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地味な剣聖はそれでも最強です  作者: 明石六郎
人生の墓場、国家の葬式
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予約を間違えました。

申し訳ありません。



 五百年も素振りするんですか?!

 という懐かしい発言を、人に指導するときにいつも思い出す。


 師匠に弟子入りした時に、俺は修行というものをとても面倒に思っていた。

 とても普通に、ただつよさをポンともらえるつもりだった。

 その辺り軽く考えていた。最強の男の弟子になれば、そのまま最強になれると思っていた。

 なので、俺は学園の生徒たちが、さほど本腰を入れずに『授業を受けていた』ことを嘲らない。

 俺という男が、一番いい加減で適当だったのだ。別に悪いことをしているわけでもない生徒が、本気で強くなりたいと思っていなくても、それはそれでいいことだと思っている。


 とはいえ、強くなりたいと、あるいは最強に触れたいと思っている者たちに対して、最強として接することも楽しいと思っている。

 師匠が俺にそう接してくれたように、俺もまた彼らに対して恥じぬ最強でありたいと思っている。


「どうも、初めての方も、久しぶりの方もいらっしゃるでしょうが……先日爵位を授かり、ソペード家の筆頭剣士にして武芸指南役総元締めという御役目を承りました、白黒山水と申します」


 俺の前に並んでいるのは、ソペードの本家が控えている常備軍、正規兵の精鋭部隊だった。

 その彼らは、着流しに木刀という俺を前にして、侮りや興味、あるいは敬意や恐怖を感じている。

 金丹を使用していない噂通りの俺を見て、誰もが注目していた。


「私は本来武芸指南役にふさわしくない、軍隊に参加したことのない未熟者ですが……当主様から直々のご命令を頂いております。私と剣を交えたことがない方は、陣形を組んでください。百人単位で恐縮ですが……全員倒します」



 思うに、俺がお兄様やお父様から厚遇されていることの一因は、俺が手加減を間違えないことだろう。

 千人以上の、完全武装した兵士たち。その彼ら全員を木刀で殴打した俺は、しかし誰も後遺症を残すことなく倒すことができていた。

 対峙した敵を殺すことしかできなかった、そんな後悔を抱えていた師匠が俺に授けてくれた理想であり技量。

 百人を相手にして、それを十回繰り返して、俺は誰も殺さずに済ませている。

 法術使いからの治療さえ不要な程度の怪我を負っていた面々は、改めて俺へ恐怖を向けていた。

 以前に俺と戦ったことがある面々は、戦慄とともに畏敬を抱いている。


 そう、こればかりは祭我にもランにもできない、俺と師匠だけの技だろう。

 強さを証明するために、実際に戦って、しかし誰も怪我をさせないのだから。


「さて……それでは失礼を」


 俺はこれから、俺と戦ったことがある面々と戦わなければならない。

 とはいえ、今までと変わりがないようでは、彼らに悪いだろう。

 俺は師匠から授かっている金丹を呑んで、肉体を急速に成長させる。とはいえ、異様に筋肉がムキムキになるわけではない。目の前の彼らとさほど変わりのない身長になる程度だ。

 その上で、手に持つのは金属製の剣だった。目の前の彼らが使っているものと変わらない、普通の剣だった。


「そ、そのお姿は……」

「これは仮の姿です。どうかお気になさらず」

「その剣は……」

「これは実用の剣です。ご安心を、これを使っても怪我をさせることはありませんので」


 それでも、彼らの驚嘆は著しい。

 なにせ、今まで子供の体格で、練習用の木刀でも百人を相手に一蹴したのだ。

 これで、通常の体格に通常の剣を使うのだ。

 彼らとしては、ラスボスがいきなり第二形態になった、とかそういうたぐいの絶望があるのだろう。


「一人一人、時間をかけて指導をさせて頂きます」

「……ありがとうございます」


 気を引き締めて、おそらくベテランの域に達しているであろう兵士と向き合う。

 その上で、先手を譲る。目の前の相手が意気を込めて打ち込んでくるが、それを正面から受けてみる。


「なっ?!」

「いい打ち込みですね」

「……ハッ!」


 俺は彼の攻撃を剣で受ける。

 それは今までの俺にはない選択肢であり、できない行動だった。

 なにせ俺の筋力は見た目と大差なく、故にひたすら相手の先手をとることしかできなかった。

 もちろんそれがとてもむずかしいことであり、一種の理想像ではあるのだろうが、それしかできない、というのは欠陥があると言わざるを得まい。


「……おおお!」


 今までにない、俺の戦闘方法。

 一人と立ち会うからこそ許される、剣士の攻防。


 俺はそれを楽しんでいるのだが、あいにくと相手はそうでもないようだった。

 俺はよく霧か霞と戦っている気分だ、と言われることがある。

 どう打ち込んでも、どれだけ囲んでも、どれだけ長く戦っても、まったく掴みどころがなかった俺。

 その俺と、攻防ができている。その事実に高揚しているのか、その覇気は著しかった。

 それでもランと違って、きっちりと技量はある。さすがはソペードの精鋭というところだろう。


「おおおおお!」

「そこです」


 ばきん、という硬質な音が響いた。

 俺のひと振りで彼の持っていた剣が、根本から折れていた。

 渾身の力を込めて剣を握っていた、彼の手が震えている。

 それ以上に、彼の目は震えていた。


「貴方は……剛剣も扱えるのですか?」

「いまの体格なら、十分可能です。とはいえ、さすがに今の戦い方で何百人も相手にはできませんが」


 やろうと思えば、鉄を断つ剣を使える。

 そうした戦い方でも、正規兵をはるかに超えている。

 その事実に、彼は震えていた。同様に、彼以外の面々もである。


「では、次の方もどうぞ。ご安心ください、さすがに一本や二本ならまだしも……百本以上もおれば、さすがに怒られてしまうので、次からは剣をおらずに決着をつけますので」


 その言葉を聞いて、次の兵士が俺の前に立つ。

 国内最強である俺と戦う。その得がたい機会を無駄にすまいと、彼はとても集中していた。

 その彼からは邪念がなく、しかし渾身の気迫を感じる。


 嬉しいことに、全力で打ち込んでも俺なら受け止められる、という信頼が見て取れる。

 それに答えたくなってしまうのは、望ましいことなのか否なのか。


「よろしくおねがいします」


 この彼に対して、長い時間が費やせないことが呪わしい。

 それでも、俺には彼だけではなくたくさんの人へ指導をしなければならなかった。

 なので、目の前の彼にはできるだけ濃密な時間を送りたかった。


「どうぞ」

「では……」


 周囲の目が、俺と彼に集まってくる。

 その彼から、速攻が打ち込まれてくる。

 俺はそれをしっかりと受け止める。

 それは当然、人知を超えた怪力を発揮出るわけではない俺にとって、どうしようもなく次の手が遅れることを意味していた。

 目の前の彼は、攻めて攻めて、攻めて攻めきるつもりなのだろう。

 人間は全力で攻撃し続けることができないが、それでも短期的にはほぼ問題ない。

 加えて、受けに回っている俺の筋力にも限度はある。

 それに、相手は熟練の兵士。そこいらのチンピラとは体力も違う。


「おおおおおおおおおおおおおおお!」

「なんの」


 相手の攻撃の、機を捉える。

 間断なく攻め続けるといっても、力を込めて剣を振るう以上、必ず攻撃の隙間がある。

 それを読み取って、逆に速攻を仕掛ける。


「くっ……!」

「連続攻撃を行うならば……」


 受けに回って、勝ち目などあるわけもない。

 目の前の彼は、負けてなるものかと反撃に転じようとする。

 しかし、それでもこちらのほうが優位。相手が防御できるタイミングで、しかし俺も攻撃する。

 それを、彼は辛くも受け止めていた。しかし、反撃させまいと数回打ち込む。


「ある程度型を作り、数回に収めるべきですね」

「なんの!」


 切り返そうと、無理な姿勢からでも攻勢に転じようとする。

 その不自然な体勢からの一撃を、俺は待っていた。

 俺も渾身の力を込めて打ち込み、彼の剣を弾いていた。


「相手の技量が上であると理解しているのであればこそ、無理は禁物です。如何に鍛えているとしても、不十分な体勢から無理に手を出しても、力を込め切ることなど出来ませんよ」

「ま、参りました……」


 とても残念そうに、彼は引き下がっていく。

 弾かれた剣は地面に刺さっているが、それは彼の心中を表していたのかもしれない。


「では、次の方もどうぞ」


 今までの俺には、剣術でも選択肢が限られていた。

 しかし、それが補われた以上、より一層の指導が可能だった。


 俺への視線を、心地良いとも感じている。

 既に倒れている、俺と初めて戦った面々からの不満や畏敬。

 何度か剣を交えている面々からの、底しれぬ力が更に増したことへの驚嘆。

 それらが、俺がかつて求めたものなのだとしたら、あるいは師匠が本当に必要としていたものなのだとしたら。

 俺も一定の段階に達していると認めざるをえないだろう。


「お願いします!」

「ええ、続けましょう」


 これが、これから先も続ける俺の仕事なのだとしたら、それはとても誇らしいことだった。

 ただ、これが金丹の薬効によるものでもある、という事はきっちりと覚えておかねばなるまい。



 次に王都へ行ったときは、師匠に追加をもらっておこう。

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