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第2話

 さて、仲直りもできたことだしとティルと二人仲良く並んで城を目指してみたものの、ユズハにとっては住み慣れた家である城はそんじょそこらの場所にあるわけではない。

 鳥使いの里に相応しく、正しく空の彼方。

 とは言っても、別に浮かんでいるわけでは無いのだけど。

 簡単に言ってしまえば険しい山脈のてっぺんに位置するククル鳥だって巣作りを躊躇するほどの場所。

 里全体が標高の高い山々に囲まれ、人々が住むのは比較的低い位置に対して父やユズハのような長の一族は里の中で一番高い場所に住んでいる。

 鳥使いにとっては決して険しい道のりではないけれど、そうでない人達にとっては赴くだけでも一苦労の道のり。

 そんな場所にお客様とは今更ながらに不思議に思う。

「ねぇ、ティル。お客様ってどうやって来たの?」

 ユズハの問いにティルは少し眉間に皺を寄せた。

 ティルも城への道中が険しいことを知らないわけはない。

「うーん。来るところを見たわけじゃないから分からないけど、鳥使いでは無いだろうし、魔法でも使えるのかなぁ」

「魔法って言ったって、少し使えるぐらいじゃ飛ぶことすら難しいでしょ。ということは……上位の魔法が使えるってこと?そんな人がユズリルに用があるとも思えないけど。だからと言って人の足で登れるわけもないし。どういうことかしら……」

 ティルもうんうん唸るように考えているけれど答えが出ないのだと思う。

 まぁ、今考えても仕方ないことだし会えば分かるかと納得させてティルに、もういいわ――と言おうとした時だった。


 うわぁぁぁぁぁぁぁ


 男性の断末魔のような叫びを耳にしてユズハとティルは即座に出所を探す為に辺りに目を光らせた。

 二人背中合わせで前方後方を確認し、左右上下も同じく汲まなく探す。

 目の前に広がるのは青い空と白い曇のみで人なんて見当たらない。

 太陽の光さえ邪魔で額に手を当てながら懸命に探す。

 そして―――見つけた!

「ティル!居たわ!あぁ、もう、間に合うかしら!」

 言いつつユズハは手綱を思いっきり振った。

 直ぐ様、反応を示してくれたククル鳥は甲高い鳴き声を発する。

向かう先はやや西よりの前方。

 そして、今現在ユズハ達がいる位置よりも遥か上空。

 ククル鳥が翼を最大限にまで開き上昇する。

 風を引き裂きぐんぐん上昇するが、男性の落ちる速度が速すぎて間に合わない。

 ならば、どうする?

 ティルがユズハに向かって「がんばって!あと少し!」と叫んでいる。

 でも、多分間に合わない。

 遠くから見ればあと少しでも、ユズハから見ればそのあと少しの距離が途方もなく長く感じてしまって、どんなに頑張っても届きそうもない。

「はぁ………」

 仕方ない、背に腹は変えられない。

 あまり使いたくはないけれど。

 少し頭を下げることで意識を集中させる。

 ユズハは手綱を放すとパンっと両手を合わせた。

 ククル鳥から落ちないように足で踏ん張るようにして自分の体を固定する。

 そして、そのまま祈る形で手を組んだ。

「風よ舞え!彼の者を助けて!」

 言葉を発した瞬間に下から男性を持ち上げるように突風が吹く。

 物凄い速さで落ちていた男性がその場で舞い上がったかと思えば、ふわり、木の葉が舞い落ちるように少しづつ角度を変えながら落ちてくる。

 そのままゆっくりと風を纏いながらユズハの元まで降りてきて手を伸ばすと、ふわっと一度浮き上がり、そして、ユズハの腕の中に吸い込まれるように落ち着く。

 受け止めたことで魔法で作り出した風が次第に止み、男性のずっしりとした重みをユズハに伝えてくる。

 とりあえず良かったと安堵の滲む息を吐く。

 疲労感が半端無いけれど、後味の悪い結果にならなくて良かった。

 でも、地味に重い。

 胸元に背中を預ける形で意識を失ってるらしい男性はぷるぷると重さを訴えるユズハの体とは対照的に腕の中でぴくりともしない。

 こんな状態ではククル鳥で飛ぶことも難しい。

 うーん、どうしよう。

 相乗りは決して難しいことではないが、きちんと意識を保ってる人間に限られる。

 乗り手がユズハのように女性ではなく、男性ならば力業で何とかできるのだろうけれど、残念ながらユズハにそんな力は無い。

 それでも、何とかしなければいけない状況にユズハは捕り物用の縄を取り出して自分と男性を腰の辺りで離れないように括り付けることにした。

折角助けたのに落としてしまっては元も子もない。

無いよりはいいだろうと気休め程度ではあるけれど。

 そんな作業中、きゅっと縄を結んだところで、ティルがユズハの元まで辿り着く。

 疲れたと隠しもしないユズハは声をかけることも出来ずに億劫そうに目線だけティルに向けた。

 そんなユズハとは裏腹にティルは興奮冷めやらぬ様子で目をキラキラさせて熱い視線を送ってくる。

 見に覚えのない視線に晒されて何故だか引いてしまうユズハだったけど、ティルはそんなことにも気づかないのか怒濤の勢いでお喋りを始めてしまった。

「姫様!その人だよ!俺が城で見た綺麗な人!何で空から落ちてきたんだろう?ククル鳥に乗ったのかなぁ。あ、でも、余所の土地の人は乗せないよね!だったら何でだろう………っていうか、姫様!魔法が使えるなんて知らなかったよ!なんで………」

「ちょ、ちょっと待ってティル!今は兎に角どこかに移動しないといけないから!話は後で!」

 これ以上は体がもたないとばかりに少々キツイ口調で咎めると、ティルはしゅんとして、ごめんなさいと小さな声で呟いた。

 それには苦笑してしまうが、現状は変わらないわけで辺りを見回して休憩出来そうな場所を探す。

 間の悪いことに地上に降りようにも今現在いる場所は断崖絶壁の崖に囲まれたどこまで続いているんだと突っ込みを入れたくなるほどの大きな穴の上空。

 ならば、穴を避けて近くの森に降りようとするも、残念ながらあの森は肉食獣の宝庫で出来れば近づきたくない。

 穴のど真ん中に止まれそうな大木があるわけないし、城までは距離がありすぎる。

 だからといって、このまま空中で過ごすこともククル鳥にとって負担となってしまうだろう。

 少し遠いが城の手前にある見張り台まで行くしかないかと覚悟を決めようとしたその時、ティルがおずおずとユズハを伺うように語りかけてきた。

「あの、この辺りで俺が休憩に使ってる場所があるよ。そこまで広い場所じゃないけど、その人を横にさせるぐらいの空間はあると思う」

 藁にもすがる勢いで身をティルへと乗り出す。

「本当に?そんな場所あるの!?」

 勢いのありすぎるユズハにティルは吃りながらもしっかりと頷いた。

「穴の中に行くんだよ。下まで行くんじゃないよ。崖にね、ちょっとした出っ張りがあるんだ。ちょっと狭いけど全員乗っても多分大丈夫」

 出っ張りと聞いて不安になる。

 そんな場所に本当に全員乗れるのかと。

 でも、手段は選んでいられない。

 だから、最後にもう一度確認する。

「本当に大丈夫なのね?着いてみて、やっぱり無理とか目も当てられないから。崩れたりしないのよね?」

「大丈夫!俺は何度も乗ってるし。大丈夫だとは思うけど、もし、姫様が不安なら俺は空中で待機するから」

 その言葉に覚悟は決まった。

 ティルはこんな場面で嘘をつくような子ではないし、何より自分は待機しているという心根は称賛に値する。

 不安げにこちらを伺うティルによろしくという意味を込めてこくりと頷く。

 ティルも神妙に頷き返す。

「じゃあ、俺が案内するから姫様はゆっくり付いてきて」

「分かった」

 凭れかかる男性を片手で動かないように固定し、空いたもう片方の手で手綱を握った。

 不安定な状態だけど、言葉通りゆっくりと先導するティルに何とか付いて行くことができる。

 左右にバランスを崩しながらフラフラと付いていくユズハをティルは何度も振り返ってちゃんと付いてきているかと確認する。

 そんなティルに有り難いとは思うけれど、声をかけることは愚か簡単な動作で訴えることも出来ない。

 そうやって暫く飛んでやっと見えた目的地に緊張で強張った体が少しだけ緩んだけれど、降り立つまでは気を抜いてはいけないと手綱を持つ手に、あと少し――そう念じながら僅かに力を込めた。




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