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不足

 ゴーレムの群れが向かってきたので、一番先頭のゴーレムをバラバラに砕きながら吹き飛ばし、他のゴーレムにぶつけて全機破壊した。

 スイボクは自分のそばにいた学園の教員へ、そう語っている。


 簡潔に文章でまとめただけでも大分頭がおかしくなりそうだったのだが、スイボクがどんな術をどう使ってこれを成功させたのかを説明すると、さらに頭がおかしくなりそうであった。


 気功剣法、十文字。

 これは剣で触れたものを素手で触ったがごとく扱える術であり、厳密には仙術ではなく無属性魔法であり、本来は別の用途で使われる術である。

 スイボクはこれによって、木刀で触れた相手へ内功法や外功法で干渉することが可能になっていた。


 内功法、石鏡。

 これはぶつかってきた物を軽くして、弾性の物体の如くはじき返す術である。

 内功法であるため、あくまでも接触している間しか物体を軽くすることはない。


 外功法、崩城。

 触れた物体の全体の重さを変化させるのではなく、触れた物体の構造上の弱点だけを複数個所重くする術。

 人間でいえば足首や膝、股関節などに極端な負荷をかけて、脱臼させたり骨折させたりする。

 人間に酷似した構造を持っている物体ならば、当然人間のようにバラバラにすることも可能。


 外功法、玉突。

 投げた物体を、威力を持たせて他に命中させて破壊する術。

 投山という術に近いのだがこちらのほうが高度であり、速度と重量を持って対象へ甚大な損傷を与える。


 これらを全部同時に使って先ほどの行為を実現に導いたのだが、スイボクがほぼ無尽蔵に仙気を使える森の中であることを差し引いても、尋常ならざる技術が使われている。


 まず、初見のゴーレムの構造上の弱点を正確に見切っていたこと。

 これは、相手が立ち止まっている時の姿勢や、走っているときの動きを見れば見切れると彼は言うが、それは生物の止まっている姿と歩いている姿を見ただけで、その骨格図を脳内へ正確に描くようなものである。

 如何に二足歩行のゴーレムとはいえ、見切るのが早すぎると言えた。


 加えて、剣で一度触れただけの相手へ、正確に複数の術をかけたこと。

 まず石鏡で自分に向かってくる相手を反対方向へ移動させるようにしむけ。

 次に一度一部に触れただけの相手の全身へ崩城をかけて全身をバラバラにし。

 最後に玉突で正確に狙った方向へゴーレムの全部位を飛ばす。

 これを一瞬一度の接触で完了させるという、異常な工程を踏んでいる。

 

 当然、自分に向かってくるすべてのゴーレムがどう動くのかを計算したうえで、バラバラにしたゴーレムの部位をどこにどう飛ばせばいいのか、きちんと考えて成功させなければ一度で掃討することなど不可能である。

 正直一体一体を投山で浮かせて投げたほうが簡単なような気もするが、スイボクにとってはどちらも等しく簡単なことなのだろう。

 剣術と仙術を同時に極め、完全なる自負を得ている彼らしい不敵さであり戦闘の組み立てである。


 そのでたらめさ加減に比べれば、視界の外で飛翔し離脱しようとしている二人の人間を同時に縮地で引き寄せ、気功剣で強化した自分の毛髪を服越しに急所へ突き刺しマヒさせることも。

 あるいは服毒自殺を図った工作員二人へ解毒を施し、彼らの呼吸や鼓動を発勁で落ち着かせて生理的に無防備な状態へすることなど、神業と呼ぶこともおこがましいのだろう。



 アルカナ王国は現在五つの切り札と八種神宝のすべてを所有し、ある程度自由に使うことができている。

 とはいえ、基本的に五つの神宝は隣国ドミノが使用しており、これらが抜けると一気に国が崩壊するので軽々に使うわけにはいかないのだが。

 加えて、現在ソペードとバトラブの切り札は国外に出ており、エッケザックスもそれに追従している。


 戦力が大幅に下がっていることは否めないが、それでもノアに守られている『傷だらけの愚者』とパンドラをリスクなく使用できる『考える男』がそろっている以上、問題にはなりえなかった。

 加えて、すべての家のトップが最も信頼を置いている『童顔の剣聖』の師匠がアルカナ王国へ借りを感じてくれていることも大きいだろう。


 五人の切り札たちは皆が皆『正しい情報ほど嘘』と思われる、ある意味酒の席でも語られないほどの面白くない冗談のような面々であるのだが、スイボクはさらにその上をいく存在である。

 なにせ、八種神宝のことごとくが彼を『化物』とよんではばかりないのだ。神話で語られるこの『荒ぶる神』は、山水以上に一切の底を見せない。


「ということで、捕まえておいた。まったく、二千年以上たっても『国』というものは懲りんな。人をさらって物を作らせようなどとは言語道断である」


 正し、ここで重要なのはスイボクは山水と違って、アルカナ王国に従属しているというわけではないということである。

 根が個人主義というか自然主義なので、実行する前に一々了解を取らない。

 理不尽に攻撃して不条理に滅亡させることはないのだが、国にケンカを売られれば右京同様に国を亡ぼすまで戦うのだ。

 そして、今まで一度も負けはない。

 いかにエッケザックスを手放してしまい、パンドラの完全適合者には勝ち目がなくなったとしても、それでもなお世界最強は伊達ではない。

 否、彼を語るには世界最強などという言葉さえ不足なのだ。


「すでにどこの国の者かは吐かせておる。連れていたゴーレムも学園に運んでおいたぞ」

「ご助力、感謝いたします」


 彼から報告を受けたアルカナ国王も、思わず敬語をしてしまう。はるかに年上なので、ある意味当然なのだが。

 とはいえ、感謝の言葉も嘘ではない。アルカナ王国内に潜んでいた他国の間者を、二十人近く無傷で拘束してくれたのだから。

 有能過ぎて恐ろしいが、スイボクの場合有能以前に最強なので、排除は不可能だろう。

 迷惑だから自決してくれ、と頼んだほうが成功の見込みが高い。


「しかし……オセオ王国か。それほど高い技術のゴーレムを作成していると?」

「この時代のゴーレムに関しては門外漢ゆえに、儂はわからん。しかし、儂のところへ来ておった教員が言うには、どうやらこの国のゴーレムより数段上等らしいな」


 正直興味がない、という体だった。

 確かに自動的に戦う無人兵器、という者を自作したいとは思わないであろうし、赤子の手をひねるように壊せる兵器などさらに興味がないだろう。

 

「私も以前にゴーレムの製造技術を確認しましたが……少なくとも、森の中を移動できるゴーレムというのは技術的な限界があったはずです」

「ふうむ。確かに動きはなだらかであったな」

「……それが量産されれば、脅威というほかありませんな」

「違いない、儂がサンスイの生徒にくれてやった道具では対処できんであろうしな。また別の道具が必要であろう」


 武芸指南役として就職した者や、トオンの部下になった生徒たちには、あくまでも対人仕様の宝貝しか製作していない。

 相手が人間よりも頑強なゴーレムであれば、彼らの武装では太刀打ちできないだろう。


「……しかし、この国の周辺では魔法がとても一般的です。となれば、そのゴーレムたちも」

「魔法の対策をしているであろうな。雷や熱はともかく、風や火に対してはな」


 非常に貫通力が高い雷や熱の魔法への対策は、とても難しい。それこそ、スイボクの知識でもこれを防ぐことができるのは八種神宝のノアと、四器拳の四肢ぐらいである。

 法術の壁をエッケザックスで強化すればあるいは可能性があるが、エッケザックスはこの世に一つしかないわけで。


「しかし、儂らがここで問答をしても仕方があるまい。ここは専門家を呼ぶことを薦めるぞ」

「専門家……我が国には、あの学園の教員以上の専門家は……」

「ドミノにはウンガイキョウがおるのであろう? こと道具の鑑定や分析に関して、あれに勝るものはおるまい」


 それは機能ではなく、経験といっていい。

 エッケザックスが豊富な経験によって、敵の分析を行い戦術の組み立てを行えるように、映した道具の複製と鑑定を行えるウンガイキョウは、この世のだれよりも道具の分析に優れているといっていい。


「壊れているのなら複製はできまいが、あれだけ残骸があれば製造方法を調べたり、設計図を書かせることもできよう」

「そんなことまでできるのですか?」

「儂の倍は生きておるらしいしのう。それぐらいは可能じゃろうて。少なくとも、門外漢が頭をひねるよりは建設的じゃぞ」


 亀の甲より年の劫、とは言うがここまで役に立つ年の劫もそうそうないだろう。

 アルカナ王国の国王は、己の掌中にある手札を改めて認識していた。

 すべての八種神宝と、その使い手を保有していることの、そのでたらめさをまだ正しく把握しきれていなかった。


「流石にこちらへ呼ぶことはできませんな、このゴーレムを何体か送りましょう」

「ならばノアを使うことを薦めるぞ。アレを取り返そうとする阿呆が出てこないとも限らん」

「……そうですな、ではそのように。カプトの切り札に声をかけましょう」


 改めて、アルカナ王国の国王は確信する。

 目の前の男は、自分の国の切り札たちとは厚みが違う。

 最強以外の価値でも、この男は抜きんでているのだと。

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