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曾祖父の遺産

作者: 尚文産商堂

曾祖父からの遺産を引き継ぎ、俺は土蔵の中を確認していた。

弁護士として、曾祖父が亡くなった際の遺言執行者として、遺言に記されていた最後の一品を探しているところだ。

なんでも、曾祖父の遺言によれば、それは土蔵の隠し扉の奥にあるらしいのだが、その扉が、さすがに隠しているだけあってなかなか見つからない。

この一品は、唯一俺に対して遺した曾祖父の遺産だ。

他は、祖父やその兄弟たちをしていたのに、なぜこれだけそうなのか、それも興味が引かれたところだ。

「……これか」

ようやく見つけたのは、探し始めてから4時間は経っていた。

土蔵の奥の奥、物を退かしたところでようやく見つけた。

あり得ないところに扉がついている。

外は完全に密閉されている壁に、扉の取っ手が付いている。

「開けるか……」

中身を確認しなければ、遺言執行者としての職務が果たせないと俺は判断し、思い切ってこの場で開けることにした。

どうせ、俺に対して遺された遺産だ。

なにがあってもいいやという気分であった。


長年開かれなかったらしく、きしむような音が響く。

「誰だ」

男の人の声が聞こえる。

「そちらはどちら様でしょうか」

俺が答える。

「手野八幡神社の宮司だ」

「えっ」

手野八幡といえば、何キロも離れたところにある神社だ。

なぜそこにつながったのかわからない。

「あ、もしかして、森さんところの人ですか」

「そうです、森重行(もりしげゆき)のひ孫になります」

「そうかそうか、とうとう亡くなられたのか」

何も言わなくても、合点がいったようだ。

「それで、一つお尋ねしたいのですが……」

扉をくぐり、俺は宮司さんへと尋ねる。

彼は、ちゃんとした人間だった。

それだけでも、ファンタジーやホラーの世界に迷い込んでいないことが確認できる。

「森さんの遺産、ですか」

「どうしてそれを」

「僕も、ずいぶん前に言いおかれたので。こちらへ来てください。差し上げます」

言われるままに、俺は宮司についていくことにした。


「こちらです」

俺が出てきたところは、拝殿脇の壁の扉からだ。

そして、なぜか本殿へと向かう。

「ここへどうぞ」

曾祖父がどんな人物だったのか、俺は詳しくは知らない。

聞かされてもいないし、聞こうともしなかった。

だが、曾祖父の遺産が本殿の、それも普通は入れないところに安置されているらしいことを知って、何をしていたのかがすごく知りたい。

その話はあとだと、本殿の前まで来ると、やはり神妙な面持ちになる。

靴を脱いで中に入ると、別の誰かがいる。

「お客さんか」

「そうだ」

神職の人らしく、一礼してからすぐに本殿から出ていった。

「これです」

恭しく桐の箱から取り出したものは、金でできたゴブレットのような椀だった。

「これは……」

「詳しい伝来については、僕は存じておりません。ただ、いつの日にか、これを相続する者に、その証はあの扉から出てくるものであると。それらだけ伝わっておりました」

ふたたび絹の布にくるまれ、箱にしまわれる。

それを俺の方へと押し出した。

「こちら、貴方のモノでございましょう。いかがいたしましょうか、こちらでお預かりするということもできますが」

「しばらく、そうしていただけますか」

相続税の支払いについては、後で考えればいいことだ。

俺はそういって、宮司にいったん預かってもらうように頼み、再び家へと戻った。

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