上郷村の話〜山の中の家〜
縁は一人、山の入り口に立つ
源三と共に山の入り口まで戻った後、万が一のことも考えて源三にはお守りを渡して、先に帰ってもらったのだ。
縁は一人山の入り口に立って山を見る
陽の光を受けて山の葉がキラキラと輝いている。中にいた時と同様に、山はひどく穏やかなのであった。
「……さて…」
縁が何かを取り出す。
桶であろうか。桶にしては小さく、それには紐が結び付けられている。更に縁は棒を取り出す。それにより先ほど取り出したものが、紐がついた丸い小さな太鼓であることが分かる。
「…人を隠す山…か…」
もう一度山を見る
変わらず山は穏やかである
「……」
ぽんっ 良い音が小さな太鼓から鳴る
ぽんっ ぽんっ 二度叩く
「………」
縁が再び山に入って行く
ぽんっ ぽんっ ぽんっ 今度は三つ叩く
「ユウカ様ぁ、どこですかぁ?」
ぽんっ ぽんっ 再び二度叩く
太鼓を叩きながら、縁はゆっくりと先ほどの拓けた場所まで進んでいた。
ぽんっ ぽんっ ぽんっ
「ユウカ様ぁ、ユウカ様ぁ」
ぽんっ ぽんっ 二度叩く
「ユウカ様……んぅ…?」
歩みを止める。先ほどと同じ道を歩いていたはずなのだが、少しばかり周りが暗い。草も先ほどよりも鬱蒼としている。
「………」
ぽんっ ぽんっ ぽんっ
「ユウカ様ぁ」
再び太鼓を叩いて歩き始める。
ぽんっ ぽんっ 先ほどよりも太鼓の音が響く
進めば進むほど鬱蒼とした草や木が増えてくる。
「…入ったかな…」
そう呟くと縁は太鼓を戻して辺りに注意しながら奥へと歩を進めた。時間にして十五分程であろうか、歩き進めると目の前に黒い大きな門が現れた。
立派な門である。まるで武家屋敷のような門が突如として山の中に現れたが、縁は別段驚くこともなく、その門を開いて中に入る。
鮮やかな色が縁を迎える。色鮮やかな花が目の前の広い庭一面に咲き誇り、蝶や鳥が舞い踊るように飛び交っているのである。ふと目をやると庭の奥に貴族の屋敷のような雅で大きな建物が見える。
「……ここだな…」
縁は屋敷の方へゆっくりと歩き始める。
山奥深く登りて現れたる不思議な屋敷
ある地方ではこの屋敷を「マヨイガ」と呼ぶ。