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「父上が病気、か」

「まだ若いと思っていましたが……」

「若くとも病気は平等だ。こればかりはな」


 ドンジラの王宮で、客室を与えられた俺達。

 その中で、スナエとトオンの父親が病に伏せっているかもしれない、という情報を整理していた。


「トオン、俺か山水が大急ぎで蟠桃を持って行こうか?」

「弟よ、父王が病だったとしても、いきなり現れた男の差し出す果物を受け取ったりはしないぞ」


 祭我の言葉にも、誠実に答えるトオン。そりゃあそうである、ゲームの王様じゃないんだからいきなり会えるわけもない。

 普通に考えて、いきなり現れた男が『万病に効く薬です』って言って差し出しても病人が食べるわけがない。


「それじゃあスナエかトオンだけでも大急ぎで戻るとか……」

「それはそれで問題がある。知っての通り、今回は大軍勢を連れての帰国だ。私とスナエが揃っていないと、マジャンは入国を許せないだろう。それに、私であれスナエであれ、外国に出ていた王族が大急ぎで王宮に戻れば、国民に要らぬ心配をさせかねない」


 今すぐ飛び出したい。トオンはそんな気持ちではあるようだが、常識的に考えた結果却下となった。

 その判断をスナエは無言で肯定している。

 あくまでも隣国の王が聞いている程度の噂でしかない。その憶測で国を乱すわけにはいかないだろう。


「薄情に聞こえるかもしれないが、私やスナエが下手に動けば国が乱れる。そうなれば、死人が大量にでる。私にとってもスナエにとっても、王は無二の父だ。しかし、国が乱れれば多くの男たち、女たちが傷つき倒れる。今外国にいる私達が軽々しく行動し、不安をあおってはいけないのだ」

「その通りだ、バトラブの婿よ。第一、あくまでも噂は噂だぞ。無論、攻め込まれているという情報があるのなら緊急を要するが、『王一人』が病に伏せったという話ぐらいで国が乱れてはかなわん」


 お父様は相変わらず残酷なことを言う。しかし、それをトオンは無言で頷いていた。


「それにだ、病と言っても程度はある。もう治っているという可能性もあるだろう。それに、最悪の場合が生じ、王宮内で議論されている可能性もある。あくまでも慎重に動くべきだ」

「最悪……スナエのお父さんが、死んだ可能性があるってことですか?」

「そうだ、別に不思議なことではない。流石の蟠桃でも、死人は生き返らないだろう」


 残酷なことを言うが、真理でもある。

 情報が正しいとも限らないし、正しかったとしても判断はできないのだ。


「仮に、今動かなかった結果父が手遅れになったとしても、それは君のせいではない。強いて言えば、我が国の医療技術が、王の命を救えないほど遅れているというだけだ」


 俺達にしてみれば非常に今更ではあるのだが、いわゆる回復魔法である法術は、希少魔法なのだ。それが一般に普及しているのは、カプト家が法術の血統を守っているからであり、つまり世界的にも医療先進国なのだ。

 なんか師匠が便利アイテムを出したり、法術使いがありふれているせいでありがたみがなかったが、他の国の『医療』はとても遅れているのである。


「それにだ……そもそも蟠桃も人参果も、どちらも過ぎれば毒となるのであろう? その点はどうなのだ、エッケザックスよ。我が父が実際に病に倒れているとして、どちらを処方すればいいのかわかるか?」

「病気の種類にもよる、が一番手っ取り早いのは小出しにすることだ。蟠桃を細かく刻んで少しずつ食わせれば、良くなっても悪くなっても対処できるからな。蟠桃を食って悪化するようなら、人参果を少しずつ食わせればいい。それで問題解決だ」


 なんか素人っぽい方法であるが、実際素人なので仕方がない。

 それに医療に特化した法術使いも何人か連れているし、法術で治せる病気なら専門家に任せればいいだろう。

 蟠桃も人参果も、あくまでも最終手段という事だ。


「ん? どうしたんだ山水」

「……まだ何もしてないんですが」


 何かを予知したのか、唐突に俺へ質問してくる祭我。微妙に心臓に悪いし、皆から注目を集めるので止めて欲しい。

 というか、あんまり触れたくなかったんだが……。


「あの、トオン様。申し上げにくいのですが……その、侍女の方が部屋の前で機をうかがっています」

「そうか……」


 それを聞いて、お嬢様がものすごくうれしそうにしている。流石お嬢様、普通に勘がいい。

 そんなお嬢様を見て、誰もが何かを察していた。それで正解である。


「客の身である私に、伝えることをしり込みしているのだ。大した要件ではないだろう、こちらから声をかけることはない」


 トオンの言葉を聞いて、侍女の気配が去っていく。

 それを誰もがなんとなく感じていて、お嬢様とお父様以外の空気が重くなっていた。


「トオン……俺が言うのもどうかと思うけど、ドゥーウェの反応を見てどう思うんだ?」

「では逆に聞くが、どう反応すれば君は満足なのだ。私としては、別に気にすることではない」


 凄いなあ、これがハーレム主人公とイケメンの違いか。

 優柔不断さとか、どこにもない。物凄くきっちりとしている。


「君も察したように、おそらく貴人が私と私的な話をしたがったのだろう。自由を謳歌していた時期に旅先の女性と一晩情を交わすことはあるかも知れないが、今の私は王子として婚約者を父王に紹介しようとしているのだ。仮にサンスイ殿がこの場で口にせずとも、私は決して応じることはなかった」


 議論の余地はない、とすっぱりしていた。

 ただ、微妙に居心地が悪そうである。というか、自分で予知したことが発端となっているのだから、もうちょっと気にして欲しい。迂闊な予知はややこしくなるだけなのだ。


「誰に対しても好かれたい、という気持ちはわかる。美しい女性に好かれたいと思うのは男子として当然だ。だが、無責任に種をばらまくことが女性に対しての礼儀だとでも? 筋を通して嫌われるのなら、それは仕方がない。それで悪人呼ばわりされても、それを甘んじて受け入れるだけだ」


 とても耳が痛そうにしている祭我。確かに嫌われる決断力は、祭我には不足しているだろう。

 誰にでもいい顔をするのは偽善、というトオンの態度を真似できないようだった。


「それにだ、以前にも言ったが私にとってはドゥーウェ殿の反応には安堵しているのだ。なにせ、私はよく求められるからな。私を慕うものが多すぎて、気が引けてしまった、などと言われたりかしこまられては、返って悲しい」


 理屈はわかるが、こんな悪女に恋しい王子様を盗られるこの国の王女様の心境は如何に。


「こちらから約束をしたわけでもないのだ、断ることも必要だ。ここで曖昧に言葉を濁せば、女性は期待してしまうからな。それでは次などない」

「かなり多いでしょうね。兄上が帰ってくることを期待して、未婚のままでいた女性達は。今回の件で、諦めもつくでしょう。ごく一部、諦めないかもしれませんが」


 スナエの言葉に、誰もが頷く。

 確かに、王気を宿すなら女性でも武闘派なこの国である。

 雄の奪い合い、という極めて原始的な動機で戦争とか決闘になりかねない。


「怖いわねえ、サンスイ。貴方がきっちり守ってくれることを、期待しているわ」

「お任せください、お嬢様」

「それで……実際どうなの? この国の王女様は、押しかけてきそう?」

「……その、下世話ですが……部屋で泣いてます」


 そんなことまでわかるのかよ、という表情をしている一同。

 まて、祭我。未来を予知できるお前にだけは、そんな目で見られたくないぞ。

 それに、泣いているというのも気配で察しているだけだ。実際の映像や、音を聞いているわけじゃない。

 

「王気を宿す方ばかりではありませんからね……王気を持つ方の殆どが、程度はともかく落ち込んでいるので、そう言ったまでです」

「こわい……サンスイが怖いわ……」


 ハピネが俺に対して引いていた。他の面々も同様である

 確かに知覚範囲内なら、何をしているのか概ね察することができる、というのは怖いだろう。

 でも、それを言い出したら一番怖いのは、やっぱり祭我だろう。愛する男が未来予知できることを、なんとも思っていないのだろうか?


「それじゃあ、貴方は毒とかもわかるの?」

「申し訳ありませんが、毒を盛るかどうかまでは一々分かりません。殺意がある行動をとる、という場合はわかりますし、当人が現場に居合わせれば別ですが……」


 ハピネの質問に、俺は正直に答える。流石にそこまで万能ではない、というか分かりたくないし。

 というか、俺は仙人なので自然由来の毒は効かないらしい。これは師匠から聞いたころがある。蛇に噛まれても河豚を食っても、俺は死なないのだ。

 自然とは一体何なのだろうか。


「話がそれましたが……早めに出なければ、父の噂を教えてくださったドンジラ王の顔を潰してしまいます。明日の昼頃にも、ここを発ちましょう」

「そうだな、それがよかろう」


 トオンの言葉に、お父様が頷く。

 護衛の兵士たちには申し訳ないが、一晩王宮で休めるだけありがたいと思っていただきたい。

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