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相談

「そんなことを言われました」


「そうだよね」

「そうだろうな」

「そりゃそうですよ」


「やっぱりやりすぎたと思います」


 祭我はランも呼んで、スナエの部屋で話し合いをしていた。

 男一人に女が四人、何もないわけもなく……今後の方針を話し合っていた。


「山水にもいろいろ相談したんだけど……俺はお前の女じゃないって言われて……」


 どこの世界によその家の護衛をしている男に、将来のこととかを真剣に相談するハーレム主人公がいるのか、と拒絶されていた。

 というか山水にしてみれば、完全に畑違いのことでよその家の跡取りに真剣な相談をされても困るのだ。

 節度を知っているということは、余計なことに首を突っ込まないということである。


「そういうことは、スナエやハピネと相談したほうがいいって言われて……」


「全面的にその通りだと思う」

「うむ、そもそもサンスイに決定権はなかったしな」

「私も困りますけど、サンスイさんも困ると思います」


「……そうだよなあ」


 祭我はけっこうきさくに相談していたので、だんだんそれが普通になっていた。

 しかし、山水にしてみれば本気で迷惑だったと思われる。剣術の生徒でしかない相手に、なんで政治のこととか話してくるのだ。


「私もだな、正直場違いだと思うんだが……」

「お前は私の直臣だ、そのあたりことも含めて聞いておくべきだろう」


 ランは微妙にいやそうな顔で参加している。

 あんまりおもしろい話ではないので、当然の対応だと思われる。


「あの言動は別として、私の依頼したように悪血を発揮しただけだ。ああして残虐な結果になったことも、私の咎と思っていい。つまり、お前は悪くない」

「いいや、俺が悪いと思うよ。大分興奮していたし」


 あふれ出た言葉からするに、いやいや戦っていたのが見え見えだった。

 いやいや戦っていた相手に圧倒されてしまった対戦相手のこと思うと、やるせない。


「フウケイさんと戦ってた時は、もうちょっと緊張感とかがあったんだけどなあ……」

「仕方あるまい、私もそうだが嫌なことをするときは心が揺らぐ。それは未熟なら当然のことだ」

「悪血の制御を優先したほうがいいかなあ……」


 銀鬼拳で重要なことは、心の制御である。

 凶憑きと銀鬼拳の使い手を隔てるものは、いかに己を制御するかにある。

 ラン自身は今回の試合に前向きであったので、心を整えて戦うことができた。


 しかし、それだけが原因というわけではない。悪血だけで戦うランは、発勁もあっさりと覚えることができた。

 なので、あとは呼吸法などで己の精神を制御することに慣れていった。

 しかし、祭我は悪血だけで戦うわけではない。悪血の制御だけに修行を集中させることはできないのだ。


「しかし、どう戦ってどう勝っても文句や不満は出る。それなら、禍根をきっちり断ったほうがいい。私はそう判断して、お前に全力で戦ってもらったのだ」


 ハーン王はやりすぎだと注意していたが、実際のところ祭我はいくらでも加減が効く。

 一つ一つは平凡でも複合して使用できるので、よほどのぶっ壊れた例外を除いて負けることがない。

 悪血が制御できないなら、悪血を使わずに立ち回ればいい。


「勝つだけでいいなら、私の時のように法術と魔法と占術だけでどうにでもなるだろう」

「あのときより、法術も魔法も上手になったしなあ……」

「相手は私より上だが、法術も魔法も神降しと相性はいい。今なら四器拳も爆毒拳もある、やり様はいくらでもあるしな」


 神降しはお世辞にも応用の幅が広いとは言えない。

 だからこそ、今の祭我にはいくらでも対策が練られるのだ。

 つくづく反則的な強さである。なんで勝てない相手がいるんだろう。


「ただお前もよく知っているように、半端に倒すとそれはそれで面倒なのだ」

「……あんまり思い出したくない」


 山水に三度挑んでぼろ負けした時のことを思い出す。

 今となっては何で勝てると思っていたのかわからない、それほど実力差があったはずだった。

 一年かそこら真面目に頑張って指導してもらった結果、なんとか勝てるようになってきたが……。

 それでも百回戦って一回勝てるかどうかである。最近術を教わってさらに面倒さが増しているし。

 まあそれはそれでいいことである。大事なことはまた別にある。


「公正で公平で、相手が一切卑怯なことをしていなくても、腹が立ったり不満に思うのも当たり前だしなあ」


 当時の祭我は、何が何でも山水に勝ちたくって躍起になっていた。

 今なら認められるのだが、相手が自分より上だとは絶対に認めたくなかったのだ。

 口では相手のことをほめていても、心の底の部分では山水を下に見ていた。

 だから己を高めることなく再戦を焦っていたのだ。


「前の四人は再戦すれば高確率で負けるだろう、向こうもそう思うはずだ。それではあまり意味がない。絶対に勝てないと思ってもらうには、ランやお前に徹底して打ちのめしてもらうしかないと思っていたのだ」

「大成功でしょうね、あのサイガに勝てるとおもう奴はいないでしょ」


 ランの思惑を、ハピネが肯定する。

 味方側でも蒼白になる戦いだった。敵方や対戦相手、観客はとんでもなく怖かっただろう。

 まかり間違っても、あんな豹変をする男を襲うことはあるまい。


「父が怒るのは当たり前だが、鼻っ柱を折るのなら徹底してやるべきだ。サイガ、お前もそう思うだろう」

「経験があるだけに何とも言えない……」

「大体、仮にアルカナと戦争になってみろ。切り札云々を抜きにしても、大量の魔法使いが魔法を使ってきて壊滅するぞ。ごく一部の飛べる輩を相手にすることなど、考えたくもない」


 本来、アルカナ王国とその付近では、法術と魔法が一般的である。

 そのどちらもが、神降しや影降しと相性がいい。加えて、魔法使いの数は尋常ではない。

 程度はともかく雑兵でも魔法が使えるし、それがたくさん当たれば神降しも耐えきれないだろう。


「ブロワ一人でも七人倒せるだろう、疲労を考えなければ空から風の魔法を撃っているだけで勝てるからな。それを試合でやって、勇猛かといわれると否だが」


 なんとも残酷なことに、空を飛べる魔法使いは希少ではあるもの、分母が大きいので絶対数は相応に多い。その彼らが試合に投入されていれば、さぞ一方的で救いのないものになっただろう。

 問題は、それはずるいと苦情が来ることだ。見ていて面白いものではないし。


「真正面から戦って、手も足も出ずに言い訳もできず負けるからこそ、危機感を覚えるのだ。危機感がなくば、まじめに対策など考えないであろう」

「確かになあ……」

「父上がアルカナ王国に留学生を送り込むのなら、今後は遠い国同士なりに国交を結ぶつもりのはず。今後は私やお前が窓口にならねばな」

「面倒がどんどん増えていくな……」

「関係が続くなら当然とおもえ。縁を切るわけではないのだから、面倒は続くものだ」


 家族の関係がいいのはいいことだが、相手が王族なのでややこしい。

 とはいえ、スナエは最初から自分は遠い国の王族だと名乗っていたので、それから安易に術を習った祭我の自業自得だったが。


「まいったな……なあハピネ、お父さんは怒らないかな」

「留学生ぐらいなら大丈夫だと思うわよ、カプトは近隣の国からも受け入れてるし。それに、国が遠すぎて面倒なことになっても断交ぐらいだと思うし」


 スクリンはそんな遠い国が侵略してくるわけない、と言っていた。

 祭我はインドへ侵略したイギリスを知っているので何とも言えないが、確かに複数の国をまたがないとたどり着けない国というのは侵略されるとは思えないだろう。

 でもアレキサンダー大王とかアメリカの開拓者とかを知っている身としては、ありえないとは言い切れない。地球の歴史は修羅の歴史である。

 マジャン周辺を新天地とか言って、その国民を先住民とか言って……それをスナエは心配しているらしい。実に正しい判断力である。


「それに、たぶんお父様は貴方に外交の難しさを学んでほしいのよ。多少の失敗は織り込み済みだと思うわ」

「よく考えたら、ほかに意図が考えられない……」


 ハピネの言葉を聞いて、祭我は頭を抱えていた。

 よく考えたら、バトラブ側としてきているのはハピネと祭我だけで、外国へ正式に訪れるということはほかに考えようがないだろう、

 なんで半年もそれに気づかなかったのか、今更嫌になっていた。エッケザックスにも指摘されていたが、確かに頭が弱い。

 ハーレム主人公のままだと外交は無理だった。早急に改善が必要である。


「貴族って大変だな……」

「王はもっと大変だぞ、それも知っているはずだ」

「どうしてるかなあ、右京……」


 完全に他人事だと思っていたが、よく考えたら似たような立場だったことに気づく。

 同胞にして現役の国家君主に思いをはせて、祭我は遠くを見ていた。

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