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これで最後です。
それから二日後、俺の元に柳正臣がやって来た。
「カザキが、ここに来てはいませんか」
瞼が赤く、わずかに腫れている。
それを隠すように少しうつむき、前髪をたらしていた。
「結婚するそうですね、おめでとうございます」
質問には答えずにそう言うと、彼はそれだけで悟ったようにハッとし、顔を上げた。
「カザキは、どこですか、」
「アンドロイドに魂があると、あなたはそう考えますか」
意地悪く遠回しに返すと、理解した柳は力が抜けたのかその場にへたり込みそうになりながら、なんとか玄関扉に寄り掛かる。
「殺したのか」
「人聞きの悪い事を言わないで頂けませんか」
“殺した”と、あなたは表現するのか。
そんな表情をする、柳の心情はどんなものなのだろう。
「新しいアンドロイドを贈りましょうか。カザキのタイプよりいくらか機能が劣るかもしれませんが、暴走する危険のない物を」
「いりません」
腕を組んで寄り掛かっていた壁から背を離し、部屋の奥からパンフレットを取りに行こうと柳に背を向けると、彼のきっぱりとした、それでいて震える声が真っ直ぐに届く。
「……カザキでなければ、必要ない」
「彼は修復を望んでいません。理由なら解るでしょう? 私より、よっぽど」
「それは嫌味ですか」
「そう取りたいのなら構いません」
言葉が止む。
数秒の沈黙の後、柳が唇を開いた。
「カザキは、何か言っていましたか」
「色々と。“何故アンドロイドなのだろう”、“何故正臣は信じてくれない”」
彼の多くの問いに俺は一つとしてきちんと答えられるものはなく、疑問ばかりがカザキの中に溜まっていった。
俺が人間だから答えられないのか、カザキがアンドロイドだから自分で答えを出せないのか、彼が人間に恋をしたからこんな疑問が浮かんだのか。
父はカザキに、どんなプログラムを施したのだろう。
「カザキは、今どこに」
「ですから、……ああ、廃棄場に。昨日運んだのでまだバラバラにはなっていないと思いますが。確認とりましょうか」
「いえ、結構です。ありがとうございました」
柳は頭を下げ、つい、と振り返る事なくアパートの階段をおりていった。
行くのだろうか。
瞼を閉じた彼に、柳は答えを告げるのだろうか。
部屋の扉を閉める。
綺麗にしたカーペットの上に寝転がり、柳に渡そうと思ったパンフレットを棚から引っ張り出して目を通す。
モデルとして写る、顔は違うがカザキと同じタイプのアンドロイドのページに指先で触れ、やはり、あの微笑みはどこから生まれたのだろうかと。
プログラムされたものか、どこか嘘臭い紙の上の笑顔はカザキの笑みとは随分違う。
――正臣、
彼の名を呼ぶ時。
あの笑みは、言葉では言い表せない。
『やってやった。殺ってやったんだ』
引き裂けそうな呟きだった。
その呟きが、叫んでいた。胸の内でどこまでも。




