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地味な剣聖はそれでも最強です  作者: 明石六郎
人生の墓場、国家の葬式
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到着

 今回の結婚式では、荒事の可能性がある。

 加えて、表向きは俺の養子でしかないレインを出席させる必要はないし、今のブロワは地方領主の二女でしかないので出席しない理由には十分だった。

 お嬢様は残念に思うかもしれないが、そこまで無茶は言わないだろう。

 ともあれ、俺はお兄様と一緒に馬車へ乗っていた。目指すは王都、結婚式場である。

 俺は名目上お兄様の護衛でもあるので、同じ馬車に乗っていた。

 その道中で、退屈をしのぐことも兼て報告を行っていた。


「ふん……」


 当たり前だが、お嬢様が嫁として認められたうんぬんは余り面白く思っていないようだった。

 確かに自然な反応だが、お兄様は妹を何だと思っているのだろうか?

 俺は知っている。お兄様の奥さまやお坊ちゃまは、その辺りをとても複雑に感じているのだと。


「それにしても、クロー・バトラブか」

「祭我様は、本当に強く大きくなられたと思います」

「……それはそうだろう、お前やトオンがそばにいるのだからな。どちらかと言えば、クローの方がいい方向に落ち着いたことが、お前としては嬉しかったのではないか?」

「……恐れ入りました」


 遠い目をして、共感しているらしいお兄様。

 どうやら俺だけではなく、お兄様もいろいろと思うところがあるらしい。


「……社会とは総体のためにある。誰もが望む仕事に就けるわけではないし、誰もが幸福になれるわけではない。親が望んで産んで、働かされた挙句追い出される子供などざらだ。だがそれは……そうなるしかないからこそそうなっているだけだ。別に誰かが悪意を持って、意図して誰かを排外しているわけではない」


 虐げられている人々がいて、不遇な人々がいて、幸福からほど遠い人々がいる。

 そんな彼らが悪いわけではないが、そんな彼らを排斥している人々も悪意があるわけではない。

 ぶっちゃけ、そんなに暇じゃない。日本の学校でいじめをするのとはわけが違う。

 技術水準とか食糧事情とか、そういう基本的で根本的な問題だ。

 今が最大限に人間を養える社会体系で、これより良くするには技術が向上する必要があるだろう。

 もちろん、俺や師匠にはなんの関係もない。飲み食いが不必要だし、そもそも人間社会に全く依存していない。

 文章だけ羅列すると、本当に猿みたいな生活だなあ。


「とはいえ、既に高い地位にいる私たちだからこその結論でもある。下にいる人間としてはたまったものではないし……私も父も、お前の生徒のような人間が嫌いではない」

「……皆、それを知っていると思います」


 そうでもなければ、こうも厚遇するまい。

 俺の場合は破格だが、それに劣るとはいえ彼らに武芸指南役などという名誉職は与えまい。

 俺の場合は近衛兵が何百人いても、何億人いても物の数ではないが、彼らはその近衛兵に劣るのだ。

 それでも名誉職に推薦したのだ、そこには確実な好意がある。


「私も父も、結局は決まった道を歩いてきた男だ。それを恥じるつもりはないが、やはり自分の力で生きている者へ憧れや尊敬の念もある。もちろん全員を厚遇できるわけもないが、私や父の裁量でやれる範囲なら、配慮はする」


 希少魔法が使える、凄腕の少年剣士。それぐらいの認識で俺を雇ってくれたのは、つまりそういうことなのだろう。


「クローも似たようなものだろう。彼らが無為に生きて無駄に暴れ、無様に死ぬことが予見できてしまった。だからこそ、せめて生きる場所を与えたかった。たとえ軍隊だとしても……町のチンピラで終わるよりはマシだからな」


 ツガーは軍隊を人殺しと呼び、その訓練を人殺しの練習と言っていた。全くその通りであり、何も間違っていない。

 しかし、じゃあ他のことを教えようとして、彼らがそれを熱心に頑張れたかと言えば、その限りではあるまい。

 言っては何だが、彼らは目に見えて強くなれる、軍隊の訓練ぐらいしか熱中できなかっただろう。


「とはいえ、それを口にしたことは間違っていたな。相手に自分の目標を語ることが誠意と思っていたのだろうが、それがあだとなった。相手がまともな教育を受けたわけでもないと知っているくせに、馬鹿正直に気高い目標を語ってしまった。それが彼らを増長させたのだ」

「彼らは、クロー様の期待に応えていました。それがクロー様の視野を狭くしていたのでしょう」

「今、すぐそこにある目標だけ語るべきだったな。若さゆえに焦った結果だ」


 一つ一つ、段階を踏んでいくべきだった。

 そうお兄様は語る。段階を踏んでいくことでより良い道が見えることもあると、信じているようだった。


「……それなりに時間と費用を費やして、良い指導者が熱意のある人間を鍛えれば、強くなって当たり前か」

「ハピネさまはそうおっしゃっていました」

「そうだろうな、その最たる例がお前自身だ」


 違いない、まったく才能がない俺がここまで強くなれたのは、師匠が俺に五百年も費やしてくれたからに他ならない。


「世界最強の男であるスイボク殿が、お前一人だけを五百年も鍛え続けた。まあスイボク殿からしてみればまだまだだろうが……だからこそお前は、ここまで強くなった。クローがそう信じたように、お前こそがその成功例であり理想だ」

「師匠には、感謝しかしておりません」

「とはいえ、それは極端すぎるがな。お前もだいぶ矯正された結果今の性格になったのだろうが、少なくとも今の私はお前の様になりたいとは全く思っていない。五百年も禁欲生活を続けるなど、想像するだに気が狂いそうだ」


 とても普通で、とても素直な心境だった。

 俺に対して、呆れを感じているようだった。


「五百年修業すれば今のお前のようになれると言われれば納得できるが、サイガでさえそれに挑戦しようとも思っていない。それはそうだろうな……理屈はわかるが、余りにも見合わない」


 努力すれば強くなれるとして、強くなれば社会から認めてもらえるとして、俺や師匠の様に修行することはあるまい。

 昔の俺だって、どっちかと言えば祭我の様になりたかったんだし。


「そこが常人の限界であり……だからこそ、お前にあこがれる。理想を目指して、理想に達したお前にあこがれる。私も父も妹も、お前の強さを気に入っている」


 それも、気持ちはわかる。

 昔の俺だったら、確かに自分のことのように自慢していただろう。


「人間は、強いものが好きだ。ことさらに、懸絶した個人の強さがな。軍隊よりも有用ではないと知っていても、それでも強い個人を求めている。まして、軍隊よりも強いと知れば……さらにな。とはいえ、限度はある」


 師匠のことか、あるいは正蔵のことだろう。

 とても悩まし気な顔をしていた。


「カプトは、よくもアレを己の懐中に収めているものだ。それだけで尊敬に値する」

「そうですね……彼は少し、手に余ります」

「少しどころではないだろう……だいぶ余るぞ。フウケイ殿が来た時に強く思ったが、度を越えた力には忌避感しかわかない」


 そりゃあそうだろうなあ……。

 ああいう系のチートも珍しくはないけれども、近くにいたらあこがれるどころじゃないよな。

 本人もそんなに楽しそうじゃなかったしな。


「私や祭我ぐらいがちょうどいいのでしょうね」

「そうだな……そんな連中が一か所に集まるのか……というよりも、既に王都に四人とも集まっているのだな」


 俺が到着する頃には、他の四人が集まっている。

 一人で軍隊を蹴散らすような、切り札が集結しているのか……。


 まあ、全員が集まっていても、右京とダヌアがある時点で、おおむね察しはつくのだが。



 当たり前ではあるが、今回の結婚式で出す料理はアルカナ王国の、国家の威信にかかわっている。

 アレルギーうんぬんは抜きにするとしても、味とか宗教的な材料とか臭いとか、食べにくいとかそういうものに気を使う必要があった。

 なので、事前にダヌアで出す料理はある程度試食する必要があったのだが……。


 王都の宮殿に入った時点で、既にものすごい大量の料理の匂いが充満していた。

 五百年ぶりに感じる、なつかしき日本の料理の匂いが鼻をくすぐる。

 もしも俺が金丹を呑んで食欲を取り戻していれば、それこそよだれを垂らしていたかもしれない。


「……これは、ダヌアの料理の匂いか」

「右京様が料理を城中に振舞っているのでしょう」


 元々右京は、ダヌアを使えるほどに慈愛深く、施しの心を持っている。

 であれば、それこそ城一つに日本食を振舞っていても不思議ではない。


「……一応聞くが、食堂や調理場はどうなっている?」

「ものすごく、敗北感が充満しています」


 お兄様も俺も、多くを悟っていた。

 俺たちの故郷の料理を食べて、内政チート系のショックをこの城の人に与えてしまったのだろう。

 

「ハンバーガーだ~~~!」

「うめっ! うめっ!」


 すごいなあ……祭我の声が聞こえてくるぞ。

 よっぽどがつがつ食ってるんだろうなあ……。

 あと、ランの声も聞こえてくる。


「ウキョウとお前は同郷だったな。お前の故郷は……どういう国なのだ?」

「その……色々と、変わった国でして」

「なぜわざわざ我が国へ来たのだ……」

 

 いや、本当になんででしょうねえ。

 こうやって異世界に来ると、本当になんで日本からここへ来たのか思い出せなくなる。

 日本にいた時は、異世界にあこがれていたんだけどなあ。


「んぐすくすふぁりっふあ!(意訳:この腐れガキが!) 野菜もくわんか! この馬鹿タレ!」


 そうか、日本人が集まると日本濃度が上がるのか……。

 変に納得しながら、俺はダヌアの絶叫に耳を傾けるのだった。

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