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竜鱗騎士と読書する魔術師  作者: 実里晶
囚われの姫君
92/137

81 杖


 三方から、銀色の矢のように飛来した竜が天藍を襲う。


 騎士は、魔術は使わなかった。

 音や視覚や体温よりも魔力波長のほうが竜への伝達速度が速く、解析能力も優れているのだそうだ。

 魔術を使えば飛竜たちは次々に仲間の竜へと情報を拡散していき、知れ渡るところとなる。


 だから天藍は、市内の移動に剣にこだわった。

 正確には魔法の剣だから、あまりよくはないのかもしれないけど。


 最初の一匹を避け、深く踏みこんで抜剣。


 下方から切り上げる。

 刃は確かに、竜の体表面に食い込み、切り上げていく。

 だが摩擦が大きいのか、あまり勢いはない。

 次の二匹目を上段から叩きつけるように斬り下ろす。

 竜は輪切りに……は、ならなかった。

 致死的な攻撃であることは間違いないが、途中で刃が止まってる。まさに鱗一枚で止まってる状態なのだ。

 背後からの攻撃(バックアタック)を回転の軌道で殺し――少し迷ったのが、僕にもわかる。

 天藍は飛竜を素手で掴んだ。

 そして、ただ掴んだまま力を込めて、頸椎をへし折った。

 僕は目を逸らした。

 何となく、剣より残酷だと思ったからだ。


           ~~~~~


 天藍が百合白さんに連絡を入れるのを待ち、僕たちは玻璃家の下屋敷とやらに侵入した。


「でけー……あれ、なんか前もこんなこと言った気がするな……?」


 背後で飛び交う竜の存在を忘れて、僕は首を傾げた。

 五階建ての建物に入口がひとつ。

 この建物全部が、玻璃家の持ち物だという。

 僕の住んでたマンションがひとつ全部入って、それが一軒家なのだ。

 薄々知っていたけど、あいつって金持ちだったんだ。


「普通だろ」


 ……と答える天藍も貴族社会に長く浸りすぎて常識というものが破壊されてしまった、かわいそうな存在らしかった。金を得るということが《可哀想》という単語に結びつくのは持たざる者のヒガミでしかないと思わなくもないが、都合の悪いことには目をつぶる主義だ。


「剣の調子はどう?」


 天藍は表情を歪めていた。なんていうか左右の靴を逆に履いている人みたいな顔だ。

 そして黄金の剣を左右の手で何度か持ち替えた。

 もしかしたら違和感が無くなり、転ぶことなくまっすぐ歩けるかもしれない、と期待するように。


「……普通の剣だ。切れ味も心無しか鈍い」


 さすがに僕の頭のカーナビでは通行不能になり、何度か天藍に剣を振るってもらったが……調子が悪そうだったのは気のせいではないらしい。


「そのくせ、刃こぼれひとつしてる様子はない。不気味な剣だ」

「おかしいなあ。聞いた話では、そんなに使えない剣のはずはないんだけど……」


 魔剣のことはわからない。僕は魔剣じゃないからな。

 剣でもないし。

 古い建物なのか、窓硝子はいくつか割れていた。警備とかは無さそうだ。

 死にたい泥棒がいれば、儲け放題だと思う。

 念のため裏口から入ろうとして、鍵が開いていることに気がついた。


 天藍が先に入る。


 数歩進んで、あたりを見回す。


「竜が入り込んでる形跡はない。ただ……」


 言いたいことは、今の僕にはよくわかってた。

 数秒もせずに、ずん、と足下が揺れる。

 東の空に、煙が登っていた。

 それから、ギラギラ反射する竜の鱗。山のよう、ということばがしっくりくる。

 その姿には、なんだか僕は畏怖というか、感動っていうか……神秘的なものを感じた。

「でかい……」

「長老竜ではない……が」

 それに準ずる大きさではあるらしい。

「急げ、スラム街に追い込むなら、ここは進路上だ」

「……え?」

 進路の上に玻璃家の屋敷?

「何してる、早く行くぞ」

 昇降機があるが、それは避けて階段で上の階へ。

 古い屋敷だった。

 調度品はどれも骨董品じみている。でも、手入れが行き届いていてきれいだ。

 一階には広間や応接間しかないと踏み、天藍が間取りにざっと目星をつけていく。要人警護で培った感覚は、泥棒行為にも役立ちそうだ。

 ただ、盗み出すべき品物たちは、家人の手によって避難が終わっているみたいだった。

 無駄足だったのかも……。

 知らない空気、知らな居場所で少し不安になるのは、竜の足音が近づいて来ているからだ。

 祈りながら、四階へ。書斎を見つけたが、書類棚や金庫には魔術錠とかいう変わったものが掛けられていた。

「解けるか?」

 見た目は普通の金庫みたいだが……。

「オルドル、頼む」

『えーっ、何それ、ボクは便利屋じゃありませ~ン』

「オルドル様、どうかこの愚かな人間のために鍵が開かないかどうか見てくださいませんか」

 プライドの価値は時価で変動するが、このときに限っては野良犬が食う残飯より下だった。

『……ダメ、最後の鍵が本人の複数の生体反応になってる。心音、虹彩、あと指紋』

 見た目よりずっとハイテクだ。

「破壊したときに発動する罠は?」

『感じない』

 オルドルが言うがはやいか、剣が真っ二つに破壊する。

 この金庫の商品開発者には、竜鱗騎士に斬られる、という想定は無かったみたいだ。

 中のものは持ち出されたのか、書類がひとつだけ入っていた。


 ずずん……。


 振動、屋敷全体が震える。

 悪用するわけじゃない。それを掴んで、黙って次の部屋へ向かう。

 扉を開けると、そこは……。

 薄緑色の壁紙、鏡台があるから、女性の部屋だとわかる。勉強机、ソファ。

 クローゼットには女もののドレス。マリヤの部屋、だろうか。

「そこで待っていろ」

 天藍が剣を抜いたまま、続き部屋に入って行く。

 扉を開けると、いやな気配がした。

 天藍が渋い顔で戻り、手招き。

 僕は手で鼻と口を覆った。……死臭がするんだ。

 部屋に入ると、ある意味、予想通りの光景が広がっていた。

 黒と白の……イブキが着てたみたいな、メイド服を着た中年女性が床に倒れていた。

「ツバキ、お前の予測は正しいかもしれんな」

 僕は吐き気を必死に堪える。

 天藍は平静そのもので、死体を転がし、胸に突き刺さった銀色の竜鱗を確認した。

「まさか……そんな……マリヤさんが犯人なのか……?」

 理由がない、と僕はかつて言った。

 リブラの養女である彼女が、殺す理由が無い。

「お前が提示した可能性だ」

 僕が提示したのは、誰かが黒曜から情報を受け取ってるという可能性だ。

 それを利用して……殺人をおかした。

 これは僕の予測の先にある事実だった。

 でも信じたくない。


「なんで……どうして? なんで、こんなこと……!」


 リブラを殺した犯人を許せないと言ったはずだ。彼女は。

 ふらついた足下で、ベッドの脇へと下がる。と、足が何かを踏んだ。

 見下ろすと、木切れ……布で包まれた、燃えた木の棒みたいなものがある。

 僕はそれを拾い上げた。


 よく見ると、金具がついていて……もしかして、杖、だろうか。


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