな」


 無理矢理褒めていくトオン。いいのだろうか、今さっきまで自分が軍勢によって討伐されそうになっていたのだが。

 それこそ、カプト家の領地で警戒していた、不当な懲罰ではないだろうか。裁判も何もないことだと思うのだが。


「ごめんなさいね、トオン様。私の兄や父がこのような無礼を……というか無礼という問題じゃないけど」

「いやいや、我が父もスナエが勝手に婚約したと知れば、この国に一戦吹っ掛けるかもしれん。父も兄も、妹を籠に入れておきたがるものだ。可愛いものよ」


 すげえ大器だ。ここまでくると怖くなってくるな。

 というか、祭我の顔が凄い。物凄く冷や汗をかいている。

 そりゃあ、王位継承権のある王女と婚約したら、そりゃあねえ。


「それに、ソペードが武門ということも納得した。流石は剣聖の主、馬も騎士もどちらも非常に優れている。よく選りすぐり、鍛えている証拠だ。羨ましいほどだぞ」


 その騎兵隊が、主に俺を殺すために使用されている件に関してはどう思われているのだろうか。


「まあ……」


 お嬢様が何とも言えない表情をしている。

 というか、トオンに惚れているようだった。そりゃあこんな好意的な反応をされたらそういう顔をしてもおかしくない。

 というか、百年の恋だって命の危機で冷めるレベルだしな。一国の大貴族が、こんなに殺す気だったらどんなにきれいな女の子でも、よほどの根性がないと添い遂げる気なんて起きないぞ。


「きさまああああ!」

「ドゥーウェをたぶらかしおってええええええ!」


「サンスイ、黙らせなさい」

「承知しました」



「それはそれとしてだ、バトラブの次期当主もいることだし、報告の内容を確認させてもらおうか」

「我らに確認もせずに、カプトの領地に向かったそうだな。あそこの娘が対価もなしにサンスイを借りることなどありえまい。よほどのことがあったのだろう」


 再び意識を取り戻したご両人は、ぶっちゃけドン引きするほどの切り替えの速さで、真面目な話をしていた。

 もちろん縄で縛られたままである。

 そんなソペードの当主たちを見て、バトラブの面々は素直にドン引きしている。動じていないのはトオンだけだった。


「ええ、カプトとディスイヤにも、サンスイやサイガのような切り札があると、そう教えられました。加えて、カプトではそれを切るとも」


 その言葉を聞いて、バトラブの面々は露骨に顔色を変えていた。

 そりゃあそうだ、俺や祭我のようなぶっ壊れた力の持ち主がいたら、慌てて当然だ。

 その一方で、お兄様やお父様は落ち着いているようだった。というか、一種納得しているようだった。


「カプトとディスイヤって、四大貴族の事だよな」

「そうよ、カプトは宗教面の総本山で各地の医療機関とつながりが強いわ。ディスイヤは商業面で強いんだけど……祭我と同じような人が沢山いるなんて……それに、それを切るってことは、なにかが起きるのかしら……」

「まさか、戦争か?」


 今更のように慌てている祭我。というか、お前自分も四大貴族の一角なんだから、名前ぐらいちゃんと把握しておけ。


「まず間違いないな。カプトと国境を接している国は、現在内乱が収まったところだ。にもかかわらず、国境沿いに戦力を集中させている」

「にもかかわらず、カプトの動きが鈍い。あそこの領地は土地柄として戦闘に強い法術使いが多く、防衛面では優秀だが、その割に我らへ声をかけていなかった」

「うむ、よほどの切り札がいると見た。おそらく、隠すことなく王家の前で明かすつもりだな。あの家らしいことだ」


 ソペードらしい切り札の晒し方が、当主の就任祝いに近衛兵を壊滅させることなのはどうかと思います。

 それはそれとして、完全に無関係なトオンやスナエも話をきいているのだが、その辺りはどうなのだろうか。


「ご両人、よろしいのかな。スナエはともかく、私は退室するべきだと思うのだが」

「バトラブに知られれば、そのままそちらにも話が行くだろう。隠すだけ無駄だ」

「それに、マジャン王国は遠すぎる。無関係すぎて、知られても問題ではない」


 二人とも、縛られているのに判断が冷静ですね。

 妹が関わらないととても格好がいいのに、どうしてここまで馬鹿になるのか。


「戦争……どうしてそんなことに?」

「単純に国庫が空で、食料が少ないからだ」

「内戦で敗北寸前に、旧政権は自国の城に火を放ったからな。あの国は疲弊したままであり、そもそも内乱の原因が凶作による食糧不足だ。ある所から奪わねば、民衆の多くが冬を越せずに飢えて死ぬだろう」


 祭我の質問に対して、ソペードのお二人は冷静に答えている。その辺り、素人にもわかるように丁寧だ。

 こういう話を聞くと、霞を食っている俺は申し訳ない気持ちになる。

 この手の話は多くの人々にとって他人事ではないが、俺や師匠は全く無縁だ。

 一生懸命生きている、という意味で獣以下である。


「そんな……それじゃあこちらから援助するとか……」

「それも難しいな。凶作になったのは我が国も同じであるし、そこまで余剰があるわけでない。第一、国民が納得せん」

「戦争を避ける思想は正しいが、必要なら躊躇うな。良いか、物事には優先順位と言うものがあるのだ。まず優先すべきは国家の利益、ついで自分の領地の利益、最後に自分以外の領地の利益だ」


 これから当主になるかもしれない祭我に、ありがたい言葉を送る縄で縛られたソペードの権力者たち。

 いいのだろうか、縄で縛られたままカッコいいこと言って。


「でも、戦争なんて馬鹿げてます。なんとか止められませんか?」

「馬鹿げているのは理解している。だが、侵略を受ける我らに叫んでどうする。向こうの国に言え」

「馬鹿げているというが、我らとて似たような状況なら戦争するであろうな。要は蔵の麦が尽きる前に他所から奪おうという話だ。倉が尽きてから慌てるより賢い。それに、戦争をすれば兵士が死ぬが、戦争しなければ民衆が死ぬぞ。これはそういう戦争だ」


 ううん、俺って飢えとは無関係だからなあ。

 こういう時、森の中で飢えて死んでいった狼の子供の事とか思い出して辛い。


「しかし、カプトに切り札か……まさかカプトがそこまで呑気というわけもないし……」

「ですな……であればむしろ不穏なのは王家の方か……」

「えっと……その、私が聴いていいのかわからないんですけど、その、王家って、向こうの国ですよね? 向こうの国って、共和制になったと聞いているんですけど……」

「もちろんアルカナ王国の王家だ」


 ツガーの質問に、律儀に答えるお兄様。その眼は、この場にいない王家を見ているようだった。


「な、何が問題なんですか?! まさか、こっちの国でも内戦を?!」

「それよりはましだがな……おそらく王家は全面戦争を行うだろう」

「ええ?! 全面戦争って……相手の国を亡ぼすまで戦うんですか?!」

「そこまではいわんが……国境線の小競り合いで治める気がないということだ」


 それはどういうことだろうか。流石にわからない。


「我が国の王家は愚鈍ではない。愚鈍ではないからこそ、勝機があるなら全面戦争を望むだろう。得られる利益が少なかったとしてもだ」

「そんな、なぜ?! 私が知っている王様や王女様は、全面戦争を望むような方ではないわ!」


 ハピネが声を荒げる。確かに、俺も王女様を見かけたことがある。

 俺の戦いを見てショックを受けているようだったが、そんなに愚かそうには見えなかった。

 

「では隣の国の新政権は、何の根拠があって戦争を仕掛ける? 国庫に余裕がない以上、少なくとも短期的にでも勝利し、こちらの富を奪わねばならん。国境沿いで撃破され、そのまま守りを固められれば、そのまま一気に不利になっていくにもかかわらずだ」

「それは、そうしないと国民が飢えて死ぬからでしょう?!」

「それもそうだ、確かにそれは理由ではある。だが、勝算があるからだ。それこそ、そこのサイガやサンスイのような、非常識な手駒がな」

「それは……」

「だからこそ、旧政権を倒せたのだ。だが、それでも旧政権を倒すのにそこそこの時間を要した。こちらに四つの切り札がある以上、ぶつけ合わせれば圧倒されることはあるまい。あとは、国力の差が露骨に出る」


 隣の国の新政権には、俺や祭我のような圧倒的な個人がいる。それはほぼ確実だ。

 しかし、旧政権を倒すことができたとしても、それに時間がかかった以上そこまででたらめではないだろう。少なくとも、大量殺戮や暗殺に特化しているのはいないはずだ。

 こっちに四人の切り札がいる以上、切り札同士で拮抗させることができる。あとは、それ以外の差が露骨に出るという事か。

 つまり、金持ち勝つの法則である。


「そうなれば、後は敵が恐れているように、そのまま国境を固めればいい。それで勝ちは決まっている」

「だが、我ら四大貴族の全てに切り札が存在すると知られれば、王家は焦るだろう。なにせ発言力が相対的に下がりすぎるからな。であれば……向こうの切り札を得ようとするだろう」


 お隣の国にとって生命線であろう切り札を、王家直属の兵にする。それを講和の条件にするという事か。

 それこそ、全面戦争で勝たないと呑み込めない案件だな。


「カプトの切り札は、隠しようもないほど派手と見た……王家が危機感を抱くほどのな」

「加えて、ディスイヤにはアレがある。おそらく、アレを使えるものが現れたのだろう。王家がそれを想像してもおかしくはない」


 そう言って、ご両人はエッケザックスを見ていた。


「最悪の鎧、災鎧パンドラ。知っているはずだな?」

「ぬ……この国の貴族が持っていたか」

「うむ、君と同じ神の作った兵器。誰も使えなかったアレを、あの家は代々コレクションとして保管していた。家の箔としてな。だが使えるとなればこれ以上ない切り札となる」


 なんか話を聞いていると、どんどん王家とお隣の国がかわいそうになってくる。

 四大貴族の全てが国家を転覆させそうな切り札を持っているとか、王家の面目丸つぶれすぎるし、怖すぎる。

 一切保険がない状態じゃあ、求心力も失せていくだろうしな……。


「とはいえ、最悪とは程遠いがな。我らは勝ち方を悩めばいいだけで、そこまで悪い話ではない」

「カプトはほぼ単独で国境を押さえるであろうし、ある程度疲弊したところで進軍するだけの楽な戦争だ。敵にも切り札がいるとすれば、お前にも働いてもらうこともあるだろう。その時は頼んだぞ、サンスイ」


 仙人を戦争に駆り出さないでいただきたい。

 とはいえ、戦場が限定されるなら、確かに怖いこともないか。


「ねえパパ。怖いことになるの?」

「いいや、大丈夫だ。お前が心配することなんて何もないぞ」


 そう、所詮は国家間の戦争。おそらく俺の役割は、どちらかといえば防御寄りだろう。

 俺の守るべきお嬢様もレインもブロワも、前線で戦うなどあり得ないのだ。

 だから、俺は特に不安もなかったのだ。



「おのれ……高貴なる私の腕を石に変えるとは……それに、あの剣聖とやらも忌々しい。奴があの男の腕の一本でも切っておけば……」


「ヌリ様、報告があります」


「なんだ、良い報告であろうな?」


「まず、例の娘ですが、このアルカナ王国の領地で乳母が死亡し、そこからまた何者かが拾ったそうです」


「……つまり、生きている可能性が高いという事か。そこから先の足取りは?」


「ええ、それからもう一つ。あの剣聖という男なのですが、五年前に娘を連れてソペードに雇われたと」


「……だから何だ?」


「奴の娘は、五歳ほど。それに加えて髪の色は……」


「……銀色、まさか、そういうことなのか?!」


「お顔に関しても、生き写しかと……」


「そんな、馬鹿な……せっかく見つけた娘が、既にこの国で確保されていると?! それも、ソペードに!」

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