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推理

「そういうわけなのです」

「なるほど、それは確かにおかしいな」


 戦闘する予定のテンペラの里の五人と、俺と山水。

 それに加えてスナエとトオン、そしてエッケザックスは会議を行っていた。

 もうすぐ宴であるが、どうしても気になったスナエが皆を集めたのである。


「母上は私の説得を完全に諦めていました。それはつまり、サイガが本当に噂ほどの強さを持っている可能性があったとしても、勝てると思っているということ」

「まだサイガたちと戦うと決まったわけではないが、中々豪胆、大胆……はっきり言って不自然だな。母上らしからないことだ」


 なにが不自然なんだろうか。初対面の相手なので、察することができない。

 と思っていたら、エッケザックスと山水は『ああ……』と、納得しているというか、察しているようだった。


「なるほど……そういう……」

「黙っておけ、サンスイ。お主もスイボクから正解を教えすぎるなと言われていたであろう」


 そう言って、エッケザックスは山水を止めていた。

 というか、なんで二人はわかるんだろう。


「よいか、我が主よ。トオン、ランやお主には決定的に欠けているものがある。それは、洞察力と想像力じゃ。フウケイと戦った時も判断を誤りスイボクに救われる形になったであろう」


 元々の原因がスイボクさんではあったが、確かにフウケイと戦った時にトオンは死にかけた。

 相手が縮地を使えると知っていたにも関わらず、迂闊に慌てて行動してしまったのだ。


「とっさの判断力を、読みを養えと言われたであろう。少しは自分の頭を動かせ」


 凄いなあ……強くなっているのに、ちっとも褒めてもらえない……。人間的に駄目出しされてばかりだった。

 いいや、それだけ俺に色々と問題があるのだとは知っているのだけども。


「あ、あの~~もしかして、その……」


 そう言って怯えながら挙手したのは、テンペラの里の一人だった。

 というか、ラン以外の四人は全員怯えている。


「もしかして……『切り札』と同じような人が、向こうにもいるのでは……」


 そうか、それはそうだ。確かにその可能性を全く考えていなかった。

 右京がアルカナ王国との戦争で大敗したのも、その可能性を考えていなかったというか、正蔵みたいなのが寄りにもよってカプトにいるとは思っていなかったことだろう。

 今でもあれはおかしいと思うし。


「それはない」

「そこで止まれ」


 トオンは、はっきりと言い切っていた。なぜ言い切れるのだろうか。

 分からない俺を察したのか、エッケザックスは俺が考えるまで止めていた。

 しかし、何を根拠にそれはないとトオンは言ったのだろうか?


「……仕方ない、このまま黙っていても話が進まぬ。我が主よ、お主は頭を重点的に鍛えねばならぬな」

「では、続けるが……その怯えが答えだ。仮に母の元に切り札のようなものがいれば、サイガを侮るなどあり得ない。君のように、まず懸念して怯える。間違っても軽く見るなどあり得ない」


 それはそうだ……俺は確かに強そうに見えないから、スクリンさんから軽く見られても仕方がないと思っていた。

 しかし、それは先入観だ。俺を軽く見ているのだから、俺や山水みたいな神から力を与えられた奴はいないんだろう。


「それに、公の場で力を示すのはあくまでも私との婚姻を希望している女性達だ。彼女達が自分の手で戦うからこそ、私の弟妹達に勝利した場合に正統性が生じる。どのみち、王位継承権のある弟妹とは戦う定めだ。裏工作をしても民意を得られんしな」


 そう考えると、王様を強さで決めるというのは公正で公平なのかもしれない。

 なにせ、謀殺ができない。そんなことをしたら、国民にすぐばれてしまうからだ。


「だからこそ、サイガやスナエへの脅しにこそ切り札は切るべきだった。にもかかわらず、王気を宿す者を使った。それはつまり、母上の陣営には切り札がいないのだ」

「なるほど……」


 テンペラの里の子も納得している。

 というか、俺も納得していた。確かに論理的である。


「じゃあフウケイみたいな仙人がいるとか……」


 また別のテンペラの里の子が発言する。どんどん意見されるが、俺はちっとも思い浮かばない。エッケザックスや山水からの視線が痛い……。


「それもないな。私が王国に持ち込んだ宝物を、母上は確認していた。真偽はともかく、宝貝も蟠桃も隠すことなく記載している。つまり、こちらに仙人がいると察することはたやすい。にもかかわらず完全に無警戒なのだ、仙人はいないだろう」


 この世界で俺達切り札よりも強い存在、それが仙人だ。

 もちろん戦闘に長じた仙人というのは稀らしいけど、それでも便利アイテムを作成できるというだけで脅威だ。

 だが、それもないらしい。


「じゃあ……八種神宝みたいなものがあるとか?」


 やっぱり別のテンペラの里の子だった。

 おかしい、なんですらすら出てくるんだろう。


「それもないのう。今の所八種神宝は、すべてドミノとアルカナが独占しておる。加えて、この世界に我らに匹敵する道具はない」


 よく考えてみると、この世界にあるスーパーレアアイテムは全部アルカナが独占しているようなものか。よく考えてみると、とんでもない話である。


「祭我様」

「う、わかってるよ……」


 山水からの視線が痛い。よく考えればわかることだろうに、という視線だった。

 神から力を与えられた者はいないし、仙人もいないし、エッケザックスみたいな武器もない。


 それでも、スクリンさんは勝算があると思っている。

 各国の王女が集まって、これから直接この国の王位継承権を持つ者と戦う。

 替え玉も効かないし、神降ろしは全力を発揮すると武器を使えない。

となると……。


「ドーピングか?」

「半分正解です、祭我様」


 どうやら半分正解ではあるらしい。褒めてもらって嬉しいような、そもそも褒められていないような気もしていた。


「エッケザックス、おそらくですが他者を強化できる『希少魔法』があるのでは?」

「うむ、ある。助威(じょい)と呼ばれる力を持ったものがあやつる巫女道と呼ばれる『希少魔法』じゃな」


 ……思ったより普通だった。そうか、未知の希少魔法があって、なんかのルートでスナエのお母さんはそれを確保したのか。

 金丹や蟠桃のようなドーピングではなく、補助魔法による支援か。なるほど、それなら確かに条件を満たしている。


「スイボクと共に旅をした時には、その技はこの近辺にはなかった。しかし、あれから二千年以上たっておる。であればその後この付近で成立しても不思議ではない」

「……あの、どんな術なんですか?」

「テンペラの里の者であれば知っている筈じゃぞ、伝血を持つ傀儡拳がそれじゃ」


 テンペラの里の子の質問に対して、エッケザックスはあっけらかんと答える。

 それに対して、ランを含めて同郷の全員が驚いていた。


「そんな、傀儡拳が他人を強化する拳法?!」

「あれは他人の体を操って妨害する拳法ではないのですか?!」

「伝血にそんな効果があったとは……」

「そんな使い方があったなんて……」


 というか、テンペラの里では支援魔法も拳法に昇華されるのか、世の中わからんもんである。


「何を言っておる、アレを見た時スイボクでさえ『その発想はなかった』と驚いておったぞ。テンペラの里がおかしいのじゃ」


 そうか、占術が格闘技である亀甲拳として残っていたように、テンペラの里では多くの希少魔法が血統として残っている。それはとんでもなく凄い事なのだ。

 まあ、ランが一年ぐらい前に壊滅させてるし、スイボクさんが二千年前ぐらいに皆殺しにしているわけだけど。


「助威は離れた他者に対して力を注ぎ強化できる力じゃ。傀儡拳ではそれを相手の一部に対して行い、動作を乱れさせる拳法として昇華させておったが……本来は支援の為にある力であると言える。旧世界では竜の餌と呼ばれておったがな」


 なんか気になるワードが出てきたような気が……。


「なにせ、巫女道によって支援を受けた迅鉄道(じんてつどう)の使い手は、我を持っていたスイボクの片腕を千切ったほどじゃ。如何に迅鉄道の使い手が戦闘に優れているとはいえ、スイボクも瞠目しておったのう……まあ返り討ちじゃったが」


 ……なんか、ランは嬉しそうだけど他の四人は青ざめている。そりゃそうだ、スイボクさんの腕がもがれたとか、想像を絶するしそんなのとは戦いたくないよな。


「ちなみに、猛威(もうい)によって発揮される迅鉄道は、テンペラの里では牙血(がけつ)を宿す者による動輪拳(どうりんけん)と呼ばれておる。知っておろう? 大分使い方は違ったが、スイボクも目の色を変えておった。あるいは、傀儡拳の使い手が動輪拳の使い手を支援しておれば……スイボクも……スイボクも……どうじゃろう、アレ悪運もやたら強かったし……」


 改めて考えると、スイボクさんって主人公補正の塊のような人だったんだな。

 今みたいにでたらめに強くなかったとしても、それでも勝ち続けたんだもんな。


「あの……大丈夫なんですか?! 王気による神降ろしって、ただでさえ強いのに?!」

「巨大な獣になれる相手を、更に強化されたら……私達は勝てるんでしょうか……」

「助威……伝血……傀儡拳にそんな使い方があったなんて……」

「ランやサイガ、サンスイはともかく私達が勝てるんでしょうか?」


 テンペラの里の四人がとても不安そうにしていた。

 確かに、ただでさえ神降ろしは強いのに、それを強化されるとなると俺や山水はともかく、ランでも危ないかもしれない。


「案ずるな、お主たちはあのスイボクをして瞠目し感嘆し、全滅させたことを後悔させるほどの実力者たちじゃったテンペラの里の末裔であろう。自信を持つが良い」


 全滅させられた時点で、誇りにもちようがないと思うんだが……。


「普通なら王気を宿す者には勝てぬが、今のお主たちにはスイボクが授けた宝貝がある。それに、なによりも我がいる。相手が影降ろしや凶憑きとしか戦うことを想定しておらんのなら、必勝の策を授けることはたやすい」


 それは、スナエが自分の父親に言っていたことを、そのまま全面的に肯定することだった。


「本来、ランのように過剰な王気を宿しておらんものにとって、巨大な獣として戦うことは消耗が激しい事じゃ。にもかかわらず、王族はそれを基本としておる。であれば、負けようがない。巫女道による強化など些細なものよ」


 今は俺の武器であるエッケザックスは、断言していた。


「勝つべくして勝て!」


 それもまた、スイボクさんの教えである。

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