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現状

 宝貝、風火輪。

 足首に取り付ける木で作られた車輪であるが、別に火が出るわけでも風が出るわけでもない。

 その機能は空中での戦闘を可能にするというもの。

 仙術の場合空を飛ぶというのは、自己を軽くしたり風に乗ったりすることによって可能になるのだが、これだけでは当然空中での立ち回りがとても難しいことを意味している。

 なにせ、攻撃とは基本的に自分の重さを利用するものである。自分が風船のように軽くなっては、その攻撃のすべても軽くなってしまう。

 なので、風火輪という宝貝は単純に軽身功による重量軽減だけではなく、空中を滑るように移動できる『氷刃』や空中を踏みしめる『雲踏』という術も使えるようになっている。

 他の単純な仙術の宝貝と違って、かなり高等な宝貝であるといえるだろう。

 とはいえ、それだけ他の宝貝よりも『戦闘で重要』ということでもあり、戦闘のために宝貝作りを学んだスイボクが気合を入れて作った道具でもある。


「ひゃっほおおおお!」


 ともかく、飛ぶのは楽しい。

 魔法の飛行と違って高速ではないが、燃費がとても良い仙術による空中散歩は、その自由度や難易度の低さも相まって、とても楽しいものだった。

 それは山水の生徒たちも、あるいはマジャンの王でも同じことだった。


 マジャン=ハーン。

 現マジャンの国王は、暇を見つけては息子たちと一緒に空中散歩を楽しんでいた。

 なにせ、鳥の如く空を飛べるのである。童心に帰っても不思議ではあるまい。


「いやあ……この玩具は最高だな!」

「父上……あまりはしゃいでは」

「そういうなって……こりゃあ馬に乗るより楽しいだろう!」

「いいじゃないの、トオン……ああしてはしゃぐ殿方も素敵よ」


 トオンはドゥーウェを『お姫様だっこ』しながら、自国を足元にする父親の後を追いかけていた。

 仙術の効果によってドゥーウェも軽くなっているため、抱えていても腕が辛いということはないのだが、流石に落とすとそのまま落ちるので、トオンは気が気でない。


「兄貴……これ、楽しいけど親父が夢中になり過ぎだぜ」


 マジャン=ヘキ。王の代行を務めていた彼も、そのあとに続いている。

 表向きにも完全復活したハーンの威光もあって、何とか国を回している彼も、この空中散歩を楽しんでいる身ではあるのだが、親が楽しみ過ぎていてやや引いていた。


 とはいえ、やはり己の国を空から見下ろすという感覚は、何度味わっても素晴らしいものではあったのだが。



『おおおおおおお!』


 神降しの最大奥義、神獣化。

 つまり象かそれ以上の大きさになることができる術であり、王家に属する者にとっては最低限習得しなければいけない術だった。


 それを練習している祭我だが、今のところ習得の度合いは半分というところである

 具体的に言うと、悪血によって自己強化した場合なら、なんとか巨大な狼になり維持できる段階である。


『きつい! しんどい! 疲れる! もう無理!』


 王気の基本量が少ないため、何度も練習してその量を増やさなければならないのだが、それはつまり短距離走を何度も繰り返すようなものである。

 楽しいものではないし、すごい疲れるのも当たり前だった。


 王宮の庭でスナエをはじめとした王族に見守られながら、悪血による興奮状態で素直に疲れていることをぶちまけていく祭我。その姿を、スナエはややつまらなそうに見ていた。

 なにせ、自分の兄弟姉妹が自分の男の情けないところを、ほほえましく見守っているのだ。そりゃあ面白くない。


「サイガ! もう少し気合を入れろ!」

「いや……もう無理、王気も悪血も尽きた……」

「それでもこの場の全員を殺し絶やせる程度には強いのだろう! 意地を見せろ!」

「そりゃあそうだけどさあ……」


 術の規模や威力は、エッケザックスで増幅できる。

 術の精度や習得具合は、悪血で向上させることができる。

 しかし、内包している気血の量に関しては、流石にどうにもならない。

 蟠桃を大量に用意してもらえば話は別かもしれないが、流石にダヌアはここにないのでそんな無茶はできないのだ。


「スナエ……アンタの男、あんなに疲れてもそんなに強いの?」

「当たり前だ、神と一体化した私でさえ神降しも凶憑きも習得していなかったころのサイガに勝てなかったのだぞ! 今はもっと強くなっている! そうだろう、サンスイ!」


 先日の御前試合では猛威を振るったにもかかわらず、本人が神降しの奥義を使いこなせていないことで、微妙に株が下がっている祭我を持ち上げようとするスナエ。

 それに対して、いざという時に止めるため待機している山水は素直な評価をしていた。


「ええ……殺す、という前提なら何の問題もありません。占術で予知し法術で受け魔法で攻撃する、それさえそろっていれば神降しを相手にしても倒せるでしょう。それこそ、エッケザックスも必要ありません」

「そうだろうそうだろう! アレはもうとっくに強いのに、鍛錬を怠らないところがよいのだ! まあ未だに神獣になれないのはどうかと思うが……こうして練習できるところが一番いいところだと思っているぞ。それに、疑うのなら……王族として挑めばいい。違うか?」

「やめとく……」

「ああ、悪かった……」


 山水のお墨付き、ということもあるのだろうが、先日の光景を思い出して誰もが己の軽率さを謝っていた。

 そう、まさに絶対無敵といわんばかりの暴虐で、神獣になった王女を蹂躙したのである。あんなのに勝てるわけがないと、誰もが痛感していたのだ。

 実際の強さがあり、それを目の前で証明された以上、挑む覚悟もないのに侮辱する側に問題がある。

 強者の王国の王族は、スナエへ謝罪していた。


「……父は私との結婚を認めてくださったが、やはり恰好がつかん。悪血に頼らずとも神獣になって、それを維持できるようになってもらわないと、この国を去れんぞ」

「……なんか、ずいぶん遠そうな話ね」


 スナエの気持ちもわかるが、その日が少々遠いことになると理解しているハピネは、ややうんざりとした顔をしていた。

 とはいえ、退屈ではあっても窮屈ではない。

 強者の王国でその武勇を示したアルカナ王国の面々は、やはり畏敬の念を抱かれる側に回っていた。

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